読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

フランス大統領選 ルペンVSマクロンの構図 EUとユーロはどうなる?

f:id:minamiblog:20170322184743j:plain

(セーヌ川沿岸のパリ市街。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  フランスで第一回大統領選候補者のTV討論会が3月21日に開催されました。

 候補者は11人ですが、そのうち主要候補5名の舌戦がメディアで報じられています。支持率上位を争う国民戦線のルペン党首、マクロン元経済産業デジタル相、フィヨン元首相の発言が注目されました(ブルームバーグ「仏大統領討論会:世論調査はマクロン氏に軍配、極右ルペン氏3位」2017/3/21)

  • ルペン氏:「合法、非合法を問わず移民を停止したい」「野蛮なグローバル化はあなた方有権者にとって悪夢だった」
  • マクロン氏:「私は責任ある政治を望む。欧州にとどまりながら強いフランスであってほしい。われわれがあなた(※ルペン氏)と全く異なるのはこの点だ」
  • フィヨン氏:(ルペン氏と国民戦線が)「フランス国民の購買力を実際に破壊している」

 討論会後、有権者の29%が説得力ある候補者としてマクロン氏の名を挙げ、ルペン氏とフィヨン氏は19%に止まったとも報じられています。

 選挙戦ではEU離脱の是非と10%台にのぼる高失業率への対策が問われていますが、今回は、このフランスの政治日程と政治の仕組み、候補者の横顔等を概観してみます。

2017年 フランスの政治日程

 まず、そのスケジュールを見てみます(欧州時間なので日本では1日ずれでカウントが必要)。

  • 4月23日(日):仏大統領選・第一回投票
  • 5月7日(日):仏大統領選・第二回投票(一回で決まらない場合)
  • 5月11日(木):第二回投票後の当選者発表
  • 6月11日(日):仏国民議会(下院)選挙(第一回投票)
  • 6月18日(日):仏国民議会(下院)選挙(第二回投票)
  • 9月24日(日):仏元老院(上院)議会選挙

 大統領選の投票時間は8時から18時まで(大都市では20時まで)。仏領諸島などでは4月22日(土)と5月6日(土)に実施。第2回投票の4日後(5/11)、憲法院は最終結果を公表し、新大統領の選出を宣言します。

フランス大統領選の仕組み

 では、注目の大統領選はどのように行われるのでしょうか。その要点を整理します。

立候補と投票の資格

  • 18歳以上のフランス国民は立候補でき、投票できる。
  • 投票には外国居住者も、拘留者も参加可能(ただし前年12月31日までに市町村選挙人名簿に要登録)
  • 民事・刑事上の権利喪失者は投票不能

ややこしい「二回投票制」って?

  • 大統領選では有効投票総数の過半数(50%+1票)を得る候補者が出れば第一回投票で終了。
  • 出ない場合は、上位2人の候補者で第二回投票を行う。第二回投票の票数で勝った者が大統領になる。

候補者の義務(候補者過多を避けるための措置)

  • 30県以上で有力者500人の推薦人を確保(欧州議会議員、国会議員、地方議員、市町村長等)
  • 資産状況申告書を憲法院に提出。
  • 選挙運動費用収支報告書の提出を確約(投票後2カ月以内)

実際の選挙の流れ

  • マスコミを通じて立候補の意志は前年からでも表明可能
  • しかし、実際の選挙運動期間は30日程度。
  • 推薦人500人の名簿が第1回投票の3週間前の金曜日までに官報で公表される。
  • 第1回投票の選挙活動期間(4/10~21)2週前の月曜日~投票日前日午前0時。
  • 第2回投票は1回目の上位2候補の発表日からに再開⇒5/6に終了。
  • 全候補者は平等な扱いを受ける(国が公約の送付、最小限のポスター掲示とメディア放送の機会確保を保障。
  • 選挙期間中は、ラジオ・テレビでの発言・放送時間も候補者にとって平等かつ公平かどうかが視聴覚高等評議会(CSA)で監視されている。
  • ただ、テレビ討論会は主要候補のみ出演している。
  • ネットでの発言は自由。
  • 選挙資金の個人献金には上限がある(4600ユーロまで)

