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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

ペンス副大統領のインドネシア訪問と訪豪 ウィドド氏とターンブル氏はどう応える?

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(インドネシアからオーストラリア近辺の地図。出所はWIKIパブリックドメイン画像。筆者トリミング)

  4月20日にペンス米副大統領はインドネシアのジョコ大統領との会談を行いました。

 会談に際しては、米国とインドネシアの経済協力や安全保障面での関係強化が論じられたことが各紙で報じられています。

 次の訪問国はオーストラリアが予定されていますが、どちらも重要国なので、今回は両国についての情報を整理してみます。

ペンス氏とウィドド氏の会談

 ホワイトハウスHPには二人の会談の発言が出ているので、主要なところを紹介してみます。

 双方は会談の目的をどのようにとらえていたのでしょうか。

(出所:Remarks by the Vice President and Indonesian President Widodo to the Press | whitehouse.gov

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【ウィドド氏】

(論題の中で)一番目に上がるのは、米国とインドネシアの戦略的な協力関係の強化だ。

The first is the commitment of the United States to enhance its strategic partnership with Indonesia.

我々は協力と投資の問題に焦点を当てている。

We’ll focus on the issues of cooperation and investment.

来月に、相互に有利になる解決策を探ることを原則としたた二国間の貿易と投資を議論する会合を発足させる。

And next month, there will be a team that will discuss the arrangement of trade and investment bilateral between the countries based on the principles of win-win solution.

第二に、世界でもっとも大きなイスラム国家であり、世界第三の人口を誇る民主主義国であるインドネシアは世界の平和に向けた協力関係の強化に合意している。

Second, as the largest Muslim population country in the world, as well as the third largest democracy in the world, Indonesia also agree to strengthen cooperation on peace.

【ペンス氏】

トランプ政権の閣僚の中で東南アジアを訪問したのは私が初めてだ。私がここに送られるということは米国がインドネシアとの戦略的な関係を重視しているためだ。

I know I’m the first member of President Trump’s administration to visit Southeast Asia, and the President sent me here -- sent me here as a sign of the high value the United States places on our strategic partnership with Indonesia.

第二に、世界で第三に大きな民主主義国であるインドネシアと我々は多くの価値観を共有しているーーそれは、自由、法の支配、人権、宗教的な多様性などでだ。

As the second and third largest democracies in the world, our two countries share many common values -- including freedom, the rule of law, human rights, and religious diversity.

米国はインドネシアとの協力関係を誇りとし、これらの価値を生まれながらに権利を持つすべての人々に広げたいと考えている。
The United States is proud to partner with Indonesia to promote and protect these values, the birthright of all people.

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 会談では、米国とインドネシアとの経済関係の強化や、南シナ海を念頭に置いた地域の安全保障問題における協力、テロ対策におけるインドネシアの長年の貢献などが話題にのぼりました。

 ペンス氏はインドネシアは伝統的に穏健なイスラムであると評価したうえで、米国はインドネシアが防衛協力に最も昔から関わった国の一つであることを誇りに思うと述べています。

 そして、特に「航行の自由」の維持についての発言が注目されました。

ーーー

米国は、南シナ海とアジア太平洋全般における航行と飛行の自由を基本的に守り続ける。合法的な商取引が妨げられるべきではない。地域と世界における懸案事項に対処すべく、平和的に外交的な対話を促進してゆく。 

The United States will uphold the fundamental freedoms of navigation and overflight in the South China Sea and throughout the Asia Pacific; will ensure the unimpeded flow of lawful commerce; and promote peaceful diplomatic dialogue to address issues of regional and global concern.

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  こうしてみると、ペンス氏がインドネシアを訪問したのは、経済的に見た同国の将来性と対中牽制を念頭においた南シナ海問題における協力関係の強化あたりが主な狙いだと言えそうです。

インドネシア経済の現状

 では、インドネシア経済はどのような状況にあるのでしょうか。

 最近の報道をいくつか紹介してみます。

 日経電子版(2017/2/6)は、インドネシアの中央統計局が出した2016年の実績を紹介していました(「インドネシア5%成長 16年、消費堅調で6年ぶり加速」)

  • 実質国内総生産(GDP)成長率:前年比5%増
  • 個人消費の伸び率:5%(※GDPの5割強を占める)
  • 自動車(新車)販売台数:106万台(前年比約5%増)
  • 1人当たりGDP:7%増(3605ドル)

