読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

ウーバー社の自動運転車が衝突事故 ウェイモ社との係争も含め、今や経営の曲がり角・・・

f:id:minamiblog:20170326123330p:plain

(アリゾナ州テンピ地図:出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  ウーバー社の自動運転車がアメリカのアリゾナ州テンペ(※テンピとも表記される)で衝突事故を起こしました。

 それが知られたきっかけはツィッターへの投稿写真で、それを見たブルームバーグのスタッフがウーバー社の広報担当者に確認したところ、実際に事故があったことが確認されました。

 ブルームバーグの記事(3/25)では「同広報担当者は、この車に人が乗っていたかどうかや負傷者の有無については現時点で確認できないとした」と報じています(「ウーバーの自動運転車が衝突事故-米アリゾナ州で」)。

(※追記:3月28日にウーバー社に過失がないことが明らかになり、自動運転は再開されました)

 普通の車の事故は珍しくも何ともないのですが、「自動運転車の事故」は新技術の将来にもかかわるため、「気になる情報」の一つとしてチェックされています(ウーバー社は17年2月からアリゾナ州で客を乗せるサービスを開始している)。

 日本では今朝頃から日経電子版などの各種メディアで報じられました。

 メディアでは「自動運転車」と記載されていますが、現状ではまだ「完全自動運転」の車は販売されていないので、今回、事故を起こしたのは「半自動運転」の車種のいずれかだと推測されます。

 自動運転技術の概略については、当ブログでも取り上げていますが(10/14記事参照)、最近、グーグル系のウェイモ社との係争も起きたので、何かと話題になるウーバー社の今後について考えてみます。

 ウェイモVSウーバーの訴訟が始まる

 最近のニュースではグーグルの自動運転開発部門が独立したウェイモ社が技術盗用でウーバー社を提訴したことが報じられました(提訴は2月、3月に追加で運用差し止めを求めた)。

 ウェイモ社の元幹部がウーバー社に自動運転の中核技術に関わる情報を流したとしてカリフォルニア地裁に訴状(損害賠償や特許侵害)が送られ、ウーバー社は競争妨害の一種だと反論しています。

 毎日新聞の記事(3/21)では、その内容が報じられていました。

  1. 問題となったのは、レーザー光を使って周囲の状況を把握するセンサーの一種(「ライダー」と呼ばれ、自動運転の必須技術の一つ)。
  2. 訴状では、グーグル元幹部は2015年末に14000件の秘密ファイルを入手し、退職後に自動運転技術を用いたベンチャー企業(※オットー社)を設立。この企業をウーバーが16年8月に6.8億ドルで買収したことで情報が流出。その幹部が在職中からウーバー社とコンタクトしていたと抗議。

 技術流出という結果は「推測」できても、その過程を「立証」するまでに至らないケースが多いので、この案件では、今後、両社の未来をかけて、その成否が問われることになります。

 ウーバーはネットを通じて登録したドライバーによるタクシー配車を行い、ライドシェア(相乗り)サービスを世界の主要都市で展開していますが、自動運転車を実用化し、今は有人のライドシェア事業を無人化することを狙っているので、ウェイモ社とは商売敵になっているからです。

  この案件は対岸の火事に見えながらも、ウーバー社とはトヨタ、ウェイモ社とはホンダが協力関係にあるので、どちらに有利な判決が出ても、日本の自動車大手企業に間接的に影響が及びます。

 その意味で、今回の訴訟は、自動運転車という次の巨大マーケットの未来に関わる重要な出来事だとも言えます。

そもそもウーバー社とは どこが売り? どこがヤバい?

 2009年にサンフランシスコで創業したウーバー社の正式名称は「Uber Technologies, Inc」。

 前述のように、スマホアプリを用いてドライバーと乗客をつなぐ相乗りの配車サービスを行う企業で、 現在、トラビス・カラニック氏とギャレット・キャンプ氏が共同経営者を務めています。

 日本語のWIKIでは、「顧客が運転手を評価すると同時に、運転手も顧客を評価する『相互評価』を実施している」という形で、同社が講じているサービスの質向上のための取り組みも記載されていました。

 その功罪を経済誌の記事で比較してみます。

プラス面はタクシー業界の効率化?(「黒船」的役割)

 肯定的に評価しているのはダイヤモンドオンライン(2017/3/15)で、ブロガーのちきりんさんとウーバー日本CEOの高橋正巳氏との対談記事が掲載されていました(「Uberは労働者の生産性も劇的に上げている」)。

