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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

韓国大統領選 候補者の政策や顔触れなど ~文在寅を洪準杓、安哲秀、安熙正が追う~

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(ソウルの風景。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 朴槿恵大統領の罷免後、韓国の大統領選の投開票日が5月9日に決まりました(臨時閣議決定)。

 風向きが逆風と見て、有力候補の一人だった潘基文(バン・キムン)国連事務総長が出馬を撤回。その後、保守系候補として期待されていた黄教安(ファン・ギョアン)首相(大統領代行)も不出馬を表明。

 与野党のそれぞれが公認候補者選びを進めていますが、その中でも特に注目を集めているのが、4月3日の「共に民主党」の予備選です(※過半数を得る候補者がいなければ8日に決選投票)。

 現在、3割程度の支持率をキープする文在寅(ムン・ジェイン)前代表がトップを走っているのですが、その勢いが今後も続くのかどうかが注目されています。

韓国大統領選有力候補の支持率

 まず、有力候補の支持率を見ていきましょう。

 3月7日~9日に実施された韓国ギャラップの調査(出所:聯合ニュース日本語版 3/10)と、4月3日にリアルメーターが発表した調査(出所:朝鮮日報日本語版4/3)を比較すると、有力候補の支持率は以下の通りです(3/7⇒4/3で表記)。

  • 文在寅(ムン・ジェイン):32%⇒34.9% ※「共に民主党」前代表
  • 安熙正(アン・ヒジョン):17%⇒12.1% ※「共に民主党」忠清南道知事
  • 李在明(イ・ジェミョン):8%⇒10% ※「共に民主党」城南市長
  • 安哲秀(アン・チョルス):9%⇒18.7% ※「国民の党」前代表

 このうち「国民の党」は革新系の野党第二党で、不出馬を表明した黄教安(ファン・ギョアン)大統領権限代行首相は保守系の自由韓国党に所属しています。保守系に属する「自由韓国党」の公認候補である洪準杓(ホン・ジュンピョ)慶尚南道知事は7.5%(4/3時点)の支持率しかありません。

 その後、4月7日~9日の各種世論調査では安哲秀氏が文在寅を上回る支持率を出し、文氏を警戒している層が安氏に期待していることが明らかになりました(出所:中央日報日本語版4/10)。

  • テレビ朝鮮: 安氏34.4%/文氏32.2%(4/7~8調査)
  • コリアリサーチ:安氏36.8%/文氏32.7%(4/8~9調査)

 しかし、その後、安哲秀氏はテレビ討論会を契機に失速。保守層は洪準杓氏に期待をかけ、2位と3位で票が割れることになりました。

 5月9日の出口調査では、文氏が4割程度の票を得、当選することが見込まれています。

 時事通信(2017/5/9)では、KBSテレビなどの出口調査を根拠にした予想得票率を報じていました。

  •  文在寅氏:41.4%
  •  洪準杓氏:23.3%
  •  安哲秀氏:21.8%

 ほぼ文氏の当選確実と見られていますが、今後はどうなるのでしょうか。 

韓国大統領選の有力候補の顔触れ一覧

 次に、気になる候補者の人物像を押さえてみます。現在の韓国では「保守系」でも「反日」路線を打ち出すことが増えているので、革新系との違いが、韓米同盟を重んじて北朝鮮に対峙する姿勢を持っているかどうか、慰安婦合意の維持もしくは撤回、経済政策の重点事項(格差是正へのスタンスの違い)等で分かれる構図が出てきているようです。 

文在寅(ムン・ジェイン):野党「共に民主党」前代表

 1953年1月生なので、現在は64歳です。

 大学生時代に朴正煕政権に対して「民主化運動」を行って逮捕され、卒業後は弁護士になりました。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の選挙活動を秘書として支え、その後、大統領府で秘書室長になります。

 2005年の「親日派財産没収法」の成立や、2007年の国連における北朝鮮人権決議案採択時の韓国棄権などでは、文氏が影響力を発揮したとも言われています。

 2012年の大統領選挙では朴槿恵氏に4%差で敗れましたが、現在、朴氏の体たらくを見て、「やはり、文氏のほうがよかったのか?」という考えが国民の中に出てきているようです。しかし、2016年7月には竹島上陸を行って反日アピールをしているので、この人が大統領となれば、慰安婦合意の破棄も含めて日韓関係の悪化は必至です。

 対北朝鮮政策で宥和路線を打ち出すことを保守層から警戒されていますが、その兆候は、米国の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)配備への反対に表れています。