上下院の選挙の規定

 フランスは下院(国民議員)と上院(元老院)の二院制を取っている。

【下院選】

 小選挙区制を用いた二回投票制。第一回投票では有権者は多様な候補者の中から自分の意に沿った候補者に投票。二回目に上位名のいずれかに投票する。任期は5年で定数577。18歳以上で立候補と投票が可能。

【上院選】

 各県を選挙区として「投票人」を選ぶ間接投票制。投票人は各県市町村の現職議員なので、人口比で見た投票人の数の差が選挙の動向に大きな影響を与える。任期6年、定数は348で3年ごとに半数改選。立候補できるのは30歳以上の国民のみ。

主要候補者の横顔と支持率

 現在、主要候補者は以下の4人と見込まれています。

エマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相

  • 所属政党:「前進」(同氏結成の独自勢力)
  • 年齢:39歳(1977/12/21生)

 ソンム県アミアンに生まれ、パリ第十大学からパリ政治学院、国立行政学院に進学(パリ政治学院、国立行政学院は歴代大統領や首相を数多く出した名門校)。政治家になる前はロスチャイルド銀行で勤めていました。オランド大統領の側近として大統領府副事務総長(2012~14)、経済産業デジタル相(2014~16)を歴任。

 オランド政権で解雇過程の簡略化や労働時間の規制緩和、長距離バス路線の自由化等を含む、経済改革法案「マクロン法」を議会に提出し、実現させた(強行採決)。左派政権の中で右派的な経済改革を行い、メディア報道では「中道派」と見られている。
 現在、法人税減税や週35時間労働制の見直し、年金支給開始年齢の引き上げ、公的部門の人員削減などを主張している。EUと自由貿易を支持。

フランソワ・フィヨン元首相

・所属政党:共和党。中道右派と見られている
・59歳(1954年3月4日生)

 パリ第5大学、国立政治学研究院卒。サブレ=シュル=サルト市長(1983~2000)、労働相(2002~2004)、高等教育・研究相(2004)を歴任。2005年に上院議員に選出される。2007~12年のサルコジ政権誕生に選挙参謀として貢献し、首相を務めた。12年に訪日。16年11月に中道右派陣営の予備選で候補者に選出される。17年1月に勤務実態のない妻や二人の子供に対しての報酬支払疑惑が浮上。「フランスのサッチャー(元英首相)」と呼ばれ、保守系有力候補だったが、勤務実績のない妻に給与を支払ったという公金横領疑惑が浮上し、支持率が下落。  

国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首

  • 所属政党:国民戦線(極右勢力と報じられている)
  • 年齢:48歳(1968年8月5日)

 国民戦線は創立者である父(ジャンマリ氏)の時代は泡沫政党。84年に欧州議会選に勝利して支持率は1割台に躍進。
 両親は政治活動に忙しく、青少年時代はやや孤独で、家族の愛情を欲していたという。パリ大で刑法を学び、弁護士として職歴を開始。私生活ではFN支援者や関係者と結婚・離婚を繰返している。
 2012年に二代目党首に選出され、移民排斥から福祉の充実に政策の力点を移し、ソフト路線を打ち出した。共和制を認め、民主主義を掲げたFNは女性の権利を重視。妊娠中絶や同性愛を容認した。反EU、反移民、反自由貿易を訴え、大統領選ではEU離脱の国民投票の実施。移民の全面禁止。一部輸入品への35%課税等を提唱している。イスラム教徒を治安の脅威と見なす路線は父の時代と同じ。

 3月25日には大統領選投票日を約一か月前に控え、モスクワ市にて、異例のプーチン大統領との会談を行いました。当然ながら、現候補者の中で選挙前にプーチン氏と会ったのはルペン氏のみです。

ブノワ・アモン前国民教育相

  • 所属政党:社会党
  • 年齢:49歳(1967年6月26日生)

 ブルターニュ=オクシデンタル大を卒業後、青年時代から社会民主主義の実現をめざし、左派の政治活動を展開。ブレティニー=シュル=オルジュ市議会議員(2001~08)、欧州議会議員(2004~09)社会党報道官(2008~12)を歴任。
 12年に下院(国民議会)議員となり、その後、経済系閣僚や国民教育相を歴任。17年の予備選でヴァルス前首相に勝ち、候補者となった。与党の劣勢下にあって、他の左派政党や緑の党等に団結を呼びかけ最低限の所得保障等を訴えている。大麻の合法化や、16年に成立した改正労働法(雇用や人員削減の容易化を含む)の廃止を提言。

