トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

なぜトランプ政権はシリアをミサイル攻撃したのか? 国務長官の発言から考える

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(国防総省:出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ大統領は4月6日(米国時間)にシリア軍の空軍基地に巡航ミサイル(トマホークミサイル59発)を打ち込みました。

 シリア北西部にあるイドリブ州でシリア軍はサリンを用いた空爆を行ったので、その爆撃機の発進基地を破壊することで、同国の暴走を止めようとしたわけです。

 化学兵器の使用形態として、「空からの散布」は民間人への無差別攻撃にあたるので、トランプ政権は、とりわけこれを危険視しました。日本でも、過去、オウム教がヘリでサリン散布を狙っていたことがありますが、アサド政権はこの種の手法で反体制派を滅ぼそうとした時に、トランプ政権に逆襲されたわけです。

(攻撃手段として、巡航ミサイルが選ばれたのは、弾道ミサイルに比べると、目標に向けて精密に誘導し、ピンポイントで攻撃することができるためです)

 トランプ大統領は記者会見で民間人虐殺への怒りをあらわにし、「アメリカの正義」の実現を目指すことを表明しました(以下、引用の出所:シリア攻撃を命じたトランプ米大統領の声明全文 | ロイター

「致死率の高い神経ガスを使い、無力な男性や女性、そして子どもたちの命を奪った。あまりに大勢の人に対する、緩やかで残忍な死を招いた。残酷なことに、美しい赤ちゃんたちもこのような非常に野蛮な攻撃によって殺された。神の子は誰一人としてそのような恐怖に遭ってはならない」

 過去、アサド政権を抑止する試みが挫折に終わったことを指摘し、「すべての文明国に対し、シリアにおける大量虐殺に終止符を打つため、そしてあらゆる種類のテロを根絶するため、共に手を取ろうと呼びかけた」と各国に呼びかけました。

 ブッシュ大統領もイラク攻撃の前に神の加護を求めていましたが、この声明も同じ形式で結ばれていました。

米国が正義のために立ち上がる限り、最終的に平和と調和が勝利することを祈ろう。それでは皆さん、神のご加護が米国と全世界にあらんことを。ありがとう。

 戦争や大規模攻撃の前に、米国大統領は神の加護を求めることがあるので、このセリフにも注意が必要です。

 世論調査上は国民の9割が神を信じている(名目的な答えも含む)米国が軍事行動を取る際には、この種の「大義名分」が立てられることが多いからです。

 今回は、このシリア攻撃の背景が語られた、ティラーソン米国務長官とマクマスター氏(国家安全保障問題担当大統領補佐官)の共同会見での質疑を抜粋にて紹介してみます。

シリア攻撃:ロシアへの事前通告はしても、意思決定前の協議はなし

 共同通信が各紙に配信した記事では「米政府はアサド政権の後ろ盾であるロシアに攻撃を事前通告した」と報じられていますが、米国国務省HP記事では、攻撃の意思決定にあたってモスクワ政府やプーチンとのコンタクトを行っていないとも書かれています。

 このたびの攻撃を巡る意思決定の際にはモスクワ政府やプーチン大統領とは一切協議せず、トランプ政権内でGOサインが出された後、攻撃開始前になってロシアにそのことを通知したーーというのが事の真相であるようです。

 トランプ大統領は、オバマ政権がシリア軍の化学兵器使用や民間人虐殺に無反応だったことが、このたびの化学兵器を用いた空爆を生んだとみて、それを許すまじとして「レッドライン」を引くことにしたわけです。

(以下の抜粋の出所は国務省HP:Remarks With National Security Advisor H.R. McMaster 2017/4/6)

ティラーソン氏とマクマスター氏の質疑を見てみると・・・

 まず、冒頭で今回の経緯の概略が説明されています。

 3月25日と30日にシリア政府が化学兵器を用いた攻撃を行い、民間人が犠牲になった。それは国連決議違反なので、彼らの化学兵器を用いる能力を破壊しなければいけない。ロシアはシリアを抑止する責任を果たしていないーーといったティラーソン氏の発言が掲載されていました。

 この質疑の中で、筆者が気になったポイントを何点か紹介してみます。

(※以下、断り書きのない発言はティラーソン氏の発言)

もとは親露派のティラーソン氏がロシア批判

「明らかに、ロシアは2013年の約束(※化学兵器不使用に関する合意)を実施する責任を果たすことに失敗している。ロシアはシリアと共謀しているか、その合意の目的を実現する能力がないかのいずれかだ」

Clearly, Russia has failed in its responsibility to deliver on that commitment from 2013. So either Russia has been complicit or Russia has been simply incompetent in its ability to deliver on its end of that agreement.

トランプ政権はシリアに「レッドライン」を引いた

「そのほかにも私には大事だと思ったことがある。それは、(化学兵器を用いた)これらの攻撃に対して国際社会からの反応がなかった場合、アサド大統領は化学兵器の使用をくり返すということだ。彼は事実上、化学兵器の使用が常態化している。こうしたスタンスが他国にも採用されうるのだ」

I think the other thing that it’s important to recognize that as Assad has continued to use chemical weapons in these attacks with no response – no response from the international community – that he, in effect, is normalizing the use of chemical weapons, which may then be adopted by others.

