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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

【習近平VS金正恩】中国は本当に北朝鮮への石油輸出を止めるのか?

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(中国国境の地図。太い青線は頭満江。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ大統領は、4月20日に北朝鮮の核兵器とミサイル開発の抑止に関して、「習氏の懸命な努力に絶対的な信頼を置いている」と述べました(訪米したイタリアのジェンティローニ首相との共同記者会見の席での発言)。

 これは、中国が2017年内に北朝鮮からの石炭輸入を禁止する措置を講じたことや、20日に中国が爆撃機の警戒レベルを上げたこと等を念頭に置いた発言と見られています。

 米中首脳会談を契機に、中国が北朝鮮への圧力を強化しているのか。

 それとも、単なるポーズに過ぎないのか。

 過去、そうした試みはうまくいかなかったので、中国に対して「あてにならない」と考えている人も少なくありません。

 そこで、今回は、中国と北朝鮮の間の資源貿易のあり方について考えてみます。

北朝鮮からの石炭輸入禁止は本気なのか?

 中国は2月19日に、国連の制裁決議で決まった2017年の輸入上限を理由として、同年末まで北朝鮮からの石炭輸入を止めました。

 その結果、制裁が行われていても「民生目的」であれば取引可能としてきた従来の方針が変更され、17年1~3月に北朝鮮から輸入した石炭の量は前年同期比で半減しました(267万8000トン)。

 北朝鮮の輸出額のうち、9割以上は中国向けが占めており、その中でも石炭輸出は重要な外貨の獲得源となっているので、言葉通りに制裁が行われれば、この禁輸措置は同国にとって大打撃となるはずです。 

 しかし、昨年の貿易統計では、制裁したはずなのに、なぜか石炭輸入が一割増になっていました。

 日経電子版(2017/1/28)は、経済調査会社CEICの情報をもとにして「中国の北朝鮮産石炭輸入、国連制裁下でも1割増 16年」と題した記事を公開しています。

 中国税関総署の統計から見ると、中国は16年4月から北朝鮮産石炭の輸入規制を行い、輸入金額が一時的に減ったものの、「8月以降は前年同月比で増加にに転じ」、「11~12月は前年同月比で2倍超に増えた」と報じています。中国が同年に北朝鮮から輸入した石炭の総額は11億8094万ドル(約1360億円。前年比12.5%増)となりました。

 制裁の形骸化ぶりが明らかになったのです(輸入量は2249万トン、前年比14.6%増)。

 米国側がオバマ政権からトランプ政権に替わり、対中強硬路線を取れるようにはなりましたが、こうしたデータから見ると、中国の「輸入禁止」というのは、あまりあてにはなりません。

 日米とアジアの諸国がきちんと監視しなければ同じことの繰り返しになる可能性が高いと言えます。

中国は北朝鮮への石油輸出を禁止するのか?

 もう一つ、注目されているのは、中国が北朝鮮への石油輸出を禁止するのかどうかです。

 軍隊があっても石油がなければ動けなくなるので、この措置が完全に実行された場合、北朝鮮は白旗を挙げるか、暴発するかのどちらかしかなくなります。

 どこまで本気なのかは不明ですが、昨今の報道では、中国が北朝鮮への石油輸出禁止に踏み込む方針を示したとされています。

 早稲田大学名誉教授の重村智計氏は日経ビジネスオンライン(2017/4/21)にて、そうなった背景には安倍首相のトランプ大統領へのアドバイスがあると述べていました(「朝鮮半島で軍事衝突はない 混迷する朝鮮半島」)

 米ニューヨーク・タイムズ紙は4月13日に「習近平国家主席は、北朝鮮が核実験をすれば石油禁輸に踏み切る、とトランプ大統領に伝えた」と報じた。同紙は、国務省当局者にこの事実を確認した。(略)中国政府系の環球時報も同じ内容を報じている。中国が、対北石油禁輸を約束したのは、これが初めてのこと。安倍晋三首相による働きかけの成果といってよいだろう。 

  安倍首相は本年2月11日の日米首脳会談と、4月6日のトランプ大統領との電話会談で北朝鮮向けの石油輸出の禁止を提言し、この策が米中首脳会談で取り入れられたと重森氏は評価しています。

