トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米FRB利上げ FOMC声明は強気色 これからはトランプ、議会、中央銀行の三ファクターの注視が重要

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(ローマ時代の貨幣。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 アメリカの連邦準備理事会(FRB)は、15日(日本時間では16日)に金利の引き上げを決めました。

 金融政策の意思決定を司る連邦公開市場委員会(FOMC)で民間銀行同士で資金を貸し借りする際の利率であるフェデラル・ファンド(FF)金利を0.75%~1%に引き上げたのです。

 近年の利上げは15年12月、16年12月に行われたので、前回よりも利上げを急ぐFRBのスタンスが鮮明になっています。トランプ氏はイエレン議長を再任しない方針なので、同議長としては動ける間に、景気の過熱を予防する利上げの「注射」を行いたい、と考えているのかもしれません。

FOMC声名発表後の為替と株価の動き

 この意思決定を受けて、1ドル=114.7円前後で推移していた為替は、午前3時頃を境にして113.4円台に移行しました(本稿執筆時点では113.39円)。

 ダウ平均株価は20873ドル(2時55分)から20950ドル(5時10分)へ。S&P500は2374ドルから2384ドル(5時)へと上昇しています(ブルームバーグサイト参照)。

いつもながら専門用語が多すぎるFRB声明

 日経電子版(2017/3/16)でその要旨が紹介されていました(「物価、目標の2%に近づいている」FOMC声明要旨)。

  • 「雇用増は依然堅調で、失業率はこの数カ月ほぼ変わらなかった。家計支出は引き続き緩やかに伸びており、企業の設備投資は幾分しっかりしてきた」
  • 「物価はこの数四半期上昇しており、FOMCの長期目標である2%に近づいている。エネルギーと食品の価格を除くと、物価上昇率はほぼ変わらず、引き続き2%をやや下回った。市場が織り込むインフレ率は依然低い。アンケート調査による測定では、長期のインフレ予想は総じてあまり変わっていない」
  • 「FOMCは、金融政策の運営姿勢の緩やかな調整によって、経済は緩やかなペースで拡大し、労働市場の状況もさらに若干改善し、物価上昇率も中期的に2%付近で安定すると予測している」
  • 「労働市場情勢と物価上昇の実績と見通しを踏まえ、(政策金利である)フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.75~1%に引き上げることを決定した。緩和的な金融政策は維持し、労働市場がさらに若干改善し、物価上昇率が2%へ持続的に回帰するのを支える」
  • 「経済情勢はFF金利の緩やかな引き上げを許すようなかたちで進むと予測している」
  • 「米機関債と住宅ローン担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策は維持する」

 「雇用の最大化と物価安定の実現」というFRBの趣旨に沿って、おおむね経済情勢は良好と判断し、利上げは可能だと判断した、ということを読みにくい専門用語を並べて説明しています。

 物価が目標値の2%に近づき、もろもろの指標を見ると、どうやら景気は悪くないようだ。家系も企業も動きは堅調。失業者の数も同じぐらいだな。トランプ氏は私を延命させてくれないから、やれる間に利上げをしておこうーー筆者はイエレン氏はそう考えたではないかと勝手に推測しています。

 物価上昇率が「長期目標である2%に近づいた」「中期的には2%近辺で安定するとみている」という予測のあたりが前回よりもやや強気になっていることを特に重視すべきでしょう。

 なお、FOMCのうち、利上げに反対したのはわずか1名のメンバーにすぎませんでした。

トランプ政権、米議会、FRBという経済政策の三つのファクター

 オバマ政権の時代には大不況がFRBの金融政策を通して克服され、失業率が順調に低下。オバマ大統領の経済政策とFRBの方針がおおむね一致していたのですが、現在は、トランプ氏とイエレンFRB議長とは経済政策の考え方が違うので、この二つの動きを注視しなければいけなくなっています。

 イエレン氏とオバマ氏からすれば、我々の経済政策で米国は不況から立ち直った、という論理になるのですが、その恩恵にあずかれなかった人々の不満を吸い上げて当選したトランプ氏は、そう考えていないからです。

 いちおう、過去のデータを確認すると、失業率は7.8%(09年1月)⇒10%(09年10月)⇒9%(11年3月)⇒8%(12年8月)⇒7%(13年11月)⇒5.9%(14年9月)⇒5.5%(15年5月)⇒4.9%(2016年6月)と順調に下がってきているので、前政権とイエレン氏がうまくやったことは明らかなのですが、全国の平均値ではよくなっても、地域別に見た場合には、深刻な窮状が展開していることも起こりえます。

 こうした矛盾をついてラストベルト(さびついた工業地帯。場所で言えば米国中西部地域と大西洋岸中部地域)の白人労働者層の支持を得て、トランプ氏が台頭してきました。

 そして、ややこしいことに、トランプ氏と共和党議員の経済政策も完全に一致しているわけではないので、実際には、今後の米経済を動かすファクターとして「議会」を見ていかなければなりません。

 トランプ氏と共和党議員との主な相違点は、トランプ氏が保護主義であるのに対して、共和党議員の多くは自由貿易主義者であることです。そして、トランプ氏よりも共和党議員の中には財政収支の均衡を重視するメンバーが多いので、減税やインフラ投資の規模や具体策に違いがあります。

 今まではバーナンキ氏やイエレン氏などのFRB議長の動向に注目が集まっていましたが、今は市場を動かす要因として、トランプ氏の動向と共和党議員の動向というファクターが加わっています。

 米議会を見なければいけないのは、米国は三権分立の国であり、予算を議会が司っているからです。

 トランプ氏は大統領であっても予算と法律をつくることはできません。

 議会で演説したり、予算教書を出すことはできますが、それに呼応して共和党議員が法案案と予算案の可決のために動かなければ、結局、トランプ氏の政策は絵に描いた餅で終わってしまいます。

 日本人の多くは米大統領に対して強大な権力者というイメージを持っているのですが、内政に関しては議会の権限がかなり強く、行政学の研究者からは、米国大統領の権限の弱さを指摘する声も出ています。

 予算編成が財務省で行われ、内閣提出法案の多い日本とは違い、米国議会は予算編成権を握り、議員立法も盛んなので、議会の動向が米国経済に大きな影響を与えるわけです。

 現在、米国株の価格が上がっている大きな要因には、減税やインフラ投資、国防強化などで、トランプ氏と共和党議員たちの路線がおおむね一致し、共和党が議会で過半数を制していることが挙げられています。

 米国の場合、政策が大統領府を通して実行されるケース(大統領令等)と、議会を通して実行されるケースがあるため、新政権の経済政策を見るうえでは、結局、大統領、議会、FRBの三者の観察が必要になります。