トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプVS習近平 北朝鮮問題は米中首脳会談後にどうなる

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 (出所:防衛省HP「2016年の北朝鮮によるミサイル発射について」)

  米中首脳会談を目前にした4月5日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射しました。

 防衛省の発表によれば北朝鮮が6時42分頃に新浦(シンポ)付近から北東に発射した1発の弾道ミサイルは約60㎞先に落下しました。

 これは北朝鮮の核開発とミサイル発射実験への対策を協議する米中首脳会談への威嚇です。

 実験は失敗したとの見方もありますが、軍事アナリストの小都元氏は「試験発射では燃料使用量や重心の位置など、50~100種類にも及ぶデータを収集している」ので、一回一回の発射実験の結果だけを見て「失敗」と断じるべきではないと述べています。「最終的に新型中距離ミサイルを2000キロ以上飛行させて「兵器化」を完了させるまでに、今回のようなテストが数回繰り返される可能性がある」と警告しているのです。

(産経ニュース「発射『失敗』は早計」 軍事アナリスト、小都元(おづ・はじめ)氏 2017.4.5)

 北朝鮮が2月12日に日米首脳会談に合わせて日本海に向けて発射した(高高度500kmを飛んで500km先に落下)のも固体燃料推進方式のミサイルでした。

 発射翌日の読売新聞(夕刊1面:2017/2/13)は、北朝鮮の朝鮮中央通信は新型の地対地中距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射を行ったと発表し、これは「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を地上配備型ミサイルに改良したものだ」と説明したことを報じました。韓国軍は固体燃料を用いたミサイルだとみていることも紹介しています。

 弾道ミサイルには液体燃料を用いる場合と固体燃料を用いる場合の二通りがありますが、液体燃料推進方式のミサイルは発射までに時間がかかるのに対して、固体燃料推進方式のミサイルは短期間で発射が可能です。簡潔に言えば、固体燃料を用いるミサイルは、液体をコトコトと充填する必要がないので、短時間で撃てるわけです。

 現在、北朝鮮は、この固体燃料推進方式のミサイルを配備し、移動式発射台から撃てるようにすることを目標にしています。固体燃料推進方式のミサイルが増え、それが移動式発射台(と潜水艦)から撃てるようになれば、米国軍や韓国軍が北朝鮮がミサイル発射前に先制攻撃でそれを抑止することが難しくなるからです。

 一つ一つの実験をこの段階に向かう過程と見れば、個々の発射実験の成功・失敗に一喜一憂することに意味はなく、データが蓄積されている限り、近隣諸国への脅威が高まっていると言えます。

  この深刻化する北朝鮮問題に対して、米国と中国がどう対処するのかを考えてみます。

米中首脳会談の先触れーーティラーソン米国務長官のアジア歴訪

  4月6日~7日の米中首脳会談の先触れとなるのが、ティラーソン米国務長官のアジア歴訪です。

 ティラーソン氏は3月16日に日本、17日に韓国、18日に中国を訪問しましたが、その際に各国と主に協議したのは北朝鮮問題でした。

 同氏は訪日時に以下のように発言しています(国務省HPの英文を翻訳)。

「私は、過去20年間、北朝鮮に核を放棄させるために行った外交活動と他の取り組みは失敗したと認識することが重要だと考えている」「そこには13.5億ドルの北朝鮮への援助も含まれている。北朝鮮は(※我々が期待した方向とは)違った路線を選んだ」「援助は彼らのさらなる核開発やミサイル発射台の開発を助長することになった。2月11日と3月5日の出来事もその中に含まれている」「この脅威の拡大を前にして、違ったアプローチが必要なことは明らかだ」

