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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

経産省が「日本スゴイ」を乱発  冊子『世界が驚くニッポン』がネットで炎上

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(経済産業省総合庁舎別館。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  経産省がつくった日本を紹介するパンフレット「世界が驚く ニッポン」が自画自賛的だという批判の声が3月半ばから広がってきています。

 3月半ばでは地方紙電子版やネットメディアが批判していたのですが、3月28日には毎日新聞、4月2日には産経ニュースにもダメ出し記事が掲載されました。安倍政権支持のスタンスが色濃い産経からも批判されている有様なので、「いったい、何が書かれているのだろうか」と思い、筆者もその中身をチェックしてみました。

(※以下、筆者記事で参照した毎日記事の出所:「クールジャパン」キャンペーンの旗振り役 「クール」じゃない!?経産省 自画自賛に内外から「?」2017年3月29日 東京夕刊。電子版は登録者のみ閲覧可)

「日本スゴイ」パンフを政府が出版 

 冊子を見ると、冒頭に「あなたは日本がこんなにも注目されていることを知っていますか?」という問いかけがあり、次のページに「世界は、日本に驚いている!」という大きな見出しが続きます。そして、日本を礼賛する外国人のセリフを読ませようとしているのです。

 例えば、ベトナムの留学生からもらった「弁当、浴衣、着物など、伝統文化が日常生活の中に溶け込んでいる」というコメントがありますが、お祭りや成人式等の行事がなければ、筆者の住む関東圏では街中を歩いても、普段はあまり浴衣や着物を見かけません。

 また「禅はすでに世界共通の形容詞」というありがたいコメントをアメリカ人女性(実名入り)からもらっていますが、最近の高校生や大学生、20代の若者の多くが禅の中身を理解しているとも思えません。日本人の中で禅を知らない人が増えているのに、世界共通の形容詞になっていると言えるのだろうか・・・。

 要するに、日本を愛する外国人が善意で言ってくれたコメントを政府が利用して、やや事実とは違う形で海外に宣伝しているために、読者に自画自賛的な印象を与えているのです。

(書き出しと2ページ目の冒頭部分が変だという指摘は前掲の毎日、産経の両紙やネットメディアにも書かれていました。革新と保守を問わず、違和感を与える書き方になっているわけです)

顧客目線なしの観光立国?

 そして、次に筆者の目が止まったのは、日本の四季を大絶賛している記述でした。

「流氷を見ることができ……」(PDF16枚目)

「サンゴ礁も見ることができる」「こんな体験は日本だけです」(同17枚目)

 冬と夏のコントラストを強調しているのですが、日本の場合、北海道から沖縄までの交通費が高いので、筆者としては、外国人に観光を進める際に、「北海道と沖縄の自然を一緒に楽しみましょう」とはおすすめできません。

 東京を楽しんだ後に鎌倉や箱根に行くとか日光東照宮に行くとか、もう少しコスパのよい観光をおすすめしないと友人としては不親切になってしまいます。

 観光立国をよびかけるのはよいのですが、顧客目線からかけ離れた記述が独り歩きしてしまっています。

仏教を知らずに仏像を紹介?

 そして、歴史や文化の知識も今一つのようです。

 例えば、以下の記述はどうなんでしょうか。

自然の断崖絶壁を内側に彫ってつくられた仏を、「磨崖仏」といい、大分県をはじめ、全国各地に散見される。投入堂と同様、自然を畏れ、同化しようとする象徴といえるだろう(PDF7枚目)

 磨崖仏というのは、インドにも中国にも中央アジアにもあります。

 有名どころで言えば、タリバンが破壊したバーミヤンの大仏がそうです。

 しかし、仏教は必ずしも「自然と同化する」ことを勧めているわけではありません。あらゆるものは移ろいゆくと見て、苦しみの現世を解脱しようとするので、磨崖仏が自然と同化するための象徴だと言われても、筆者の頭には「?」のフラグが立ってしまいます。仏師たちは、苦しみの現世から超越したくて仏を彫ったんじゃないんでしょうか・・・。

トンデモ科学⇒「日本人の脳構造は独特」という珍説

 さらには、トンデモ科学も出現。

(日本人は)世界でも類を見ないほど母音を多く使う言語である日本語を話すことで、自然界の音を、まるで言語を聞くかのように処理する脳構造になっているからだ。たとえば「虫の音」を音楽や機械音、雑音などと同じように右脳で聴く外国人に対し、日本語話者は左脳で聞く。

 詳細は略しますが、前掲の毎日記事では、神経心理学者の八田武志・関西福祉科学大学長がこれを否定しています。学会にそんなコンセンサスはなく、日本人と外国人で脳の働きが違うこともないと指摘していました。

 脳の働きは人類共通なのに、経産省パンフでは、日本人の脳の機能は特別だといわんばかりの書き方です。

外国人の日本評を我田引水的に利用

 外国人の日本評の取り上げ方も我田引水的です。

部活動に励む少年少女は、監督やコーチの指導のもと、懸命に練習に打ち込み、全力を心掛け、何より礼儀作法を教え込まれる。ここには、単純な技能向上としての訓練を超えた、「道」の精神が宿っている。その練習風景を見た外国人は、驚かずにはいられない(PDF20枚目) 

 高校野球あたりが、この典型なのかもしれませんが、甲子園を目指す高校生の猛練習と熱闘ぶりに関して、昔から来日したメジャーリーガーたちは目を白黒させていました。

「あんなに登板したら、若いのに、肩を壊してしまうぞ」「適度に休ませないと・・・」

 適度に休養して英気を養うカルチャーを持つ米国選手の多くは違和感を持つようなのです。確かに「驚かずにはいられない」のですが、それが肯定的な意味とは限らないことにもっと注意しなければいけません。

総経費は1500万円。税金の無駄なので、はやく撤回してほしい

 前掲の毎日記事によれば、この事業費は約1500万円。ダウンロード版のほか、日本にある各国の大使館に印刷版を送ったそうです。

 これでプラスの効果が生まれるとは思えないので、絶版にするか、きちんと作り直すかのどちらかにしてほしいものです。

 日本政府がいう「クールジャパン」の一環なのかもしれませんが、現実に、政府後押しのニューヨークでのクールジャパン関連の展示では、寒い品々が並んでいたという話を筆者は聞いたことがあります。

 寿司ソックスなる怪しい商品を売っていたとか・・・(これは寿司の文様を刷った靴下のこと)。

 要するに、今回のパンフ発行も、その種の「お役所仕事」の一つなのでしょう。

 とにかく、この「世界が驚く ニッポン」には、その自画自賛ぶりと内容のいい加減さに驚かされました。