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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

メルケルVSトランプ会談の行方 独首相訪米でユーロ、ドル、株価はどうなる?

トランプ政権2017 ヨーロッパ 国際 全記事一覧

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(難民を保護するドイツのフリゲート艦。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  ドイツのメルケル首相の訪米は、当初、3月13日~14日に予定されていましたが、米国東部の悪天候により、米独首脳会談の日時は17日に変更されました(日本時間で言えば18日頃)。

 しかし、寛容な移民政策を採るドイツと七か国からの入国禁止を打ち出したトランプ氏との政策には隔たりが大きいので、イギリス、日本、イスラエルのようにうまくいくかどうかはまだわかりません。

「前向きな会談にするのが目標」(米政府高官)。「個人的な関係を築くためにすべての時間を費やすだろう」(独政府の欧米担当者)。両首脳の初顔合わせを控え、双方から聞かれるのは、こうした声だ。

(産経ニュース「メルケル独首相、13日から訪米 関係構築へ緊張感も」2017.3.12

 ただ、メルケル氏はトランプ氏と電話会談を二回ほど行っており、ペンス副大統領との会談も行っています。

 2月にはマティス国防長官やティラーソン国務長官、ペンス副大統領が訪欧し、NATO支持を表明してきたばかりなので、選挙中の発言で硬化した米国と欧州諸国との関係は改善されてきています。

 そのため、うまくいくのではないかという見方もできなくはありません。

 今回は、この会談について、トランプ政権がどう考えているのかを探ってみます。 

トランプとメルケルの電話会談~NATO重視で一致~

 ホワイトハウスのHPには、1月28日になされたトランプ大統領とメルケル首相との電話会談の記録が公開されています(出所:Readout of the President's Call with Chancellor Angela Merkel of Germany | whitehouse.gov

 やや通り一遍に見えますが、トランプ氏とメルケル氏は双方が協力することで合意したと伝えています。

トランプ大統領とメルケル首相は今日、NATO、中東、北米、ロシア、ウクライナ危機を含む広い範囲の話題で電話会談を行った。

President Trump and Chancellor Merkel today held an extensive telephone conversation covering a range of issues, including NATO, the situation in the Middle East and North Africa, relations with Russia, and the Ukraine crisis.

双方の指導者はドイツとアメリカの協力は両国の安全保障と繁栄のための協力の重要性、来るべき数年の間に両国が関係を深めることで一致した。

Both leaders affirmed the importance of close German-American cooperation to our countries' security and prosperity and expressed their desire to deepen already close German-American relations in the coming years.

大統領と首相は北大西洋社会の安定性と平和を確保する上で、NATO条約が基本的に重要であることで一致した。

The President and Chancellor also agreed on the NATO Alliance's fundamental importance to the broader transatlantic relationship and its role in ensuring the peace and stability of our North Atlantic community.

 途中からNATO全般の問題に話が変わっているのは、トランプ氏がNATO支持の姿勢に変わっていることを強調するためなのかもしれません。

そうした話の流れで、指導者たちは、NATOが21世紀の脅威に対処する能力を持たなければならず、共同防衛のために軍事における適切な投資が要請されていることを認識した。それは、集団防衛に参加している全加盟国に公平な分担と貢献を確保するための措置だからだ。

In this vein, the leaders recognized that NATO must be capable of confronting 21st century threats and that our common defense requires appropriate investment in military capabilities to ensure all Allies are contributing their fair share to our collective security.

指導者たちは中東と北アフリカでの衝突を鎮静化すべく、過激な暴力とテロリズムに対抗するための協力を活発にし、強化することの必要性で合意した。

The leaders agreed on the need to strengthen already robust cooperation in the fight against terrorism and violent extremism, and to work to stabilize conflict areas in the Middle East and North Africa.

