トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプVSシシ 米国とエジプトが首脳会談 IS打倒で連携 パレスチナ和平はどうなる?

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(中東地図。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 4月3日にエジプトのシシ大統領が訪米し、トランプ大統領と首脳会談を行います(日本時間では4日)。

 日本人の多くはエジプト情勢に詳しいわけではないので、まず、同国の現状の概略を書いておきます。

 エジプトでは2011年に「アラブの春」が波及し、独裁化したムバラク大統領を民主化運動で追放したのですが、その後のモルシ大統領の政権運営はうまくいかず、モルシ氏に抜擢されたシシ氏(軍最高評議会議長)がクーデターで2013年に政権を打倒しました。その後、2014年には選挙を実施し、大統領として国民に追認される形を整えましたが、オバマ政権はシシ政権を支持せず、エジプトへの兵器売却を停止しています。

 しかし、結局は中東の主要国の一つであるエジプトの安定が必要だと認めざるをえず、オバマ政権は2015年の3月末にシシ政権と和解し、軍事面での支援を再開しました。これは理想主義に対する現実主義の勝利だとも言われました。

 エジプト経済は成長しているものの、指標を見る限り、かなり難しい状況です(外務省HP参照)。

  • GDP:3307億ドル(2014/15年度)
  • 実質GDP成長率:4.2%(2015年)
  • 物価上昇率:10.2%(2015/16年度)
  • 失業率:12.8%(2015年11月)

 若年労働者の失業率は4割前後。インフレが高じて経済不振を招き、シシ政権は過去にIMFへの資金救援要請を行っています。社会不安が高まり、もう一度、政権が転覆した場合、エジプトの不安定化に伴ってイスラム過激派が台頭するなど、中東情勢が悪化するのは確実です。

 こうした背景があって、オバマ政権も15年にエジプト支援を再開したわけですが、その後、トランプ政権がエジプトにどんなスタンスを取るのかが注目されています。

 現在、アメリカを率いるトランプ氏はシシ政権をイスラム過激派と戦う勢力と見ているので、非常に好意的です。基本的に、同氏は「民主主義かどうか」ではなく、「米国の国益に沿うか」が基準にして中東を見ていると考えるべきでしょう。

(※なお、エジプトの政治に対して影響力が強いムスリム同胞団はイスラム過激派とみなされることもあるが、この同胞団は穏健派から過激派までが所属しているので、一概にそうとも言い切れない)

 トランプ大統領は3月15日にサウジアラビアのムハンマド副皇太子と会談。2月15日にイスラエルのネタニヤフ首相とも会談したので、中東のリーダーとの会談も次々と進んでいます。

 今回は、シシ大統領とトランプ氏の発言を踏まえ、懸案事項であるパレスチナ問題について考えてみます。

※シシ大統領の経歴など

・1954年にカイロに生まれる。1977年にエジプト陸軍士官学校卒。陸軍に入る。英国や米国に留学。機会化師団長。国防省の高官(国防省事務総局首席補佐官)を歴任。サウジアラビア大使館付陸軍武官も経験している。

・2011年にエジプト軍軍事情報庁長官に就任。同年にアラブの春が起き、ムバラクが追放され、モルシ政権成立。その後、軍最高評議会に抜擢されたシシがモルシ大統領の対立が深刻化。

・2013年にシシがクーデターでモルシ政権を倒す。欧米諸国からは軍政回帰が警戒された。今でもリベラル系の米メディアからはシシは叩かれ続けている。ただ、リアリズムで見ると、エジプトの安定は中東の均衡を保つために不可欠という意見も根強い。 

シシ訪米を歓迎したトランプ大統領 

 現在(本稿執筆時点)で、ホワイトハウスにトランプ大統領がシシ大統領を歓迎するメッセージが公開されているので、内容を見てみます(日付は米国時間の4月3日)。

 トランプ氏はシシ氏を非常に高く評価し、軍事援助等にも乗り気だということがよくわかります。

(出所:Remarks by President Trump and President Al-Sisi of Egypt Before Bilateral Meeting | whitehouse.gov

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【トランプ大統領】

エジプト大統領と臨席できて光栄だ。

It's great to be with the President of Egypt.

