トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

【ヤマト運輸VS佐川急便】クロネコ宅配便値上げ アマゾン引受VS撤退の経営判断の明暗が分かれた?

f:id:minamiblog:20170308065421p:plain

(出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 クロネコヤマトの宅配便の基本料金が27年ぶりに引き上げられることになりました。

 業界2位の佐川急便が利幅を重視して2013年にアマゾンとの契約を打ち切って以降、その負担が最大手のヤマト運輸に集中し、基本料金を上げてドライバー不足等の問題解決を図らざるをえなくなったからです。

 筆者も職場でヤマトから荷物を受け取ったり、発送したりしているのですが、2014年ごろからドライバーのおじさんがヘロヘロになって到着することが増えたような気がします。

 同じ職場のメンバーの声を聞くと「ヤマトのおじさんはいつも疲れ気味なので応対していて不安になる」「佐川マンは元気だが、たまにガサツな人がいる」という印象でした。どちらもきちんと届けてくれるので、ありがたい存在なのですが、特に印象的なのは、ヤマトドライバーの疲れ具合です。

 2013年に佐川急便はアマゾンから撤退。その4年目に入り、両社の経営判断の明暗が分かれてきたので、今回は、ヤマト運輸の値上げの背景について考えてみます。

ヤマトの値上げと、なくなるサービス 

 時事通信が各紙に配信したニュースでは以下の4点が報じられています(時事ドットコム「宅配便、27年ぶり値上げ=個人向け含め全面的に-ドライバー不足深刻・ヤマト運輸」2017/3/7)。

  • ネット通販の拡大によるドライバー不足対策で基本運賃を90年以来、27年ぶりに値上げ。
  • アマゾンとの料金交渉を並行。
  • 配達指定時間帯の6区分の中で「12時~14時」に関して廃止を検討
  • 帰宅者受付が集中する「20~21時」は負担減のために「19~21時」への変更等の組替えを検討

 「12~14時」の区分がなくなれば、ユーザーがこの時間帯に他業者への発注が増やすはずですが、そうせざるをえないほど、ヤマトも追い込まれているのでしょう。

 その後、NHKニュースWEBのインタビュー(3/22)では、ヤマト運輸の長尾裕社長が値上げに伴う新たな割引案を明かしました。長尾氏は「再配達の有料化」ではなく、再配達を減らすべく「利用客がいつでも荷物を受け取れる『宅配ロッカー』の整備」を進め、「大都市圏を中心に今後6年間で5000台設置する計画を大幅に前倒しする」意向を示しています。営業所に受け取りに来る人や宅配ロッカーを用いる人に割引し、再配達を減らすわけです(「ヤマト運輸社長 値上げ時に新たな割引導入の考え」3月22日)。

 営業所や宅配ロッカーが設置される交通の要所付近の住人は意外と多いので、「それなら自分で取りに行くわ」という人が出てくるのかもしれません。

(※その後、5月3日にヤマト運輸は人件費を160億円増やし、2017年全体で9200人規模の人員を増やす方針を発表しました)

ヤマトドライバーの負担の現状

 産経ニュース(2017/3/7)では「配送の合間には休憩がほとんどとれず、昼食はトラックの中でチョコレートを口にする程度」という元ドライバーのショッキングなコメントも紹介されています。その方は、平成25年以降、「体感で荷物が2~3割は増えた」とも述べていました(「ビジネスモデルは限界… 元運転手『昼食はチョコレート』」)

 前掲の「12時~14時」の区分をなくすのはドライバーに昼休みを与えるための措置なので、このコメントとも符号しています。ただ、この時間帯はユーザーが受け取りやすい時間でもあるので、この措置はヤマト運輸の競争力を下げる負の効果を伴っています。

 ヤマト運輸は「顧客満足」と「従業員の負担の限界」の矛盾に直面し、厳しい経営判断を迫られたわけです。

 その主因となったのはアマゾン荷物の急増です。

 アマゾン等の小口貨物の引き受けの現状がヤマトの春闘交渉で議題にのぼったことが各紙で取り上げられていました。朝日新聞社の記事では、片山康夫・中央書記長の「いまの荷物量は無理があります」という発言に、長尾裕社長が「対策は打っていく」と答え、前掲の方針が打ち出されたことが報じられています。

