トランプ政権と日本・アジア 2017

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【米中首脳会談】トランプ氏、習政権にシリアへのミサイル攻撃で警告 北朝鮮問題のレッドラインはどこ?

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(トマホークを発射する米駆逐艦。出所:WIKIパブリックドメイン)

  トランプ大統領は米中首脳会談が行われている6日夜(米国時間。日本時間では7日午前)に記者会見でシリア空軍基地(シャイラート飛行場)へのミサイル攻撃を行ったことを明かしました。

 4月4日には、シリア政府が北西部にあるイドリブ県で反政府勢力に向けて化学兵器(サリン)を用いた攻撃の存在が疑われていたのですが、その際に爆撃機が発進した空軍基地に向けて、米軍は東地中海洋上の駆逐艦2隻(「ポーター」と「ロス」)から59発の巡航ミサイル(トマホーク)を発射したのです。飛行場やその格納庫、武器庫、レーダーや防空システム、レーダー等を狙ったことが各紙で報じられています。

 BBCニュースの日本語版(4/7)は、イドリブでは「子供を含む多数の市民が死傷。呼吸困難や瞳孔の縮小、口から泡を吹くなど、化学兵器攻撃を疑わせる症状を見せていたと現地目撃者は話している」とも報じました。トランプ大統領は記者会見で「私は今晩、シリアの殺戮と流血を終わらせ、あらゆる種類とあらゆるタイプのテロリズムを終わらせるため、我々と協力するようすべての文明国に呼びかける」と述べています。

 オバマ政権は化学兵器の使用を「レッドライン」としましたが、その疑いが濃厚な攻撃が発生した後も、軍事行動を逡巡し、結局は行いませんでした。トランプ氏は、オバマ政権とは違い、「レッドライン」を護る方針を明確にしたわけです。

(※今回の攻撃に先立ち、6日にティラーソン米国務長官はシリアにおける化学兵器使用には「アサド政権に責任がある」として、同政権退陣を目指す意向を表明)

 トランプ氏の決断は、北朝鮮問題が主要議題となる米中首脳会談(米国時間6~7日。日本時間7~8日)の最中での「サプライズ」となりました。

 これは、シリア向けの攻撃ですが、同時に北朝鮮へのレッドカードであり、北朝鮮を支えてきた中国への大きな警鐘にもなっています。

 今回は、これを契機として、米中首脳会談における北朝鮮問題で、米国にどんな選択肢があるのかを考えてみます。

米中首脳会談前にトランプ氏は安倍首相と電話会談で牽制

 トランプ大統領は4月5日(米国時間)に北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射を巡って安倍首相と電話会談を行い、米国は日本や韓国等の同盟国の側に立つことを表明しました。

「大統領は米国はその(実戦)能力と抑止力を高め続け、自国と同盟国を全範囲での軍事能力で防衛すると表明した」(The President also made clear that the United States will continue to strengthen its ability to deter and defend itself and its allies with the full range of its military capabilities.)

(出所:Readout of President Donald J. Trump’s Call with Prime Minister Shinzo Abe of Japan | whitehouse.gov

 トランプ大統領は2月の日米首脳会談の直前に習近平氏と電話会談しましたが、4月の米中首脳会談前には、直前に安倍首相と電話会談し、中国側が触れたくない北朝鮮問題を持ち出しています。

 まずは牽制球を投げ、7日の本日には、シリアへ巡航ミサイルを発射して本格的な意思表示をしてみせたわけです。

北朝鮮の核/ミサイル開発を巡って

 トランプ大統領は4月5日(米国時間)に北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射を巡って安倍首相と電話会談を行い、米国は日本や韓国等の同盟国の側に立つことを表明しました。
「大統領は米国はその(実戦)能力と抑止力を高め続け、自国と同盟国を全範囲での軍事能力で防衛すると表明した」(The President also made clear that the United States will continue to strengthen its ability to deter and defend itself and its allies with the full range of its military capabilities.)
(出所:Readout of President Donald J. Trump’s Call with Prime Minister Shinzo Abe of Japan | whitehouse.gov

 トランプ大統領は2月の日米首脳会談の直前に習近平氏と電話会談しましたが、4月の米中首脳会談前には、直前に安倍首相と電話会談し、中国側が触れたくない北朝鮮問題を持ち出しています
 各国との交渉を有利にするために、首脳会談前日にライバル国のリーダーに電話をかけているわけですが、前掲の5日の発言は中国に対する牽制です。
 昨今では、6回目の核実験を目指す北朝鮮の核開発は最終段階にあると「38ノース」(米ジョンズ・ポプキンス大の北朝鮮研究サイト)が28日に発表したことが各紙で報じられています。
 もはや、何も手を打たないわけにはいかないので、トランプ政権は中国が同意しなくとも単独行動を取るとも述べていました。

北朝鮮問題に対して米国は何ができる?

