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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

パククネ大統領は有罪?無罪? 弾劾から罷免までの経緯とその後 

 

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(青瓦台付近の写真。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は、3月6日に出された特別検察官チームの最終捜査結果報告書で収賄者として明記されました。

 朴大統領とその親友、崔順実(チェスンシル)被告に関する一連の疑惑を調査する特別検察官チームは、サムスン電子副会長の李在鎔(イジェヨン)被告による贈賄事件において、朴大統領が崔被告と共謀し、賄賂をもらったと断じたのです。

 起訴済の李被告は2015年7月にサムスングループでの地位を確立するために第一毛織とサムスン物産の合併を行ったのですが、この時、朴政権は国民年金公団がその2社の株主だったことを利用し、公団を司る保健福祉省を通して二社に合併に賛成するように圧力をかけ、その見返りに朴大統領と崔被告に合わせて430億ウォン(約43億円)の賄賂を贈ったとみなされたわけです。

 むろん、李被告、朴大統領、崔被告はその事実を否定し、無罪を主張していますが、この認定を受けて、憲法裁判所は大統領罷免に関する可否の判断を急ぎました。

 憲法裁の9人の判事の中で審理期間中に任期満了で退任する者が2人いるという問題があったので(1月末に1名、3月13日にはもう1名が任期満了となる)、憲法裁は2人が退任する前に審理を急いでいます。

 大統領をクビにする意思決定には6人の賛成が必要なので、あと1名の判事が退任してしまうと、朴氏は7人の中でわずか2人が反対したら助かることになります。そのため、8人で審理できる13日までに結論を急ぐことになりました。

※追記:憲法裁は10日の11時頃に朴大統領に罷免を宣告。崔被告の国政介入や機密文書漏洩などを重大な違法行為と断じた。判決は8人の判事が全員一致

 朴大統領が罷免されれば60日以内に次の大統領選が行われ、罷免が棄却されれば、朴大統領は停止中の大統領権限を取り戻します。そのため、10日は韓国にとって運命の1日だとも言えるでしょう。

 このたびの大騒動は、崔氏の国政介入疑惑に始まり、サムスン電子の李副会長逮捕にまで拡大し、韓国社会の暗部が一気に噴き出した感がありますが、この崔順実ゲートもいよいよ山場にさしかかってきました。

 その後、大統領選が行われても、朴氏が起訴され、犯罪者として裁かれる中でセヌリ党(朴氏が所属する与党)が野党に勝つのは難しいので、10日の判断が次の大統領選に与える影響も見過ごすことはできません。

 憲法裁の審理は2月27日に終わっていますが、現在は定員9人のうち1人が任期満了で退任。8人のうち6人が賛成すれば、朴大統領は罷免されます。

 現在、朴氏罷免を求める声が圧倒的に多数派ですが、世論になびきがちだとも言われる韓国の司法がそれに抗うことが可能なのかーー今回は、韓国の未来を左右する、この重大な問題について考えてみます。

韓国世論の八割は朴氏罷免に賛成

 9日には、ソウルで朴氏弾劾を巡って賛成派と反対派がデモ合戦を繰り広げました。

 その時の模様が産経ニュース(2017.3.9)で報じられています(「弾劾推進、反対両派が憲法裁判前でデモ 一触即発の中、10日に決定宣告」【ソウル=桜井紀雄】)

 憲法裁近くでは9日、朴氏支持者らが裁判官の出勤時間に合わせ、「弾劾却下!」などと叫んだ。弾劾反対派は泊まりがけでデモを続けるとしており、弾劾推進派も9日から11日にかけ連日、ソウル中心部で集会を開く方針だ。

 ・・・

 最新の世論調査によると、弾劾賛成は約77%、反対は約20%。ただ、与党、自由韓国党支持層では反対が8割以上に上り、60代以上の半数近くが反対と、世代間の対立も生んでいる。