(※追記:米中首脳会談後、文氏は世論の風向きを見たのか、核実験を強行して挑発を続けるならばTHAAD配備は不可避になると政策を転換した)

 また、韓国と北朝鮮の協力事業である開城(ケソン)工業団地と金剛山(クングンサン)観光の再開を主張している(国連制裁違反)のも要注意です。この事業は北朝鮮にとって年間1億ドルの収入源になっていたので、暴走する金正恩政権にエールを送ることと何ら変わりがないからです。

 文氏は、前回の大統領選後、立候補を辞退したもう一人の候補者だった安哲秀氏を野党「共に民主党」の共同代表としましたが、2016年4月の総選挙前に安氏は離党。その責任を取らされ、代表を辞めています。しかし、有力者として2016年の総選挙に勝利をもたらしたので、大統領選に出馬するに至りました。

 『SAPIO 2017年4月号』(P20~21)は、2012年の大統領選では「文氏は20、30代の若者の6割強の支持を得たが、50歳以上の中高年層の票は朴氏に流れた」「50歳以上の中高年層の票が、30代以下の若年層の票を上回る初の大統領選となった」とも述べています。今回の反朴運動の参加者は若者層が多いので、現状の文氏優勢の流れが覆る可能性は低いでしょう。

洪準杓(ホン・ジュンピョ):自由韓国党代表

 洪氏は現在、62歳(1954年12月5日生、最終学歴は高麗大学校)。ハンナラ党(この党はその後、セヌリ党⇒自由韓国党へと名を変える)にて、2011年(7月~12月)に代表を務めていました。

 収賄容疑で代表辞任を余儀なくされ、15年7月に政治資金法違反で在宅起訴。16年9月に実刑判決。その後、17年2月の第二審で逆転無罪となりました。17年4月9日に慶尚南道知事を辞め、大統領選に出馬。当初は票が伸びませんでしたが、最終段階では保守層の期待を受け、大きく躍進しています。

安熙正(アン・ヒジョン):「共に民主党」忠清南道知事

 1965年の5月1日に生れたので、大統領選の5月9日の時点では52歳。出身地は忠清南道論。高麗大で学生運動のリーダーとなりました(除籍処分等を受けている)。

 1989年に統一民主党の国会議員(金徳龍氏)の下で勤務。金議員とは、当時、民主自由党への三党合同を契機に分かれ、安氏はその後、民主自由党で事務局長の秘書として勤務します。その後、政界に幻滅し、92年に出版社の営業部長として働いていましたが、後に大統領となる盧武鉉氏を助け、2002年の盧大統領当選に貢献します。

 ところが、2003年12月に金銭問題を原因に罪に問われ、ソウル拘置所で服役。波乱万丈の人生ですが、釈放後は自らの政治活動を開始し、2010年の地方選で、忠清南道知事に当選。政策としては都市開発や格差是正、地方分権等をうたっているので、外交・安保政策の見識は未知数です。

 現在は、中道派のスタンスを打ち出し、米国の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)配備に賛成するなど、保守層の取り込みを図っています。 

安哲秀(アン・チョルス):野党「国民の党」前共同代表

 元々は医師でした。27歳で大学教授となり、95年に開発したコンピューターウイルス対策ソフトが大受けして「アンラボ」を起業。97年にマサチューセッツ大学院で修士号を取得し、社業に専念します。同社をウイルス対策ソフトの大手企業に発展させ、アジア各国へソフトを輸出しました。ソウル大学融合科学技術院院長となった後、2012年の大統領選では有力候補として取り上げられています(途中で文氏当選を狙う野党側の選挙戦略に合わせて辞退しました)。その後、国会議員になり、「共に民主党」の共同代表を務めましたが、総選挙前に離党して「国民の党」を結成。現在は前代表という立場ですが、本年の8月28日に記者会見を行い、事実上の大統領選出馬を宣言しています。

 優秀な人ですが、外交政策への見識は未知数です。

 3月にはTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に関して国民投票で是非を決定すべきだと述べ、その見識を疑われるに至りました(「共に民主党」も含めて、これは国民投票案件ではないと見なしている)。

 ただ、米中首脳会談前後にTHAAD配備を強調するようになっています。

 そのほか、慰安婦に関する日韓合意の撤回を求めるなど、歴史認識で日韓の現政権と対立する路線を打ち出しています。

李在明(イ・ジェミョン):京畿道城南市長

 弁護士だった李氏は2010年7月以来、人口100万人の城南市長を務めています。産経ニュース(2016.12.5)は、李氏を過激発言で有名な「韓国のトランプ」と紹介し、「日韓軍事情報包括保護協定の仮署名が14日に行われた後にはSNSで朴氏らに対し、「お前たちの祖国日本へ帰れ」と書き込んだ」と記しています。

