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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

【トランプ予算教書】省庁ごとの予算一覧「軍事費1割増+削減ラッシュ」の中身とは?  

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(米議会:出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ大統領が3月16日(日本時間17日)に予算教書を議会に送付。

 その教書は「アメリカ・ファースト」と題されており、「アメリカを再び偉大にするための予算の青写真」(A Budget Blueprint to Make America Great Again)という副題がつけられています。

 今回、トランプ氏が送ったのは2018会計年度の予算教書です。

 総額は1兆1512億ドル(130兆円規模)にのぼりますが、2017会計年度では1兆1648億ドルだったので、巨額に見えながらも136億ドル(-1.2%)の減額になっています。

 その中身を見ると、トランプ氏は国防費を523億ドル(約6兆円)ほど増やすために(10%増)、他省庁の予算削減を図っています(※為替は1ドル=113円で概算)。

 今日は、この予算教書を取り上げ、米新政権の行方について考えてみます。

国防予算増のために、他省庁予算を大幅削減

 今回の予算教書で増額になったのは国防総省、国土安全保障省、退役軍人省といった国防、治安に関わる機関です。

 しかし、他の主な12省はみな減額となりました。削減の規模が一桁に止まった省庁もありますが、9つの省で11%~29%もの減額となっています。

 その中で、CO2排出規制やエネルギーに関する規制に否定的なトランプ氏の政策判断が直撃した環境保護庁は31%の減額を要求されました。

 ただ、トランプ氏が出した「予算教書」は大統領からの提案なので、実際に今後、議会が予算案を調整し、共和党が可決できなければ、何も具体化しません。

注目のインフラ投資は、具体論が定まらず

 そして、特に重要なポイントとしては、大統領が議会演説で訴えた1兆ドルのインフラ整備の中身について、今回の予算教書では具体的な内容が書かれていないということです。

 もともと、トランプ氏が選挙中に訴えていたのは、ブレーンのピーター・ナヴァロ氏とウィルバー・ロス氏が考案した民間のインフラ投資の活性化案です。

 1兆ドルのインフラ投資に関して民間企業に1370億ドルの税額控除を与え、数多くの民間企業に投資に参画してもらうことを考えていました。その税額控除分は、投資に参画した企業の収益や労働者の所得から得られる税収で回収するプランだったのです。

 むろん、インフラ投資には政府が担う部分もあるので、トランプ大統領の思惑は、政府予算と民間負担のインフラ投資を合わせて1兆円の投資を行いたい、ということだったと思われます。実際に「1兆円投資しよう」と言っても、企業がどこまで参画してくれるかどうかは未知数だからです。

予算の全体像を概観してみる

 予算教書に書かれた、各省庁の予算を概観してみます。 

  • 農務省:226億ドル⇒179億ドル(-47億ドル/-20.7%)
  • 商務省:92億ドル⇒78億ドル(-15億ドル/-15.7%)
  • 国防総省:5217億ドル⇒5740億ドル(+523億ドル/+10%)
  • 教育省:682億ドル⇒590億ドル(-92億ドル/-13.5%)

 教育に関しては、ベッツィ・デボス教育相が推進する学校選択制の実現のために、14億ドルの予算枠が設けられました。

  • エネルギー省:297億ドル⇒280億ドル(-17億ドル/-5.6%)

 米予算では核管理に関わる費用がエネルギー省で負担されており、280億ドルの中には核戦力強化のための139億ドル(前年比14億ドル増/+11.3%)が含まれています。

  • 保健福祉省:777億ドル⇒651億ドル(-126億ドル/-16.2%)
  • 国土安全保障省:413億ドル⇒441億ドル(+28億ドル/+6.8%)

 国土安全保障省に関連するのがメキシコ国境に建設する壁の建設費用です。

 これに関しては17、18年度で合計41億ドル(4600億円)。今年9月までの17年度予算に15億ドル、18会計年度で26億ドルが盛り込まれています。

  • 住宅都市開発省:469億ドル⇒407億ドル(-62億ドル/-13.2%)
  • 内務省:132億ドル⇒116億ドル(-15億ドル/-11.7%)
  • 司法省:288億ドル⇒277億ドル(-11億ドル/-3.8%)
  • 労働省:122億ドル⇒96億ドル(-25億ドル/-20.7%)
  • 国務省: 380億ドル⇒271億ドル (-109億ドル/-28.7%)

 国務省予算には国際開発局や財務省の国際プログラムの予算が含まれています。 

  • 運輸省:186億ドル⇒162億ドル(-24億ドル/-12.7%)
  • 財務省:117億ドル⇒112億ドル(-5億ドル/-4.4%)
  • 退役軍人省:745億ドル⇒789億ドル(+44億ドル/+5.9%)

 トランプ氏は退役軍人へのサービス向上を訴えたので、予算の増額を狙っています。

 そして、以下の機関は省ではなく、独立した庁ですが、予算規模はそれなりに大きいので、チェックが必要です。

  • 陸軍工兵司令部:60億ドル⇒50億ドル(-10億ドル/-16.3%)
  • 環境保護庁:82億ドル⇒57億ドル(-26億ドル/-31.4%)
  • 共通役務庁:3億ドル⇒5億ドル(+2億ドル)
  • 航空宇宙局:192億ドル⇒191億ドル(-1億ドル/-0.8%)
  • 中小企業庁:9億ドル⇒8億ドル(-1億ドル)
  • 社会保障局:93億ドル⇒93億ドル 
  • 他庁:294億ドル⇒265億ドル(-290億ドル/-9.8%)

軍事予算と非軍事予算の割合はどうなる?

