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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ政権はNATO支持 されど防衛費増額を欧州に要求 ティラーソン氏とマティス氏の主張とは?

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(NATOサミット、2004年。出所:WIKIパブリックドメイン画像)

 ティラーソン米国務長官はNATO(北大西洋条約機構)の外相理事会(於ブリュッセル、3/31)に初参加し、NATO加盟国に対して2024年までにGDP比で2%以上の防衛費の負担を実現するプランの作成を要請しました。

 トランプ大統領は16年の大統領選ではNATOは時代遅れと激しく批判しましたが、当選後はNATO支持に政策を転換。そして、NATO加盟国にはGDP比2%以上の防衛費の負担を要望しています。

 GDP比2%以上の防衛費負担に関しては、2014年時点で、NATO加盟国は24年までの実現と国防費の2割以上を装備品購入や研究開発等に充てることに合意しています。

 この要望自体はオバマ政権の頃から出ていた話なのですが、トランプ政権になって、一層強く実現が要請されるようになりました。

 今後、米国は日本にも類似の要請(防衛費の負担増)を出してくる可能性があるため、我が国にとって、この問題は定期的なウォッチングが必要な案件になっています。

(筆者には「安全はタダではない」と言って対価を求めるのが、トランプ政権のスタンスであるようにも見えます)

 そのため、今回は過去の経緯も含めて、米新政権とNATOとのやりとりを追ってみます。

ティラーソン米国務長官がNATO外相理事会に初出席

 まず、直近の北大西洋条約機構(NATO)外相理事会に関してですが、国務省HPの記事によれば、ティラーソン氏は以下の3点を主張しています(出所:NATO Foreign Ministerial Intervention Remarks

  1. 米新政権はNATOを支持
  2. 加盟国に2024年までにGDP比2%へ防衛費増額計画の作成を求める
  3. テロとの戦いにおいて米国はNATOと連携(特にアフガニスタン)、

 時事通信の記事(3/31)では、2に関して、ティラーソン氏が「(トランプ米大統領が出席する)5月のNATO首脳会議では、全加盟国が年末までに目標を達成するか、達成に向けた明確な計画を策定するかで合意することを目標とすべきだ」と発言したことを重視。ストルテンベルグ事務総長がこれを受けて、その計画策定を検討していると表明したことを報じています(「米、国防支出拡大を要求=NATO外相理に初出席-国務長官」)

 どちらかといえば、日本のメディアでは2が強調されがちなのですが、ティラーソン氏の発言を見ると、3のほうにもかなりの力点が置かれています。

「テロとの戦いに関しては、NATOはもっとできることとなすべきことがある。テロとの戦いは米国にとって安全保障上の最優先事項だ。それは我々すべてにとっても同じだ」

(原文:On fighting terrorism, NATO can and should do more. Fighting terrorism is the top national security priority for the United States, as it should be for all of us.)

 アフガニスタンでのNATOの貢献に謝意を表明しつつ、IS打倒やイスラム過激派対策での連携を呼び掛けているわけです。 

NATO支持と防衛費負担増の要望を繰り返すトランプ政権

 このティラーソン氏の発言は、基本的には2月に訪欧したマティス国防長官の主張とほぼ同じです。米新政権の路線は発足後、同じ主張を繰り返しています。

  • 1月28日:トランプ氏とメルケル首相が電話会談。NATO支持を表明
  • 2月15日~16日:NATO国防相理事会にマティス国防長官が出席
  • 2月16日~17日:20カ国・地域(G20)外相会合にティラーソン国務長官が出席
  • 2月17日~19日:安全保障会議にペンス副大統領が出席
  • 3月17日:メルケル独首相が訪米。米独首脳会談

 首脳会談や三名の閣僚の訪欧を通して、「NATOは時代遅れだ」というトランプ氏の選挙中の発言がもたらした不安を鎮静化したわけです。

 この三名はいずれも老練な人材なので、トランプ氏の「暴言」(「NATOは時代遅れだ」という発言)を利用してNATO加盟国に要求をつきつけているように見えなくもありません。

 トランプ政権では大統領が過激発言や予想不可能な行動で関係諸国を威嚇し、老練な閣僚が鎮静化することで米国にとって有利な結論を引き出そうとしているという説もあります。

2月の訪欧時にマティス国防長官は何を要望したのか?

