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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

中国全人代開幕「一帯一路」構想、経済成長目標、軍事費発表はどうなる?

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(中国のシリコンバレーとも呼ばれる中関村:出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  3月5日から中国全国人民代表大会(全人代)が北京の人民大会堂で開幕します(閉幕は15日午前)。

 全人代というのは、中国の議会で、憲法上は最高の権力を持った国家機関とされています。

 ただ、これは名目上の話で、中国の政治の実権は習近平国家主席が率いる政治局常務委員(定員7名)が握っています。そして、全人代は国会に相当するとも言われますが、そこに集う3000人のメンバーは、日本や欧米、世界の民主主義国のように普通選挙で選ばれているわけではありません。

 全人代では李国強首相が政府活動報告を読み、予算案や法律案、憲法改正などを承認します。本年は6つの報告、民法総則草案、第13期全人代選挙に関わる議案など、計11の案件が審議される予定です。

 そして、大会中には首相の記者会見(5日)をはじめ、計17回の記者会見がセッティングされています(国家発展改革委員会主任〔6日〕、財政相〔7日〕、外相〔8日〕、環境保護相〔9日〕、商務相〔11日〕等)。

 今回は、日本人にはわかりにくい全人代に焦点を当ててみます。

全人代の重要トピックー経済成長目標と軍事費ー

 全人代の重要トピックとしては、まず、経済成長目標が挙げられます。

経済成長目標

 これに関しては、時事通信(2017/3/4)で「経済成長目標引き下げか=中国全人代、5日開幕」という憶測記事が公開されていました.

 2016年の経済成長率は6.7%。目標の6.5~7.0%は達成したものの、1989年の天安門事件の影響で経済が冷え込んだ90年以来、26年ぶりの低い伸びにとどまった。

 5日に発表される17年の目標は、「6.5%前後」に事実上引き下げられるのではないかとみられている。習指導部は20年までに国内総生産(GDP)と所得を10年比で倍増させる計画。16~20年の5年間、年平均成長率を6.5%以上に保たなければ実現できない。

 16年が6.7%とされたので、それに近い数字を並べる模様。 

 中国のGDP成長率は政治的な数字の典型と見られているので、実際のところ、諸外国から見ても分かりにくいのですが、輸出入の貿易統計は相手国があるので改ざんは困難です。

 そのため、この二つの増減を見れば、中国経済の実勢を推測することは可能です。こちらに関しては、各紙報道で17年1月13日に中国税関総署が発表した貿易統計のデータが明らかになっています。

  • 輸出入合計⇒前年比6.8%減:3兆6849ドル(約424兆円)
  • 輸出⇒前年比7.7%減:2兆974億ドル(約241兆円)
  • 輸入⇒前年比5.5%減:1兆5875億ドル(約183兆円)

 しかし、中国は本年1月に2016年の実質GDP成長率を6.7%と発表(前年比-0.2%)。輸出入がともに減少しながら、経済成長6%台なんてあるんでしょうか。

 中国のGDP成長率は過去の日本軍の大本営発表に近いものになってきているので、歴史認識問題を持ち出す前に、きちんと過去の教訓に学んでほしいものです。

中国の軍事費

 アジア諸国が注視する中国の軍事費に関しては、人民日報の日本語版(3/4)で傅瑩報道官が17年の国防費の増加幅は7%前後になると述べたことが報じられています(全人代記者会見「17年の国防費増加幅は約7%」)

 同紙によればGDP比率で1.3%前後の数字だそうなので、政治的に計算すると経済成長率は6%台でなければいけなくなります。GDPの成長率が下がれば、GDP比で見た軍事費の比率が急上昇し、中国は「平和国家」ではなくなってしまいます。この意味でも、GDP成長率は6.5%ぐらいはないと困るのでしょう。

 全てが政治化されてしまった経済成長率の数字の悲劇といわざるをえません。

 昨年の春に人民網日本語版は「国防部、中国に隠れた国防費は存在せず」(2016/4/1)と題した記事を公開していましたが、こうした政治的な発表は日米の中国軍研究者に文字通りに受け止められてはいません。

 例えば拓殖大学名誉教授の茅原郁生氏は以下のように指摘しています。

全人代により国家予算として公表される国防費の外に他の財政支出項目に計上されたもの、例えば兵器の開発経費、装備の購入費などは教育科学費なり経済建設費などの項に含められていることも看過できない。