 こちらも現場ドライバーの声を紹介していました。

「扱う荷物の4割ぐらいをアマゾンの段ボールが占めている感じ。ほかにもゾゾタウンやアスクルなどネット通販の荷物が目立って増えているが、今一番困らされているのはアマゾン」。都内を担当する30代のドライバーは打ち明ける。

(朝日デジタル「アマゾン宅配急増、ヤマトに集中 『今の荷物量、無理』2017年2月24日)

 当日配送は、1日の3回の配送の中で夕方に集中するため、この負担増によって、夜9時を過ぎても配達が終わらないような状況が各地で続いたのです。

 ITの進化に伴ってジェフ・ベゾス氏が起した流通革命が米国から日本に上陸し、その大波が宅配便業者を直撃しました。もとを辿れば小倉昌男氏がクロネコヤマトの宅急便を始めたころはネット通販がなかったので、「想定外」の事態への対策を余儀なくされたとも言えます。

ヤマト運輸VS佐川急便を数字で見ると・・・

 前掲の朝日新聞記事では、ヤマト運輸の宅配便の急増ぶりを報じています。

平成28年4月~29年2月における宅配便の取扱個数は前年同期比8%増の約17億1226万個。年度全体では約18億7千万個と過去最高を更新する見通しだ。配送全体の2割を占める再配達の増加も、ドライバーの負担に追い打ちをかけている。(※これはヤマト運輸が請け負った宅配便の数です

 佐川急便と比べてみると、ヤマト運輸の負担の大きさがよくわかります。これは国土交通省の「平成27年度 宅配便(トラック)取扱個数」のデータです。

  • 宅急便(ヤマト運輸):17億3126万3千個 前年比106.7%、全取扱の46.7%
  • 飛脚宅配便(佐川急便):11億9829万8千個、前年比100.2%、全取扱の32.3%

 しかし、その労が報われているわけではありません。

 ヤマトは16年3月期と17年3月期の営業利益が前年度比で下がり、17年3月期にいたっては急減しています。

【ヤマト運輸】(出所:事業別業績|ヤマトホールディングス:デリバリー事業)

  • 営業収益:1兆1588億(14年3月)⇒1兆1648億(15年3月)1兆1779億(16年3月)1兆2175億(17年3月)
  • 営業利益:358億(14年3月)⇒392億(15年3月)382億(16年3月)⇒56億(17年3月)

【佐川急便】(出所:15年3月期決算16年3月期決算 いずれもデリバリー事業)

  • 営業収益:7094億(14年3月)⇒7125億(15年3月)7215億(16年3月)7381億円(17年3月)
  • 営業利益:363億(14年3月)⇒391億(15年3月)384億(16年3月)396億(17年3月)

 見事に明暗が分かれています。

 佐川も16年3月期の営業利益が下がりましたが、翌年には上向きました。

 やはり、仕事の効率はヤマトよりも良好です。営業収益に4500億円もの差があっても、営業利益がほぼ同額なので、単価を重視した実入りのよい仕事になりました。

 むろん、市場シェアは大事ですが、現場の疲弊ぶりや今後の息切れを勘案すると、到底、ヤマトが勝ったとは言えないのが現状でしょう。

※追記:ヤマトのアマゾン引受けの単価はどの程度?

 2016年度のヤマトによる宅配便取扱数は約18億7000万個。アマゾン荷物はこのうち1~2割程度。アマゾンは大口割引を適用しているため、2015年度の宅配便の平均単価(578円)の半分程度にしかならないとも言われている(日経朝刊1面:2017/4/7)。

佐川急便のアマゾン撤退の背景とは?

 こうしてみると、佐川急便が2013年にアマゾンから撤退したことには、先見の明がありました。

 その経緯がNEWSポストセブンの記事(2015/9/4)に書かれています(出所:佐川急便 Amazonと取引停止で「ライバルに100億円のエサ」│NEWSポストセブン)。

 以下、アマゾンとの交渉担当者の発言です。

「うちが当時、受け取っていた運賃が仮に270円だったとすれば、それを20円ほど上げてほしいという腹積もりで交渉に臨みました。けれど、アマゾンは、宅配便の運賃をさらに下げ、しかもメール便でも判取りをするようにと要求してきたのです。アマゾンの要求は度を越していました。いくら物量が多くてもうちはボランティア企業じゃない、ということでアマゾンとの取引は打ち切るという結論に達しました」