 この人は、反日が高じて軍事的合理性(北朝鮮に対抗するための日韓連携)を失うレベルにまで踏み込むこともやぶさかではありません。

 3月7日には中国中央TVに出演し、当選後のTHAAD撤回を約束しています。

 毎日新聞(12/11:朝刊2面)によれば、崔氏の国政介入疑惑が浮上した10月下旬から李氏は激しい言動で支持率が伸び、一時期は2%(8月中旬)から18%(12月初旬)へ伸びました。

 しかし、熱しやすく冷めやすい韓国では勢いが続かず、現在は1割程度の支持率となっています。

 同記事は李氏は工場で働きながら検定試験で高卒資格を取得し、奨学金で大学で苦学して弁護士になった経歴と朴氏逮捕や財閥批判等の同氏の主張を紹介。国民受けする素地はありそうです。

 反米・反日、北朝鮮への宥和政策・・・。その行き先はどこ?

 最有力候補の文在寅氏は、北朝鮮との宥和政策と反米政策に血道をあげた盧武鉉(ノムヒョン)氏の元側近です。

 北朝鮮の核開発が深刻化していますが、文在寅氏が大統領になれば、かつての上司だった廬武鉉氏のように反米外交と北朝鮮への宥和政策を始める可能性があります(廬武鉉政権で、文氏は大統領秘書室長をしていた)。

 参考までに紹介すれば、廬武鉉政権の頃の対米外交は以下の軌跡をたどりました(裵淵広著『中朝国境をゆく』P186~196)

「在韓米軍の撤退を主張した過去がある盧武鉉大統領が、02年末の大統領選挙で当選した最大の要因は、訓練中の米軍の車両が二人の韓国人女子中学生を轢き殺した事件にあった。この事件を機に、若い世代に蔓延していた反米感情に火がつくと、『反米でどこが悪い』などと扇情的な言動で人気を高め、番狂わせの当選を果たした」

 廬武鉉氏は反米を売りにして人気を集め、米韓同盟の根幹をなす戦時作戦統制権(戦作権)を動かします。これは有事に米韓同盟軍を指揮する権限です。

 長らく、米軍がこれを握っていたのを、廬武鉉氏は韓国側に返還させようと試み、当時の韓国軍の現状を知る当時の軍人たちに反対されたのです。

「歴代国防長官ら軍長老の15人が集まり、韓国軍の戦作権単独行使は米韓連合司令部の解体につながるだけでなく、結果的に在韓米軍の撤退につながるとして、尹長官に戦作権返還要求の中止を求めた」(※2006年8月2日。軍長老は盧武鉉大統領と尹光雄国防長官に反対する)

 米国側は、それなら戦作権を返還し、米軍を撤退させるぞと息巻きました。

「米国防長官は8月7日の記者会見で、『韓国が戦作権を単独行使する場合、在韓米軍は支援兵力のうちの一部をさらに減らす可能性がある』と語ったうえで、『韓国は2012年の戦作権の移譲を提案しているが、米国は09年を希望している』と明らかにし、韓国の軍事関係者を動揺させた」「米韓連合司令部が解体されて韓国軍に戦作権が委譲されると、米軍が韓国軍の指揮下に入ることはありえない」

 当時、盧武鉉氏は「今、返還されても戦作権を行使できる」と返答しましたが、米軍がいなくなった後、朝鮮の安全保障を韓国軍で全負担するのは大変なことです。

 実際は、ソウル市が国境に近すぎるため、北朝鮮は国境周辺から火砲を並べて砲撃すれば、旧式兵器でソウル市を火の海にできます。近年は核開発が進んだので、米軍が要らない等とはとても言えないでしょう。

 廬武鉉氏が騒ぎ立てた戦作権返還の話は、その後、イミョンバク政権、パククネ政権で延期に延期を重ね、平時のみ韓国軍主導、有事は米軍主導という形になりました。

 次の大統領選で文在寅氏が勝ち、廬武鉉氏に似た外交政策を展開すれば、米韓関係の悪化が始まるかもしれません。しかも、その時の大統領はトランプ氏なので、この場合は、米韓同盟の存続の危機が出現する可能性があります。

 朴大統領が糾弾されていますが、必ずしも次の大統領が朴氏よりも優れた人材となる保証はありません。現在、文氏が次期大統領選でトップを走っているのですが、その政策や発言の中身に、もっと注意が払われなければいけないでしょう。