加えて軍自らが稼ぎ出す農業、畜産、水産事業などの経済活動の成果も再投資されている。

これらの総額は、米国防総省や台湾筋の見方では公表される国防費の2−3倍に当たるとしている。

実際、ストックフォルム平和研究所の年報は、中国の国防費を約8兆円と見て米国に次ぐ世界第2位の国防費として発表しているように、中国の国防投資には警戒感が抱かれている。

(「最近の中国軍事情勢―国防費と軍の活動領域拡大と注目点―」2009/3/11(日本記者クラブ)

  残念なことに、諸外国が注目する、中国の経済成長率も軍事費の数字も、いずれも政治的に操作された数字にすぎない可能性が高いわけです。

 「なんだそれは。ひどいじゃないか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、冒頭に述べたように、もともと全人代は、国民の普通投票で選ばれた議員でつくられた議会ではありません。アメリカ議会のように、国民が選んだ議員の議決で議会が予算や法律案がつくられたわけではないので、ある種の儀式性を帯びたイベントになっているわけです。

 このあたりを見ると、改革・開放が進んだといっても、やはり、中国が社会主義国であることがよくわかります。

 実権は習近平国家主席が率いる政治局常務委員会にあることを見落としてはいけないでしょう。

全人代で注目される「一帯一路」構想とは?

 全人代と同じ時期に国政助言機関の「全国政治協商会議」(政協)が開催され、この二つが「両会」と呼ばれていますが、その中で注目されているのが「一帯一路」構想です。

 この一帯一路は、以下の二つを結ぶ経済圏構想です。

  • 「一帯(シルクロード経済帯)」:中国西部⇒中央アジア⇒ヨーロッパ
  • 「一路(21世紀海上シルクロード)」:中国沿岸部⇒東南アジア⇒インド⇒アフリカ⇒中東⇒ヨーロッパ

 陸上と海上の交通路を経て、経済交流を活性化させ、同時に政治面でも中国の影響力の拡大を図る構想になっています。

「一帯(シルクロード経済帯)」とは?

「一帯」では貿易やインフラ整備、資金の往来の促進がうたわれ、具体的には中国による高速鉄道の建設がさかんにPRされています。例えば、インドネシアで繰り広げられた「日本の新幹線か、中国の高速鉄道か」という受注競争もその構想の一環だったわけです。

 現代中国研究家の津上俊哉氏はハンフィントンポスト(2015/3/20)にて、中国版高速道路の海外展開には以下の三ルートの計画があると指摘しています(以下、「『一帯一路』構想に浮かれる中国」)

  1. 中国東北部からロシアを経由して欧州と結ぶ欧州アジア鉄道
  2. 新疆から中央アジア諸国を横断してトルコにつながる中央アジア線
  3. 中国南西部からインドシナ半島を縦貫する汎アジア線

 津上氏は、中国は自国で技術や設備を提供し、運営に沿線国に参画してもらい、資源と鉄道技術をバーターで交換しようとしているが、その前途は多難だと論評していました。

 通過地帯の需要密度が低すぎて、金のかかる高速鉄道を採算に乗せるのは至難だからだ。せいぜい需要密度が見込める区間で部分開通できるくらいが関の山、全線開通を無理に目指せば、投融資の不良債権化は必至だ。

 そして、一帯一路は「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」と「シルクロード・ファンド」〔400億ドル規模の投資ファンド〕が担うのですが、この二つが競合し、利益の衝突が発生すると指摘しました。

 北京はこの二つの機関に「一帯一路」事業の投資と融資を分担させるつもりかもしれないが、そうなればAIIBの前途には黄信号が点灯する。シルクロード・ファンドとAIIBの間で、利益の衝突や運営理念の衝突が起きるからだ。

 AIIBは多数国が参加する「国際金融機関」である以上、融資はアンタイド、援助事業にも国際競争入札が求められるはずだが、シルクロード・ファンドは中国単独で設立され、中国高速鉄道の調達を条件とする「ひも付き(タイド)」援助機関だ。

 シルクロード・ファンドが出資し、AIIBが融資する形で同一事業に共同投融資を行うなら、AIIBのアンタイドは有名無実になり、中国産品のメーカーファイナンス(例:クルマのローン)を出す機関に成り下がる。それに、採算の取れない全線開通事業にAIIBが融資すると聞いたら、どこの国もAIIB参加の意欲が失せるだろう。

