トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

オランダ総選挙 自由党のウィルダースの勝敗は? EU崩壊が始まるのか? 

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(出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  オランダ総選挙(下院定数は150議席)が3月15日に行われます。

    この選挙で注目を集めているのは、EU離脱とイスラム系移民の排斥を訴える自由党のウィルダース党首。自分の活動を英国のEU離脱運動や米国のトランプ氏の勝利になぞらえるウィルダース氏は「オランダのトランプ」とも呼ばれています。

 同氏の勝敗が判明するのは、16日の午前頃なので、いよいよその決着の時が近づいてきました。ちょうど、イギリスの議会でEU離脱法案が13日に可決され、月末までに離脱通告が実施されることが決まった後なので、オランダの総選挙の行方が注目されています。

 自由党(ウィルダース党首)が訴えるEU離脱と、自由民主国民党が訴えるEU維持のどちらが勝つのかーーユーロの存続にも影響を与えるイベントでもあるので、市場関係者は総選挙の前後に固唾をのんで為替の推移を見守っているわけです。

 この選挙に関して、日テレNEWS24の記事(3/14)では自由民主国民党と自由党はそれぞれ24議席を占めるという「Een Vandaag」の予測を紹介していました。

 そして、以下の市民の声を報じています。

 市民「たぶん自由党に投票します。(Q:一番重視する政策は?)社会の安全です」
 市民「差別するのはよくないと思います」
 市民「他者の意見を尊重すべきです」

(「極右政党が台風の目…きょうオランダ総選挙」3/14)

 現在、12議席の自由党が議席を倍増させ、40議席の自由民主国民党は大きく議席を減らすことが予測されています。

 果たして、オランダ総選挙の行方はどうなるのでしょうか。

オランダの政治の仕組みはどうなっている?

 そもそも、オランダの政治の仕組みはどうなっているのでしょうか。

 新聞やニュースでは予備知識のない国民に向けて、オランダ選挙の出来事が断片的に報じられがちなので、基礎的な情報を整理してみます。

 オランダの政治の仕組みは、どことなくイギリスと似ていますが、大きな違いは、総選挙の仕組みで比例代表制が採用されている点にあります。

 比例代表制だと、数%の得票率の小政党でも議席を持てるので、過半数を占める大政党が出にくくなり、中規模の政党が群雄割拠になりがちです。

 ここが、長らく、小選挙区制を用いて二大政党の決戦を続けてきたイギリスとの大きな違いになっているわけです(近年、第三勢力が出るなど、変化の兆しが出ていますが)。

 オランダにも国王がおり、議会で選ばれた首相が政治を主導している(議院内閣制)ところはイギリスと共通しています。

 そして、議会には第一院(定数75人)、第二院(150人)があり、共に任期は4年。マスコミ報道では、第一院が上院、第二院が下院と呼ばれていることが多いようです。

 オランダ憲法では第二院(下院)だけが法案を提出できる等の優先的な地位が認められています。この議会における連立与党から首相が選ばれるので、15日の第二院(下院)総選挙は国の行方を決める最大のイベントだと言えます。

 第二院総選挙は比例代表制なので、前述のように、過半数を占める与党がありません。

 ざっと、自由党以外の政党の概要を見てみると、「保守」とされているのは自由民主国民党で、自由党(PVV)はその上を行く「極右」という扱いで報道されています。

  • 自由民主国民党(VVD):穏健な自由主義を掲げ、保守層や企業関係者等が支持基盤
  • キリスト教民主同盟(CDA):中道政党。カトリックとプロテスタント勢力が連合している。
  • 労働党(PVDA):社会民主主義政党。リベラル勢力で労組等の支持を受けている。
  • 民主66党(D66):首相直接選挙、第一院廃止等の政治機構改革を訴え、若者等の支持を受ける。中道左派。