大統領はドイツで7月に行われるハンブルグでのG20サミットへの招待を受け入れた。そして、彼は首相をワシントンで会うことを楽しみにしているとも述べた。

The President accepted the Chancellor's invitation to attend the G-20 Summit in Hamburg, Germany, in July, and said he looked forward to receiving the Chancellor in Washington soon.

 オーストラリア首相との電話会談の時のように、トランプ氏が突然にキレ始めたりすることはなかったようです。

 両者に見解の相違があるものの、大筋では協力関係をつくりたいというのが、現在のトランプ政権の考え方のようです。それは、閣僚が2月にこぞって訪欧したことにも現れています。

  • 15日~16日:NATO国防相理事会にマティス国防長官が出席
  • 16日~17日:20カ国・地域(G20)外相会合にティラーソン国務長官が出席
  • 17日~19日:安全保障会議にペンス副大統領が出席

 要するに、この三名の訪欧を通して、「NATOは時代遅れだ」というトランプ氏の選挙中の発言がもたらした不安を鎮静化したわけです。

 いずれもNATO支持の意向を表明したのですが、NATO加盟国にさらなる防衛費の負担を求めています。

 この三名はいずれも老練な人材なので、トランプ氏の「暴言」(「NATOは時代遅れだ」という発言)を利用してNATO加盟国に要求をつきつけているように見えなくもありません。

 トランプ政権では大統領が過激発言や予想不可能な行動で関係諸国を威嚇し、老練な閣僚が鎮静化することで米国にとって有利な結論を引き出すーーというパターンが繰り返されるのではないか、という見方もあります。

大統領府高官が行ったメルケル訪米の事前説明~基本的には歓迎路線~

 2月の日米首脳会談に関しては、事前に大統領府HPに公開された路線の通りに終わったので、一応、今回も大統領府高官の事前説明を抜粋で紹介してみます。

 そのアウトラインは、2月に打ち出したNATO支持の方針を重ねて解説しているようにも見えます。

(出所:Background Press Briefing by Senior Administration Officials on the Upcoming Visit of Chancellor Merkel of Germany | whitehouse.gov

首相と会う時には、大統領は国民とともに米独間の深い友好関係について感謝の意を表すだろう。

When he meets the Chancellor, the President will express his and the American people's appreciation for the deep friendship that exists between the United States and Germany.

我々は長い歴史と数多くの国民間の交流を共有している。それは強固なものだ。

We share so much history, and the bonds between our people are strong.

ドイツは世界の中で最も重要な同盟国の一つだ。そして、我々はヨーロッパの安全のために、ドイツと反テロリズムの戦いであらゆる点で協力している。そして経済成長を生み出している。

Germany is one of our most important allies and partners in the world, and we cooperate with the Germans on everything from counterterrorism to European security to generating strong economic growth.

ドイツはNATOの中で最も強い国の一つだ。大統領は首相とNATOをいかに強化するかを議論することを楽しみにしている。その議論には、我々の集団防衛を維持するためにすべての加盟国が適切な負担を共にすることが含まれる(※NATOでは加盟国一国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、NATO全体で防衛に対処する規定がある)

Germany is one of NATO's strongest member states, and the President looks forward to talking with the Chancellor about how to strengthen the NATO alliance, including by ensuring that all allies shoulder the proper share of the burden for maintaining our collective defense.

どんな加盟国もその約束に合わせる必要がある。我々はドイツ政府も同じようにそう考えていることを知っている。

Every ally has to meet its commitments -- something we know the German government believes as well.

我々は、2024年までにGDP比で2%の防衛費を負担するというNATOの基準に合わせるというドイツ政府の決意に励まされた。

So we are heartened by the German government's determination to reach NATO's benchmark of committing 2 percent of GDP to defense by 2024.

大統領は、NATOの国々が数多くの課題に直面した際にメルケル首相が発揮した指導力に感銘を受けている。そして、彼は我々が共有する課題について彼女と相談することを楽しみにしている。

The President is impressed by Chancellor Merkel's leadership at a time when the states of the North Atlantic face a number of significant challenges, and he looks forward to consulting with her on our shared challenges.