 同長官の訪韓時には、高高度のミサイル迎撃システムであるTHAAD配備に関する協議がなされました。

 そして、訪中時には相互を尊重して対中関係を発展させるべきだとして、中国に北朝鮮の非核化実現への協力を呼びかけました。

 その後、ヘイリー米国連大使が、トランプ政権は北朝鮮の核実験と長距離弾道ミサイルの開発を許さないとし、米中首脳会談で北朝鮮への圧力強化を要請するとしました。

 そして、トランプ大統領が中国が動かなければ、米国は単独行動を辞さないことを表明したものの、いまだ、その「違うアプローチ」の中身が明確ではありません。

 ただ、安倍首相とティラーソン国務長官との会談では、対北朝鮮政策に関しては「あらゆる選択肢がテーブルの上に乗っている」と説明したので、従来とは違い、そこには軍事的な選択肢が含まれているとみられています。

 他の動きを見ると、国務長官のアジア訪問に合わせて定例の米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」(3月13日~24日)が行われました。

 米空母カール・ビンソンも3月15日に韓国の釜山港に入り、4月下旬までの米韓合同演習「フォールイーグル」に参加しました。カール・ビンソンはその後、シンガポールに移動し、米中首脳会談後に急遽、航路を変更して北上を開始。そこには北朝鮮を牽制する狙いがあると見られています。

中国側の思惑:北朝鮮問題は触れず、米中協力関係の強化を図る

 米中首脳会談の開催に際して、中国外交部は3月31日にブリーフィングを行いました。

 3月19日にティラーソン氏は習近平氏と会談時に、今後50年間の米中関係の発展の方向性を確定するために、今回の首脳会談に期待するというトランプ大統領の言葉を伝えたのですが、これはその返答ともみられています。

(※ただ、トランプ政権は最長8年なので、これは言い過ぎでは・・・)

 その内容について遠藤誉氏(東京福祉大学国際交流センター長)がニューズウィーク日本語版で解説しています(「米中首脳会談ブリーフィング、米中の思惑」2017年4月3日)。

 すでに明らかになっている習氏の日程や会談場所などの説明を省くと、その要点は以下の通りです。

  • 中国側は「米中の共同の利益は相違点よりもはるかに大きく、協力こそが唯一の正確な選択だ」としているが、米国側は中国に北朝鮮問題や通商為替問題などに関して難題を突き付けようとしている。
  • 中国はブリーフィングで一文字たりとも「北朝鮮問題」を出さなかった。そして、CCTVなどを通じて、THAADミサイルの配備や米韓共同軍事演習の強化を批判。
  • ティラーソン氏が訪中時に「衝突せず、対抗せず、相互を尊重し、ともにウィン-ウィンの精神で対中関係を発展させたい」と述べたことを中国は「外交勝利」と位置付け、「新型大国関係」の実現を期待
  • 中国は、2月にトランプ政権が就任前に述べた「一つの中国」への懐疑論を撤回したことを外交的勝利とみなしている。

 北朝鮮は中国から入ってくる資源が止まれば、国家の機能が停止してしまうので、今まで、核開発を続ける北朝鮮を存続させてきたのは中国だともいえます。

 そのため、中国は米中首脳会談でも北朝鮮問題は取り上げたくないわけです。そして、米国からの高関税や為替操作国指定なんてもってのほかだ。米国は中国との貿易規模の大きさを考え、協力関係を深めるべきだーーというような主張を並べています。

 トランプ氏が北朝鮮政策でどこまで踏み込む気なのかは、まだはっきりしないのですが、新政権はオバマ政権よりも激しい手段に踏み込むのではないかと見る人も少なくありません。

 トランプ政権は金正恩氏を排除する「斬首作戦」や核やミサイル実験の拠点を狙う「限定空爆」に踏み込むのではないか。そのために、同盟国(日本と韓国)の理解の上で、北朝鮮の背後にある中国との交渉を行うのではないか、というような論調の記事がたまにネット等で掲載されています。

  しかし、筆者は、このシナリオには幾つかの難点があると考えています。

 その一つは、トランプ政権の最優先事項はISIS掃討になっており、現在、そのプランを作成中なので、中東と同時にアジアの二カ所で、こうしたハイリスクの作戦を展開する余裕があるかどうかが、怪しいということです。

 米軍はオバマ政権の頃に2正面作戦を放棄したため、まだ発足直後のトランプ政権で、突然に2方面での戦争を生みかねないプランに足を突っ込む体制ができているとは思えません。