 前掲記事では、自由民主国民党と自由党の議席数が24議席と予測されていますが、オランダ第二院では、いくつかの政党が連立し、そこから首相を選出します。

 このたび、主要政党は、自由党が第一党になっても連立しないことを訴えているので、選挙後に、ウィルダース氏が首相になったり、自由党が与党入りすることは難しいでしょう

 しかし、この選挙を通してオランダ国民がどの程度、EU離脱を望んでいるのかが明らかになるので、その結果は次のフランス大統領選やドイツの総選挙にも影響を与えます。

 国際法が憲法よりも優先されるオランダで「自国民第一」を訴えるウィルダース氏が多数の国民に支持されるということは、「国際的な取り決めなんてどうでもよい」という民意の出現を意味しており、それは、数多くの移民を受け入れてきたオランダという国が今後、変質していく可能性を示しています。

自由党を率いるウィルダース氏は何を訴えているのか

 ヘルト・ウィルダース氏は1963年に生まれ、30代半ばに(1997年)ユトレヒトの市会議員になりました。

 98年に、現在、戦っている相手である自由民主国民党で下院議員に当選してています。

 若いころに2年ほどイスラエルに住み、数多くイスラエル訪問を繰り返し、現在も強い親イスラエルの姿勢を打ち出しています。

 2006年に自由党を結成し、10年以上、党首を務めているわけですが、反イスラムを貫き、コーランをファシストの書籍と同一視したり、イスラム系移民の排斥したり、EU離脱を訴えたりと、過激な主張のために、ずっと政権入りの圏外に置かれてきました。

 ニューズウィーク日本版の記事(3/14)では、ウィルダース氏の発言が紹介されています。

「ヨーロッパは実のところ、崩壊しつつある。内側からも外側からも爆発寸前だ」「言うまでもなく、原因はすべて、数十年にわたって国境を開放し、文化に優劣はないという多文化主義の政策をとってきたところにある。それが、現代ヨーロッパが抱える最大の病だ」

(「 極右政治家ウィルダースはオランダをどう変えるか」ジョシュ・ロウ)

 そして、同氏が財政面で閣外協力を拒否して与党を追い詰めた過去の事例などを紹介し、ケンブリッジ大・レオニー・デオング教授による人物評と今後の動向予測を掲載していました。

「ウィルダースは首相になるつもりはない、というのが大方の見方だ」「部外者でいた方がもっと多くのことができる。ウィルダースは、負け犬のアウトサイダーという役割を演じるのがとてもうまいのだ」

「ウィルダースが主流派からのけ者にされれば、エリート政治家は国民の意思を無視しているという彼の主張を勢いづけるだけだ」とデヨングは言った。「そうなれば、彼は負けない」

(出所は同上)

  他党が連立を拒否しているので、下院内で勢力を伸ばした場合、一種の「裏番長」的な位置づけで、国政を揺さぶっていく可能性が高いわけです。

 トランプ氏と似ている面もありますが、一気に大統領を目指したトランプ氏に比べると、比較的、漸進的な戦い方を展開しています。

 近年になって、EU内に矛盾が噴出し、その活動が国民に注目されるようになりました。

 トランプ氏がアメリカの伝統に沿って神を信じるキリスト教徒であることを何度もPRしているのとは違い、ウィルダース氏は無神論者だと公言しています。

    欧米の政治的伝統では、保守層は宗教的な人が多いのですが、極右と言いながらも保守の伝統とは違う思想が入っているようです。

 このあたりは、オランダとアメリカの国民性の違いを反映しているのかもしれません。

追記:15日のオランダ総選挙は自由民主国民党が第一党を維持

 開票終了間際の議席数速報として、以下の数字がBBC記事(3/16)で報じられています(「選挙勝利のオランダ首相「誤った大衆迎合主義」の否定と 右派ウィルダース氏抑え」)。

  • 自由民主国民党(VVD):33議席(-8議席)
  • 自由党(PVV):20議席(+5議席)
  • キリスト教民主勢力(CDA):19議席
  • 民主66(D66):19議席
  • グリーン・レフト:14議席(+10議席)
  • 労働党:9議席(-29議席)