トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

ルペンは勝てるのか? EUとユーロの存続を賭けたフランス大統領選の行方

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(傷病兵を看護したアンヴァリッド。エッフェル塔からの風景。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  4月23日はフランス大統領選の第一回投票日です。

「第一回? 二回目があるのか?」

 不審に思われた方のために説明しますと、フランスではアメリカとは違い、第一回目の投票で50%以上の票を得た候補者がいない場合、有力候補2名に絞り、二回目に決選投票を行います。

 大統領選では、多数の候補者が出て票が割れた場合に極右勢力(もしくは極左勢力)の勝率が上がりますが、この種の運動には過半数の票を取れるだけの支持層がないことが多いので、二回目の投票を設ければ、その台頭を止めることができます。

 フランス大統領選における二回投票制には、こうした意図が含まれているわけです。

 これはドイツでナチスが選挙で多数票を得て台頭した歴史を考慮してつくられた仕組みではありますが、今回の選挙では「極右」扱いのルペン候補がその壁を破るかどうかが注目されています。

 そこで、今回は、ルペン氏の勝利はあるのかどうかを考えてみます。

EUの存亡をかけたフランス大統領選

 本年は、大統領選だけでなく、上院(元老院)と下院(国民議会)でも選挙があります。

 その最大の争点は、「フランスのEU離脱が国民に支持されるかどうか」という欧州の運命に関わる一大事なので、ユーロの為替を含めて、このたびの大統領選は世界的に注目を集めるイベントになっているわけです(以下、欧州時間なので日本では時間がずれる)。

  • 4月23日(日):仏大統領選・第一回投票
  • 5月7日(日):仏大統領選・第二回投票
  • 5月11日(木):第二回投票後の当選者発表
  • 6月11日(日):仏下院選(第一回投票)
  • 6月18日(日):仏下院選(第二回投票)
  • 9月24日(日):仏上院選

 果たして、注目のルペン候補の当選はありえるのでしょうか。

 ルペン氏が勝利した場合、同氏の公約により、EU離脱の国民投票が日程に追加されます。

 そして、ルペン氏を支える国民戦線(FN)は議会では多数派ではないので、同氏が大統領になった場合、その効果が議会選にも反映されるものの、過半数まではほど遠いと言われています。

 ルペン氏が勝った場合、大統領を支える政党が議会では過半数を取れないという、「ねじれた」政治が実現する可能性が高いのです。

ルペン氏とそのライバルたち

 現在の有力候補者の人となりを概観してみます。

エマニュエル・マクロン氏

 オランド氏の側近として元経済産業デジタル相を務めました。まだ39歳(1977/12/21生)で、いかにもイケメンエリートという風貌が印象的です。

 本人は自分はエスタブリッシュメント(既成の指導者層)ではないと言っていますが、学歴を見ると、パリ第十大学⇒パリ政治学院⇒国立行政学院(この2校は数多くの大統領や首相を輩出している。フランスは学歴社会)。さらにはロスチャイルド銀行で勤務。どこから見ても100点満点のエリートです。ルペン氏やメランション氏が台頭し、格差問題に火がついたので、マクロン氏はそう言わざるを得なくなりました。

 ただ、この人は大統領府副事務総長(2012~14)、経済産業デジタル相(2014~16)を歴任し、オランド氏の左傾ぶりを止める仕事をしたので、当選すれば、フランスのよきバランサーになってくれそうです。そのせいか、ルペン氏の躍進を止める期待の星として、メディアは同氏の言動を紹介しています。

 マクロン氏は既成政党から抜け、独自の政治集団「前進!」を率い、中道勢力の票の結集を狙っています。

 政策面では、オランド政権下で「マクロン法」ともいわれる経済改革法案(解雇過程の簡略化、労働時間の規制緩和、長距離バス路線の自由化)を実現させました。

 現在は、内政面では規制緩和と福祉の充実の両立を目指し、対外的にはEU支持、ユーロ圏経済政府の創設等を掲げています。重要争点の移民や難民に関しても受け入れには肯定的でした(不法移民は帰国を促す)。