 そのほか、この記事では、ティラーソン氏の訪中で米軍の北朝鮮攻撃を中国が了解する可能性をほのめかしていますが、その可能性は極めて低いと言えます。

 なぜかと言えば、中国の軍事・外交政策の最優先事項は「台湾併合」(できれば”平和的”な)になっており、これを行うためには、朝鮮半島の安定と、対ロ関係の安定の二つが不可欠になっているからです。

 台湾関係法によって米軍は台湾を支援することになっているため、中国と台湾が軍事的に対立する際には、中国軍は通常兵力を大規模投入し、米軍が支援に入る前に事を終わらせなければいけません。朝鮮半島にいざこざがあり、その警戒や介入のために戦力を取られる状態であっては、それが難しくなるからです。

 そのため、中国は北朝鮮を脅かす米国の軍事行動に賛同できるはずがないのです。

 米中の動向を考えるうえでは、両国の外交・軍事政策の最優先事項を考慮に入れる必要があります。

トランプ政権の思惑は?

 いっぽう、4月4日付でホワイトハウスHPにも米中首脳会談についての米政府高官のブリーフィングの記録が掲載されています。その中で北朝鮮関係についての言及を抜粋で紹介してみます。

(出所:Background Briefing by Senior Administration Officials on the Visit of President Xi Jinping of the People's Republic of China | whitehouse.gov

 基本的に貿易不均衡の是正を目指していますが、中国製品への高関税賦課や同国への為替操作国指定に関しては、結論を明らかにしていません。

 「これは交渉次第」ということになっているのでしょう。

 そして、「一つの中国」に関しても、米国側と中国側では認識の相違があることにも言及。

 米国の歴代政権は中国の主張を追認したわけではなく、台湾関係法の存在も踏まえ、「中国がそう主張している」と認識しているという立場だからです。

 以下、抜粋で見てみます。

【冒頭で中国との貿易不均衡を指摘】

(※発言は全て「米政府高官」SENIOR ADMINISTRATON OFFICIAL)

米国と中国で世界経済の40%を占めている。これは世界で最も大きな二国間経済で、これに比する経済関係はない。

Together, the United States and China represent 40 percent of the global economy, and as the world’s two largest economies, there’s no greater or more consequential economic relationship.

実に我々の経済は成長する貿易と投資を通して相互依存をますます深めている。

Indeed, our economies have become increasingly interdependent through growing trade and investment.

我々の経済関係で大事なことは二国間の貿易と投資がお互いに利益をもたらすことだ。

The key premise of our economic relationship is that bilateral trade and investment should be mutually beneficial.

しかし、二国間の経済問題の範囲が広がりながらも、困難な問題が生じてきている。

However, progress on a range of bilateral economic issues has become increasingly difficult.

(略)

トランプ大統領は我々の経済関係の不均衡が米国の労働者に及ぼす影響を懸念している。このことを率直かつ生産的なやり方で表明してもいる。

President Trump is very concerned about how the imbalance in our economic relationship affects American workers and wants to address these issues in a candid and productive manner.

トランプ大統領は習主席に相互性の原則に則った公正でバランスのとれた経済関係を構築することの重要性を伝えたいと考えているのだ。 

President Trump will convey to President Xi the importance of establishing an economic relationship that is fair, balanced, and based on a principle of reciprocity.

【中国に北朝鮮への影響力行使を要求】

北朝鮮問題はトランプ政権全体にとっても緊急かつ重要な問題となった。

So North Korea clearly is a matter of urgent interest for the President and the administration as a whole.

私は、大統領が中国に対して米国との協調の重要性を伝え、この問題の平和的解決のために中国に経済的な影響力を行使することを求めると考えている。

I think the President has been pretty clear in messaging how important it is for China to coordinate with the United States and for China to begin exerting its considerable economic leverage to bring about a peaceful resolution to that problem.

(略)

北朝鮮の対外貿易の9割は中国に向けられている。我々はしばしば、中国が北朝鮮との(貿易)を減少させることで、影響力を発揮しうると聞いている。それは、議題の一つにあがるだろう。

Somewhere on the order of just shy of 90 percent of North Korea’s external trade is with China, so even though we hear sometimes that China’s political influence may have diminished with North Korea, clearly its economic leverage has not. It is considerable. And so that will be one of the points of discussion.

