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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

日系人初の米太平洋軍司令官 ハリス大将の素顔 中国と北朝鮮抑止の当事者は何を語った?

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(第七艦隊を指揮するブルーリッジ。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  北朝鮮対策を巡る重要人物の一人である米太平洋軍司令官・ハリス大将が米下院で今後の北朝鮮問題の展望を語ったことが注目されています。

 ティラーソン国務長官、マティス国防長官、コーツ国家情報長官が26日に北朝鮮の核開発を安全保障上の差し迫った脅威とみなし、これを外交政策上の最優先課題と位置付ける声明を発表したのですが、この日に合わせて、ハリス大将も米下院の軍事委員会に出席したのです。

 今回はその発言の概略と、日系人初の太平洋軍司令官の素顔を紹介してみます。

米下院でハリス大将が北朝鮮の核開発に警鐘

 日本人にとっては聞き飽きた話かもしれませんが、米国人にはアジアに大して興味がない人も多いので、わざわざ太平洋軍司令官が議会に来て、こうした警鐘を鳴らしてくれるのはありがたい話です。

 ただ、軍の要職にあるせいか、発言の中身はわりと慎重で、金正恩氏を正気に返らせたいといったマイルドな表現が用いられています(裏を返せば狂気の指導者認定ではありますが・・・)。

 ブルームバーグの記事(2017/4/27)では、以下のような発言が紹介されていました(「米国は経済制裁や外交努力強調-北朝鮮の脅威拡大の中で」)

  • 「北朝鮮の言動は米国の本土や同盟国である日韓両国を脅かしている」
  • (米国が)「戦える用意を整えねばならない」
  • (北朝鮮が核兵器に成功すれば)「もっと多くの韓国人や日本人、米国人が死ぬことになる」
  • 「われわれは金正恩朝鮮労働党委員長に正気に戻ってほしいのであって、屈服させたいのではない」

 北朝鮮への先制攻撃のシナリオについては語らず、北朝鮮の暴発で韓国人や日本人、在韓・在日米軍等に犠牲が出るリスクに注意を喚起しました。

 ウォールストリートジャーナル(2017/4/27:日本語版)も北朝鮮との戦争がもたらすリスクに注意を喚起しています(「北朝鮮との戦争なら多大な犠牲者=米太平洋軍司令官 「目的は金正恩を正気に戻すことだ」とも証言)。

  • 米軍は圧倒的な軍事力を持っているとはいえ、戦闘になれば多大な犠牲者が出ることになり、世界の他の大国をそうした戦闘に巻き込む恐れがある
  • 「わたしが考えているのは、(外交の担い手である)国務省が主要な役割を果たすことだ」
  • 「彼(金委員長)の戦略的な戦争能力はまだ米国の生存を脅かす脅威になっていないが、歯止めをかけなければ、彼は自らのレトリックに見合う能力を確保するだろう」
  • 「その時われわれは全く新しい世界に目覚めることになるだろう」

  議会という場なので、タカ派色を出さずに、可能な限り穏健な言葉を選んでいるようです。

 国務省が主要な役割を果たすこと、というような婉曲な言い回しを用いて、自分が戦争を望んでいるわけではないことを説明しています。

 ハリス氏は、オバマ政権の頃、ヒラリー国務長官とアジア歴訪に同行していたので、政治の世界についても理解のある軍人だと言われています。おかしなことを言うと揚げ足を取られるので、できる限り穏便な言い回しをしているわけです。

ハリス司令官は、オバマ政権の頃から、中国の南シナ海埋立を批判

 防衛の要職を担うハリス氏は、中国が南シナ海に基地をつくるために埋め立て工事を進めていても、オバマ政権が中国に宥和外交をしていた頃に、アジアの危機に警鐘を鳴らしていました。

  • 「この数カ月間、しゅんせつ船とブルドーザーで砂の万里の長城を築いている」(2015/3/31)
  • (北朝鮮、中国、ロシアに対して)「われわれが直面する挑戦には事欠かない」(2015/5/27)

 ハリス氏は、中国の埋立区域の近海を軍艦艇で通り、牽制するという、「航行の自由」作戦の当事者でもありました。2015年5月27日に太平洋軍司令官となった時、当時のカーター米国防長官は、南沙諸島での埋立を批判し、「中国は、国際規範や、力によらない紛争解決を求める地域の総意を乱している」とし、「国際法が許す限り、米国はあらゆる場所で、飛行、航行、作戦行動を続ける」と批判していました。

