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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

ティラーソン国務長官訪日 岸田外相と安倍首相と会談 訪韓、訪中にも要注目

国際 トランプ政権2017 安倍政権(外交) 全記事一覧

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(空母カールビンソンは15日に釜山港に。写真は中東航海での雄姿。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 ティラーソン米国務長官が15日に来日し、16日に岸田外相と安倍首相の順に会談しました。

 このたびの訪問では北朝鮮問題への対処に重点が置かれており、訪日後は17日にソウル(韓国)、18日に北京(中国)を訪問します。

 ミサイル発射や金正日氏暗殺など、行動が過激化する北朝鮮に、国務長官のアジア訪問を通してアメリカが近隣諸国とともにいかに対応するかが、注目されているわけです。

 今回は、その訪日の概要とティラーソン氏の外交政策を紹介してみます。

岸田外相との共同記者会見

 日本メディアでの各紙報道では、やはり、記者会見での北朝鮮問題への発言が紹介されています。

「約20年間やってきた北朝鮮の非核化の努力は失敗に終わった」「北朝鮮の脅威がエスカレートしている。そうすると違うアプローチが必要だ」(日経電子版2017/3/16)等と報じられ、日米外相が共に北朝鮮の核開発や弾道ミサイルの発射を容認しないと表明しています。

 そして、今後訪問する韓国、中国でも北朝鮮問題を協議し、中国に北朝鮮への影響力を行使することを期待することを明らかにしました。

「中国とはこれから交渉するが、北朝鮮の非核化を実現するため、北の態度を変えるため、それなりの態度を取って欲しい。義務を果たして欲しいし、制裁を果たして欲しい」(ロイター記事3/16

(※過去、中国は対北制裁を何度も骨抜きにしてきたので、筆者はこれは期待薄だと考えていますが・・・)

 ただ、気になるのは、その「違うアプローチ」の中身がよくわからないことです。そこがはっきりしなければ、北朝鮮の暴走を抑止できないはずだからです。

 各紙報道では北朝鮮問題の発言に焦点が当てられていますが、国務省HP記事の全文を見ると、今後の日米関係の在り方についても、かなり言及されているようです。

 ティラーソン氏は日米両国の地球的な課題への相互協力のほか、日米韓の協力体制の構築を望むことを明らかにしています。

 現在、朴氏罷免の後に大統領選が韓国で始まり、親北反米(+反日)の志向を持つムンジェイン候補が有力になっているので、日米韓の協力を望むトランプ政権と韓国の新政権との関係がうまくいくのかどうかが、今後の争点になりそうです。

我々は、日本と共に地域と地球的な課題を共有し、共同で対処していく。日米同盟は強固な安全保障面での協力関係を含むものだ。海洋における法に基づいたアプローチを確認し、北朝鮮の危険で無法な核兵器と弾道ミサイル開発計画に、日米関係の強化と、日米韓の三か国の連携をもって立ち向かう。

We will work with Japan on shared regional and global objectives, including strong security cooperation within the U.S.-Japan alliance; affirming a rules-based approach to maritime governance; and deepening American, Japanese, and South Korean trilateral cooperation in the face of North Korea’s dangerous and unlawful nuclear and ballistic missile programs.

 そして、日米同盟がアジア太平洋の平和と繁栄、自由に貢献していることを強調し、米国がアジアに関与し、日本が安全保障面でより多くの役割を担うことを歓迎する意向を示しました。

 以下は再三の確認ですが、ティラーソン氏も尖閣諸島の防衛が日米安保条約第五条(これは日米の共同対処を規定した条文)の範囲に含まれると発言しました。

 前掲の「海洋における法に基づいたアプローチ」という発言を合わせてみると、北朝鮮問題をメインにしながらも、東シナ海や南シナ海での中国の活動への牽制も意図していることが伺えます。

我々は、尖閣諸島が日米安全保障条約の第五条における相互協力と防衛の対象に含まれることを確認した。我々は日本の尖閣諸島の施政権を突き崩すいかなる一方的な行為にも反対する。

We affirmed that Article 5 of the 1960 U.S.-Japan Treaty of Mutual Cooperation and Security covers the Senkaku Islands. We oppose any unilateral action that seeks to undermine Japan’s administration of the Senkakus.

