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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

IT社会の発達と個人情報保護:英米中印の課題を比較 ~テロ対策、FB中国進出、生体認証~

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(米議会図書館。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ政権下でアメリカ議会が個人情報保護の規制を3月28日に廃止しました。

 まだオバマ氏が大統領だった2016年の10月に、プロバイダー業者に対して、顧客の個人情報(位置情報や金融、健康、サイトの閲覧履歴や家族構成等)を広告やマーケティングに用いる際に顧客の同意を得なければいけなくなったのですが、このルールはグーグル等のネット系大手に該当しなかったので、廃止することになったのです。

 これは競争条件を同じにするための措置で、このルールの改廃には、通信や放送業界の規制・監督を担う連邦通信委員会(FCC)が関わっています。

 どうして今まで、競争条件が違ったのかというと、グーグルやフェイスブックなどに関しては管轄が連邦取引委員会(FTC)になっており、省のスタンスの違いが規制の厳しさに反映されていたからです。

 やはり、アメリカにも縦割り行政というのはあるんだな、ということが確認できる一例ではあります。

 政権交代に関連して、今後、政府とIT企業との関係にも変化が出てくるかもしれないので、今回は、個人情報保護について考えてみます。

テロ対策と個人情報保護の複雑な関係(例:英米)

 最近の事例では、イギリス議会近辺で起きたテロの後、政府が捜査のためにフェイスブック(FB)に「WhatsApp」での通信内容へのアクセスを求めたことが報じられていました(※ワッツアップは世界最大のスマホ向けの無料メッセンジャーアプリでテキスト、写真、動画の送付や位置情報の共有が可能)。これに関してはフォーブス誌が解説しています(「英、テロ捜査でフェイスブックと協議 通信内容の開示要求」2017/3/27)

  • カリド・マスード容疑者は犯行の約2分前にWhatsAppを起動
  • 英国内務大臣(アンバー・ラッド)はグーグルやFB、ツイッターの担当者と面会。
  • ラッド氏は「テロリストらが特定のプラットフォームで連絡を取り合っているのに、そこにアクセスできないというのは実に不条理なことだ」「このような状況下では、国家の情報機関がWhatsAppの暗号化メッセージにアクセスする権限を持つことが正当であるべきだ」
  • しかし、WhatsAppはメッセージ送信者と受信者に高度な暗号化の技術が施されるため、同社のエンジニアでも送信済みのメッセージにはアクセスができない

 トランプ氏も選挙期間中に、テロ対策の一環として、アップル社に情報開示を要求したことがありましたが、治安と個人情報保護の関係は複雑になってきています。政府は個人情報を知りたがりますが、民間の側からすれば余計なことを政府に知ってほしくはありません。個人情報が治安維持以外の目的で使われることもありえるからです。

SNSは現代社会の「武器」となりつつある

 そうなるのは、結局、SNSが「お友達とのやりとり」という当初の利用範囲を大きく超えるレベルにまで広がったからです。ワッツアップをつくった人はテロリストの情報ツールにされるとは思わなかったのかもしれませんが、SNSは現在、ISや他の過激派の宣伝等にも利用されてしまっています。

 他の事例を見ると、SNSが選挙戦で偽情報ツールとして悪用されたこともあります。

 悪用とまではいえなくとも、ショッキングな使い方の典型が、トランプ氏の”ツィート砲”です。

 同氏のつぶやきによってメキシコ大統領との会談がとりやめになったり、企業が工場をアメリカにつくるようになったりと、その猛威はいまだに衰えていません。

 昔にさかのぼれば、ダイナマイトも原子力も、当初は平和利用を想定していたのに、いつのまにか軍の主要兵器を支える技術に転用されてしまいました。

 SNS等の情報ツールも、ある意味では、現代社会における「武器」となり、創始者の意図を超えて独り歩きを始めつつあるのではないでしょうか。

SNS大手は自由を守り続けることができるのか?(例:中国とFB社)

 しかし、これに関しては、政府の側だけが問題なのではなく、企業の側が市場開拓のために、全体主義に迎合してしまうことも起こりえます。

 昨年にはフェイスブックが検閲ソフトを中国に提供する可能性がニューヨークタイムズで報じられていました(「”Facebook Said to Create Censorship Tool to Get Back Into China」2016/11/22)。 

 題名は「フェイスブックが中国に入るために検閲の道具をつくると述べた」という意味ですが、FB社はまだそのプランを実行してはいません。しかし、その検閲ソフトを用いれば、FB社と提携する中国企業が同社に拡散する情報を監視し、その情報を中国国内で非公開にするかどうかを管理できるようになるとも言われています。ユーザーの用いたトピックや発言、読者コメント等がその対象になるわけです。

(”Facebook does not intend to suppress the posts itself. Instead, it would offer the software to enable a third party — in this case, most likely a partner Chinese company — to monitor popular stories and topics that bubble up as users share them across the social network, the people said. Facebook’s partner would then have full control to decide whether those posts should show up in users’ feeds.”)