  AIIBもシルクロード・ファンドも規模が大きく、構想は勇ましいのですが、社会主義国によくみられる「採算の度外視」という問題が伴っています。

 日経朝刊(2017/2/28:7面)では、中国の李小鵬交通運輸省が2月27日に、交通運輸分野に対して、2020年までの五か年計画で15兆元〔約245兆円。前五か年計画比で2割増の大盤振る舞い〕を割り当てることを表明したことを報じています。その内訳は道路が7.8兆元、鉄道が3.5兆元、航空〔空港整備等)が0.65兆元となり、大規模投資が敢行される模様です。

 勇ましいのですが、投資効率が検討されているのかどうかが気がかりです。

 本年1月のトランプ大統領就任後の全人代は初めてですし、昨年11月には、トランプ氏のアドバイザーの一人であるジェームズ・ウルジー氏が、米国はAIIBに参加すべきだったと述べたこともあるので、恐らく、このたびの全人代では、米国や諸外国に出資をつのるPRがなされるのでしょう。

「一路(21世紀海上シルクロード)」とは?

 鳴り物入りで始まったAIIBですが、始動から1年がたった実績は今一つです。16年に承認した事業は9件にすぎません。

 オマーンとパキスタンが各2件、ミャンマー、バングラデシュ、タジキスタン、インドネシア、アゼルバイジャン各1件で、総額は17億3000万ドル(約2000億円)。
 日米が率いるADBや、世界銀行など既存機関との協調融資が多いのが特徴だ。「経験豊富で融資候補リストも持っている先輩格の機関に、お膳立てをしてもらっている状況」(国際金融筋)で、独り立ちは容易でない。
(時事通信「AIIB、25日で設立1年=本格稼働には時間」2016/12/24)

 ADB(アジア開発銀行)の職員数は約3000人ですが、AIIBは16年末で100名を目指している程度の人数なので、長期間、実績を築いてきたADBとは差があります。信用力に関しても日米主導のADBよりも低評価なので、貸し出しレートは1%ほど割高だとも言われているのです。

 毎日新聞(2017/1/16)によればAIIBには開業時に57カ国が加盟し、さらに25か国が新規加盟を申請。この数はADBの67か国(地域を含む)をしのぎますが、融資額は開業1年目の目標である12億ドルを上回ったものの、15年に260億ドルの融資を行ったADBには及びません(「進まぬ融資、人材確保難航…開業1年」)

(※ロイター記事によれば、16年12月1日時点でAIIBは100億ー150億ドル程度の融資額となると見込んでいるようです)

  しかし、現在、アジアには膨大なインフラ需要が残されています。アジア開発銀行〔ADB〕が2月28日に出した報告書の要旨では、以下の試算が出されました(出所:ADB「アジアのインフラ需要は年間1.7兆ドル超、前回の予測から倍増」2/28)

  • アジアの途上国(地域)が経済成長の維持、貧困の撲滅、気候変動の対応に要する投資額は2016年から2030年の間に26.2兆ドル、年間で1.7兆ドル(1.7兆ドルは09年予測の二倍)。
  • 分野別に見ると、電力が14.7兆ドル、交通・運輸が8.4兆。通信が2.3兆ドル、水・衛生分野でも0.8兆ドルの投資が必要。
  • アジアの現状の年間インフラ投資額は8810億ドル(推計)。インフラ投資の不足額(投資需要-実際の投資水準)は2016~20年のGDP予測額の2.4%分に相当

 まだまだ未整備の発電や送電、交通等のインフラ投資を進める余地があるので、中国は日米主導のアジア開発銀行に対抗すべく、AIIBの国際展開を目指していくはずです。

「一路」に関しては、AIIBの報道が目立ちますが、中国がこれを打ち出しているのは、「海上交通路」の確保が安全保障上、至上命題になっているからでもあります。

 中国では経済規模の拡大に伴い、石油や鉄鉱石等の資源輸入の規模もふくらみました。そのため、沿岸国への影響力を強め、有事に米軍に海上交通路を封鎖されないように予防線を張っています。

「一帯」は中国の資源輸入ルートでもあるので、これもまた、中国の資源・エネルギー安全保障のための戦略構想を兼ねているわけです。