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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

空母型護衛艦「かが」就役 これが潜水艦から海を守る「いずも型」のスペックだ

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(出所は防衛省HP:海上自衛隊:ギャラリー:護衛艦(艦艇):いずも型 (DDH"IZUMO"Class)

  海自の空母型護衛艦「かが」が就役したことが3月22日に各紙で報じられています。

 横浜市のジャパンマリンユナイテッド磯子工場で防衛省への引き渡し式が行われ、自衛隊旗が授与されました。

 約1200億円をかけて建造された「かが」は広島県の呉を拠点とする第4護衛隊群に配備され、対潜水艦作戦等を担う哨戒ヘリ等を運用します(輸送ヘリやMV22オスプレイ等も運用可能。各種報道では14機以上のヘリを運用可能とされている)。

 「何で空母ってはっきり言わないの?」

 そうした疑問も出てきますが、日本は憲法9条の解釈に基づいて「攻撃型兵器」の保有が禁じられているので、「かが」を「空母」と認定することはできません。あくまでも「空母型」の護衛艦だという論理で保有を正当化しているわけです。

 今日は、わかりにくい、この「空母型護衛艦」と「空母」の違いについて考えてみます。

空母型護衛艦「かが」のスペック

 空母型護衛艦には先発の「いせ型」と後発の「いずも型」があり、「かが」は「いずも型」の2番目の艦艇にあたるので、この2タイプの比較をしてみます。

 ざっくり言えば「いずも型」は大型化し、対艦ミサイル発射装置や魚雷発射装置のような「護衛艦」の装備は取り除かれ、哨戒ヘリの搭載機数が増えています。「いせ型」は通常の護衛艦の装備とヘリ空母の機能が混在していますが、「いずも型」はヘリ空母に特化しているわけです。

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(※ヘリ搭載機数以外は、基本的に防衛省HPを出所としています)

【基準排水量】19500トン(いせ型は13950トン)

※排水量は、水に浮かべた船等が押しのける水の量。その重さで船の大きさを図る

【主機械】ガスタービン4基2軸

【速力】30キロノット(時速55km)

※1キロノットは1時間で1カイリ(1852m)進む速度。タンカーが時速40km、コンテナ船が時速55km程度

【ヘリ搭載機数】

14機以上。(いせ型は最大11機と報じられている)

【主要兵装】

高性能20ミリ機関砲 2基 ⇒近接戦用
対艦ミサイル防御装置 2基
魚雷防御装置 1式
対水空レーダー 1基
対水上レーダー 1基
水上艦用ソーナーシステム 1式 ⇒ソーナーは潜水艦探知に用いる
EW装置 1式 ⇒これは電波攪乱や防護用
情報処理装置 1式

※いずも型は「ヘリ空母」の機能に特化され、ひゅうが型が持つVLS装置一式(対艦ミサイルを発射する)や<魚雷発射管(2基)は搭載していない。

【馬力】※PS=1馬力

 12000PS(いせ型は100000PS)

【乗員】

約520名(いせ型は380名)

【主要寸法】

(長さ、幅、深さ、喫水)

いずも型: 248x38x23.5x7.2

いせ型:197x33x22x7

※喫水:浮かんでいる船の最下面から水面までの距離

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結局、「かが」は何をするのか?

 装備の実質からいえば、「かが」は「ヘリ空母」に相当します。そして、搭載する哨戒ヘリの主任務は「潜水艦狩り」なので、「かが」の役割も「対潜水艦作戦」に大きな眼目が置かれています。

※海自の主力哨戒ヘリSH60Kは、音響探査機(ソノブイ=潜水艦のスクリュー音を探査)を海に落とし、そこから潜水艦の動きを探知します。これは魚雷や対潜水艦用の爆弾で潜水艦と戦うための機体です(ただ、対艦ミサイルも装備しているので、水上の対艦攻撃も可能)。

 海自は、ソ連(現ロシア)や中国の潜水艦に対抗するために、アメリカの同盟国の中で、最大規模の哨戒部隊を冷戦時代から維持・強化し続けてきたのですが、その最新・最大の機能を持つ艦艇が、このたびの空母型護衛艦「かが」にあたるわけです。