我々は、特にフランスと並んで、ドイツが指導力を発揮することで、ウクライナでの衝突を解決できると認識している。ドイツがアフガニスタンの安定と平和のために絶えず貢献していることも分かっている。

We recognize, in particular, Germany's leadership role, alongside France, in resolving the conflict in Ukraine and Germany's enduring commitment to peace and stability in Afghanistan.

ドイツもまた反ISIS連合にその活動を通して貢献している。ドイツは過激な暴力やテロに対抗する地球的な営みの中核の役割を担っているのだ。

Germany also plays a central role in the global effort to counterterrorism and violent extremism, particularly through its contributions to the counter-ISIS coalition.

アメリカはドイツ及びヨーロッパとの政治と安全保障、経済関係における協力関係をより幅広く、強固なものにしたい。

The United States is committed to strengthening our political defense, security and economic relationship with Germany and with Europe more broadly.

我々はドイツ国民とともに立ち続けるだろう。火曜日のメルケル首相の訪米を歓迎したい。

We will continue to stand together with the German people, and we are looking forward to Chancellor Merkel's visit on Tuesday.

  トランプ氏への警戒心と疑いは根強いのですが、2月28日の大統領議会演説でも「我々はNATOを指示する。それはファシズムを除くための世界大戦、そし共産主義を破った冷戦期に築かれた同盟の絆だ」と訴えていました。

 そのため、いまさらトランプ氏がNATO最大の経済大国であるドイツのメルケル首相をむげに扱うことは考えにくいのではないでしょうか。

 議会演説では「我々のパートナーは財政上の義務を果たすべきだ」とも付け加えていたので、トランプ政権の安全保障政策では、同盟支持と同時に関係国の負担を求める、というのが基本路線だとみるべきでしょう。

メルケル訪米で為替と株価はどうなる?

 メルケル訪米がユーロとドル、ユーロと円等の為替、または米株価や欧州株価に与える影響を気にしている方も多いのですが、筆者は、今回の訪米を契機とした株価の急落等は起きず、プラス材料になる可能性のほうが高いのではないかと考えています。

 トランプ氏とメルケル氏の見解の相違はあるものの、以下の理由により、大筋では「NATO支持、加盟国の防衛負担増」という路線で合意がなされると見ているからです。

  • トランプ氏は大統領就任後は基本的に同盟支持政策に変わっている
  • 2月に3人の重要閣僚が訪欧し、固めたNATO支持路線表明はトランプ氏の同意なくして不可能
  • 2月末の議会演説ではNATO支持路線を表明。NATO最大の大国ドイツの首相をむげに扱うことは考えにくい
  • メルケル氏は漸進路線だが、ドイツの防衛費増に反対していない

 当たるかどうかはフタを開けてみないとわかりませんし、投資はみな自己責任ではありますが、過去からの推移を追っていくと、「NATO支持、加盟国の防衛負担増」という落ちが有力であるように見えるのです。

 筆者はわりと楽観視していますが、WSJ日本語版(3/14)では、両者の立場に以下の5点で相違があることを指摘していました(「トランプ・メルケル会談 5つの注目点」)

  • 貿易政策の溝は埋まるか⇒トランプ氏は独の巨額の対米貿易赤字を過去に批判
  • G20議長国として方針を守れるか⇒気候変動や金融規制等で両者の立場が違う
  • ロシアやイラン政策について歩調が合うか?⇒対露政策や核合意の立場も違う
  • 機密情報の共有は維持されるか⇒トランプ氏の情報機関へのスタンスが不明
  • ドイツは軍事支出拡大へ圧力 を受けるか⇒現状は独軍事費はGDP比1.2%程度

 どちらかと言えば、世の中のマスコミはこの種の懸念を数多く書いているようですが、筆者はあえて逆張りで今回は考えてみました。