  日本の各紙が注目したのは、以下のティラーソン氏の発言です。

私は、過去20年間、北朝鮮に核を放棄させるために行った外交活動と他の取り組みは失敗したと認識することが重要だと考えている。

I think it’s important to recognize that the diplomatic and other efforts of the past 20 years to bring North Korea to a point of denuclearization have failed.

我々の20年間の取り組みは失敗している。そこには13.5億ドルの北朝鮮への援助も含まれている。北朝鮮は(※我々が期待した方向とは)違った路線を選んだ。

So we have 20 years of failed approach, and that includes a period in which the United States provided $1.35 billion in assistance to North Korea as an encouragement to take a different pathway.

援助は彼らのさらなる核開発やミサイル発射台の開発を助長することになった。2月11日と3月5日の出来事もその中に含まれている。

That encouragement has been met with further development of nuclear capabilities, more missile launches, including those of the recent February 11th and March the 5th.

この脅威の拡大を前にして、違ったアプローチが必要なことは明らかだ。

In the face of this ever-escalating threat, it is clear that a different approach is required.

  多少、省略されている部分を入れると、ティラーソン氏はそれなりに北朝鮮に厳しいスタンスを取ろうとしていることが伺えます。

ティラーソン氏と安倍首相の会談

 そして、安倍首相との会談では、日米同盟の重要性を強調しています。

 産経ニュース(2017.3.16)では、両者の以下の発言が紹介されていました。

(安倍首相は)「残念ながら北朝鮮の挑発的な行動が続いている」と危機感を表明。ティラーソン氏はトランプ政権が進める対北朝鮮政策の見直しに関連し「あらゆる選択肢がテーブルの上に乗っている」と説明した。

 両氏は東・南シナ海における中国の一方的な行動について懸念を共有。「米国の力強い関与が必要」との認識でも一致し、フィリピン、ベトナムなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)各国、インド、オーストラリアとの連携を深めていくことを確認した。

 北方領土をめぐる日露交渉に関しては、安倍首相が「プーチン露大統領との間で議論を深めている」と説明。ティラーソン氏は「私は北方領土問題についてよく理解している」とし、日露交渉に理解を示した。

(【米国務長官来日】ティラーソン氏、安倍晋三首相と会談 対北、圧力強化で一致「あらゆる選択肢がテーブルに…」)

  今回のティラーソン氏の訪日では、そのほか、日米の外務・防衛を担う閣僚の会合である「2+2」の早期開催や、慰安婦合意撤回に向かいつつある韓国への懸念、普天間基地移転による沖縄の負担軽減なども話題にのぼっています。

 全体的に見ると、外交の中心を担うはずの国務長官の訪日なのに、マティス国防長官の訪日時ほどのインパクトがなかったような気がします。

 マティス氏は、安倍・トランプ会談がどうなるかと皆が心配している時に、「代理人」として訪日したので注目されたのですが、ティラーソン氏の訪日は、日米首脳会談が終わり、その事後方針の確認が主な内容になっているため、その時ほどの盛り上がりがありませんでした。

 ただ、今回、ティラーソン氏は日韓だけでなく、中国にまで出かけるので、そこでトランプ政権の対中外交の方針がかなり明確になるはずです。そのため、同氏のアジア訪問への注目度は、訪日時よりも訪中時のほうが高くなるのではないでしょうか。

 国務長官のアジア訪問に合わせたのか、米空母カール・ビンソンは15日に韓国の釜山港に入り、4月下旬までの米韓合同演習「フォールイーグル」に参加します。現在、定例の米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」が13日~24日が実施中なので、トランプ政権は軍事演習と国務長官のアジア訪問を合わせることで、北朝鮮や中国へのにらみを利かせようとしているわけです。

 そのほか、訪韓時には、高高度のミサイル迎撃システムであるTHAAD配備に関する協議がなされるともみられています。

トランプ政権が金政権排除に踏み込む? それってホント?