 この全部の詳細を書くと長くなりすぎるので、米閣僚の訪欧初回にあたるNATO(北大西洋条約機構)国防相会議でのマティス氏の主張の概要を整理してみます。

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【マティス:NATOは新しい戦略的現実への対応の中で進化する】

(出所:Mattis: NATO is Evolving in Response to New Strategic Reality > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Article

 ・・・

(※「」はマティス氏発言)

「我々は、同盟が直面している危機の拡大について議論した。そして、民主主義への脅威に対して団結し、これらの脅威の成長に対処すべく、強固な同盟を築くことを私は決意した」「我らが国家のコミュニティは、NATO周辺と辺境における不安定の弧の脅威の下にある」。

 防衛長官は防衛負担を共有すべきだと述べた。NATO加盟国はGDP比で2%の防衛費を貢献しなければならない。マティスは、サイバー領域の新しい脅威やロシアの攻撃的な行為の中でNATOの安全保障は変わると述べた。それらは国際法に違反し、国際法を揺るがせているからだ。

 彼は、ロシアが「この地球上のすべての成熟した国家と同じように、国際法に則ってふるまうべきだ」と述べた。

 アメリカとロシアは「軍事的に協力できるレベルの状況にはない」が、「我々の政治指導者はロシアに対して、立場を共有できる点を模索している。そして、NATOとの協力関係を戻したいと考えている」

 ロシアがその初めになる必要がある。ロシアとNATOとの協定を成立させたい。

 NATOとロシアの関係は、安全保障と相互協力のため、1997年のNATO・ロシア基本文書を締結し、それを2002年ののNATO-ロシアサミット(ローマで開催)、2010年のリスボンでの会合で確認することで形づくられた。

 その文書では、NATOは集団安全保障と、侵略の脅威に対抗するためのインフラを補強し、訓練するための他の任務を担うとされている。

 その協定では、ロシアはヨーロッパに向けた通常兵器の配備を抑制することになっている。

 マティスは、中東や北アフリカでのテロ根絶を含む他の挑戦についても言及した。これは、彼が「我々とヨーロッパへの直接的・即自的な脅威」と呼んでいるものだ。

 国防長官は、そうした脅威に対処し、NATOは防衛と抑止力を強化している。そして、中東からトルコに至る、より直接的なテロリストの脅威に対処していると述べた。

 ・・・

「私は、防衛負担の共有に感謝し、ここを出発できるものと信じている。そのために、平和と繁栄のための抑止力を維持しなければならないからだ」

 ・・・

 エストニア、ギリシャ、ポーランド、イギリスは国を守るためのGDP比2%の支出を行っている。

「これらの国々は、真の犠牲を払ったよい見本だ。全ての同盟国は世界の中で最良の防衛を享受していることを認識している。私はウェールズとワルシャワでのサミットで、全加盟国がこのレベルの貢献に向けて着実に前進すると考えている」「環大西洋の絆は、とても強い共通の価値の上に築かれている」

ーーー

 もともとはロシアへの警戒心の強いマティス氏も、トランプ氏の対露政策に合わせて、対露政策の変更の可能性をにおわせる論調になっています。

 そして、もう一つ、力点が置かれているのはIS打倒作戦です。

「アメリカとNATOは反ISIS闘争を加速する」と題した国防総省記事を見ると、NATO本部における反ISISの閣僚会合で、マティスは28か国の国々を反ISIS闘争の連合と呼んだことが報じられています。

 そして、同氏が、この会合の目的を「現在の反ISIS闘争を高め、テロリストへの国際的な圧力を組織化すること」と位置付けたとしています。

ーーーー

「これはすぐに終わるようなものではない。しかし、我々は戦いを加速してゆく。それが私がここにいる理由の一つだ。これを同盟国(あなたがた)のためにつくろうとしているのだ」とマティスは述べた。

"This is not something that will be over with quickly, but we certainly intend to accelerate this fight, one of the reasons we're here today is to lay this out to you," Mattis said.

(出所:U.S., NATO to Accelerate Counter-ISIS Fight, Mattis Says > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Article

ーーーー

 マティス氏はトランプ氏からIS打倒作戦の計画をつくることを命じられ、そのプランを2月末に提出しました。

 米国だけでIS打倒を行うと負担が大きいので、NATOに連携を呼び掛けているともいえます。

今後、日本にもイスラム過激派対策への一層の協力が要請される?

 日本が注視すべきは、やはり、米国のNATOへの防衛費負担増の要求と、IS打倒作戦(イスラム過激派対策)への協力へ強い要請が一貫している点です。

 イスラム過激派対策に関して、日本にも米国から今以上の協力が要請される可能性が高いのですが、この問題に関して、日本と欧米ではかなりの温度差があります。

 ブッシュ政権の頃を振り返ると、北朝鮮対策で米国の協力を得ることを考慮して日本は自衛隊をイラクに送ったり、インド洋上での補給活動を行いましたが、同政権末期に米国は北朝鮮へのテロ支援国家指定を解除しています。

 日本としては、米国のイスラム過激派対策に協力しながらも、ISが人質を取り、人権侵害を繰り返している点と、北朝鮮の拉致問題を重ね合わせる形で、米新政権にアジアの現状を伝えていかなければなりません。

 IS打倒が最優先事項になっていますが、それ以上に危険な中国の軍拡や北朝鮮の核開発に対して、それを抑止する具体策は、米新政権においてもいまだ明確になっていないからです。