※オバマ政権はシリア軍の化学兵器の使用を「レッドライン」としながらも、その使用が濃厚に疑われる事件が発生後、結局、シリアへの軍事行動を行いませんでした。トランプ政権は、無反応、無行動だった前政権とは違うぞと意思表示しています。

(略)

記者:今回の案件で決定的に重要なメッセージは何なのだろうか。

What is an overriding message here? 

簡潔に言えば、トランプ大統領は必要とあらば、決定的な行動を取る。このたびの件でそれが明らかになった。

I think as you just simply stated, this clearly indicates the President is willing to take decisive action when called for.

(略)

(シリアの)状況に変化は生じていない。

There’s been no change in that status.

しかし、トランプ大統領は、政府と(国際問題の)当事者が一線を越えた場合、トランプ大統領が行動するということが明らかになった。すでに定められた約束が破られ、それが最も憎むべきやり方で踏みにじられた場合にだ。そのことが今晩のトランプ大統領の声明で世界に明らかになった。

But I think it does demonstrate that President Trump is willing to act when governments and actors cross the line, cross the line on violating commitments they’ve made, and crossed the line in the most heinous of ways. I think it is clear that President Trump has made that statement to the world tonight. 

攻撃の意思決定前にプーチンとモスクワ政府とのコンタクトはない

「記者:トランプ大統領は攻撃の前にプーチン大統領と話をしたのか? あなたはモスクワとの間で行われた議論について述べることはできるか? そこから何を予期できるのか? マクマスター氏に聞きたい」

QUESTION: Did you or the President speak with President Putin prior to the attack? Can you talk about the discussions that you had with Moscow? And what the expectation is from them? Then General McMaster, I have a question for you as well, please.

(※以下、ティラーソン国務長官が替わって答えている)

攻撃の前に事前に行われたコンタクトや議論は存在しない

SECRETARY TILLERSON: There were no discussions or prior contacts, nor have there been any since the attack, with Moscow.

(略)

あなたは今日の攻撃の前にロシアとのコンタクトは行っていないと言った。それで間違いないのか。

QUESTION: Can I ask – Mr. Secretary, can I ask you to clarify Russia again? You said no contacts were made with Russia before the strikes today. Do I have that correct?

モスクワとプーチンとは何のコンタクトを取っていない。ロシア軍とは衝突回避の合意がある。しかし、我々はそれらの合意を踏まえながらも、特定の攻撃(※シリアの化学兵器使用のこと)に対応する作戦を行った。

SECRETARY TILLERSON: No contacts were made with Moscow with President Putin. There are military de-confliction agreements in place with the Russian military, and our military did operate under and in accordance with those de-confliction agreements in coordinating this particular attack.

トランプ政権は、空から化学兵器を用いたシリア軍を危険視した

(※ここはマクマスター氏の発言

明らかに、アサド政権は化学兵器を用いて大量殺戮を行う能力を維持している。空の領域においても。

Obviously, the regime will maintain the certain capacity to commit mass murder with chemical weapons, we think, beyond this particular airfield.

今回の攻撃は空の領域に焦点を当てている。我々はこれらの大量殺戮を追跡できるからだ(※シリア爆撃機の飛行経路を把握していたことを指している)。これは小さな攻撃ではない。

But it was aimed at this particular airfield for a reason, because we could trace this murderous attack back to that facility. And this was not a small strike. I mean, it was not a small strike.

今回の攻撃は大規模な方針の転換だ。アサドという”結石”を大きく転換させる。それがなされる必要がある。

And I think what it does communicate is a big shift, right, a big shift in Assad’s calculus – it should be anyway –

これは米国が父の時代から続く彼の政権に対して行った初めての軍事行動だ。

because this is – this is the first time that the United States has taken direct military action against that regime or the regime of his father.

特に重要なのは、大統領は大量殺戮に対しては決定的な措置を取るということだ。過去に発生した大量殺戮は50回を超えている。50回以上の化学兵器が用いられた。2013年の国連決議以降に。

So I think what is critical is that– is with the – the President’s decision in response to this mass murderous – mass murder attack, but also in the context of all the previous attacks that have occurred – I think over 50; I think it’s over 50 chemical attacks previously – post 2013 when the UN resolution went into effect.

それ(※ミサイル攻撃のこと)は化学兵器で大量殺戮を行う能力を標的にしている。

And so I think that it’s both. It was aimed at the capacity to commit mass murder with chemical weapons, but it was not of a scope or a scale that it would go after all such related facilities.

米国以外の国は今回の攻撃に関わっているのか?

記者:他国の軍人や同盟国が今回の攻撃に参加したか?100%米国の作戦だと言えるのか?

Were military personnel with any other nations, any of our allies, take part in this, or was this 100 percent a U.S. operation?

これは完全に米国の作戦だ。

This was entirely a U.S. operation.