 5年で600億ユーロの歳出削減と同時に500億ユーロの投資を行うと言っています。これは当選後に予算査定を行い、政府のお金の使い方を組み替えることを意味しているのでしょう。

 経済面での目玉政策は法人税減税や週35時間労働制の見直し、年金支給開始年齢の引き上げ、公的部門の人員削減などです。

マリーヌ・ルペン氏

 本名はマリオン・アンヌ・ペリーヌ・ル・ペン(Marion Anne Perrine Le Pen)。

 生まれは1968年8月5日なので、投票日の年齢は48歳です。仮に今回落選しても、まだまだ次のチャンスを狙える年齢だというのは、非常に大事なポイントです(仮にマクロン氏が勝っても、結局、EU離脱問題は引き延ばしにされただけ)。

 同氏は国民戦線(FN)をつくったジャン=マリー・ル・ペンの第3女ですが、2011年に二代目の党首を引き継いで以来、その政策を緩和し、大衆への浸透を図りました。

 2012年の大統領選では第一回投票の候補者のうちでナンバー3となるほどの躍進ぶりを見せ、初代党首の父を片隅に追いやっています。

 ルペン氏の逸話では、8歳の時、父を狙った爆弾テロに巻き込まれた話がよく書かれています。同氏は、その時、その時、自宅を爆破されたのに、誰も助けてくれなかったと述べていました。

 両親は政治活動に忙しかったので、青少年時代はやや孤独であり、家族の愛情を欲していたとも言われています。パリ大で刑法を学んだ後に弁護士として職歴を開始し、FN支援者や関係者と結婚・離婚を繰返しました。

 34歳の時(2003年4月)に国民戦線副党首となり、翌年にはイル=ド=フランス地域圏から立候補(得票率は1割台)。04年に欧州議会議員選で当選し、14年まで再選を続けました。

 党首として就任して以来、移民排斥から福祉の充実に政策の力点を移し、ソフト路線を打ち出しました。共和制を認め、民主主義を掲げたFNは女性の権利を重視。妊娠中絶や同性愛を容認するなどの転換を図ったのです。

 ただ、大きな政策では移民制限(1万人以下)、反自由貿易(一部輸入品への35%課税等)、EU離脱の国民投票の実施等を掲げ、イスラム教徒に厳しいスタンスは崩していません。

 低所得者向けの減税や中小企業向け減税、年金支給年齢の引き下げ(62歳⇒60歳)等を通して、国民への浸透を図っています。

 3月25日には大統領選投票日を約一か月前に控え、モスクワ市にて、異例のプーチン大統領との会談を行いました。当然ながら、現候補者の中で選挙前にプーチン氏と会ったのはルペン氏のみです。

 さらには投票日直前にパリでテロが起き、強硬な反移民政策を採る同氏に有利になったとも見られています。 

ジャン・リュック・メランション氏

 投票日が近づき、急速に台頭した左派の候補者です。

 普通、左翼と候補者につけると「レッテル張り」になってしまうのですが、この人の場合、「左翼党」と名づけられた政党を率いているので、失礼にはあたらないでしょう。

 これは一種の開き直り戦術なのかもしれません。

 メランション氏は1951年8月にモロッコ北部で生まれたので、投票日時点では66歳です。マクロン氏やルペン氏(48歳)に比べるとずいぶんと年齢差があります。

 両親の離婚後にフランスに行き、フランシュ=コンテ大学を卒業後、教師となりました。2000年から2002年に職業教育大臣を務めているので、その後も教育との接点は深いようです。