シシ大統領とは初めて会った時から非常に親近感を感じている。

And I will tell you, President al-Sisi has been somebody that's been very close to me from the first time I met him.

選挙期間中に私は彼に会ったが、我々両者には共通点がある。

I met during the campaign, and at that point there were two of us, and we both met.

(略)

我々は多くの点で一致できる。

We agreed on so many things.

私はみんなに知らせたい。様々に疑われようとも、我々はシシ大統領を支持している。

I just want to let everybody know, in case there was any doubt, that we are very much behind President al-Sisi.

彼は困難な状況で素晴らしい仕事を成し遂げた。

He's done a fantastic job in a very difficult situation.

我々はエジプトとエジプト国民を支援している。

We are very much behind Egypt and the people of Egypt.

米国と私が強く支持していることを信じてほしい。

And the United States has, believe me, backing, and we have strong backing.

我々はすぐに話し合いに入る。我々は軍の水準を最高度に強化するだろう。恐らく、いまだかつてないほどに。戦闘機、艦艇、空母の要望も含めてだ。

We are very much -- and as you and I will be soon talking -- we're building up our military to a level that will be the highest -- probably the highest that we've ever had -- plane orders, ship orders, aircraft carrier orders.

この機会に、我々の軍のレベルを今までにないほどに、最高度に再活性化したい。

We are rejuvenating our military to the highest level I think in these times, probably more than ever before, or certainly almost more than ever before. That's what we need.

そして、私はあなたがたに言いたい。シシ大統領は私にとって偉大な友であり、エジプトは米国の同盟国だと。

And I just want to say to you, Mr. President, that you have a great friend and ally in the United States and in me.

 

【シシ大統領】

(冒頭の謝意の表明は省略)

実際に、これは私が就任して以来、最初の訪米になる。

Actually, this is my first state visit to the United States since my inauguration in office.

そして、事実上、この8年間でエジプト大統領が初めて行った訪米でもある。

And, as a matter of fact, this is the first visit in eight years from an Egyptian president to the United States.

我々は昨年の秋に会い、私はあなたのユニークな個性と強い反テロリズムの姿勢に感銘し、敬意を感じた。あなたは無実の国民を脅かし、国家と共同体を荒廃させる悪しきイデオロギーに対抗している。

Your Excellency, since we met last September, I’ve had a deep appreciation and admiration of your unique personality, especially as you are standing very strong in the counterterrorism field to counter this evil ideology that is claiming innocent lives, that is bringing devastation to communities and nations, and that is terrorizing innocent people.

(略)

私は常にあなたがたを支持している。反テロリズムの戦略をより効果的にするために。

 you will find Egypt and myself always beside you in this, in bringing about an effective strategy in the counterterrorism.

第二に、私はあなたがたを強く熱心に支持している。今世紀の問題(※反テロリズム?)の解決策を発見するために

The second point, Your Excellency, is that you’ll find me supporting you very strongly and very earnestly in finding solution to the problem of the century.

私は、あなたがたがこの問題を解決できると確信している。

And I’m quite confident that you will be able to bring a solution to this issue.

(略)

【トランプ大統領】

我々は共に活動していく。

We will do that together.

我々は共にテロリズムなどと戦っていく。そして、我々は長らく友人であり続けるだろう。

We will fight terrorism and other things, and we’re going to be friends for a long, long period of time.

米国民とエジプト国民は大きな絆をもっている。私はシシ大統領と共に働くことを楽しみにしている。

We have a great bond with the people of Egypt, and I look forward to working with the President.