 メール便はポストに入れれば終わりですが、宅配便には判取りに伴う再配達が必要です。つまり、佐川急便は、アマゾンがメール便でも再配達を要求してきた時に請負は無理だと判断したわけです(アマゾンでもまだ、部分的には引き受ける荷物が残っている)。

 これは自社の経営資源を守り、最大限に生かすためには不可避の判断だったのではないでしょうか。

 当時の経営判断の背景として、産経ニュース(2013/10/1)はヤマトと佐川のビジネスモデルの違いを以下のように説明しています(※執筆者は「週刊東洋経済」副編集長の西村豪太氏「要求高くて対価は低い 佐川がアマゾンとの取引撤退 宅配業界大揺れ」)。

  • ヤマトは約4000の国内営業拠点を持つが、佐川はその1割程度。配達員も半分程度。
  • ヤマトのインフラは個人間取引を前提にしているが佐川は企業間取引がベース。その差が拠点数などに現れている。
  • 佐川は配達員数の不足を「アンダー」と呼ばれる下請けを起用して補ってきた。下請けに依存する度合いが高いため、数量の拡大は外注費増に直結する。

  ライバルと比べた時の自社の強みと弱みを認識し、佐川は「わが道」を行くことを選びました。

 その判断から3年半が経ち、業務の効率性が数字に表れてきたので、仕事の「量」と「質」の問題を考える際に、今後、ヤマトVS佐川の判断は、経営のテストケースとして見逃せない一例となりました。

追記①:ヤマトがアマゾンの当日配送から撤退

 3月7日の記者会見では宅急便の基本運賃を上げる方針が明かされ、3月13日には、急増する荷物の対策として、ヤマト運輸は佐川急便や日本郵便と連携することを決めました。他社の荷物を預かって一社で集約し、首都圏高層ビル等で配送する「一括配送」が拡大されるようです。

 ユーザーの側には、何度もピンポンを鳴らされなくても済むというメリットがあります。何件かの荷物が一括でまとめられてから届くので、急ぎの荷物が多少、遅れる可能性もありますが、運送会社の負担の限界を考えれば、やむをえない措置だと言えるのではないでしょうか。

 そして、4月7日には、ヤマト運輸がアマゾンの当日配送サービスの受託から撤退する方針を明らかにしました。ヤマトが当日配送の受託の縮小を要請し、その分を日本郵便が請け負い始めています。

 日本郵政はヤマトよりも配送能力に余裕があるとも言われますが、「日本郵便の輸送能力はヤマトの3分の1程度であるため、アマゾンの当日配送が可能な荷物量や地域が縮小する可能性がある」(日経朝刊1面:2017/4/7)とも見られています。

 ヤマトは今後、少しずつアマゾン当日配送の受託を減らし、将来はなくしていく方針です。

追記②:ヤマトは運賃増、アマゾンは自前配送強化

 4月28日にヤマト運輸は宅配サービスの見直しの中身を公にしました。

 各紙報道によれば、その要旨は以下の通りです。

  • 「宅急便」の基本運賃(個人向け)を各サイズで140~180円上げ(9月末までに実現。平均15%増)、その増収分でドライバーの待遇改善をはかる(日経報道〔4/25〕では荷物の値上げ幅は5~20%。距離ではなく荷物の大きさが基準となる)
  • 「アマゾン」との契約を見直し、17年度の取扱荷物量を8000万個減らす。9000人規模の人員増。
  • 首都圏の駅やコンビニ等に宅配ロッカーを3000個設置〔2018年3月まで〕
  • 送り先を営業所指定にし、荷物を取りに行く場合は運賃50円割引(9月末までに実現)
  • 時間帯指定配達の中で「12時~14時」枠を廃止。「20時~21時枠」が「20時~22時枠」になる。
  • ネット通販(主にアマゾン)等の大口顧客に値上げ交渉を継続

 一方、アマゾンの側では、アマゾンのステッカーをつけた自前車両を用いた配送に力を入れ、軽車両の配送会社に仕事を分担するなどの施策を取っています。2015年以来、アマゾンは注文1時間以内で配送する「アマゾン プライム ナウ」を開始し、東京、神奈川、千葉、大阪、兵庫の都市部等でサービスを拡大しているのです。

 これに関しては、既存の運送会社とのパイの取り合いになる部分もあり、難しい問題をはらんでいます。

 今後、アマゾンの当日配送をどこが請け負うのか。運送業者のシェア争奪戦と「顧客第一」のサービスに限界があるのかどうかが注目されているとも言えます。