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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ議会演説 インフラ投資の規模はどうなる? 為替と株、大変動の一日迫る

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(米国のラガルディア空港。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 トランプ大統領の議会演説が日本時間3月1日(米国時間2月28日)に始まります。

 中継はこちら

 トランプラリーの第二幕か。はたまた大番狂わせか。

 インフラ投資と減税の規模に市場の注目が集まっています。

 1日にトランプ大統領は上下両院合同会議の演説にて、官民合せて1兆ドル(113兆円)を用いたインフラ整備を進めるための立法を議会に求めました。

 どこまでが政府予算で、どこからが民間の資金拠出になるのか。このインフラ投資の法案の中身はどうなるのか。

 その詳細は不明。減税に関しても、大幅に下げる法人税の税率も分からずじまいなので、今後の展開に不透明感が残りましたが、トランプ氏は暴言や過激な批判を封印し、まともな演説を行ったので、比較的、印象は良かったようです。

 今回は、主にインフラ投資に焦点をあて、議会演説の前提として知っておきたい情報を整理してみます。 

なぜ米国に巨額のインフラ投資が必要なのか?

 トランプ氏のブレーンのピーター・ナヴァロ氏とウィルバー・ロス氏は選挙期間中に、税額控除を用いた民間のインフラ投資の活性化案を提言しました。

 1兆ドルのインフラ投資に関して民間企業に1370億ドルの税額控除を認め、投資を担ってもらい、税額控除分はプロジェクトで働く労働者や企業からの税収で回収する構想です(期間としては10年ぐらいを想定している模様)。

 最近のニュースでも、2月8日に全米知事協会(NGA)がトランプ大統領にインフラ投資の要望書を提出したことが報じられています。

 全米知事協会(NGA)は8日、トランプ大統領のインフラ投資政策に盛り込める優先プロジェクトとして、428に上る事業リストを政権に提出した。リストには全米49の州と統治領に関するプロジェクトが含まれている。(ロイター「トランプ氏のインフラ投資策、知事らが428事業の要望書」2/9) 

  こうした投資構想の背景には、アメリカのインフラが劣化しているという認識があります。2月にはオロビルダムが決壊しましたが、この種の問題は2013年の米国土木学会(ASCE)のレポートで取り上げられていました。

「先進国なんだから、そんなに巨額の投資がいるのか?」という疑問を持たれる方もいると思いますが、アメリカの場合、インフラをつくった時期から数十年がたち、更新が必要な時期にさしかかっています。

 そこに、トランプ政権が出てきたわけです。

インフラ劣化に全米土木学会が警鐘

 前掲のレポートではインフラ劣化の状況や必要な投資額等が具体的に試算されているのですが、こうした学会の試算がトランプ政権のインフラ投資に反映される可能性もあるので、それを抜粋で紹介してみます。

(出所:ASCE | 2013 Report Card for America's Infrastructure

※以下、このレポートではインフラの状況を通信簿にたとえA、B、C、D等の評価を行っています。だいたいDなので、これは、トランプ政権の「インフラはぼろぼろ」という認識と合致しています。

ダム:評価D

84000のダムの平均年齢は建築から52年だ。

The average age of the 84,000 dams in the country is 52 years old.

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高い危険性を抱えたダムは増え続け、2012年には14000に達した。欠陥のあるダムは今や4000以上だ。

 the overall number of high-hazard dams continues to increase, to nearly 14,000 in 2012. The number of deficient dams is currently more than 4,000.

国家ダム安全協会の高官は、これらの致命的で高度な危険性を持つダムの老朽化補修には210億ドルの投資が必要だと見積もっている。

The Association of State Dam Safety Officials estimates that it will require an investment of $21 billion to repair these aging, yet critical, high-hazard dams.

飲料水:評価D

21世紀に入り、我々の飲料水に関わるインフラの多くは、その耐用年数の終わりにさしかかっている。

At the dawn of the 21st century, much of our drinking water infrastructure is nearing the end of its useful life.

アメリカの中で、一年あたり24万の給水本管の破裂が見込まれている。

There are an estimated 240,000 water main breaks per year in the United States.

それぞれのパイプが補修に要するコストを想定すると、その額は1兆ドル以上になると見積もられている。これは米国水道協会の試算だ。

Assuming every pipe would need to be replaced, the cost over the coming decades could reach more than $1 trillion, according to the American Water Works Association (AWWA).

・・・

アメリカの飲料水の品質は世界的に見て高い。しかし、給水本管とパイプにはつくられてから100年以上のものがしばしばある。それらには補修や交換が必要だ

The quality of drinking water in the United States remains universally high, however. Even though pipes and mains are frequently more than 100 years old and in need of replacement

危険廃棄物:評価D

国が危険廃棄物と汚染による工場跡地の清掃に成功したことは否定しがたい。

There has been undeniable success in the cleanup of the nation’s hazardous waste and brownfields sites.

しかしながら、工場跡地の浄化のための年間の資金融通において、5億ドルもの不足が見積もられている。というのは、国家の優先事項リストの中には1280の工場跡地が残されているからだ。ほかにもまだ知られていない跡地があることも知られている。

However, annual funding for Superfund site cleanup is estimated to be as much as $500 million short of what is needed, and 1,280 sites remain on the National Priorities List with an unknown number of potential sites yet to be identified.

40万以上の工場跡地に関して、浄化と再建設が必要とされている。

More than 400,000 brownfields sites await cleanup and redevelopment.

