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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプVS習近平 対米貿易赤字は縮小するのか? 百日間の交渉スタート

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(ワシントンにある米商務省遠景。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  米中首脳会談が7日(米国時間)に終わり、トランプ大統領と習近平主席が「外交・安全保障」「経済」「法執行とサイバー対策」「社会・文化」の四領域で閣僚級会合を儲けることで合意しました。

 そして、米国側は貿易赤字の削減に関する取組みが「100日間」という期限つきで始まると発表し、中国側は「一つの中国」の原則の重要性を強調しました。

 トランプ大統領は有意義な会談だったと述べていましたが、実際のところ、会談後の米閣僚の記者会見を見ると、抽象的な言葉がずらりと並んでいたので、具体的な施策で合意できることは少なかったのでしょう。

 とりあえず、主要分野での協議と米国の貿易赤字削減の試みが始まり、今年のどこかでトランプ氏が訪中することが決まったーーというあたりが、会談の着地点のようです。主要議題だった北朝鮮の核/ミサイル開発の問題に関しては、特に合意は得られませんでした。

中国にとっては「会談できたこと」が成果?

 中国側にしてみれば、大統領選の頃から、中国製品への高関税賦課や中国への為替操作国指定を繰り返してきたトランプ氏が、まがりなりにも習氏訪米を認めるところまで「穏健化」したことが成果なのかもしれません。

 人民網日本語版(2017/4/8)では、「中米首脳会談 積極的シグナルを発信」と題して今回の会談の「成果」を報じていました。

 前掲の四分野での会合創設のほか、以下の3点が特に強調されていました。

  • 両首脳が交流強化で合意(トランプ氏の訪中決定)
  • インフラ建設やエネルギー部門での実務協力を模索
  • 台湾や朝鮮半島、南シナ海等、立場が異なる外交課題でも協議を行う

 人民日報は米中関係の重要性がトランプ政権でも承認され、中国側が今までに感じていたトランプ政権の外交方針への不透明感が払拭されたことを評価しています。

 記事は難しい言葉が並んでいるのですが、要は、大統領選では狂犬のように吼え、就任直後は対中強硬姿勢を見せたトランプ氏が話し合える相手になったことを歓迎しているのでしょう。

 とはいえ、会談では、習夫妻が「トランプ氏の孫娘らが歌う中国民謡と唐詩暗唱に笑顔で耳を傾け、夕食を共にした」頃に、米軍はシリアにミサイル攻撃を開始していました。中国のネット記事に「鴻門の会」(漢帝国を建てた劉邦が暗殺の危機に直面した故事)になぞらえられるほど緊迫した一幕もあったことが報じられています(日経朝刊1面:2017/4/9)。

 今後の「100日間」の中で、通商・貿易の議論が本格化すれば、米中の緊張関係が高まることは十分にありえるでしょう。

そもそも、米国の貿易赤字って、いくら?

 いちおう、米国の貿易赤字の規模を確認しておきます。

 日経電子版(2017/2/8)は米商務省を出典として2016年の貿易統計の概要を報じています(「米貿易赤字、16年は日本が2位 中国に次ぐ7.7兆円」。

  • モノ+サービスの貿易赤字:5023億ドル
  • モノの貿易赤字:7343億ドル
  • サービス収支:2478億ドル

 そして、モノの貿易赤字を各国別にみると、そのうち中国が47%(3470億ドル)を占めています。2位の日本は9%(689億ドル=7.7兆円)なので、赤字の規模で言えば、中国がダントツです。

 ここ二日ほど、当ブログでは北朝鮮問題を取り上げていたので、今回は、米中首脳会談後の記者会見から、貿易に関する主要な発言に注目してみます。

100日間の協議は貿易交渉においては「短い」

 前掲のホワイトハウスの記者会見の記録は、まずスパイサー報道官が米中首脳会談の概略を述べ、その後、閣僚の質疑応答に移ります。

(出所:Briefing by Secretary Tillerson, Secretary Mnuchin, and Secretary Ross on President Trump's Meetings with President Xi of China | whitehouse.gov

 スパイサー報道官の発言では、トランプ大統領の対中経済観が紹介されていました。トランプ氏は、米中貿易は基本的に中国側に有利になっていると考えています。

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トランプ大統領は中国政府が行った自国経済への干渉が引き起こす問題に懸念の意を表明した。中国の製造業、農業、技術、サイバー政策は米国の雇用と貿易に対して重大な影響を与えている。

President Trump noted the challenges caused by Chinese government intervention in its economy and raised serious concerns about the impact of China’s industrial, agricultural, technology, and cyber policies on U.S. jobs and exports.

