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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

英国がEUに離脱通知 交渉本格開始 ユーロはどうなる

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(イギリス国旗 出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 3月29日にイギリスがEUに離脱を通知し、今後、その交渉が本格化します。

 メイ首相の政治手腕が試されるわけですが、現在、EU側はイギリスの姿勢が強硬だとみているので、今後の交渉はかなり厳しいものになりそうです。

 今回は、過去の経緯を振り返りつつ、今後の政治日程や日本の取るべき具体策について考えてみます。

EU離脱国民投票以後の英国の動きとユーロ円の推移

 一応、まず、時系列でイギリスの動きを整理してみます。()内は1ユーロ=円

  • 16年6月23日:英国でEU離脱の国民投票(117.96円)
  • 16年7月8日:ユーロ円が谷底(111.11円)
  • 16年7月13日:テリーザ・メイ氏が首相就任(115.87円)
  • 16年11月3日:高等法院がEU離脱通告には議会採決が必要だと判断(114.37円)
  • 17年1月15日:メイ首相がEU単一市場離脱を宣言(1/17:120.65円)
  • 17年1月24日:最高裁がEU離脱には議会承認が必要と判断(122.11円)
  • 17年1月27日:メイ首相が訪米。トランプ大統領と会談(123.13円)
  • 17年3月29日:イギリス政府がEUに離脱通知(119.54円)

 ユーロ円を指標で見ると、昨年12月頃に120円台に戻り、本年2月と3月に120円割れが生じています。最近になってまた、EU離脱の行方が不安視されているわけです。

英国はなぜEU単一市場から離脱したのか?

 1月17日のメイ首相の演説では以下の論点が訴えられていました。

  • EU単一市場から離脱。EUへの部分的な残留はしない。EUへの拠出金も廃止。
  • 2年間の離脱交渉期限後に段階的な移行措置を設ける
  • EUとは野心的な新しい自由貿易協定(FTA)を締結
  • 欧州からの移動の自由が出入国管理を妨げているので、移民規制が必要
  • EUとの最終合意には上下両院の投票による承認が必要。

 単一市場へのアクセスを残しながら「EU離脱」をする「ソフトブレグジット」と、単一市場から完全撤退をするのが「ハードブレグジット」のどちらを選ぶのかが注目されていましたが、メイ首相は事実上、後者を選択しました(ソフト、ハード路線のどちらでも移民制限が行われる)。

 ノルウェーやスイスはEU非加盟のまま単一市場へのアクセスを確保していますが、この路線は拒否されたわけです。

 15年にはEUからイギリスへの移民が18万人に達したのを重く見たのか、メイ首相は「移民の数は、記録的な水準に達し教育や住宅、インフラなど公的サービスに負担となり、労働者の賃金を押し下げてきた。ヨーロッパからの移動の自由があるかぎり、出入国管理はできない」(NHKニュースWEB「メイ首相演説 6つの主なポイント」1月18日)と述べています。移民に関して厳格な路線が取られそうですが、一応、「イギリスは寛容で開かれた国で、特に有能な移民は常に受け入れる」という留保はつけています。

※英EU離脱の優先事項(日経電子版「英メイ首相の演説要旨 EU単一市場から離脱表明」1/18)

 (1)交渉の確実性確保→EU法を英国法に置換え、離脱前と同じ法を適用
 (2)英国法の独立→法の支配を回復。EU司法裁判所の英国での裁判権を終わらせる。
 (3)地域連携の強化→連合王国の維持
 (4)往来自由の維持→EU加盟国のアイルランドとの往来の自由を維持
 (5)移民流入の管理→就業や勉学の地としての英国を維持しつつEUからの移民数を制限。
 (6)市民の権利保障→英国在住のEU市民とEU在住の英国人の権利を保障
 (7)労働者の権利の保護→EU法を国内法に置き換え、労働者の権利を守る
 (8)欧州市場との自由貿易→可能な限りEU市場へのアクセスを維持
 (9)EU域外国との新たな貿易→米国、豪州、インド、中国、湾岸諸国などと協議
 (10)科学や技術革新にとっての最適地を目指す
 (12)円滑で秩序だったEU離脱

 法の支配という言葉を用いて英国が保持してきた自国の法とEU法とが矛盾する体制を終わりにする方針が明かされています。単一市場離脱の論拠にEUの司法判断に従いたくないわけですが、イギリスの法の支配の伝統は、イギリスの裁判判例によってつくられてきたので、このあたりも司法を尊重する法の支配の伝統と符号しています(「国王といえども神と法の下にある」とされ、司法判断が尊重されてきた)。具体論もEU法を英国法に置き換える内容が多いのが目につきます。

2017年春以降の英国の政治日程

 そして、今後の展開を見ると、EUの主要会議の中で、欧州理事会やEU外相理事会等でもこのEU離脱が取りあげられることになりそうです。

  • ブリュッセルで行われる欧州理事会は、3/9~10、6/22~23、10/19~20、12/14~15。
  • EU外相理事会はブリュッセル開催が5/11、5/15、5/18~19。ルクセンブルク開催が4/3と6/19。

 そして、イギリス国内では二大政党の大会が秋口に開催されます。

  • 18年9月24~27日:英国労働党大会
  • 18年10月1~4日:英国保守党大会
  • 18年秋~19年春:スコットランド独立の是非を問う住民投票開催の可能性あり
  • 19年?:イギリスEU離脱

スコットランドで再び独立の是非を問う住民投票が起きる?