【中国製品への高関税賦課はありうるのか?】

今回の会談の主な目的は、貿易と投資に関する議論の枠組みをつくることだ。

As [my colleague] indicated, the primary purpose of the meeting is to set a framework for discussions on trade and investment.

私はあなたに、今回の会談と数週、数か月後のやりとりで特定の問題がどうなるかを述べることはできない。

I can't tell you whether they’re going to get into specific issues to resolve at this time or to be on the agenda for discussion and hopefully early resolution in the weeks and months ahead.

しかし、その初めの会合で、この問題についての議論を行う枠組みがつくられるだろう。

But this is the introductory meeting to put a framework in place for how we're going to discuss and address these matters.

【中国を為替操作国と指定する?】

(略)

(記者:)大統領は(中国の)為替操作について懸念しているのか?

(政府高官:)為替操作に関する議論は財務省に任せたい。彼らの領域だから。

I'm going to leave any discussion of currency manipulation to the Department of Treasury, which is the place for it.

(略)

(記者:)相互性に立脚した関係という言葉の正確な意味を聞きたい

(政府高官:)私は相互主義の原則を言っている。我々は建設的な方法で中国と協調したい。貿易と投資の障壁や米国企業への不公正な扱いを減らしていきたい。

 I said the principle of reciprocity, which means that we want to work with the Chinese in a constructive manner to reduce the systemic trade and investment barriers that they've created that lead to an uneven playing field for U.S. companies.

我々は二国間の貿易と投資をお互いに有益にする場をつくりたいと考えている。

We want the playing field to be level so that bilateral trade investment can be mutually beneficial.

【「一つの中国」について】

Q President Xi reportedly wants to hear President Trump officially recognize Taiwan as a province of China. What will his message be on that and on the South China Sea?

SENIOR ADMINISTRATION OFFICIAL:

大統領は「一つの中国」を維持すると繰り返している。ただ、我々のいう「一つの中国」は台湾関係法と中国との三つのコミュニケ(声明)に基づくものだ。

Well, the President has reaffirmed our adherence to the one-China policy -- that is our one-China policy that's based on the three joint communiques with China, as well as the Taiwan Relations Act.

これは長期的な米国の政策である。これが大統領が繰り返し確認した政策だ。私はそこから逸脱したサプライズがあるとは思わない。

That is longstanding policy of the United States; that is a policy that the President has reaffirmed. So I don’t anticipate some kind of surprising deviation from that.

Q What will his message be on the South China Sea as it relates to --

SENIOR ADMINISTRATION OFFICIAL:

私は海洋問題が議題に上ると考えている。

I do expect that maritime issues will come up.

米国は法が容認する公海上での航行や飛行を続ける。それが議題に上ることは驚くべきことではない。

(以下略)

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 本題の北朝鮮に戻りますと、米中首脳会談を行ったとしても、中国の死活的な国益(台湾併合を目指すこと)から見て、米国による北朝鮮への限定攻撃を容認する可能性が低いので、実際の議論は、米中の貿易・通商問題や北朝鮮への制裁などが主な内容になるのではないでしょうか。

 北朝鮮への制裁に関しては、中国は表向きは賛同しながらも、裏では資源を北朝鮮に流して同国を存続させてきました。これに関しては、トランプ政権が、この嘘を見破ることができるかどうかが、非常に重要なポイントになります。 

 また、米中関係に関しては、貿易だけでなく、台湾問題が一つの争点になります。

 最近、米国が台湾に最新型ステルス戦闘機のF35を売却する可能性が報じられるようになりました(台湾関係法に基づく)。オバマ政権はF16戦闘機の最新版を売ることを渋ってきましたが、政策転換の可能性が浮上してきているわけです。

 トランプ大統領が16年に述べた「一つの中国」見直し発言も、中国への交渉材料の一つだった可能性が高いのですが、こうした「政治案件」が貿易交渉の取引に持ち出されるのかもしれません。