 トランプ氏が北朝鮮政策でどこまで踏み込む気なのかは、まだはっきりしないのですが、同氏の政権では、オバマ政権よりも激しい手段に踏み込むのではないかと見る人も少なくありません。

 ZAKZAKニュース(3/16)では、そうした見方で憶測記事を書いていました。

 米国は対北朝鮮戦略を見直し、「斬首作戦」「限定空爆」の準備をほぼ完了した。ティラーソン氏は今回、日本と韓国、中国を歴訪して最終調整を行う。ドナルド・トランプ米大統領の強烈な覚悟を前に、正恩氏は暴発して滅亡の道を選ぶのか、クーデターや命乞いの亡命の可能性はあるのか。

 「北朝鮮は域内の安定を害するプレーヤーだ」「北朝鮮の脅威に対処するため、『新たな構想』『新たな方法』を探り、より多くのことをすべきだ。北朝鮮の悪い行動を中断させる必要性は、みんなが共感している」

 米国務省のトナー報道官代行は13日の記者会見で、こう言い切った。

 トランプ政権は、オバマ政権の「戦略的忍耐」方針を転換し、新たな対北朝鮮戦略を構築しつつある。米軍の特殊部隊が正恩氏を急襲・排除する「斬首作戦」や、北朝鮮の核・軍事関連施設をピンポイント爆撃する「限定空爆」など、「あらゆる選択肢」が含まれる。

 こうした戦略を実行するには、同盟国である日本と韓国の理解とともに、北朝鮮と「血の友誼(ゆうぎ)」を結ぶ中国の了解が欠かせない。朝鮮戦争は休戦中であり、北朝鮮中枢を攻撃した場合、中国による介入も考えられるからだ。ティラーソン氏のアジア歴訪は、Xデーに向けた“地ならし”といえそうだ。

  しかし、筆者は、このシナリオには幾つかの難点があると考えています。

 その一つは、トランプ政権の最優先事項はISIS掃討になっており、現在、そのプランを作成中なので、中東と同時にアジアの二カ所で、こうしたハイリスクの作戦を展開する余裕があるかどうかが、怪しいということです。

 米軍はオバマ政権の頃に2正面作戦を放棄したため、まだ発足直後のトランプ政権で、突然に2方面での戦争を生みかねないプランに足を突っ込む体制ができているとは思えません。

 そのほか、この記事では、ティラーソン氏の訪中で米軍の北朝鮮攻撃を中国が了解する可能性をほのめかしていますが、その可能性は極めて低いと言えます。

 なぜかと言えば、中国の軍事・外交政策の最優先事項は「台湾併合」(できれば”平和的”な)になっており、これを行うためには、朝鮮半島の安定と、対ロ関係の安定の二つが不可欠になっているからです。

 台湾関係法によって米軍は台湾を支援することになっているため、中国と台湾が軍事的に対立する際には、中国軍は通常兵力を大規模投入し、米軍が支援に入る前に事を終わらせなければいけません。朝鮮半島にいざこざがあり、その警戒や介入のために戦力を取られる状態であっては、それが難しくなるからです。

 そのため、ティラーソン氏が訪日したところで、中国は北朝鮮崩壊のための作戦にOKを出せるはずがないのです。

 米中の動向を考えるうえでは、両国の外交・軍事政策の最優先事項を無視してはまずいでしょう。

そもそもティラーソン氏の外交政策とは?

 前掲のZAKZAKニュース記事では、ティラーソン氏の人事を承認した上院公聴会での発言が紹介されていました。

 「イランと北朝鮮のような『敵』が国際規範を拒否していて、世界に重大な脅威となっている」

 注意すべきは、ティラーソン氏が「敵」を示す際に「adversary」という単語を使用したことだ。自分たちと激しく対立し、害を及ぼす能力を持つ「敵対者」に使う単語で、「enemy」よりも、強い敵意を含む表現といえる。

 これは特に注目された発言の一つですが、ティラーソン氏はこの時に、書面で外交方針を明らかにしているので、それを読めばおおよその外交方針が分かります。

 ”Secretary of State Designate Rex Tillerson Senate Confirmation Hearing Opening Statement”(January 11, 2017)という長い題名の書面がワシントンポストのサイト上に公開されているのです。

 書面は11ページあるのですが、その中で印象的なところをピックアップしてみます。

 興味深いのは、「アメリカが新しい環境の進展の中で少なからぬ脅威に直面している」という指摘の後に、筆頭で中国が名指しで挙げられているところです。

「中国は国際貿易のなかで新興の大国として現れ、友好的であると同時に敵対的な相互作用を我々に及ぼしている」と述べているのです。

”We face considerable threats in this evolving new environment. China has emerged as an economic power in global trade, and our interactions have been both friendly and adversarial.”