(略) 

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パレスチナ和平はどうなる

 トランプ氏はIS打倒や反テロリズムに際してエジプトとの連携を表明しています。

 そして、イラン核合意の撤回などを打ち出しているので、政策的にはエジプトとサウジアラビア等のスンニ派国家寄りのスタンスになっています。

 ただ、同政権はイスラエル支持の色合いが濃いので、このあたりでエジプト外交と齟齬を生じないかどうかが懸案事項として残っています。

 パレスチナ(ヨルダン河西岸とエジプトに隣接するガザ地区)の統治を巡って、イスラエルとアラブの両陣営が争い続けていますが、パレスチナ自治政府ができた経緯をたどれば、冷戦期にエジプトがPLO(パレスチナ解放機構)の設立を支援したことに行き着くからです。

 トランプ大統領は、オバマ政権の対イスラエル外交から脱却し、以下の政策で大転換を計る方針を固めています。

  1. イスラエルとパレスチナの和平交渉の原則「二国家共存」にはこだわらない
  2. アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転
  3. イランへの圧力強化(オバマ政権の核合意を批判)

 これに対して、1月末にパレスチナ自治政府の母体であるPLOが、米大使館をエルサレムに移転させた場合、イスラエルの国家承認を取り下げることを表明しました。

 そして、2月15日に訪米したイスラエルのネタニヤフ首相とトランプ米大統領との会談では、まず、その前に出されたトランプ政権高官の発言が物議をかもしています。

 前掲の【1】に関して、パレスチナ暫定自治政府の外交当局は「アメリカの政権にとって危険な政策の転換だ。パレスチナは、国際社会とともに2国家共存の考え方を守り、維持するために努力する」と警告したのです(NHKニュースWEB「トランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が会談へ」2月15日)。

 従来、米国はイスラエル建国に際して住処を失ったパレスチナ人に自治区を与え、「二国家」を共存させることを目指していました(03年にアメリカ、EU、ロシア、国連が05年までの行程表を提案し、イスラエルとパレスチナの双方が合意するとされた)。

 しかし、その計画はうまくいかず、パレスチナ自治区ではテロが続き、イスラエル側がヨルダン川西岸地区と東エルサレムで入植活動を進め(現在、約60万人規模で居住)、自国の影響力を拡大しています。和平交渉は事実上、停止していますが、アメリカの歴代政権はこの方針を維持し続けてきたのです。

 そして、オバマ政権はイスラエルの入植活動に反対していたので、イスラエルの不満が高まっていました。

 その政権末期から現在までを振り返ると、以下の出来事が起きています。

  • 2016年12月23日:サマンサ・パワー前米国連大使がイスラエルに入植活動停止を求める国連安保理決議案への投票を棄権。⇒米国は拒否権を用いず、決議案は採択
  • トランプ氏とネタニヤフ首相は批判。イスラエルは入植を拡大
  • ニッキー・ヘイリー国連大使は承認のための上院公聴会で国連がイスラエルへの姿勢を改めなければ、米国は国連分担金支払いをやめることを示唆
  • 2月10日、ヘイリー国連大使がパレスチナ自治政府のサラム・ファイヤド元首相を国連リビア特使に任命することに反対。

  16日未明の日経電子版では、記者会見でのトランプ大統領が「2国家でも1国家でも(イスラエルとパレスチナの)双方が望む方でいい。どちらでも受け入れ可能だ」と述べたことと、在イスラエル米大使館のエルサレムへ移転案の検討、イスラエルにるヨルダン川西岸への入植地建設拡大に対する自制の要望等が紹介されています(「トランプ氏、「2国家共存」こだわらず イスラエル首相と会談」2017/2/16)

 建前上は、アメリカがイスラエルとパレスチナの双方を尊重することになっていますが、実質的にイスラエル支持する方針が16日の記者会見で明かされました。

 ただ、トランプ氏の発言に関しては、2月16日にはニッキー・ヘイリー米国連大使がパレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの「2国家共存」を図る路線に支持を表明(国連安全保障理事会の定期会合での発言)。

 3月9日には駐イスラエル大使に指名された弁護士のデービッド・フリードマン氏が米上院外交委員会に承認されました(同氏は親イスラエル派。米大使館のエルサレム移転等に賛同)。