 そして、北朝鮮に対して、米国側はあらゆる選択肢があるとしていますが、その中身を見ると、効果が薄いものと、実行の難度が高いものも含まれているようです。

A:効果が薄いとみられる措置

 今の北朝鮮の核ミサイル開発の進展ぶりが、これらの手段が無効だったことを証明しているので、説明を省きますが、これは、六か国協議や経済援助を対価とした核開発停止要求、実害を伴わない国連の非難決議などです。

B:効果はあるが、決定打にはならない措置

 そして、一定の効果はあっても、核・ミサイル開発停止にまで至らない措置としては、まず、経済制裁が挙げられます。
 2005年に米国はバンコ・デルタ・アジア銀行への制裁を行い、金一族の資産2500億ドルが凍結されました。ドルの取引は米国の金融システムで決済を経なければいけないため、これに準じて世界で多くの銀行がそこから排除されることを恐れ、北朝鮮への取引をやめることになりました(これを続ければよかったのですが、当時のブッシュ政権は2007年に核開発停止を条件にこれを解除してしまいます)。
 そのほか、米国が他国の核開発を遅らせるために講じた手段としては「サイバー攻撃」が挙げられます。イランの核関連施設に米国とイスラエルが共同で作成した妨害用のプログラム(スタックネット)を特殊部隊の工作員が持ち込み、核開発を数年遅らせたといわれています(※2012年にニューヨークタイムズの報道でその作戦の存在が知られた)。

C:影響は甚大だが難易度が高い選択肢

 この典型は金正恩を狙う限定的な直接攻撃ですが、ミサイル、爆弾投下、暗殺部隊の急襲といった攻撃は、十分な情報がないと成功しません。パキスタンでビン・ラディンを奇襲する前、米国は水責め等の過酷な手段を講じてイスラム過激派メンバーから情報を入手し、攻撃をしかけていました。
 ビン・ラディンに比べると、金正恩は軍や警察に守られ、十万人以上の特殊部隊を擁しているので、その守りはかなり強固です。
国民に異常とも思える監視・統制が続く北朝鮮の中で、米国の工作員をどれだけ動かせるのか。また、その居所をつかむための情報源があるのかどうか。そうした問題をクリアできないと、この作戦はうまくいかないでしょう。
また、限定的な北朝鮮核施設への攻撃という選択肢もありますが、このシナリオの難点は、限定的なミサイル攻撃であっても、北朝鮮が米韓軍に応戦すれば戦火が拡大する可能性が高いということです。
 現在、米国はIS殲滅を最優先事項に掲げていますが、2正面作戦はオバマ政権の頃に放棄されています。政権交代から3ヶ月も経たないトランプ政権に中東と朝鮮半島の双方で作戦を展開する準備があるのかどうかは疑問が残ります。
 軍を担うマティス国防長官は2月初めに日韓を訪問しましたが、その後、欧州を訪問。3月21日にはNATO事務総長と会談。3月31日には訪英し、IS殲滅のために各国と協議しています。「本当に北朝鮮を攻撃する気があるのなら、長官や国防総省の関係者がもっと多く東アジアを訪問したり、政府高官と協議したりするのでは?」という疑問が筆者の頭からはぬぐえません。

 7日に米軍はシリアへのトマホーク攻撃を開始。アサド政権掃討に向かうならば、今後、中東での戦闘の規模が拡大していきます。米国がシリア問題と北朝鮮問題の双方に力を割くかどうかはこれからの政治を見る上で大事なポイントになります。

中国はどう反応する?

 これらのA、B、Cの選択肢について中国がどう反応するかを考えてみると、筆者は以下の可能性が考えられると見ています。

  • A:毒にも薬にもならないので賛成。
  • B:経済制裁に関しては、賛成しているふりをする(裏では北朝鮮政権延命を図る)。サイバー攻撃は中国にも実施されるリスクがあるので反対。
  • C:朝鮮半島が不安定化し、そちらに力を割かれると本願の台湾併合に全力を注げなくなるので、反対。

 経済制裁に関しては中国も制裁決議に基づき、2月に北朝鮮との石炭貿易をストップさせましたが、トランプ氏はこれを不十分とみなしました。
 今回の会談では協力不十分とみた場合、北朝鮮と取引関係のある中国企業や個人にまで独自制裁の対象に入れる可能性を示唆しています。

 経済制裁の「次」の段階に相当する「新しいアプローチ」が始まるのかどうか。

 しかし、北朝鮮はシリアとは違い、大量の短距離弾道ミサイルや準中距離弾道ミサイルを持っています。北朝鮮はミサイル攻撃に対しては、ミサイルで韓国軍や米軍に反撃でき、朝鮮半島の争乱には中国軍の介入リスクがあるという点が、シリア情勢とは大きく異なっています。

 北朝鮮問題でどこにレッドラインが引かれ、北朝鮮がそのラインを越えた時に、何が始まるのか。その対策を各国が考えなければいけない時期が来てしまいました。