 前掲の省庁予算を足すと、1兆654億ドルになります。

 この上に、海外の非常時作戦用の予算が加算されます。

 国防総省予算5740億ドルとは別に、海外での非常時作戦用の予算として646億ドルが計上されているので、軍事に関わる予算の総額は6386億ドルとなります(予算教書原文の記述では約6390億ドル〔=7220兆円程度〕と書かれている)。

(※トランプ氏の予算教書はオバマ政権下につくられた国防予算の上限規制を撤廃する方針になっている)

 そして、海外での非常時作戦(シリアやイラク、アフガン等の非常時活動を想定)には非軍事オペレーションの予算120億ドルも計上されています。

 前掲の1兆654億ドルに、非常時作戦予算766億ドル(軍事用646億ドル+非軍事用120億ドル)、社会保障プログラムの追加予算(19億ドル)、災害対策(74億ドル)等を足すと、累計の1兆1512億ドルになります。

 概算ですが、軍事予算が6386億ドルが総額を占める割合は55.5%になります。非軍事部門は44.5%です。

 トランプ政権になる前でも、軍事費は全予算の半分ほどを占めていました。この光景を見て、オバマ氏は「これだけのお金があれば国民の福祉のために回せるのに」と思い、軍事費を削減したくなったのだろうと思います。

 日本人が見たら目を剥くかもしれませんが、世界ナンバーワンの国の軍事費は途方もない規模です。アメリカ的に言えば、このお金がなくなれば、世界の安定と秩序が失われてしまう、という論理で、巨額の軍事費が毎年、投入されているわけです。

トランプ氏の「革命的」な予算は実現するのか?

 筆者の個人的な感想を述べれば、これは実に革命的な予算編成です。

 日本共産党が言う「軍事費を削って福祉に回せ」という主張のちょうど真逆の路線を先進国のアメリカで実現しようとしているからです。

 先進国はどこも福祉国家路線で、社会保障費が膨張し、軍事費に関しては現状維持か微増か削減かのいずれかになっています。

 そのため、トランプ氏のように一割増に挑戦して、社会福祉の削減に挑戦するような政治家はほとんどいません。トランプ氏は「ポピュリスト」と批判されますが、なぜか人気があまり出そうもない挑戦に取りかかったわけです。

 予算配分を見る限り、目指しているものは、国の主たる役割を国防と治安、公共投資あたりに置く「小さな政府」の政治に見えます(※)

 トランプ氏の考え方には、人民にバラマキを行って人気取りを行う、よくあるポピュリストとは違う部分もあるのかもしれません。

 ポピュリストはバラマキで人気を集め、「あいつらが悪いんだ」と外敵を名指しして、憎悪に基づいて人民をまとめあげようとします(ヒトラーはお金のバラマキとユダヤ人批判で当時のドイツ国民の人気を博していた)。

 トランプ氏は、「外敵」(ISやメキシコ等)を示して国民の気を引く政治手法はポピュリスト的ですが、財政に関しては、意外と保守的な考え方を持っているようです。

 日本や欧州等の同盟国から見れば、米国の戦争に巻き込まれない限り、米国が福祉を削って国防強化をすること自体は、何ら悪い話ではありません(ただ、トランプ氏の場合、対IS戦などの「巻き込まれリスク」が存在する)。

 トランプ氏の予算教書は民主党やリベラル系マスコミの総攻撃を受けることが予想されるので、その通りには実現しないかもしれません。

 恐らく、予算案を何割か薄めながら民主党と話をまとめることになりそうですが、「福祉を削って軍事に回す」というトランプ氏の革命がどこまで実現するのかどうかは、ある種の文明実験として注目に値すると思います。

 一点、残念なのは1兆ドルのインフラ投資の具体案が見えないところですが、これに関しては、まだ試行錯誤が続いているのでしょう。

※参考:「小さな政府」の思想の典型の一つはアダム・スミスの『国富論』。そこでは国防と治安、公共投資という政府の三つの義務が挙げられている。ただ、トランプ氏は保護貿易論なのでアダムスミスの自由貿易論とは真逆。

「自然な自由の体制では、主権者が遂行しなければならない義務は三つしかない」「第一は、他国の暴力と侵略から自国を守る義務である」「第二は、社会の他の構成員による不正と抑圧から社会のすべての構成員を可能なかぎり守る義務、つまり厳正な司法制度を確立する義務である」「第三は、ある種の公共施設を建設し、公共機関を設立して維持する義務である」(山岡洋一訳『国富論(下巻)』P277~288)