トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

ティラーソン国務長官訪露 ラブロフ外相とプーチン大統領と会談へ 米ロ関係改善は困難?

f:id:minamiblog:20160901204531p:plain

(ロシア語使用者の分布を示す地図:出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ政権発足前は米露関係の改善が期待されていましたが、4月のシリア攻撃により、その実現は困難な情勢になっています。

 トランプ政権は外交・安保政策に関しては、同盟重視に舵を切り、対露外交も宥和なしなので、結局は従来の共和党政権のスタンスにかなり近づきました。

 そうなった背景には、トランプ氏がマティス国防長官やマクマスター安全保障担当大統領補佐官などの元軍人を閣僚入りさせたことや、議会に陣取る共和党の重鎮の意向を無視できないこと等があげられます。

 シリアへのミサイル攻撃では米国が非人道的な行為に対抗する姿勢が明確になり、さらには中国と北朝鮮への強烈な牽制にもなりました。シリアを後押しするロシアは硬化したものの、化学兵器の使用というレッドラインを守れなかったオバマ政権の頃のフニャフニャとした外交路線が正されています。

    そのため、長い目でみれば、これはプラスの面が大きかったと評価されるはずです。

 シリア問題は、米国の権威が失墜し、ロシアの影響力が拡大した契機でもあったので、これを正さなければ、米国の復権は見込めないともいえるからです。

 ティラーソン国務長官は4月11日から12日までロシアを訪問し、ラブロフ外相との会談やプーチン大統領との面会をこなします。ロシアから「友好勲章」をもらったティラーソン氏がこうした形で初訪露するのは皮肉な話ですが、同氏の事例は、軍事力を含めた国際政治のやりとりの厳しさを教えてくれます。

 経済関係に比べると、やはり、政治の関係はゼロサムゲームになることが多いのでしょう。

 今回は、注目される米露関係の行方について考えてみます。

ティラーソン国務長官のシリアに関する現状認識

 ティラーソン氏は昨日に紹介したABCのほか、CBSからもインタビューを受けています。内容が重なる部分も多いのですが、そこから同氏の現状認識がよくわかる箇所を二点ほど紹介してみます。

(出所:Interview With John Dickerson of CBS Face the Nation

 ティラーソン氏はシリア攻撃でロシアは硬化したものの、まだ対話の道は閉ざされていないと考えています。

 確かに、今回の攻撃は、国務長官の訪露日程に何の影響も与えていません。

ーーーーーー

Q:米国の政策の優先事項は彼(アサド)を権力の座から追放することなのか?

A:我々のシリアでの優先事項は体制変革ではない。トランプ大統領の姿勢は明確だ。第一に、我々はISを打倒しなければならない。

Our priority in Syria, John, really hasn’t changed. I think the President has been quite clear, first and foremost, we must defeat ISIS.

そして、トランプ政権の発足以来、シリアとイラクの双方で軍事的には進歩がみられた。

And I would say that the military progress both in Syria and in Iraq has been remarkable since President Trump’s inauguration.

我々は地域を解放し続けている。

We have continued to liberated areas.

我々はイラクのモスル解放で大幅に前進した。連合軍や同盟国と共働し、解放の地点はラッカに移動してきている。ISと、ISが我が国と同盟国、世界にもたらす脅威は封じ込められているのだ

We are making tremendous progress in liberating Mosul in Iraq, working with coalition forces, working with allies, and we’re moving to position to liberate Raqqa and to continue to contain ISIS and the threat that ISIS really does present to the homeland and to other homelands of allies around the world.

(略)

Q:米国の軍事行動にロシアが報復することを懸念していますか?

A:このたびの攻撃は決してロシアを狙っていないのだから、私はそこにロシアが報復する理由は見いだせない。

I see no reason that there would be retaliation since the Russians were never targeted in this particular strike.

それは化学兵器の使用に対応し、比例的に打ち出され、工夫されたものだ。ロシアは決して目標には入っていない。

It was a very deliberate, very proportional, and very targeted strike undertaken in response to the chemical weapons attack, and Russia was never part of the targeting.

Q:(略)米国とロシアの対話の道はまだ開いているのでしょうか?

A:周知のように、対話の道は開かれている。戦場の兵士たちはお互いに対話が可能だ。

As far as I know, the line of communication continues to be open and the battlefield commanders are able to communicate with one another.

私はモスクワから公的な声明が出されたことに気付いた。それで我々は軍人と会い、事を尋ねる必要があったのだ。

I am aware that there have been certain public statements made out of Moscow, so we’ll just have to see and may have to ask the military people.

ーーーーー

G7外相会合に出席後、国務長官はロシアを訪問

  NHKニュースWEB(2017/4/11)では、米国務長官の動向が解説されていました(「ロシアに新たな制裁 G7外相会合で議論の見通し 英外相」)

  イタリア北西部ルッカで開催される主要七カ国外相会合(4/10~11)では、ロシアに対して新たな制裁が科される可能性があることや、そこに岸田外相が参加することなどが説明されています。

 米国務長官は伊外相と共にナチスドイツの戦争犯罪の慰霊式典に参加後、悪事を働く者に対して責任を追及していくと述べています。G7はシリアへの圧力強化を目指しているわけです。

 これに対して、ロシアのラブロフ外相は米国のシリア攻撃は独立した主権国家への侵略であり、国際法違反だと批判。これにイランとトルコが同調したことが報じられていました。 

ロシアは米国を批判しながらも、国務長官の訪露を重視

 各紙では、プーチン大統領が報道官を通じて、今回の攻撃が「すでに悲惨な状態にある米露関係に重大な損害を与える」と述べたことや、ラブロフ外相が、テロと戦う国への攻撃は過激派を利すると批判したこと等が報じられています。

 しかし、彼らは批判しながらも、なぜか国務長官の訪露を受け入れています。

 その理由は、やはり、米ロ関係の改善がもたらす利益は大きいとみているからです。

 ウォールストリートジャーナル日本語版では、以下のようにその経緯が解説されていました(ロシア、シリア攻撃で対米批判も慎重な反応 - WSJ

  • ロシアは7日、攻撃への報復として、シリア領空での偶発的衝突を回避するために2015年に米国と交わした覚書の効力を停止。
  • その数時間後にロシア外務省報道官が米国との対話受け入れを表明。
  • ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は「シリアは、それ自体はそれほど重要ではなく、欧米諸国との関係におけるテコとしての重要性の方が大きい」と発言

 結局、ロシアは、米国との対話の道を閉ざしてまでシリアを擁護する必要はないと考えているわけです。

 不凍港を持つシリアはロシアにとって南への出口にあたりますが、これは、プーチン政権はアサド政権にそれ以上の価値を感じていないことを意味しているのかもしれません。

 ロシアの主要な関心事は対露制裁解除にありますが、そのほか、シリア情勢だけでなく、ロシア経済に影響が大きい原油価格の問題なども話題に上る可能性があります。