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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ氏の減税政策は実現するのか 大統領と共和党が描く法人税、所得税の構想とは

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(出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 トランプ大統領が法人税の引き下げ(35%⇒15%)を指示し、トランプ政権もいよいよ一つの山場にさしかかってきました。

 3月には米共和党はオバマケアを見直すための代替法案の提出を断念し、トランプ大統領の政策実現能力には疑問符がつきましたが、米中首脳会談中のシリア攻撃とその後の北朝鮮への外交攻勢により、大統領の威信はやや回復してきています。

 前月のオバマケア見直しは大山鳴動して鼠一匹で終わったのに比べると、「議会」を通さずにすむ米中首脳会談では、会食中にデザートを食べようとしていた習主席にシリアへのミサイル攻撃を伝えるといった「奇襲」をしかけ、熾烈な大統領選を戦い抜いた勝負師の凄みを見せつけたわけです。

 しかし、北朝鮮への外交攻勢とは別に、減税法案は議会マターなので、オバマケア撤回の時と同じ失敗が繰り返されないかどうかが注目されています。

 共和党も減税路線ですが、トランプ氏とは適正と見なす税率が食い違っているので、両者の間で齟齬が発生する可能性もあります。

トランプ氏の減税案とは?

 トランプ大統領は法人税の税率を35%から15%に下げるだけでなく、海外から還流する利益にかかる税率を35%から10%に引き下げようとしています。

 ややこしい話ですが、この税金のかかり方は、企業の形態によって変わり、ネット記事を見ると、「パススルー事業」というワードがよく出てきます(この事業形態の場合、税率は現行39.6%から15%になる)。

 米国では、投資ファンド等が得た資産(債券や株式、不動産等)の価格上昇から生まれた利益(資産益、キャピタルゲイン)に関しては、これは投資組合等に課税された後に残った利益を出資者に分配⇒出資者がもらったお金にもさらに課税、という二重課税を避けるための仕組みです(「パススルー」)。米国では、中小企業や個人事業主だけでなく、法律事務所、ヘッジファンド、不動産事業などが、出資者個人に課税するパススルー企業が多いともいわれているのです。

 そして、トランプ氏の構想では、米国企業が海外に持つ2.6兆ドル以上の利益にかかる税金を10%にします。

 現在の制度では、米国は企業利益に対して、国内・海外を問わず35%の法人税を課していますが、海外で得た利益を米国本国に還流させる際にかかる税率を10%に引き下げるわけです。減税を用いて米国に利益を還流させるインセンティブを設け、これをインフラ支出の財源に充てようとも考えています。

 また、所得税率の引き下げや相続税の廃止等も重要な施策です(以下、日経電子版「米、法人税率15%に下げ トランプ政権が税制改革案」2017/4/27)。

  • 個人税制は最高税率を39.6%から35%に。7段階の税率を10%、25%、35%の3段階に簡素化。
  • 基礎控除も2倍に引き上げて低中所得層の減税幅を広げる。
  • 相続税は廃止
  • 株式などへの譲渡益に課税する「キャピタルゲイン税」は税率を23.8%から20%に(オバマケアの財源に充てられた3.8%分をカット)

 今回の税務政策案はムニューシン財務長官が米国時間で26日午後に発表する予定になっています。

税収減の規模はどの程度?

 CNNの記事(2017.4.25)では、米シンクタンクの税政策センター(TPC)の試算(2016年11月)によるトランプ氏の減税案がもたらす税収減の規模が紹介されています。

 法人税を15%にし、高額所得者の節税対策を制限する代替ミニマム税を廃止した場合、総税収が10年で2.4兆ドルほど減る。1年あたり2400億ドルの減収。この上にパススルー事業への減税を行った場合の減収の規模は4兆円規模となる。ムニューシン財務長官は減収は経済成長で賄えると述べていますが、日米でも、この種の主張には抵抗が強いようです(「トランプ氏、法人税を15%に引き下げへ 党内にも懸念の声」)

米国政治の仕組み~大統領府VS議会

 この減税案の実現をめぐっては、トランプ氏だけでなく、議会の攻防戦が注目されているので、米国政治の仕組みを踏まえて、そのバトルの行方について考えてみます。 

 三権分立なので、トランプ政権での政策実現には、大統領府が直接やってしまうケースと議会を通して実現するケースがあります。その過程はどうなっているのでしょうか。

大統領と議会の関係

  • 米国は三権分立の国。政策の全てが大統領権限で実現できない。不法移民規制を強化する大統領令を出ても裁判所が抵抗できる。
  • 立法や予算を要する政策(インフラ投資1兆円や減税政策)は議会決議が必要。大統領が議会で演説し、予算教書を送っても議員が動かなければ決まらない政策が多い。
  • 規制改革には大統領令で可能なケースと、根拠法を改革もしくは廃止しないと不可能なケースがある。後者の場合は議会を通さなければいけない。
  • 例えば、オバマ政権で未成立だったTPP脱退は大統領令だけで実行可能。だが、92年に議会で承認され、成立したNAFTAの再交渉は議会の議決が必要。

