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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ政権「主権侵害の場合はWTOに従わず」 同時に中国、韓国、メキシコ等を不公正貿易で批判

国際 トランプ政権2017 経済 全記事一覧

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(緑がWTO加盟国。青はWTOとEUの加盟国。黄色はWTOオブザーバー国、赤はWTO非加盟国。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ政権下で、米通商代表部(USTR)は議会への報告書を送り、アメリカの主権を侵害するWTOの判断には従わない方針を示しました。

 これは大統領が議会演説で訴えた「非公正な貿易」を是正するためのステップとも見られています。

(※議会演説でトランプ氏は「NAFTA承認以来、アメリカは製造業の雇用の4分の1以上を失ってしまった。中国のWTO加盟以降、6万の工場を失った。米国の昨年の貿易赤字は2016年で8000億ドルにのぼる」と発言している)

 2日に各紙が報道したUSTRの報告書は「2017年の通商政策の目標と2016年の年次報告」(2017 Trade Policy Agenda and 2016 Annual Report)です。前半部分の「2017年の大統領の貿易政策の目標」(THE PRESIDENT’S 2017 TRADE POLICY AGENDA)が各種報道の対象となりました。

 このUSTRの報告書には何が書かれていたのでしょうか。

不公正な貿易の是正を目指すUSTR報告書

 この文書では「2016年、二大政党への投票者はアメリカの貿易政策の基本的な方針転換を求めた」(In 2016, voters in both major parties called for a fundamental change in direction of U.S. trade policy.) と書かれています。

 貿易政策の転換の理由を「民意」に求めているわけです。

 確かに、共和党のトランプ氏も民主党のヒラリー氏もTPPに反対しました。自由貿易の意義に関しても、世論は従来より懐疑的になりました。

 この文書では、貿易において二国間協定から多国間協定への切り替えを行うことが記されています。

    一対多よりも一対一で協議したほうが、大国であるアメリカにとって有利になるからです。

 この報告書では他国の不公正な貿易慣行を強い言葉で批判しています。

国際経済の輸出領域、重要な市場を歪める行為が外国政府によってなされることがある。輸出補助金、知的財産権の侵害、為替操作、国有企業による不公正な慣行、労働法違反、強制労働など、様々な不正が見られる。

Important sectors of the global economy, and significant markets around the world, have been at times distorted by foreign government subsidies, theft of intellectual property, currency manipulation, unfair competitive behavior by state-owned enterprises, violations of labor laws, use of forced labor, and numerous other unfair practices.

トランプ政権はこれ以上、アメリカの労働者や企業を害する不公正な貿易慣行に堪えることはできない。
The Trump Administration will not tolerate unfair trade practices that harm American workers,farmers, ranchers, services providers, and other businesses large and small. 

  そして、WTO加盟後もアメリカは通商を巡る主権を放棄していないとして、以下の四点を優先事項としています。

  • 我々の貿易に関する国家主権を守る
  • アメリカの貿易法を厳しく執行する
  • 海外に市場開放を促す
  • よりよい新たな貿易協定の再交渉

 何度もトランプ氏とその閣僚が訴えていたように、アメリカの労働者と企業に競争のための公正な機会を与えることや不公正な市場の障壁を破り、輸出を拡大すること等が明記されています。

 日本にとって重要なのは、そこに「農産物の輸出が含まれる」(including exports of agricultural goods)と書かれていることです。現在の日本は、コメ、牛肉、豚肉、麦や乳製品などの主要5品目の輸入に際して高関税や規制などで保護措置を取っているので、今後、トランプ政権が関税引き下げ等の要望を出してくる可能性があります。

 そのほか、90年代の日米交渉に際して、発動が懸念されたスーパー301条の復活も明記されました。

(※スーパー301条はアメリカの通商法に記された対外制裁のための条項。USTRが特定した他国の貿易障壁が撤廃されない時に関税引上げなどの制裁を発動可能)

