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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

シリア攻撃は北朝鮮への重大な警告 金正恩就任日に米空母が極東に迫る

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(米空母カールビンソンと沿海域戦闘艦。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  米中首脳会談の終了後、トランプ政権はシンガポールからオーストラリアに向かっていた米空母カールビンソンを中心とする第1空母打撃群に北上を命じました(発令は米国時間で8日)。

 横須賀を母港とする第七艦隊は空母「ロナルド・レーガン」を中心として空母打撃群を形成していますが、カールビンソンが朝鮮半島の近海にやってくれば、在韓米軍と在日米軍、さらに二つの空母打撃群によって北朝鮮は包囲されます。

 3月1日に始まった米韓軍事演習では約30万人規模の野外機動訓練「フォール・イーグル」が4月末まで続き、4月には北朝鮮で重要行事が続くため、金正恩政権がミサイル実験等の示威行動に出る可能性が警戒されています。

 米韓軍事演習と同時期に開催される北朝鮮行事としては以下の3つが特に重要です。

  • 4月11日 金正恩第一書記就任日(5周年)
  • 4月13日 金正恩国防委員長就任日(5周年)
  • 4月15日 「太陽節」(金日成主席の誕生を祝う)

 ただ、金正恩政権には「相手が予想していない時に撃つ」という奇襲を好む傾向があるので、米韓日の三カ国が警戒している時にはあえてミサイル実験等は行わず、忘れられた頃に実験を行う可能性もあります。

 先般のシリアへのミサイル攻撃の後、米空母カールビンソンが急に北上を命じられたので、抑止を超えた武力行使が起こりうるのかどうかが注目されています。

 今後、朝鮮半島情勢は、どのように展開するのでしょうか。 

米空母の攻撃力は湾岸戦争時から3倍以上になった?

 単にミサイル攻撃をするだけならば、既存の駆逐艦や潜水艦、もしくは爆撃機でも可能なので、わざわざ空母打撃群を朝鮮半島に呼ぶ必要はありません。空母打撃群を増やすことには、北朝鮮を崩壊させうる戦力を誇示する狙いがあります。

 湾岸戦争の時には6隻の空母が集結しましたが、現在の空母は当時の3倍の打撃力を持つと評価されているので、「ロナルド・レーガン」と「カールビンソン」が来れば、この2隻の空母だけで、当時の6隻の空母に匹敵する対地攻撃能力となる可能性があります。

 軍事評論家の河津幸英氏はイラク戦争に参加した空母打撃群の航空攻撃力を、米軍が湾岸戦争時の3倍と見なしている理由を以下のように説明していました。

「理由は、一個空母打撃群が当時一日に攻撃できた目標数200個に対し、今や空母打撃群の艦載機は、1日に600個の目標を攻撃可能になったからだ」「空母に搭載する戦闘機の数が増え、しかも搭載する高性能な誘導爆弾により、全ての目標を一発必中の確率で攻撃可能となったからである」

(河津幸英『図説 21世紀のアメリカ海軍』P96)

 空母2隻はそれぞれ60機程度の戦闘爆撃機(スーパーホーネット)を積んでいます。

 そして、在韓米軍には60機のF16戦闘機と21機のA-10攻撃機が控え、韓国軍には約300機の戦闘機があります(『軍事研究 2016年8月号』P199)。

 さらには在日米軍の戦力もあるので、2つの空母打撃軍が朝鮮半島に接近すれば、数カ国分の打撃力で北朝鮮は包囲されることになります(それ以外にも、原潜からのミサイル攻撃やグアムからの援軍など、米軍は多彩な攻撃オプションを持っている)。

ティラーソン国務長官が語るシリア攻撃の意図

 米国の意図を読む上で、ティラーソン米国務長官にABCテレビが行ったインタビューが注目されているので、今回は、その内容を抜粋にて紹介してみます。ティラーソン氏はシリア攻撃の意図を明かすと同時に、今回のトマホーク発射は、北朝鮮への警告でもあることを認めていたからです。

 国務省は4月9日に、ABCテレビのキャスターであるジョージ・ステファノポロス氏(元広報担当大統領補佐官)が行ったインタビューの内容を掲載しました。

(出所:Interview With George Stephanopoulos of ABC This Week

 その内容を抜粋し、翻訳つきで紹介してみます(以下、質問への返答は全て国務長官。質問は英文を省略)。

トランプ政権にとってIS打倒が最優先事項

Q:木曜日の攻撃はアサドを権力の座から除くための新戦略の一環なのか?