 高齢者に朴氏弾劾に反対する人が多いのは興味深いところです。

 朴氏罷免後の大統領選では支持率首位の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選する可能性が高いのですが、親北反米外交を展開した廬武鉉(ノムヒョン)元大統領の秘書官だった文氏に対して、高齢者の抵抗感が強いことが伺えます。これは、高齢者層には冷戦期の厳しい「韓国VS北朝鮮」のバトルの記憶が根強く残っていることとも関係があるのでしょう。

 若年層から中高年層は冷戦期よりも1987年の民主化以降の記憶が濃厚で、北朝鮮への宥和政策が繰り返された時代の政治になじんでいるので、高齢者層ほど文氏への警戒感はないのかもしれません。

 前掲記事では、対照的な二派のコメントが紹介されています。

「国民が示した圧倒的弾劾世論を(憲法裁が)尊重し、歴史的な決定をすると信じる」(文氏側)

「淡々と見守り、対処する」(朴氏側関係者コメント)

  現状では文氏が優勢だとみられていますが、8日には、文氏を支える「共に民主党」の有力者、金鍾仁・前党非常対策委員会代表が離党としています。金氏は16年4月の総選挙での大勝の功労者ですが、文氏とは不仲であることから、この離党は次の大統領選をにらんだ動きとも見られています。

憲法裁近くでは9日、朴氏支持者らが裁判官の出勤時間に合わせ、「弾劾却下!」などと叫んだ。弾劾反対派は泊まりがけでデモを続けるとしており、 弾劾推進派も9日から11日にかけ連日、ソウル中心部で集会を開く方針だ。

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最新の世論調査によると、弾劾賛成は約77%、反対は約20%。ただ、与党、自由韓国党支持層では反対が8割以上に上り、60代以上の半数近くが 反対と、世代間の対立も生んでいる。

高齢者に朴氏弾劾に反対する人が多いのは興味深いところです。

朴氏罷免後の大統領選では支持率首位の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選する可能性が高いのですが、親北反米外交を展開した廬武鉉(ノムヒョン) 元大統領の秘書官だった文氏に対して、高齢者の抵抗感が強いことが伺えます。これは、高齢者層には冷戦期の厳しい「韓国VS北朝鮮」のバトルの記憶 が根強く残っていることとも関係があるのでしょう。

若年層から中高年層は冷戦期よりも1987年の民主化以降の記憶が濃厚で、北朝鮮への宥和政策が繰り返された時代の政治になじんでいるので、高齢者層 ほど文氏への警戒感はないのかもしれません。

前掲記事では、対照的な二派のコメントが紹介されています。

「国民が示した圧倒的弾劾世論を(憲法裁が)尊重し、歴史的な決定をすると信じる」(文氏側)

「淡々と見守り、対処する」(朴氏側関係者コメント)

·現状では文氏が優勢だとみられていますが、8日には、文氏を支える「共に民主党」の有力者、金鍾仁・前党非常対策委員会代表が離党としています。 金氏は16年4月の総選挙での大勝の功労者ですが、文氏とは不仲であることから、この離党は次の大統領選をにらんだ動きとも見られています。

弾劾裁判の争点は何?~過去のニュースを見忘れた方のために~

 このたび、憲法裁では、朴氏の罪状が審議されています。ご存じの方もいるかもしれませんが、過去のニュースをフォローし損ねた方のために 、一応、整理しておきます。

崔順実氏の国政介入

 まず、重大な外交文書が朴氏の友人である崔順実(チェスンシル)被告に流出したことが疑われています。

 企業経営者である崔氏は朴槿恵大統領が若い頃からの友人で、独身で孤独な朴大統領の相談相手でした。

 近年、朴大統領は崔氏から演説などに関して助言をもらっていたのですが、その際に、外交や国家防衛に関わる重要な国家機密文書が漏えいしてしまったわけです。

 朴大統領の海外訪問日程、南北軍事当局の秘密接触、米韓原子力協定をめぐる交渉、安倍首相特使団との接見、最高裁長官との面談のための関連資料、豪首相電話会談などに関する参考資料が流出。

 国民の知らない間に、朴氏がこれらの問題について崔氏に相談しただけでなく、崔氏に近い人物を公職に任命するなどの職権乱用が行われたとみられています。

 国民の信託を受けて大統領になったにもかかわらず、公職にない一私人を外交当局者にも見せない重大文書を渡し、その私人と相談して政策を決めていたことが、国民主権と法治主義への重大な違反だと糾弾されました。