 ちきりんさんが、東京はタクシーが余っている。実車率は6割ぐらいでは?と問うた時の質疑が印象的です。

(※実車率は走行距離の中で旅客や貨物を載せていた距離の割合のこと)

高橋 (略)実車率は6割もなく、走行距離に対する実車率は5割以下で、実際の生産性を計る時間ベースで見た実車率は3割くらいと聞いています。要するに、ドライバーさんが1時間勤務するうえで、20分程度しかお客さんを乗せていないことになります

 これに対して、Uberは需給をオンデマンドでマッチングさせることで高い実車率を実現しているとPRし、タクシー会社にも提携メリットがあることを強調。交通状況の悪い地域でも有効に配車できることを指摘しました。

 タクシー業界の効率が上がれば料金が下がるので、これはこれで、消費者にとってはありがたい話です。

 ウーバーの配車サービスは業界の反対もあって、日本ではまだまだブロックされているわけですが、同社サービスの解禁がタクシー業界への「黒船」となる可能性が高いわけです。

マイナス面は情報公開度の低さ

 しかし、未公開企業なので、正確な情報が分かりにくいのが、この企業の一番の難点です。

 ただ、ブルームバーグ社を通じて幾つかの経営情報が報じられています。

 昨年の終わりごろに「米ウーバーの7-9月損失は8億ドル超か、中国事業撤退でも-関係者」(2016/12/20)と題して公開された記事が公開されていました。

 この記事によれば、2016年1-9月期の損失は22億ドル(約2600億円)超。そのうち、中国市場撤退後の7-9月に8億余りの損失が出ているとされています。しかし、売り上げは拡大を続けており、同年1-9月の純売上高が約37億6000万ドル。16年全体で55億ドル強に上るとウーバー社の関係者が匿名で述べたことが報じられています。

 同社評価額が690億ドルに高まり、ゼネラル・モーターズ(GM)とツイッターの時価総額合計を上回る規模になったとも報じられていますが、その事業がそこまでの付加価値を生んでいるかどうかは疑問が残ります。

 これは、財務状況が外部にわからない中で、一種のバブルが生じた可能性が濃厚だと筆者は考えています。

 というのは、昨年以来、同社に関しては、非常によくないニュースが噴出しているからです。

 その詳細が東洋経済のWEB版記事(2017/3/23)に掲載されていました(ウーバー、「腐敗した企業文化」の行き着く先 シリコンバレー最悪倒産になりかねない理由」)

(※まぎらわしいのですが、この記事の作成元は「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部、掲載先が東洋経済WEB版になっています)

 この記事が取り上げたウーバー社のトピックは以下の通り。

  • 昨年12月に退職した元女性エンジニアが在職中に上司から受けたセクハラが人事部にまともに取り合われなかったことを17年2月にブログで公表。
  • 初期に出資したロータス創業者ミッチ・ケイパー夫妻がこの件に幻滅し、ウーバー経営陣に公開書簡を送って経営改革を要望。
  • その後、トラニス・カラニックCEOがウーバーの運転手を罵倒するビデオがブルームバーグを通じて外部に流出。運賃下げに対して運転手が「あなたのせいで私は破産だ」と言われた際の対応のまずさが公になった(その後、HPにてCEOは謝罪)。
  • タクシー運転手がトランプ氏の七か国入国禁止の大統領令に抗議デモを行った際にウーバー社は運転を継続し、アプリ削除攻勢を受けた(※これに関する評価にはニューズウィーク誌編集部の反トランプ路線が反映されている)
  • 16年にはサウジアラビアの政府系ファンドから35億ドルの出資を受けた。女性の運転を禁じるサウジに出資を受け入れたことで運送業者としての健全性が疑問視された。

 そして、このたびのウェイモ社との係争に至りました。

 ウーバー社に関しては、世界展開する規模の大きさに比して、情報公開度が低いという不健全な状態が続いています。同社サイトを見ても、経営の実績が何も公開されていないのが現状です。

(※ウーバー社サイト:https://www.uber.com/ja-JP/

 功罪のどちらが大きいのかは、まだ、現時点では、社会的にも、市場の取引でも判定は出ていません。

 しかし、このたびのウェイモVSウーバーの訴訟の結果次第で、功罪の天秤のバランスが一方に大きく傾き始める可能性があります。

 その意味で、ウェイモ社は経営の曲がり角に立たされているとも言えるのではないでしょうか。