「憲法上、連邦議会には関税を課し、対外通商を規制する権限が与えられている一方で、大統領には対外交渉を担う権限がある。対外交渉を大統領がまとめてきても、貿易協定の実施法という形で連邦議会が立法措置を講じないことには国際合意の効力が発生し得ない」(出所:アメリカ大統領権限分析プロジェクト:通商交渉に見るアメリカ大統領権限 | 現代アメリカ | 東京財団」)

トランプ氏と共和党との政策の共通点と相違点

 トランプ氏は就任後、核武装や対露制裁緩和でトーンダウン。同盟重視路線になり、従来の共和党政策に近づきました。経済政策では共和党主流派とトランプ氏は減税政策と規制緩和で一致。貿易政策では違いがあります。
以下、トランプ氏と共和党とで一致する政策です。

  • インフラ投資の拡大
  • 法人税減税(35%⇒15%案がトランプ氏。20%案が共和党)
  • 所得税を七段階(10%~39.6%)から三段階にする(トランプ案:12%、25%、33%/共和党案:12%、25%、35%)
  • 中国への為替操作指定は共通
  • 石炭、石油、天然ガスの等のエネルギー生産の拡大
  • キーストーンパイプラインの建設
  • ドッド・フランク法の改革やオバマケアへの反対(トランプ氏のほうが強硬な廃止路線)

 トランプ氏と共和党とで差が大きいのは貿易政策です。

    トランプ氏の保護貿易路線と共和党の伝統的な自由貿易路線とは矛盾します。NAFTA再交渉に関しては、前掲の仕組みのため、トランプ氏は議会の承認を得る必要があります。

 相続税廃止はトランプ氏のみ。対中貿易や反オバマケアは共和党よりもトランプ氏のほうが強硬路線です。

今までの株価上昇の背景⇒大統領と議会多数派が共和党

 今まで株価が上がってきたのは、共和党議員が多数を占めたので、トランプ政策の実現性が高いと見られてきたからです。

    議会の現状は以下の通りです。

  • 下院:共和党241議席/民主党194議席 ※ライアン議長(共和党)
  • 上院:共和党52議席/民主党48議席 ※ペンス議長(共和党・副大統領)

 そして、歴史的には大統領と議会の多数派の政党が一致した時期に大規模減税が成立してきました。

  • 例1:ブッシュ減税(2001年/2003年)⇒共和党が上下両院で多数派
  • 例2:ケネディ減税(1964)⇒民主党が上下両院で多数派(ケネディ暗殺後の次期政権で成立)

 しかし、トランプ氏と共和党間での落差が埋まらず、政策が実現しないと見られれば、政権の信任が失われ、株価下落の流れが本格化しかねません。

減税法案もオバマケア見直しの二の舞になるのか?

 過去の経緯を振り返れば、トランプ氏のオバマケアを見直す代替法案に関しては共和党内でも賛否が分かれていました。医療費が高い米国では中低所得者の1/6が医療保険に未加入なので医療保険制度改革法(いわゆるオバマケア、2010年)では国民皆保険を目指しましたが、共和党はこれを覆そうとしたわけです。

  1. 国民に保険加入を義務付ける(未加入は罰金)
  2. 大手企業等に対して従業員の保険加入を義務付ける
  3. 低所得者向けの公的医療保険の加入資格を広げ、保険料支払いが困難な低所得者に補助金を支給

 オバマケアのために政府も企業も負担増になったので、共和党法案ではこのうち1と2を廃止し、3に関しては補助金ではなく、年齢と収入に基づいた税額控除を定めています(もともとは収入に無関係な控除案だったが、年収75000ドル以上は対象外になった)。3に関して「控除」という形でオバマケアの路線が残っているので、「これではオバマケア廃止にならない」と反対する人が出てきたのです。

 この代替案に関して、米議会予算局(CBO)は2026年までに保険未加入者が2400万人に増え、財政赤字が3370億ドル縮小するとの試算を出しました。

 共和党内でも穏健派は低所得層が医療保険を失うことを恐れ、保守派はオバマケア廃止に至らないことを懸念。支持者不足により、ライアン下院議長が取りまとめた折衷的な法案は撤回を余儀なくされました。

 従来の予定では、オバマケア代替案の採決の後に、減税の具体策の審議に進む予定でしたが、議会の壁にぶつかり、トランプ政権の信用に大きな傷がついたわけです。

 トランプ氏が選挙でPRした交渉力が看板倒れとなったことは、今後の株価の推移にも影響を与えると見られています。

 米国では「予算決議」の中に減税案が盛り込まれれば財政調整措置によって減税案を早期可決でき、減税案の審議時間が20時間に限られ、米上院での延々と発言を続ける審議妨害(フィリバスター)の回避が可能になります。

 ブッシュ減税の時もこれが用いられたので、減税法案は、オバマケア代替案の時よりは実現可能性が高いかもしれません。しかし、共和党内にもトランプ氏の減税案がもたらす税収減に耐えられない議員が出てくれば、いわば内紛によってトランプ氏の政策は破綻してしまうでしょう。