 ただ、この報告書では最大の貿易赤字国として強調されているのは中国です。そして、韓国とのFTA合意以降、米国の貿易赤字が拡大したことや、TPP脱退やNAFTA再交渉の必要性などが力説されています。    

 むろん、日本がスーパー301条の対象になる可能性もありますが、USTRは「不公正貿易」の是正に関して、中国、韓国、メキシコ等を高い優先順位に置いているように見えます。

対米貿易赤字拡大で中国、韓国、メキシコ、カナダ等を批判

 トランプ政権の貿易観が「4:新しくより良い取引の交渉」(4. Negotiating New and Better Trade Deals)に端的に出ているので、そこを重点的に紹介してみます。

 この節で批判されているのは、中国、韓国、NAFTA加盟国です。日本が名指し批判されていないのは、先般の安倍訪米後の首脳会談の成果だと言えるのかもしれません。

 以下、英和対訳です。

ーーーーー

1980年代後半以降、米国は広範な貿易協定を締結した。その中にはNAFTA(北米自由貿易協定)、WTOをつくったウルグアイ・ラウンド協定、2001年の中国WTO加盟議定書などの一連の貿易協定が含まれている。

Since the late 1980’s, the United States has entered into a wide variety of trade deals, including the North American Free Trade Agreement, the Uruguay Round Agreements that created the WTO, China’s 2001 Protocol of Accession to the WTO, and a series of trade agreements.

・・・

不幸なことに、2000年以降に起きたのは以下の出来事だーー中国のWTO加盟前の最後の一年には、アメリカでGDP成長率の低下、雇用成長率の弱体化、製造業雇用の純減がみられた。

Unfortunately, a review of what has happened since 2000 – the last full year before China joined the WTO – shows a period of slowed GDP growth, weak employment growth, and sharp net loss of manufacturing employment in the United States.

この現象の背景には多数の要因が働いており、目を見張るのは2008-09年の金融危機と生産工程の自動化の広範な影響だ。

Many factors contribute to this, notably the financial crisis of 2008-2009 and the broad impact of automation.

・・・

2000年には、製造業の商品に関するアメリカの貿易赤字は3170億ドルだった。昨年は6480億ドルだった。これは100%の増加だ。

In 2000, the U.S. trade deficit in manufactured goods was $317 billion. Last year, it was $648 billion – an increase of 100 percent.

中国との財・サービスに関する貿易赤字は、2000年の819億ドルから2015年の約334ドルに急上昇した(15年のデータは入手可能な最近年である)。それは300%以上もの増加になる。

Our trade deficit in goods and services with China soared from $81.9 billion in 2000 to almost $334 billion in 2015 (the last year for which such data are available), an increase of more than 300 percent.

もちろん、貿易赤字の上昇はより強い経済と一致する可能性もある。しかし、典型的なアメリカの家庭の経験はそうではないことを示している。

Of course, a rising trade deficit may be consistent with a stronger economy. However, that has not been the experience of the typical American household. In 2000, U.S. real median household income (in 2015 dollars) was $57,790.

2000年には、アメリカの実質中央値世帯収入は、2015年の為替で57790ドルだった。 2015年では56516ドルだった。

In 2015 (the most recent year for which data are available),it was $56,516.

実際に、金融危機以降の景気回復にもかかわらず、アメリカにおける実際の世帯中央値の収入は、今日、16年前よりも低いままになっている。

In fact, despite the recovery since the financial crisis, real median household income in the United States remains lower today than it was 16 years ago.

2000年1月、米国には17,284,000の製造業の雇用があった。アメリカの製造業の雇用総数は1980年代初めの水準にまで戻ってしまった

In January 2000, there were 17,284,000 manufacturing jobs in the United States – a figure roughly in line with the total number of U.S. manufacturing jobs going back to the early 1980s.

・・・

2017年のアメリカの製造業の雇用はわずか1234万1千だった。ほぼ500万の雇用を失ったのだ。

2017, there were only 12,341,000 manufacturing jobs in the United States – a loss of almost 5 million jobs.