 これが崔被告の国政介入事件です。

言論弾圧やセヴォル号事件での職務放棄

 そのほか、世界日報の報道に圧力をかけたことが言論の自由の弾圧とみなされ、特別検察官は朴政権を批判していた約9400人の文化人を政府の支援対象から外す「ブラックリスト」の作成に朴氏が関与したと糾弾しています。

 韓国船が沈没したセヴォル号事件に際して国民を保護する義務を放棄したこと等も罪状に挙げられていますが、こちらに関しては大統領の直接聴取や家宅捜査等ができなかったので、証拠がつかめなかったという結論になっていました。

大企業からの贈収賄

 これは、サムスン電子の李副会長の逮捕で世の耳目を引いた贈収賄の案件です。

 サムスンは崔被告の支配下にあるミル財団とKスポーツ財団に204億ウォン(約20億円)を寄付し、崔氏の娘がドイツで乗馬を行う際に資金協力。朴政権が李副会長がサムスングループで経営権を確立するために第一毛織とサムスン物産の合併を行う際に便宜を図ったことが贈賄に相当するとみなされました。

憲法裁は朴氏の主張をどう判断する?

 朴大統領は不利な言質を取られることを恐れたのか、特別検察官の直接聴取を拒否。また、憲法裁には一切出席せず、書面だけを送り、無罪を主張しました。

 昨年秋に出した国民へのおわびのメッセージでは捜査に協力すると述べたのに、その後の展開を見ると、捜査協力は、ほとんどゼロ回答が続いていたのです。

「このすべての事態は、すべて私の間違いであり、私の不徳の致すところです。私の大きな責任を深く痛感しています」「今後、検察は、いかなるものにも束縛されず、明白に真実を明らかにし、これをもとに厳正な司法処理がなされなければなりません。私は、今回の真相と責任を究明する上で可能な限り協力します」

(出所:ハンフィントンポスト(韓国・朴槿恵大統領「必要なら捜査を受ける」談話で再び謝罪 辞任は否定(全文)2016/11/4

 言っていることとやっていることが全然、一致しないので、唖然としますが、検察側もサムスン電子の李副会長の案件で、初回は証拠不十分なまま逮捕状を請求したので、かなりの急ぎ捜査をしていました。

 朴氏側としては、大統領有罪という「結論ありき」の捜査は受け入れられない、ということが言いたかったのでしょう。

 このたびの弾劾裁判では、朴氏の居直りのふてぶてしさと、特別検察官の急ぎ捜査ぶりの両者が際立っていたと思います。

(※追記:その後、朴大統領は罷免され、検察に起訴されると見られている)

 「民意」で動く韓国の裁判

 あとは憲法裁の審理次第なのですが、韓国の司法に関しては、昔から「国民感情」を反映して動く傾向があると言われています。

 ウォールストリートジャーナルの記事(2016/12/20)を見ると、2002年に少女2人が米軍の車両にひかれた事件で米兵2人が無罪となった際の韓国人の反応が書かれていました。

ある米当局者はロサンゼルス・タイムズ紙に対し、「私が話をする韓国人のほとんどが、判決には国民感情を反映させなければならないと主張する。これに対し我々は、苦労して法律から感情を切り離そうとしている。考え方がまったく違うのだ」と語った。

(「【寄稿】韓国国民は抗議行動をやり過ぎか 抗議行動を通じた体制変革はほとんど実現できていない」By DAVID VOLODZKO)

  東京新聞の【私説・論説室から】に「弾劾 どんでん返しも」(2017年2月8日)と題して、山本勇二氏の印象的な記述が掲載されています。

 朴政権では検察出身者が閣僚や大統領秘書官など中枢に入り、強引な政局運営に加わった。ところが、退陣要求デモという「民意」が全国に広がると、検察は反旗を翻し、国会による大統領の弾劾訴追に道を開いた。