  重森氏は北朝鮮の年間の石油輸入量は「最大で年間70万トン程度」であり、ここ数年は50万トン前後でしかないと指摘しています。年間150万トンの石油を用いている自衛隊と比較しても、北朝鮮は戦える状態にないと見ているのです。

  問題なのは、前節の石炭の事例と同じく、どこまで中国が本気なのかということです。中国が石油輸出をゼロにしたと称しても、実際の各国向けの輸出額を見ると、違った数字が出てくることがよくあるからです。

「北朝鮮の貿易額は、日本貿易振興機構(JETRO)や韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が各国の貿易統計から『北朝鮮向け』となっている数字を集計して割り出してきた。中国の通関統計では2014年から北朝鮮への原油輸出がゼロになっているが、KOTRAは年間50万トン、金額で2億8000万ドルと推定して加味した。貿易総額は 2009年から増加基調にあったが、2015年は資源価格下落などで減少した。中国への石炭輸出は量では26.9%だったものの、金額では7.6%減となったという」(『新版 北朝鮮入門: 金正恩体制の政治・経済・社会・国際関係』礒崎敦仁/澤田克己著、P220)

 北朝鮮への原油輸出がゼロになったとされた2014年以降、特に北朝鮮の石油融通の状況は変わっていないとも言われています。

 2014 年初頭から現在に到るまで、北朝鮮が著しい石油製品の供給不足に陥っているとの情報はない。例えば、韓国の情報によると、2014 年 8 月時点で平壌市の軽油価格は 2012 年とほぼ同じである。また、露朝間の石油製品供給量が急増したとの見方もあるが、ロシアの税関統計によると、2014 年 1~9 月のロシアの対北朝鮮石油製品輸出量は合計 1 万 8,349 万トンであり、2013 年同期の 2 万 309 トンと比べて 1,960 トン減少している。

(株式会社エイジアム研究所「中国の対北朝鮮原油輸出 未だ解けない中国と北朝鮮の謎」)

中朝パイプラインは石油の輸出を止めると故障する? 

 さらには、中国が北朝鮮への輸出を禁止する場合、旧型のパイプラインが詰まってしまい、石油輸出の再開に支障をきたす可能性があるともいわれています(※中国が2013年頃と同じ設備を今も使っていたと仮定した場合の話)。

 中朝パイプラインは極めて少量の送油である特殊性から、地面の温度変化などにより一定の時期に送油を停止する際や、定期検査や事故などで送油を停止する必要性がある場合の停止可能時間が季節によって厳しく定められている。

 しかしこうした手順を経て、夏季の一定時間の送油停止と、蓄積したパラフィンの清掃を行って管理運営をしたとしても、年間の安全輸送量は52.5 万トン程度が最低限界という。

(略)
 パイプラインが詰まらないように停止できる時間の限界は夏季でも12 時間しかない。

 旧型のパイプラインであるため、一度、止めてしまうと、パイプがつまり、事故が発生してしまう。だから、半日しか止めることができない。そう指摘されていました。

  あくまでもこれは2013年頃のデータを前提とした話ですが、この論文の筆者は「最低でも50 万トンは送り続けなければ詰まりが生じてしまうパイプラインは、段階的な輸送量の増減には機能的に対応していない」と述べていました。(出所:堀田幸裕「中国の対北朝鮮援助 中朝石油パイプラインを中心に」一般財団法人霞山会、愛知大学国際問題研究所)

 2017年現在では、もしかしたら、中朝パイプラインは改良されているのかもしれません。

 しかし、米軍は衛星から中朝国境の重要施設をウォッチングしているはずなので、そうした動きがあれば、ここ数年の間にどこかで報道されているのではないでしょうか。

 習政権と金政権の関係は悪化していたので、わざわざ中国が北朝鮮のためにパイプラインを修復してあげる理由もなさそうです。

 トランプ氏は習政権に全幅の信頼を置くことを表明しましたが、中国が本気で石油輸出禁止の実施するのかどうかは、今一つよくわかりません。

 これに関しては、しっかりとしたウォッチングが必要です。