中国のWTO加盟の16年前ーー1984年から2000年まで。この16年間でアメリカの工業生産は約71%増加した。

In the 16 years before China joined the WTO – from 1984 to 2000 – U.S. industrial production grew by almost 71 percent.

2000年から2016年までの間、アメリカの工業生産は9%に満たない。

In the period from 2000 to 2016, U.S. industrial production grew by less than 9 percent.

これらの結果は我々への警鐘だ。

These are alarming results.

これらは、貿易以外にも米国が直面している数多くの政策課題を反映しているーートランプ政権は、より活気に道、より競争力ある経済をつくるために、可能なあらゆる手段を講じることを約束している。

They reflect numerous challenges facing U.S. policy other than trade – and the Trump Administration is committed to taking all possible steps to create a more vibrant, and more competitive, economy.

我々は議会と連携する。そして減税し、規制を緩和し、インフラへの資金提供を拡大し、米国の経済成長を促進するためのほかの措置をとる。

We intend to work with the Congress to lower taxes, reduce regulations, increase funding for infrastructure, and take other steps to stimulate U.S. economic growth.

同時に、これらの数字は、現在の世界的な貿易システムが中国を大いに助けたのに、米国には同じ結果をもたらさなかったことを示している。

At the same time, these figures indicate that while the current global trading system has been great for China, since the turn of the century it has not generated the same results for the United States.

他の主要な協定にも懸念する重要な理由がある。

There are significant reasons to be concerned with other major agreements as well.

数年間で、アメリカはNAFTA(北米自由貿易協定)の貿易相手国との間で商品の貿易赤字を出している。

For years now, the United States has run trade deficits in goods with our trading partners in the North American Free Trade Agreement (NAFTA).

例えば、2016年には、カナダとメキシコを足した商品の貿易赤字は7400億ドル以上だった。

In 2016, for example, our combined trade deficit in goods with Canada and Mexico was more than $74 billion.

2008年、バラク・オバマとヒラリー・クリントンの双方はアメリカのNAFTA再交渉に際して、NAFTA脱退に失敗した。もしそうした試みがあっても、そのような再交渉は失敗しただろう。

As long ago as 2008, both Barack Obama and Hillary Clinton called for the United States to renegotiate NAFTA – and to withdraw from NAFTA if such renegotiations were unsuccessful.

さらに、オバマ政権でなされた最大の貿易取引ーー韓国に対する自由貿易協定ーーその締結に伴って我が国の貿易赤字が劇的に上昇した。

Further, the largest trade deal implemented during the Obama Administration – our free trade agreement with South Korea – has coincided with a dramatic increase in our trade deficit with that country.

2011年(米韓FTA発効前の最後の年)から2016年、米国の韓国への輸出総額は12億ドル減少した。
From 2011 (the last full year before the U.S.-Korea FTA went into effect) to 2016, the total value of U.S.goods exported to South Korea fell by $1.2 billion.

ところが、韓国の輸入品のほうは130億ドル以上も増えた。

Meanwhile, U.S. imports of goods from South Korea grew by more than $13 billion. 

その結果、韓国との貿易赤字は倍増した。

As a result, our trade deficit in goods with South Korea more than doubled.

言うまでもいことだが、これは我々が貿易協定から期待した結果とは違う。

Needless to say, this is not the outcome the American people expected from that agreement.

我々が貿易協定を大きく見直すべく、アプローチすべき時が来たのだ。

Plainly, the time has come for a major review of how we approach trade agreements.

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 対中批判の色彩が濃いのは、USTR代表に指名された対中強硬派のロバート・ライトハイザー氏や、国家通商会議(NTC)を率いるピーター・ナヴァロ氏らの意向を反映しているようにも見えます。

 先日、ウィルバー・ロス氏が商務長官として上院に承認され、正式に就任しましたが、閣僚が正式承認されていくことで、トランプ氏の対中外交や対韓外交なども明確化していくはずです。

 3月17日にはティラーソン国務長官が訪日し、その後、中国や韓国を訪問することが決まったので、このたびのUSTRの報告書は、その下準備の一つなのかもしれません。