(略)

A:周知のように、我が政権のシリア戦略ではIS打倒が最優先事項になっている。彼らがカリフ(※イスラム教の指導者のこと)を称していることが米国や同盟国を脅かしているからだ。

I think our strategy in Syria, as you know, our priority, is first the defeat of ISIS, remove them from access to the caliphate, because that’s where the threat to the homeland and to so many other homelands of our coalition partners is emanating from.

我々が対IS作戦を終わらせれば、我々はアサド政権とその対抗勢力の双方に対して、停戦に関心を向けさせることができる。

Once we can eliminate the battle against ISIS, conclude that – and it is going quite well – then we hope to turn our attention to achieving ceasefire agreements between the regime and opposition forces.

それに関して、我々は、シリアにおいて地域の安定化に影響力を行使し、ジュネーブ条約による政治的な過程を生み出すために、ロシアとも共同できるという希望を持っている。その過程において、我々はシリア国民が最終的にアサドの運命を決めることができると信じている。

And in that regard, we are hopeful that we can work with Russia and use their influence to achieve areas of stabilization throughout Syria and create the conditions for a political process through Geneva in which we can engage all the parties on a way forward.And it is through that political process that we believe the Syrian people will ultimately be able to decide the fate of Bashar al-Assad.

米国は国際法違反に対する重大な警告を行った

女性や子供、赤ん坊にまで向けられた、直近の恐ろしい化学兵器の使用に対して、大統領はこの攻撃を決断し、明確なメッセージを打ち出した。

This strike – and I think the President was very clear in his message to the American people that this strike was related solely to the most recent horrific use of chemical weapons against women, children, and, as the President said, even small babies.

(※以下、アサド政権が2013年の国連との協定に違反したことを指摘)

シリア攻撃は北朝鮮への重大な警告

 このインタビューの大部分はシリア情勢に関する内容ですが、後半部分で北朝鮮についてのコメントが出てきます。

ーーー

Q:昨週のシリア攻撃の決断は北朝鮮に向けて、どのようなメッセージとなったと見るべきなのか?

A:そのメッセージとは、どのような国でも、国際的な規範や国際的な合意に違反した場合、約束を守れない場合、他国への脅威となる場合、このたびと同じ措置が取られるということだ。

Well, I think the message that any nation can take is if you’re – if you violate international norms, if you violate international agreements, if you fail to live up to commitments, if you become a threat to others, at some point a response is likely to be undertaken.

そして、北朝鮮に関しては、我々の目的が朝鮮半島の非核化であることは明らかだ。

And I think in terms of North Korea, we’ve been very clear that our objective is a denuclearized Korean peninsula.

我々は北朝鮮の体制変換を目指してはいない:それは我々の目的ではない。

We have no objective to change the regime in North Korea; that is not our objective.

そして、北朝鮮の核開発の根底にある理由は信用に価しない。

And so the whole reasons underlying the development of a nuclear program in North Korea are simply not credible.

金正恩への断首計画はあるのか?

Q:少なくとも一つ以上のレポートが米国が金正恩暗殺計画を作成したと述べているが、それは本当か?

A:私はそんな計画は聞いていない。

I am aware of no such plans.

北朝鮮へのレッドラインはどこ?

ティラーソン氏は北朝鮮問題に関して、米中両国が懸念を共有していることを長々と述べた後、北朝鮮のミサイル開発が進展していることについて言及しました。

ーーーー

Q:(北朝鮮の)大陸間弾道弾(=長距離弾道ミサイル)の開発は、トランプ大統領にとってのレッドラインになるのか?

And that development of an intercontinental missile, that’s a red line for President Trump, isn’t it?

A:そのタイプの運搬システム(≒大陸間弾道弾)が完成したと我々が判断したら、さらなる開発を目指す彼らにとっても、深刻な脅威の段階になるだろう。

If we judge that they have perfected that type of a delivery system, then that becomes a very serious stage of their further development.

ーーーー

 このうち、シリア攻撃が北朝鮮への警告であることを指摘した発言に関しては、メディアによって取りあげ方が分かれています。

 例えば、産経ニュースは「シリアへのミサイル攻撃は北朝鮮への警告だった」と題した記事を公開し、ブルームバーグは「米国は北朝鮮の体制転換目指していない」と題した記事を公開しました。

 同じ内容を取り上げても、報道の「角度」によって全然違った印象を与える記事になることがよくわかります。

 また、昨今、注目が集まる「断首作戦」について、ティラーソンは「知らない」と言っています。暗殺をするかどうかという議論なので、国務長官がそれを公に認めるわけがありません。公言するならもはや暗殺でも何でもないでしょう。

 最後の「レッドライン」は抽象的な言葉で結論をあいまいにしていますが、大陸間弾道弾の完成あたりは一つの目安になる可能性があります。