トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプ大統領がアメリカの法人税減税を指示 米税率は15%、日本は30%の時代が来る?

f:id:minamiblog:20170317152115j:plain

(米議会。出所はWIKI画像)

  トランプ大統領はアメリカの法人税を35%から15%に下げることを4月24日に指示しました。

 同氏の税制改革案は26日(米国時間)に公表される予定ですが、米共和党の減税案では法人税は20%なので、大統領と議会が一枚岩となれるかどうかも注目されています。

 各紙報道では米国の法人税は35%と報じられていますが、これは名目的な数字なので、企業にかかる負担を勘案した実質的な数字(法人実効税率)では40%と見積もられています。

  トランプ案であれ共和党案であれ、減税が実現したら、「自由の国」を謳いながら、世界随一の高税率国家だという逆説は終わることになります。

 この米国発の「減税革命」の影響について、今回は考えてみます。

トランプ氏の減税案とは?

 トランプ大統領は法人税の税率を35%から15%に下げるだけでなく、海外から還流する利益にかかる税率を35%から10%に引き下げようとしています。

 ややこしい話ですが、この税金のかかり方は、企業の形態によって変わり、ネット記事を見ると、「パススルー事業」というワードがよく出てきます(この事業形態の場合、税率は現行39.6%から15%になる)。

 米国では、投資ファンド等が得た資産(債券や株式、不動産等)の価格上昇から生まれた利益(資産益、キャピタルゲイン)に関しては、これは投資組合等に課税された後に残った利益を出資者に分配⇒出資者がもらったお金にもさらに課税、という二重課税を避けるための仕組みです(「パススルー」)。米国では、中小企業や個人事業主だけでなく、法律事務所、ヘッジファンド、不動産事業などが、出資者個人に課税するパススルー企業が多いともいわれているのです。

 そして、トランプ氏の構想では、米国企業が海外に持つ2.6兆ドル以上の利益にかかる税金を10%にします。

 現在の制度では、米国は企業利益に対して、国内・海外を問わず35%の法人税を課していますが、海外で得た利益を米国本国に還流させる際にかかる税率を10%に引き下げるわけです。減税を用いて米国に利益を還流させるインセンティブを設け、これをインフラ支出の財源に充てようとも考えています。

 また、所得税率の引き下げや相続税の廃止等も重要な施策です(以下、日経電子版「米、法人税率15%に下げ トランプ政権が税制改革案」2017/4/27)。

  • 個人税制は最高税率を39.6%から35%に。7段階の税率を10%、25%、35%の3段階に簡素化。
  • 基礎控除も2倍に引き上げて低中所得層の減税幅を広げる。
  • 相続税は廃止
  • 株式などへの譲渡益に課税する「キャピタルゲイン税」は税率を23.8%から20%に(オバマケアの財源に充てられた3.8%分をカット)

 今回の税務政策案はムニューシン財務長官が米国時間で26日午後に発表する予定になっています。

税収減の規模はどの程度?

 CNNの記事(2017.4.25)では、米シンクタンクの税政策センター(TPC)の試算(2016年11月)によるトランプ氏の減税案がもたらす税収減の規模が紹介されています。

 法人税を15%にし、高額所得者の節税対策を制限する代替ミニマム税を廃止した場合、総税収が10年で2.4兆ドルほど減る。1年あたり2400億ドルの減収。この上にパススルー事業への減税を行った場合の減収の規模は4兆円規模となる。ムニューシン財務長官は減収は経済成長で賄えると述べていますが、日米でも、この種の主張には抵抗が強いようです(「トランプ氏、法人税を15%に引き下げへ 党内にも懸念の声」)

 世界各国の法人税を比較してみる

   恐らく、この法人税の行方にいちばん戦々恐々としているのは法人税減税に抵抗を続けてきた財務省なのかもしれません。

 財務省HPの法人実効税率の国際比較では、各国税率は以下の数字になっています。

  • 米国:40.75%
  • フランス:33.33%
  • ドイツ:29.72%
  • 中国:25%
  • 韓国:24.2%
  • イギリス:20%
  • シンガポール:17%

 EU離脱を選択後、その影響を緩和する策の一つとして法人税を2020年に17%へと下げ、アイルランドも企業誘致のために12.5%の低税率を維持しています。

 こうしてみると、米国と英国が低税率に舵を切った場合、日本やフランス、ドイツ等は高税率のままに取り残されることになりそうです(フランス大統領選でマクロン候補は法人税減税を掲げていることにも注意が必要)。

法人税減税が難しい日本とドイツ

 現実問題として、減税がどの程度できるかは、税収のうち法人税がどれだけの割合を占めているかとも関係があります。「諸外国の法人税改革と日本への示唆」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を見ると、各国の税収のうち法人税が占める割合が以下のように説明されていました。

  • 日本:21.4%(地方政府の税収の2割が法人税)
  • ドイツ:7.9%(地方政府の税収の3割が法人税)
  • アメリカ:13.1%
  • イタリア:9.3%
  • オランダ:8.8%
  • ドイツ:7.9%
  • スウェーデン:7%

 日本は法人税減税がしにくい国の一つになっており、地方政府の影響力が強く、財政規律が厳しいドイツも法人税減税に踏み込みにくそうです。

 米英の選択によって、法人税減税による企業誘致と国際競争力強化の競争が始まった場合、今のままだと日独両国は取り残される可能性があります。

 いや、財政を維持するためには、そんな無謀な減税は続かない、という見方もあるわけですが、企業から見れば法人税は低いにこしたことはありません。

 世界最大のGDPを誇る米国が法人税減税に踏み込んだ場合、英国だけでなく、ほかにも追随する国が出てくる可能性があるので、その動きは無視できないはずです。

    産経bizの記事(2014.8.15)では、同社が主要121社に行ったアンケートでは望ましい法人実効税率の水準について、8割が20%台と答えています。50%程度の企業が25〜29%が望ましいとし、25%の企業が20%前半が望ましいとしたようですが(法人税の実効税率「20%台」8割 主要121社アンケート)、これはオバマ政権下の日米の税率を前提としているので、トランプ政権が減税を実現させた場合は、企業の見方も変わってくるはずです。

減税実現は議会次第~今後の展開を考える

 しかし、減税が実現するのかどうかは議会で法案が成立するかどうかにかかっています。

 3月には米共和党はオバマケアを見直すための代替法案の提出を断念し、トランプ大統領の政策実現能力には疑問符がつきましたが、米中首脳会談中のシリア攻撃とその後の北朝鮮への外交攻勢により、大統領の威信はやや回復してきています。

 前月のオバマケア見直しは大山鳴動して鼠一匹で終わったのに比べると、「議会」を通さずにすむ米中首脳会談では、会食中にデザートを食べようとしていた習主席にシリアへのミサイル攻撃を伝えるといった「奇襲」をしかけ、熾烈な大統領選を戦い抜いた勝負師の凄みを見せつけたわけです。

 しかし、北朝鮮への外交攻勢とは別に、減税法案は議会マターなので、オバマケア撤回の時と同じ失敗が繰り返されないかどうかが注目されています。

 共和党も減税路線ですが、トランプ氏とは適正と見なす税率が食い違っているので、両者の間で齟齬が発生する可能性もあります。