 そして、その次に話がロシアに移ります。

「一方、ロシアは(※大国としての)尊厳を追求し、国際社会の舞台に関与している。最近の活動はアメリカの国益をないがしろにしているのだ」

”While Russia seeks respect and relevance on the global stage, its recent activities have disregarded American interests."

 同氏の上院での発言はこの書面の記述とも対応しています。

 そして、次に脅威として挙げられるのがイスラム過激派です。

「イスラム過激派は新しいイデオロギーだ。それは命がけの敵意に満ち、正当化されえないイスラム信仰の表現を伴っている」

”Radical Islam is not a new ideology, but it is hateful,deadly, and an illegitimate expression of the Islamic faith.”

 その続きで、イランと北朝鮮が出てきているのです。

「イランや北朝鮮のような敵も、国際規範への不服従のゆえに世界への脅威となる」

”Adversaries like Iran and North Korea pose grave threats to the world because of their refusal to conform to international norms."

 オバマ政権の脅威の筆頭はロシアでしたが、ティラーソン氏の書面では筆頭からその名前が消えています。二番目にロシアを挙げています。しかし、同氏は親露派なので以下のフォローを入れています。

「我々にはロシアとの率直な対話が必要だ」「世界的な脅威やテロに関する共通の利益に基づいてロシアと協調することは可能だ」

”But we need an open and frank dialogue with Russia"

"Where cooperation with Russia based on common interests is possible,such as reducing the global threat of terrorism"

 書面の記述から見ると1月20日以降、IS殲滅作戦が本格化しそうです。

「ISを屈服させることは我々の中東における最優先事項でなければならない」

”Defeating ISIS must be our foremost priority in the Middle East."

 そして、中国に対しても南シナ海での横暴や知的財産権侵害を批判しています。

「中国の南シナ海での埋立は国際規範への敬意を欠いた紛争地域での不法行為である。中国の経済と貿易の慣行は世界的な取り決めに必ずしも従うわけではない。それは、我々の知的財産権の侵害を伴い、デジタル領域でも攻撃的な拡張主義者となっている」

"China’s islandbuilding in the South China Sea is an illegal taking of disputed areas without regard for international norms. China’s economic and trade practices have not always followed its commitments to global agreements.It steals our intellectual property, and is aggressive and expansionist in the digital realm”

 中国批判もそれなりに力が入っているようです。

 ティラーソン氏はこうした世界の危険地図を描いているわけですが、これらの脅威の対象たる国々がどうしてつけあがったのか、という問題に関しては、アメリカの指導力の不在に帰しています。前政権の力不足を暗に批判しています。

「こんにち、我々の友好国は我々の助けを欲しているが、彼らは何をしたらよいか分からないでいる。一方、我々の仇敵はアメリカの指導力の不在を利用してつけあげった」

”Today, our friends still want to help us, but they don’t know how. Meanwhile, our adversaries have been emboldened to take advantage of this absence of American leadership."

  ティラーソン氏は中国に対してはかなりシビアなのですが、日米首脳会談前のトランプ氏に「一つの中国」を認めることを進言するなど、硬軟の両面を見せています。

 同氏はエクソンモービルCEOとしてロシアに乗り込み、難しい石油開発の交渉をなしとげたタフネゴシエーターとして知られているので、硬軟の両面を見せて、今後、中国との交渉にあたることを考えているのでしょう。

 17日の訪韓、18日の訪中しますが、特に訪中時に、ティラーソン氏はどのような方針を打ち出すのかは、今後の米中関係を見るうえで、重要な機会となるはずです。