 トランプ氏は、今後、アッバス自治政府議長とも会談する予定ですが、その親イスラエル路線でパレスチナ問題が「炎上」しないかどうかが、今後の注目点の一つになるでしょう。

ネタニヤフ訪米時のトランプ発言は強い親イスラエル路線

 トランプ氏は、ネタニヤフ氏の訪米時には強くイスラエル支持を表明し、シシ大統領が来た時には強くエジプト支持を表明しています。

 しかし、パレスチナ和平に際してはエジプトとイスラエルの双方の顔を立て、相反する利害関係を調和させることは困難です。

 トランプ氏は国連でイスラエル支持の側に立つとしているので、エジプト等がパレスチナ自治政府のために国連を通してイスラエルに抗議した場合、米国の支持は見込めず、拒否権を発動される可能性もあります。

 結局、そのあたりを考慮すると、トランプ政権は、エジプトには軍事援助を与え、対IS作戦/対イラン外交では共闘するが、パレスチナ問題に関しては、イスラエル寄りのスタンスを取る可能性が高そうです。

 ここで、参考に、トランプ・ネタニヤフ記者会見の冒頭の発言を紹介してみましょう。

(以下、出所はJoint Press Conference w/ Prime Minister Netanyahu | whitehouse.gov

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わが友、ベンヤミン・ネタニヤフ首相をホワイトハウスに招待できたのは光栄の至りだ。

彼の訪問をもって、アメリカは親愛なる同盟国であるイスラエルとの不朽の絆を、再確認したい。

我々二国間の協力関係は価値の共有によって築かれている。その価値とは「個人の自由と尊厳、平和を促進する」という大義のことだ。

これらは民主主義の礎石である。

イスラエルは圧制に対する世界の抵抗の象徴だーー大量虐殺から生きのびた人々がつくったイスラエルを、私は世界に二つとない大事な国だと考えている。

私はユダヤ人が耐え忍んだ経験を忘れることはない。

あなたがたは敵意に対して忍耐し、暴力に直面しながらも開かれた民主主義を維持し、全ての賭けに勝利した。それは(我々を)鼓舞している。

イスラエルは核保有へのイランの野心を含む、数多くの安全保障における挑戦に直面している。私はこれに関して、すでに数多く議論を重ねた。

イラン核合意は近年における最悪の取引の一つだ。

わが政権はすでにイランに新しい制裁を課している。私はイランのさらなる核開発を阻止する。

我々はイスラエルを常に高い水準で軍事的に支援している。イスラエルが彼ら自身の国を数多くの脅威から守ることができるように。

この二国間の関係は継続し、発展してゆく。

我々はテロリズムや人間の生命の価値を否定する者たちとの戦いで、長い間、協力を続けている。

アメリカとイスラエルは人間の生命の価値を尊ぶ二つの国家なのだ。

これが、我々が不公正で一方的なイスラエルに対する国連の措置に反対し、ボイコットする理由だ。私の見解では、国際会議でイスラエルはとてもとても不公正に扱われている。

わが政権はイスラエルと我々の同盟国とともに地域の安全保障を堅固にすることを約束している。

それはイスラエルとパレスチナ人との間の和平に向けた取り組みを含む。

アメリカ合衆国は平和を促進し、そのための協定を実現する。

(略)

しかし、彼ら自身が妥結のために直接的な交渉を行わなければならない。

我々は彼らとともにある。

我々は彼らとともに働く。

実りある交渉のために双方が妥協する必要があるのだ

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  パレスチナ和平に際して双方が妥協する必要があると言っていますが、トランプ氏はもともとイスラエル寄りのスタンスなので、パレスチナ側に十分な配慮がなされるかどうかは未知数です。前掲の「二国家共存」放棄の発言は、今後、パレスチナ自治政府の主張が軽視される危険性を関係者に感じさせるものでした。

 今は、トランプ氏はエジプトとイスラエルの双方にリップサービスしていますが、パレスチナ和平を巡って、両者の矛盾が今後、表面化していく可能性があります。