 活動地盤はフランス北部のエソンヌ県で、市長や市長会委員、県大評議会副議長、県大評議会議員等を歴任し、元老院議員に選出されました。

 2008年に社会党を離党して左翼党をつくり、2012年に大統領選に出馬。フランス議会総選挙でもルペン氏と火花を散らしました。

 今回の選挙では、NATO離脱と反EUを掲げ、ECB(EUの中央銀行のこと)に独立性放棄等の要求を迫り、受け入れなければ国民投票をしかけると訴えています。

 反EUですが、ルペン氏とは違い、移民受け入れは賛成の立場です。

 経済政策では、政府の機能の強化と所得再分配を強調しています。目につくのは、年金支給年齢の60歳への引き下げや週当たり労働時間を32時間(今は35時間)等の政策です。

 この人が当選すると、バカンス大好きなフランス人がますます働かなくなるのかもしれません・・・。

フランソワ・フィヨン氏

 勤務実態のない妻と二人の子供への報酬支払疑惑で失速気味ですが、フィヨン氏はいまだ保守系の有力候補に数えられています。所属政党は共和党で、中道右派と見なされています。

 生まれは1954年3月なので、現在は63歳です。パリ第5大学、国立政治学研究院を卒業し、2005年に上院議員となりました(それまでにサブレ=シュル=サルト市長、労働相、高等教育・研究相を歴任)。

 2007~12年のサルコジ政権時代に首相を務めています(サルコジ氏の選挙参謀でもあった)。

 「フランスのサッチャー(元英首相)」と呼ばれましたが、もともと反英気質の根深いフランスでそう評価されることが票に結びつくのかどうかは疑問が残ります。

 政策的には親EU路線と均衡財政(2022年までに赤字解消)を目指しています。歳出削減や公務員削減と同時に、企業向け減税や家計向けの社会保障費控除等を行うことを提言していました。

直近の4候補者の支持率

 22日の各紙報道ではフランスの調査会社(Ifop)が21日に発表した支持率が紹介されていました。

  • マクロン氏:24.5%
  • ルペン氏:22.5%
  • フィヨン氏:19.5%
  • メランション氏:18.5%

 日経電子版(4/22)では「テロ直後の21日に限った別の調査ではルペン氏の支持率が1ポイント上昇した。一方、他の3人は0.5ポイント低下。ルペン氏の強硬な治安対策が評価された可能性がある」とも報じていました(仏大統領選23日投開票 テロや地方疲弊、迎合派に追い風)。この通りに単純計算するとマクロン氏とルペン氏の差は0.5%しかなく、ほとんど誤差の範囲になってしまいそうです。

 各紙ではいろいろな論評が飛び交っていますが、現在のフランス大統領選報道の構図は、昨年のアメリカ大統領選に似ています。

追記:第二回投票日前の支持率

 4月23日の第一回投票では、マクロン氏とルペン氏がそれぞれ首位と2位につけました。

 第1回投票の得票率はマクロン氏が23.75%、ルペン氏が21.53%、フィヨン氏は19.91%、メランション氏が19.64%。ほぼ支持率に近い数字です。

 その後、マクロン氏とルペン氏はテレビ討論会を繰り返し、最後の世論調査(4/5)は以下の数字となりました。

(調査会社IFOP/仏紙レゼコーの数字)が5日に公にした最後の世論調査によれば、支持率はマクロン氏が63%、ルペン氏が37%だとされています(仏紙レゼコーによれば5日の支持率は、マクロン氏62%、ルペン氏38%)。

  • マクロン氏:63%/62%
  • ルペン氏:37%/38%

 普通に数字を見れば、マクロン氏の大勝は確実なはずですが、今回の投票ではメランション支持者とフィヨン支持者の間では棄権者続出と見られています。

3位で敗れた共和党(中道右派)フランソワ・フィヨン元首相(63)支持者の24%、4位だった急進左派ジャンリュック・メランション氏(65)支持者の37%が棄権すると答えている。

  これは日経電子版(「ルペン氏、公約修正で支持拡大躍起 ユーロ圏離脱撤回 仏大統領選」2017/5/4)の記事ですが、棄権者が増えれば、熱心な支持者が多いルペン氏に勝機が生まれるとも見られています。 

 

「ルペン大統領」は実現するのか?