 同氏はこの作戦の実行にもかかわっています。

 こうしてみると、ハリス氏は、結構、活発に中国や北朝鮮を批判していますが、これを見て、「米軍人って結構、政治的な発言をするんだな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 日本では文民統制という名目で目立った発言をした自衛隊高官に辞職を要求したりするケースが多いので、日本の自衛隊高官がハリス氏のようなことを言ったら、「問題発言だ」と大騒ぎになります。

 米国で軍人が日本よりも自由な発言が許されているのは、文民統制はあくまでも、政治判断に基づいて軍事行動や停戦がなされる、という指揮権の問題と捉えられているからです。むろん、行き過ぎると米軍人も罷免されてしまうのですが、文民統制という言葉が、発言の自由を事細かに制約することではないと理解されているのです。

ハリス大将ってどんな人?

    ハリス大将(ハリー・B・ハリスJr.)は1956年に神奈川県の横須賀で生まれました。

『軍事研究』(2015年4月号:P113~116)をもとに、その経歴を見てみます。

 父は米海軍の下士官で、母は横須賀基地の事務員でした。

 第二次世界大戦時に父の家は4人が軍人となり、子供の頃は日系二世の米軍部隊の活躍を描いた映画「Go for Broke」(当たって砕けろ)を繰り返し見ていたそうです。

 日本語はあまり得意ではないそうですが、ハリス氏の少年時代には興味深い逸話があります。

   ハリス少年がアメリカの学校に母が作った弁当を持っていったら、周りの生徒は「何それ?」という反応。米国には「お弁当」を子供のためにつくる習慣がないので、ハリス少年は学校の昼休みに浮いてしまいました。

    どうしようと母に相談したら、その後に母親はPTAの会合に着物を着て姿を現しました。

    母は日本人の子供が日本の風習で昼休みに弁当を食べて何が悪いのだと考えたのでしょう。

 和服を見せつけた後、母は息子に「民族の遺産」に誇りを持つことの大切さを教えました。

 さらには、欧州で戦った日系二世部隊の活躍を息子に教えたそうです。

 その後、軍に入り、ハリス氏は主に哨戒機のパイロットとして経歴を重ねていきます。

 1978年に飛行士菅となり、初めは主に大西洋や地中海で活動します。

 空母サラトガに乗り、シージャック事件に対処する作戦(1985年)やリビア爆撃(1986年)、湾岸戦争(1991年)、米本土勤務、横須賀の在日海軍司令官副官等を務めました。

 日本では神奈川県瀬谷海軍施設で哨戒偵察航空団に入り、その後、第五艦隊(中東方面の艦隊)で勤務しています。

 2002年以降、アフガン戦争やイラク戦争にも関わりました。

 2004年に少将となり、海軍指揮センター、グアンタナモ収容所長、米南方軍勤務を経て、中将に昇進。欧州方面の第六艦隊を率いるようになりました。

 ヒラリー・クリントン国務長官がアジア・リバランスを訴えた時には、軍連絡官として、同氏と共に各国を巡っています。大将として太平洋軍を率いたのは2013年以降です。

 今年で61歳ですが、退役後、マティス氏のように国防長官になると、日系人初の米国防長官誕生というニュースが世界に流れるかもしれません。

 日本については親近感を感じているらしいので、日系人太平洋軍司令官の今後の活躍に期待したいものです。

追記:中国がハリス氏の更迭を要求していたらしい

 5月6日付の産経ニュースで「中国、米太平洋軍司令官の更迭要求 北朝鮮圧力の見返り」と題した記事が公開されました。

 

 4月6日~7日の米中首脳会談の席で崔天凱駐米大使がトランプ政権にハリス氏の更迭と中国の「為替操作国」認定見送りを要求したことが報じられています。

 後者の要望はまだわかりますが、前者は主権国家の内政に関わる案件なので、諸外国にとやかく言われる筋合いのない話です。単なる内政干渉にすぎず、実に非常識な話です。

 当然ながら、トランプ政権は更迭の要求を拒否し、現在もハリス大将は元気に仕事をしています。