 ・・・
 軍事政権時代に、裁判所は政権批判や言論の自由を否定する判決を数多く言い渡した。トラウマ(心的外傷)が今も残り、「国民感情」を過度に意識した判決が時々出るのだと、韓国の知人は説明する。

 検察は「民意」に反応し、大統領弾劾の側に回ったと指摘しています。もともと、仕組みとして検察幹部の人事権は大統領府にあるので、政府の側につきやすいのですが、今回は風見鶏的に反旗を翻したというのです。

 韓国では政治的な判決が多いので、特別検察官の報告書のお墨付きを受けて、憲法裁が朴氏を罷免する可能性はかなり高いといえそうです。

 山本氏は「対馬の仏像盗難の所有権訴訟に対する地裁判決は『本をただせば韓国のもの』と強弁したような、理解しがたい内容だった」と過去の例をあげていますが、ここまで国民感情に合わせる判決が過去に出ている国で、大勢に逆らって憲法裁が無罪判決を出せるのでしょうか。

 今回の案件で朴氏が無罪となれば、憲法裁の判事は暴徒による襲撃などに対して、身の危険を覚悟しなければいけないでしょう。

 こうした中で「無罪」と断じる判事がでてくるのかどうかが気になるところです。

憲法裁の審理をすっぽかした朴大統領

  朴氏は年初から、1月3日の弾劾裁判での公開弁論にも5日の弁論にも出席しませんでした(書面のみ提出)。

 その後も似たり寄ったりで、結局、憲法裁の日程は朴氏不在のまま消化され、あとは判決を待つのみという形になっています。

 朴氏は1月1日に突然に記者との懇談会を開催し、その場で崔被告との共謀関係などを否定したので、憲法裁の審理には出廷せず「国民世論」に訴えかける作戦に出ました。

 「誰かに便宜を図る考えは爪の先ほどもなかった」等と一貫して罪状を否定しているわけです。

 このスタンスは昨年に特別検察官の対面聴取を拒んだ時から変わっていません。

 憲法上、なかなか大統領をクビにできない仕組みを利用して居直る作戦です。

 大統領制は任期を利用すれば、長期的な国家戦略を実現できますが、どうしようもない大統領でも延命が可能なので、良い面も悪い面もあることがよくわかります。

 日本の議院内閣制では、一年でころころ変わる短期政権ばかりになって機能不全が起こることもしばしばですが、支持率が下がると選挙の審判を恐れた与党が首相を交替させるので、韓国ほどの大騒動を起こす必要がないともいえます。

ブラジルのルセフ氏罷免の時と比べてみる

 よくも悪くも、韓国の政治制度の在り方が今回の一連の事件で世界に明らかになりましたが、ブラジルのルセフ大統領が罷免された時に比べると、今回の案件はどうなるのでしょうか。

 ルセフ氏の場合、2016年に約4か月で罷免されています(以下、ブラジル時間)。

  • 4月17日:ブラジル下院が大統領への弾劾を可決⇒上院で弾劾裁判所を設置
  • 5月11日:最高裁長官を議長とした弾劾裁判でルセフ大統領は職務停止(テメル副大統領が大統領代行)
  • 8月31日:最終投票(3分の2以上)でルセフ大統領は失職。

 朴氏の弾劾案が可決されたのは12月9日なので、3月半ばで罷免された場合、4か月+αぐらいの日数なので、同じぐらいです。憲法審の定員問題がなければ、もっとゆっくり審理していたはずなので、大統領をクビにするには100数十日はかかるということなのかもしれません。

韓国の大混乱に北朝鮮の暴走が重なるのか?

 大統領が3月に罷免された場合、大統領選が行われるのは5月頃になるとも言われています。

 朴氏が延命するための材料は北朝鮮の危機のために政治的空白をつくれない、という言い草ぐらいしかないのですが、北朝鮮側は特別検察官の報告書が出た日に合わせてミサイルを発射しています。

 これは朴氏罷免確実とみた「勝利の号砲」なのかもしれません。

 韓国の大混乱に北朝鮮の暴走が重なれば、東アジア情勢が緊迫化してきます。

 本年はアジアでもいろいろとややこしい出来事が続くのではないでしょうか。