 米軍の第七艦隊は空母を中心とした機動部隊なので、ロシアやソ連に対して航空戦で負けることは考えにくいのですが、海中から迫る潜水艦の脅威だけは完全に取り除くことができないでいます。

 通常は、原潜が同行して目を光らせているのですが、主要艦載機は対空・対艦・対地攻撃を担うので、対潜作戦を行う上で、やや「手足」が足りません。そのため、対潜作戦の機能を同盟国・日本に期待し、海自が長らくアジア最強の哨戒部隊を保有してきました。

 海自の対潜部隊は冷戦期にソ連潜水艦が太平洋に出られないように封じ込めたともいわれていますが、現在のアジアでは、中国海軍の潜水艦に対抗する役割が期待されているのです。

 中国の空母は米軍に対抗できないので、南シナ海近辺で「弱い者いじめ」を行うための装備なのですが、現在、日本のヘリ空母は、他国の潜水艦からの攻撃を抑止することを主任務としています。

 空母であっても、自衛のための任務を中心とし、憲法9条とは矛盾しないようにしているわけです。

(ただ、憲法解釈を変更し、空母艦載型のF35B戦闘機を米国から購入すれば、これらの空母型護衛艦は、各国の空母と同じような運用が可能になります。そのあたりが変わるかどうかは、中国に対する政府の脅威認識と政治決断しだいです。紛らわしいのですが、現在、自衛隊に配備されているF35Aは空母に搭載できるタイプの機体ではありません)

「空母」の報道はなぜか興奮気味になりがち

 現時点の「かが」の運用方針は「自衛」のためのものですが、 空母は「国威発揚」のアイテムになりがちなので、保守系メディアでは、わりと高揚した気分で記事が書かれています。

 例えば、産経ニュース(2017.3.22)は「【動画付き】中国よ、これが日本の実力だ 海自最大の空母型護衛艦「かが」就役 南西諸島などの防衛に対応」と題した記事を公開していました。

 内容は政府関係者の挨拶やスペックの簡単な説明があり、その後、主目的が以下の一文に記載されています。

「かが」は全長248メートルで艦首から艦尾までが空母のように平らな「全通甲板」を持つヘリコプター搭載護衛艦。哨戒ヘリは5機が同時に離着艦でき、対潜水艦戦に従事して強引な海洋進出を続ける中国を牽制する。

 実際のところ、中国の軍関係者は日本の装備開発をウォッチングしているので、本当は新聞が中国に呼びかける必要はありません。呼びかける前にすでに見ているのが実態です。

 そのため、中国の軍拡を警戒する保守層の読者の目を引くために、前掲見出しが作成されたと推測できます。

  空母はとにかく目立つので、その報道に際しては、いろいろと「愛国的な」感情に訴えかけるための記事が量産されるのです。それは日本だけではありません。

 産経の対極にあるレコードチャイナ(2015/9/1)を見ると、15年の「かが」進水時にはやや理性のタガが外れたネット議論を紹介する形で過激な題名の記事が公開されていました。

 内容は的外れなので割愛しますが、「いずも型護衛艦『かが』を進水した日本をいかにして倒すか、中国ネットが議論=『束になっても遼寧号は倒せない』『核兵器1つで日本は消滅』」という題名です。

(※運用目的が違うので、遼寧と「かが」のどちらが強いかという議論をしてもあまり意味がない)

 冒頭の「何で空母ってはっきり言わないの?」という疑問に戻りますが、そう言えないのは、憲法上の理由だけでなく、こうした広報的な配慮も含まれています。

 日本は国内世論の抵抗が強いので、中国のように大規模に軍事費を増やせるわけではありません。周辺諸国の余計な感情を刺激し、メディアを通じた無意味な軍拡競争を加速しないほうがよいわけです。

「空母型護衛艦」という呼び名にも「平和憲法だけど自衛隊は必要なんだ」「近隣諸国が軍拡に熱心だが、自衛隊予算は大幅に増やしにくい」という、日本が抱える複雑な内情が反映されているとも言えます。