 メイ首相や英政府が恐れているのは、EUに残留を望むスコットランドが独立の是非を問う独立投票を開催することですが、これがいつ起きるかは、まだ予断を許さない状況が続いています。

 3月27日にはメイ首相が北部スコットランドにてスタージョン行政府首相と会談。英連合王国の維持を訴えたことが昨日に報じられました。前掲の18年秋~19年春という住民投票の可能性は、スタージョン氏の意向とも関わるので、このたびのメイ氏のスコットランド訪問は、それを抑止するための試みだったわけです。

 スコットランド議会は住民投票の開催の是非をスタージョン氏に交渉する権限を与え、メイ氏の側は、住民投票を認めない方針なので、EU離脱交渉を巡っては、イギリス内部でも分裂の危機が生じているとも言えます。

日本の取るべき具体策:日英/日EU間でのEPA妥結

 これに対して、日本はどんな対策があるのでしょうか。

 特に大事なのは、日本と英国、日本とEUの間で経済連携協定を妥結することです。

 従来、日本は英国に10兆円規模の投資を行い、14万人規模の雇用を生み出してきましたが、それは英国がEUへの入り口とみなされてきたからです。

 自動車を日本からEUに輸出すると10%の関税がかかりますが、従来は、イギリスからEUで輸出すれば関税なしでした。

 しかし、イギリスがEU離脱すると、同国からEUに輸出しても10%の関税がかけられるようになってしまいます。

 他国との競争で言えば、韓国とEUの間には経済連携協定があるので、韓国車はEUへの輸出が無税となっているため、今のままでは日本は不利な立場になることが予見されるわけです(※ただ、それでも現状ではトヨタもホンダも英国での工場を維持の方針)。

経団連も英国とEU向けの提言を発表する意向

 そのため、経団連は、英国とEUの双方に貿易協定が必要だとして、提言を出そうとしています(産経ニュース「経団連、市場一体性重視を求め英・EU双方に提言へ」2017.3.28)

 その要旨は以下の通りです。

  • 英・EU双方に、経済分野で事実上の市場一体性を保つことを求める。
  • 貿易協定の早期確立を要望。離脱に間に合わなければ移行期間を設け、現状維持を要請。
  • 非関税貿易の存続や、通関手続きの簡素化を要望。

 実際、安倍首相もこの問題を重く見て、訪欧中に日EU首脳会談(相手はドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長とジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長を開催し、EPA妥結を議題に取り上げました。

 JETROの記事では、欧州側の発言が報じられています(「日本とのEPA、早期妥結にEUは期待感表明-日EU首脳会談-」2017年03月23日)

  • トゥスク常任議長:「EUとして、日EU・EPAと戦略的パートナーシップ協定の双方について、早期に妥結する用意がある」
  • ユンケル委員長:「われわれは法の支配の下、自由で公正な貿易を信奉するが故に、日EU・EPAが不可欠と考えている。われわれは孤立主義に回帰するのではなく、世界に開かれているべきだ」

 どちらも乗り気なので、2017年内に日本とEU間で、EPAが現実化することが期待されているわけです。

※ただ、そのためには「市場アクセス、公共調達、非関税障壁の撤廃、地理的表示保護など」(ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)のマルクス・バイラー事務局長)で双方の合意が必要になるともいわれている

 シングルパスポート制度はどうなる?

 金融面ではどうかというと、EU離脱に伴い「シングルパスポート制度」(EU加盟国のどこかで免許を取れば全EU内で営業可能になる)が失われるので、銀行などは他国に拠点を移さざるをえなくなります。

 これに関しては産経ニュース(「日系金融は「脱英国」シフト…大陸に現地法人検討 自動車・鉄道は関税の行方懸念」3/27)にて、金融機関の動向を報じていました。

  • 三菱東京UFJ銀行:英国以外の欧州統括機能をオランダの現地法人に集約する
  • 三井住友銀行:ロンドンに欧州統括の拠点を置きながら英国以外に現地法人を新設
  • 大手金融機関支店長の匿名での談:「日系金融機関のほとんどがドイツやオランダ、フランスなど英国以外に現地法人を作るなど、ロンドンからの業務移転・縮小を検討し、英国に軸足を置いたビジネス展開の見直しを迫られている」

 金融面ではすでに脱英国の傾向が出始めていますが、今後、日英と日EU間でのEPA妥結に向けた議論が進展していくことを期待したいものです。

    ユーロの為替に影響が大きいと思われるイベントは、英国とEU、それぞれの貿易協定の交渉やスコットランドの住民投票(現在は可能性段階)ですが、今後の展開を注が気になるところです。