大統領は、繰り返し相互的な市場へのアクセスの必要性を強調し、米国の労働者にも競争の場を与えるために中国は具体的な措置を取る必要があると訴えた。

The President underscored the need for China to take concrete steps to level the playing field for American workers, stressing repeatedly the need for reciprocal market access.

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  そして、記者会見した閣僚の中では、ロス商務長官の発言が非常に目立ちます。

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最も重要なのは100日計画だ。

the most significant thing was a 100-day plan.

普通、中国とわれわれの間の貿易協議は何年もかかる。

Normally, trade discussions, especially between China and ourselves, are denominated in multiple years.

これは100日間で成果を期待できる最初の例だ。 

This was denominated in the first instance in 100 days with hopefully way stations of accomplishment along the way.

問題の範囲と規模から考えれば野心的かもしれない。しかし、議論のペースとしてはとても大規模な変化だ。 

Given the range of issues and the magnitude, that may be ambitious, but it's a very big sea change in the pace of discussions. 

それは両国関係が成長していることのとても重要な象徴だ。

And I think that's a very very important symbolization of the growing rapport between the two countries.

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 そう言いながらも、ロス商務長官は北朝鮮と協力している銀行や企業を摘発し始めています。その例として、ZTE社(中興通訊:ちゅうこうつうじん)に科した罰金の例を挙げ、ルール違反を取り締る方針を明らかにしました。

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あなたがたも知っているように、商務省は最近、中国の通信系で二番目の大手であるZTE社に11億7000万ドルの罰金を課した。

As you know, Commerce fined ZTE, the second largest telecom company for making equipment in China, $1.170 billion recently.

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 3月7日に米商務省はZTEが2010年1月から16年4月までの間にイランや北朝鮮に違法に米国製通信機器を輸出したことに対して約1360億円の罰金を科しています。

 これはルール違反に対して明確に制裁を与えるという意志表示です。

 そのほか、気になる為替操作国指定については、ムニューチン財務長官とロス商務長官の双方が答弁しています。

ーーー

記者:中国を為替操作国指定するつもりなのか?

Q Will you move forward with a plan to label China a currency manipulator?

ムニューチン財務長官:周知のように、通貨に関する報告が近いうちに公開される。それに関しては、私がその時に表明するつもりだ。

I would just comment on, I think as you know, the currency report is going to come out in the near future, and we will address that when it comes out.

ロス商務長官:他の貿易問題に関して、わずか数時間の会合で合意に至ることは期待できない。その問題は非常に複雑で根深いものだ。100日間は貿易に関しては、非常に短い期間だと言える。

 As other trade issues, you would not have expected us to reach agreement in a few hours of meetings. The issues are far more complex and far more deep rooted. But 100-days is a very, very short time for trade.

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 早く結論が出ないのかという雰囲気が微妙に漂っている中で、ロス長官は「貿易協定は普通、もっと時間がかかるんじゃないの」と言っています。

 100日間でカウントすると締切は7月20日前後。3ヶ月と10日ほどですから、東芝の半導体事業売却にかかる時間と同じぐらいの長さになるのかもしれません。

 東芝よりもはるかに巨大で複雑な米中経済の貿易交渉の大筋がそれだけで決まるなら、異例の速度だとも言えます。

 しかし、これは両国の死活的な国益に関わる話なので、物別れに終わるかもしれませんし、議論が延長される可能性もあります。

 米中両国が宥和に向かうのか、対立に向かうのかを占う上でも、この経済交渉は非常に重要です。

 米国側は実務担当者のライトハウザーUSTR代表がまだ承認されていないので、結論を出す期間を引き延ばさざるをえないのかもしれません。

 ロス氏やムニューチン氏は民間で大事業を動かし、巨富を手にしましたが、政府の貿易交渉は初めてなので、トランプ氏からすれば、80年代に対日貿易交渉で辣腕をふるったライトハウザー氏は貿易交渉の要として欠かせない人材であるはずです。

 この人の正式就任以降、米中貿易交渉、日米貿易交渉が本格化するのではないでしょうか。