  やはり、新興国特有の高い経済成長率が目を引きます。

 そして、他の記事ではインドネシアでは、低価格・低燃費の「LCGC(ローコスト・グリーンカー)」に人気が集まり、「昨年8月にトヨタ自動車とダイハツ工業が7人乗りのLCGC車「カリヤ」「シグラ」を発売するなど、LCGC車の市場が新車販売全体を押し上げている」ことが報じられています(日経電子版「インドネシア、16年の新車販売106万台 3年ぶり増加 」2017/2/6)

 もともと資源国なので、インドネシアではエネルギー企業も伸びています。

 これに関しては「メドコ・エネルギー・インターナショナル」の躍進が日経電子版でも注目されていました(インドネシア、エネルギー新興企業躍進 メドコ、鉱業・発電にも進出」2017/2/11)。

 同社の概要は以下の通りです。

 ヒルミ社長の兄、アリフィン氏が1980年に創業した民間エネルギー会社。94年に新規株式公開(IPO)。96年に南スマトラで巨大な油田を発見し、事業拡大をテコに海外展開を開始。2004年にオーストラリアの同業を買収した。05年以降にリビアやイエメンなどの油田開発に乗り出すも、民主化運動「アラブの春」を巡る政情不安などで停滞。創業一族の投資会社が大株主で、07年には三菱商事が出資した。アドバイザーや監査役にはルトフィ元貿易相など元閣僚をそろえる。

 メドコ社は昨年6月に「米ニューモント・マイニングや住友商事などから、バトゥ・ヒジャウ鉱山の運営会社を26億ドルで買収すると発表し」、「年内にも銅などの製錬所建設に着手する」ことが報じられています。

 従来の石油・ガスだけでなく、これに「発電、鉱業を加えた3本柱を育てる」(ヒルミ・パニゴロ社長)方針なのです。同社は2016年に24000億ドルで「アジア最大級のガス埋蔵量を持つとされる」「南ナトゥナ海B鉱区」の40%の権益を買収してもいます。

  2.5億もの人口と豊富な資源を持つインドネシアの潜在力が注目されているわけです。

オーストラリアのターンブル首相の経歴とは?

 22日からペンス副大統領はオーストラリアのターンブル首相と会談します。 

 そのため、オーストラリアの状況も見てみますが、一番の懸案事項はトランプ大統領とターンブル首相との不仲なので、今回はターンブル氏について整理してみます。

 トランプ大統領は就任後に1月28日にターンブル豪首相と電話会談を行いましたが、その際にはパプアニューギニアとナウルにある難民収容施設から1250人の移民を米国に受けいれるというオバマ大統領との合意をターンブル氏が確認したところ、トランプ氏が「史上最悪の合意だ」と一蹴し、オーストラリアは「次のボストンマラソン爆弾テロ犯」を輸出しようとしている激怒。電話会議はわずか25分で終わったと報じられていました。

 このターンブル氏はどのような人物なのでしょうか。

 ・・・

 オーストラリア自由党を党首として率いるマルコム・ターンブル豪首相は1954年にシドニーで生まれました(62歳、誕生日は10/24)。

 シドニー大学では人文科学と法学を学び、その後、オックスフォード大学に留学(法学専攻)しています。

 1975年~79年まではジャーナリストを務め、80年以降は弁護士として働きました(88年頃まで)。

 企業経営にも携わり、ターンブル&パートナーズ社社長(87~97年)、オズeメール社会長(94~99年)、FTRホールディングス社取締役(95~04年)ゴールドマン・サックス・オーストラリア会長兼社長(97~01年)、ゴールドマン・サックス社パートナー(98~01年)と手広く活躍しています。

(※企業経営や投資等を通じて自力で1億3300万ドルの財産を築いたとも報じられている。東亜日報日本語版「豪新首相にターンブル氏、財産1569億ウォンの大富豪」2015/9/16) 

 政治家になる前は弁護士や投資に関わる企業経営をしていたわけです。

 そして、2004年の10月に、シドニー東部のウェントワース選挙区にて下院議員(オーストラリア自由党)に選ばれます(その後、07年、10年、13年の三回の選挙で再選)。

 第4次ハワード内閣では環境・水資源を担当し、首相付政務次官(06年1月~)、環境・水資源大臣(07年1月~)を務めました。

 自由党が下野した後、財務や通信・ブロードバンド等を担当し、08年~09年には党首を務めていました(09年にアボット前首相に党首選で敗北)。

 現政権では通信大臣(13年~15年)を務め、15年にアボット首相の支持率が下がると、ターンブルはアボット首相に退陣を迫り、党首選挙の実施を要求しました。

 15年には中国を震源とした世界的な不況により、資源を中国に輸出したオーストラリアは打撃を受け、アボット首相の支持率が低下し、ターンブル氏にとって替わられたのです。