 基本的にはメディアは反ルペン一色で、マクロン氏を応援しており、知識人や言論人の多くはルペン支持などとは口が裂けても言えず、ルペンが勝つとも言いにくい雰囲気が漂っているように見えます(ルペン勝利と言うと、その方向に世論誘導したがっていると解釈される可能性があるため)。

 そのせいか、ルペンが勝つという言葉は用いられず「ルペン有利か」というような書き方が流行っています。

 どことなくアメリカ大統領選に似ているので、筆者は不穏な気配が漂っているような気がしてなりません。

 米大統領選と仏大統領選の登場人物を並べると位置づけがあまりにも似通っているのです。

(以下、マスコミ報道の扱いの比較。米国/フランス)

  • 極右:トランプ/ルペン
  • 右:クルーズ/フィヨン
  • 中道:ヒラリー/マクロン
  • 左:サンダース/メランション

 ここまでキャラの位置づけが同じだと、今後のシナリオも同じにならないのだろうかという疑念がわいてきます。

 ただ、フランスとアメリカの違いは「二回投票制」です。米国でも総得票数はヒラリーのほうが多かったので、第一回の得票数が米国と似た結果になっても、二回目でマクロン氏が勝つ可能性があるわけです。

 その「マクロン勝利」のシナリオでよくある論理は、一回目投票で票が割れても、二回目投票時に、共和党(候補者はフィヨン氏)や社会党(候補者はアモン氏)が反ルペンの投票を呼びかけるから、ルペン氏は二回目投票では勝てないはずだーーというものです。

 ただ、そのシナリオにも異論はあります。

 トランプ勝利を言い当てた香港の金融アナリストのチャールズ・ゲイブ氏(Charles Gave)はルペンが勝つとみていることを、英インディペンデント紙が紹介していました。

(出所:French election: Economist who forecast Donald Trump victory predicts Marine Le Pen will win

ーーー

チャールズ・ゲイブは、多数の有権者はまだ投票先を決めていないと述べている。その数が40%と見積もられていることは、中道候補のマクロン氏にとって悪いニュースだ。国民戦線は勝利するだろう。

Charles Gave said the number of voters yet to make up their minds - estimated at 40 per cent - was bad news for current frontrunner centrist candidate Emmanuel Macron, and could see the Front National leader emerge victorious.

(略)

ゲーブカル・リサーチの資産配分アナリストであるゲイブ氏はクライアントにルペン大統領出現に備えるようにアドバイスしている。

Mr Gave, who heads asset-allocation consultancy GaveKal Research, is advising clients to prepare for a Le Pen presidency.

彼は少なくとも極左と中道右派の半分は第二回投票でマクロン氏に投票するよりは棄権を選ぶとみている。

He believes at least half of both the far-left and centre-right would rather abstain than vote for Mr Macron in the second ーーーー

 ゲイブ氏が指摘するルペン勝利のシナリオへの対策はブルームバーグ記事が紹介していました。

「資金の逃避先になるとみられる英ポンドのロング。もう一つはドイツのインフレ連動債のショート。ユーロ圏のデフレリスクが高まると見込まれるためだ。ユーロ以外の通貨での収入が多い欧州系多国籍企業の株も勧めている」

(出所:トランプ氏勝利を言い当てたアナリスト、ルペン氏勝利見込む取引推奨 - Bloomberg

 米大統領選を生々しく覚えている筆者は、ゲイブ氏の主張を無視することはできません。

 情報分析においては、分析者の願望が知らず知らずのうちに結論に反映されてしまうことがあるので、今回の記事では、マクロン氏に期待する各紙報道やアナリストの予測を鵜呑みにせず、違った角度から情報を集めてみました。

(※追記:日本時間8日未明にマクロン候補の当確が報じられました。フランス内務省調査によれば、マクロン候補の得票率は66.06%、ルペン候補は33.94%。世論調査の通り、マクロン氏の勝ちでした。これでルペンショックが回避され、国際社会はそれに伴う複雑な問題を考えずに済むことになりました)