メランション元職業教育大臣

  • 所属政党:左翼党
  • 年齢:66歳(1951年8月19日生)

 モロッコ北部出身だが、両親が離婚したためにフランスのジュラ県の高校を卒業し、フランシュ=コンテ大学で哲学を専攻。卒業後は教師になった。1983年から2001年頃までエソンヌ県のマシー市で政治活動を続け、市長や市長会委員等を歴任。1998年から2004年頃までエソンヌの県政にも参画している(県大評議会副議長、県大評議会議員等)。35歳(1986年)でエソンヌ県から元老院議員に選出され、2000年まで再選を重ね、2000年から2002年に職業教育大臣となる。2008年に社会党を離党して左翼党を創設。(※すごいネーミングだ・・・)。

 2012年に大統領選に出馬。さらにはフランス議会総選挙でルペン氏と対決した。政策的には、企業の国有化や環境保護の強化、NATO脱退、反EU等を掲げている。

主要候補の支持率

 ニューズウィーク日本語版(2017/3/21)では3月20日に調査会社エラブとIfopフィデュシャルが調べた主要候補者の支持率が報じられています(「フランス大統領選、初回投票でマクロン氏トップに 1月以来」)。

 以下、エラブ/Ifopフィデュシャルで数値を表記。

  • マクロン前経済相:25.5%/26%
  • ルペン国民戦線党首:25%/25%
  • フィヨン元首相(共和党):17.5%/18%

 これは第一回投票時の支持率で、第二回目の決選投票ではマクロン氏が63%/60%、ルペン氏が37%/40%。どちらも同程度の数字です。

【追記:第一回投票日直前の支持率】

 その後、メランション氏の快進撃が始まり、4月の第一回投票日の直前には18.5%まで支持率が急上昇しました。4月22日の各紙報道ではフランスの調査会社(Ifop)が21日に発表した支持率が紹介されています。

  • マクロン氏:24.5%
  • ルペン氏:22.5%
  • フィヨン氏:19.5%
  • メランション氏:18.5%

 日経電子版(4/22)ではパリでのテロ直後の21日に限ると、別調査ではルペン氏の支持率が1ポイント上昇した。し、他の3人は0.5ポイント低下したと報じています(仏大統領選23日投開票 テロや地方疲弊、迎合派に追い風)。

 メランション氏の支持者が第二回目投票でマクロン氏に投票するとは思えないので(政策はほぼ真逆)、マクロン氏には悪い知らせが続いています。

フランスEU離脱時に大規模な資本流出が起きるのか?

 仏EU離脱に関して、ウォールストリートジャーナル日本語版(2017/2/16)は国民戦線の主張に対して、以下の懸念を表明しています。

国民戦線(FN)の主張

  • 全政府債務は国際法に基づいて新通貨に替わるため財政破綻のリスクはない
  • 世界5位の経済大国なのでEU加盟国と有利な協定を結べる
  • ユーロ離脱後の経済見通しは良好なので資本逃避は考えにくい

WSJの批判

  • 仏ユーロ圏離脱に伴う資本流出はフランスだけに止まらない
  • ユーロ圏全体で資本規制を導入しなければいけなくなる
  • フランスの海外への投融資や資産も危機に陥る。仏銀行は伊に3000億ユーロ(約36兆3000億円)近い資産を保有(GDP比で10%相当)。
  • 欧州中央銀行(ECB)は無制限の資産購入に踏み切らざるを得ない

  フランスのEU離脱に伴う為替や株価の大変動等が恐れられています。

 イギリスはもともと大陸から距離が遠く、EUに遅れて参加した国であるのに対し、フランスはEUの前身であるEC時代からヨーロッパ統合を主唱してきました。

 いわば、発起人に相当する国です。そのため、フランスのEU離脱にはEUとユーロに対して英国の時以上のインパクトがあります。

 「フレグジット」が起きた時、国際政治と世界経済に与える影響を、しっかりと想定していく必要があると言えるでしょう。