 16年9月の選挙では54対44で勝利し、自由党党首となり、同月15日に首相がターンブル氏に交代しました。これはアボット首相との信頼関係を深めてきた安倍首相にとってはショッキングな出来事だったのです。

リベラル派の政治家・ターンブル氏

 保守政党の党首を率いながらも、ターンブル氏はリベラル派です。

 アボット前首相が復活させた「ナイト」と「デイム」の称号を時代遅れと見なして授与廃止を表明。同性婚支持や、オーストラリアの英連邦脱退(女王のいない共和制への移行)等を主張しています。

 特に共和政論は若い頃からの持論で、昨年12月17には、超党派のロビー活動の集会で「オーストラリア共和制推進運動(ARM)の大義はオーストラリアのための大義だ」と主張し、エリザベス女王死後の共和政移行を訴えたことが報じられています(AFP通信「豪で君主制廃止論再燃? 首相「女王退位後に共和制移行を」2016/12/19)

※この記事によればオーストラリア人1400人のうち51%が現状維持を希望、共和制移行を支持したのは42%。

オーストラリアの親中外交の行方

 各紙ではターンブル氏は親中派として報じられています。

 中国との貿易が緊密なオーストラリアでは反中外交は取りにくいのですが、前任者のアボット首相は中国と自由貿易協定を結びながらも、南シナ海問題では日米と連携し、安倍首相と同じく「法の支配」を訴えていました。

 一方、ターンブル氏は戦後70年の講演で、中国をオーストラリアと共に日本と戦った同盟者と位置づけ、日本からの潜水艦購入を見送る(フランスからの購入に決定)など、中国寄りの動きが見られます。

 2016年4月14~15日には1000人の随行団を率いての大規模訪中も行われ、オーストラリアの「ダーウィン港の、中国企業への「租借」が決まったこともあり、安全保障上の不安が懸念され」ました。

(フォーサイト「初訪中に『1000人随行団』:豪ターンブル政権の危うい『親中』姿勢」村上政俊 2016年4月21日)

 日本で言えば、民主党への政権交代直後の小沢訪中団によく似た行脚が行われたわけです。

 そして、この契約は99年間で「嵐橋集団」は人民解放軍と関係が深いとも言われています(「産経正論」2016.5.26井上和彦氏)。

「ターンブル氏は大富豪であると同時に豪政界きっての親中派としても知られてきた。自身も実業家として中国ビジネスの経験があり、また身内に中国共産党に関わりのある人物がいる」(前掲正論記事)

 オーストラリアではハワード首相⇒ラッド首相、アボット首相⇒ターンブル首相と、日米寄りと親中派の首相がたびたび交替しています。

 同国の主たる資源輸出先が中国なので、オーストラリアは親中派が根強く、日米寄りの外交が続かないようです(オーストラリアの輸出額のうち、対中依存度は3割程度)。

 16年2月~3月の世論調査では、オーストラリア国民の親中度の高さが産経ニュースでも報じられていました(「アジアの親友は?」に中国トップ 豪の世論調査、若年層ほど親近感 「親中」鮮明に 日本は2位  2016.6.28)。

 ローウィ国際政策研究所(シドニー)が2月26日~3月15日、18歳以上の1202人を対象に電話で実施し、(※世論調査の結果を)21日に発表した。

 今回「親友」の3位はインドネシア(15%)、4位はシンガポール(12%)、5位はインド(6%)、6位は韓国(4%)だった。

 もっとも「友好的な感情を抱く国」との調査では、日本の数値は70で10年前調査と比較すると6ポイント上昇。米国(68、同6ポイント上昇)、中国(58、同3ポイント下落)よりも高かった。

  そして、国内の人口比率でも、中華系の比率が4%を超えたことが報じられていました(「人口の4%、高まる中華系の影響力 “強圧”中国政府との距離感悩ましく 対中依存の経済「転換が必要」とも」2016.7.1)

 豪州は経済の中国依存に加え、国内の政治面でも中華系住民の影響力の拡大に直面している。中華系は2011年の推計で86万人(豪州生まれ含む)、人口の約4%を占め、現在は100万人を超すとの見方もある。

 豪州の華人は必ずしも中国本土の共産党政権の政治路線を支持しているとは限りません。しかし、中国本土とのつながりは深いので、この人口要因は無視できないでしょう。