 実際に検閲が行われる時は、FB社は直接に手を汚さず、中国企業に使わせることになるのでしょう。

 前掲記事では、現状でも、FB社は、他のネット企業と同じく、パキスタン、トルコ、ロシア等(計20カ国)の要望を受け、2015年7月~12月までにコンテンツのうち55000ピースをブロックした、とも書かれていました。

 55000ピースを20で割ると、一ヶ国あたりは2750ピース。6か月で割ると、それぞれの国で、1か月で45~46ピースがブロックされていることになります(中国でいえば「天安門事件」のような危険ワードが対象とみられる)。

 ニューヨークタイムス(NYT)紙も、半ば警告的なコメントをかきつらねています。

「このプロジェクトは、14億人の中国人市場へのアクセスを得るために、フェイスブックが『世界をもっとオープンにし、つなげていく』という中核使命の宣言の一つに関して自発的に妥協する可能性があることを示すものだ」

 このFB社の危険なツールが用いられるかどうかは、ザッカーバーグ氏と中国政府とのやりとり次第なのですが、16年3月に同氏は訪中し、中国共産党関係者や政財界の人物と会談を繰り返していました。面会した人物の名前としては、党序列5位の劉雲山政治局常務委員(宣伝担当)、アリババの馬雲(ジャック・マー)会長等の名前があがっています。

 筆者は、FB社がグーグルと同じように自由を尊ぶ米国の伝統を維持し、お金のために中国に迎合しないことを希望しているのですが、実際のところ、現時点では、その行き先がどうなるのかはよくわかりません。

「生体認証」システムでID番号振分け・・・それって大丈夫?(例:インド)

 個人情報の取り扱いは、巨大な人口を誇るインドでも大きな問題になっています。

 こちらでは10億人以上を対象とした生体認証システム(「アドハー」=ヒンディー語で「基盤」や「基礎」の意)でIDが割り振られているので、これが文明の進歩なのか、統制社会への道のりなのか、その是非が問われています。

  フィナンシャルタイムズ紙は、この取り組みを危険視していました(以下、日経邦訳記事「ビッグブラザーが現実になるインド生体認証」2017/3/29 電子版)。

 その要点は以下の通りです。

  • 2010年以降、政府は10億人以上の住民から指紋と瞳の虹彩スキャンを収集した。それぞれに12ケタのID番号を割り振っている。
  • このIDシステムはITサービス大手インフォシスの共同創業者で大富豪のナンダン・ニレカニ氏が積極的に推進。当初は貧困層への給付金配布のための制度だったが、今はIDとして用いられている
  • アドハーのID番号取得は任意だったが、最近は事情が変わった(判例上は任意であるべきとされている)
  • 政府は「税法順守」を名目に、納税申告の際にアドハーのID番号の提示を義務づける規則を発令。2018年までにすべての携帯電話番号を必ずアドハー番号と紐付けさせることも決定。国鉄のオンライン予約にもIDを要求する計画がある。

 FT紙は、これは映画「マイノリティ・リポート」のような監視社会になりかねないのでは・・・と懸念しています。

 巨大国では人口の戸籍登録も大変なのかもしれませんが、政府の意に沿わない勢力の監視や抑圧に悪用される可能性や、データ窃取の危険性などを危惧しているわけです。

複雑な各国事情が個人情報保護のスタンスに反映される

 こうしてみると、どの事例を見ても、その国の抱える疾患ともいえる問題が政府の個人情報保護のスタンスに反映されていることが分かります。

 イギリスとアメリカの致命的な問題は、テロ対策。治安対策と個人情報保護とが矛盾しているわけです。

 中国は政府がいまだに社会主義国特有の情報統制を続けているという大問題があります。ここでは容易に個人情報が脅かされます。

 そして、インドには巨大人口における戸籍管理と莫大な貧困層対策という難題がありました。この問題に関して、インドが自由を守り続けることができるかどうかは、今後の新しい注目点になりそうです。

 では、日本の場合はどうなのか。

 日本の場合は財政難を語る政府がマイナンバーカードなどを徴税強化のために利用したがるーーという未来図が現実化しそうです。クレジットカードにマイナンバーをひもつければ、企業や個人の資産把握が進むので、これを用いた追加徴税等が加速する可能性があります。

 社会保障の給付のために便利だから・・・等という言葉が、人気のないマイナンバーカードの利用促進では用いられていますが、筆者には、徴税のほうが主たる眼目に見えて仕方がありません。