堤防:評価D-

全米50州とワシントンD.Cで100000マイルもの堤防があると見られている。

The nation’s estimated 100,000 miles of levees can be found in all 50 states and the District of Columbia.

・・・

公共の安全はこれらの建築物の老朽化リスクにさらされている。その補修と堤防再建の費用はざっとみて1000億ドルだ。これは堤防の安全に関する国家の委員会の試算だ。

Public safety remains at risk from these aging structures, and the cost to repair or rehabilitate these levees is roughly estimated to be $100 billion by the National Committee on Levee Safety.

しかしながら、その投資の見返りも明らかになっている。堤防は、2011年に1410億ドルもの洪水の被害を防いでいるからだ。

However, the return on investment is clear – as levees helped in the prevention of more than $141 billion in flood damages in 2011.

固形廃棄物:評価B-

2010年にアメリカは2億5000トンものゴミを生み出した。

In 2010, Americans generated 250 million tons of trash.

8500万トンのゴミはリサイクルや肥料になった。

Of that, 85 million tons were recycled or composted.

再利用率は34%。1980年は14.5%だったから二倍以上になった。

This represents a 34% recycling rate, more than double the 14.5% in 1980. Per capita generation rates of waste have been steady over the past 20 years and have even begun to show signs of decline in the past several years.

廃水:評価D

国家の廃水と雨水処理のシステムのためには、今後20年間で累計2980億ドルの設備投資が必要だ。

Capital investment needs for the nation’s wastewater and stormwater systems are estimated to total $298 billion over the next 20 years.

航空:評価D

・・・

連邦航空局は2012年に、空港の混雑と遅延による損失を220億ドルと見積もった。

The Federal Aviation Administration (FAA) estimates that the national cost of airport congestion and delays was almost $22 billion in 2012.

もし連邦がこの水準を維持するのなら、連邦航空局の試算によれば、混雑と遅延の損失は2020年に340億ドル、2040年には630億ドルに達する。

If current federal funding levels are maintained, the FAA anticipates that the cost of congestion and delays to the economy will rise from $34 billion in 2020 to $63 billion by 2040.

橋:評価C+

・・・

累計で9分の1の橋は構造的な欠陥を抱えている。我が国の607380の橋は平均で築42年になる。

In total, one in nine of the nation’s bridges are rated as structurally deficient, while the average age of the nation’s 607,380 bridges is currently 42 years.

連邦高速道路局は、2028年までに未処理の(欠陥)橋を取り除く費用に我々は年あたり205億ドルの投資を要すると試算したが、実際には年あたり128億ドルしか使われていない。

The Federal Highway Administration (FHWA) estimates that to eliminate the nation’s bridge backlog by 2028, we would need to invest $20.5 billion annually, while only $12.8 billion is being spent currently. T

道路局は連邦と州、地方政府のために橋への投資を年あたり80億ドル増やそうと挑戦した。全米では欠陥のある橋のために760億ドルの投資が必要だと認知させようとした。

he challenge for federal, state, and local governments is to increase bridge investments by $8 billion annually to address the identified $76 billion in needs for deficient bridges across the United States.

 しかしながら、いたるところに構造的に欠陥のある橋が下り坂に続いている。

However, with the overall number of structurally deficient bridges continuing to trend downward, the grade improved to C+.

内陸水路:評価D-

大部分、内陸水路のシステムは1950年代以来、更新されていない。その半分はつくられてから50年以上がたっている。

 In many cases, the inland waterways system has not been updated since the 1950s, and more than half of the locks are over 50 years old.

・・・

そのシステムでは、平均で1日あたり52のサービス障害が発生している。

There is an average of 52 service interruptions a day throughout the system.

鉄道:評価C+

Rail: Railroads are experiencing a competitive resurgence as both an energy-efficient freight transportation option and a viable city-to-city passenger service.

2012年にアムトラックは、最も多い公共交通機関利用者数である3120万人を記録した。これは2000年の二倍だ。

In 2012, Amtrak recorded its highest year of ridership with 31.2 million passengers, almost doubling ridership since 2000, with growth anticipated to continue.

・・・ 

2010年だけで、貨物鉄道は3100マイルの線路を更新する。その距離は太平洋沿岸から大西洋沿岸までの距離に匹敵する。

In 2010 alone, freight railroads renewed the rails on more than 3,100 miles of railroad track, equivalent to going coast to coast.

2009年以来、貨物と上客のための設備投資は750億ドルを上回った。実際に、投資は資源価格が下がり、鉄道が頻繁に走らなくなる不況の間も増え続けている。

Since 2009, capital investment from both freight and passenger railroads has exceeded $75 billion, actually increasing investment during the recession when materials prices were lower and trains ran less frequently.

道路:評価D

42%のアメリカの主要高速鉄道は渋滞している。時間の無駄と年間の燃料における経済的損失は1010億ドルと見積もられている。

However, forty-two percent of America’s major urban highways remain congested, costing the economy an estimated $101 billion in wasted time and fuel annually.

近年、その状況は改善されたが、連邦と州は地方の公共投資を年間910億ドル増やした。しかし、その投資はまだ不十分で、長期的に見た成果と交通状況は悪くなっている。

While the conditions have improved in the near term, and federal, state, and local capital investments increased to $91 billion annually, that level of investment is insufficient and still projected to result in a decline in conditions and performance in the long term.

現在、連邦の高速道路の当局は、条件を改善させ、成果を出すために1700億ドルの投資が必要だと見積もっている。

Currently, the Federal Highway Administration estimates that $170 billion in capital investment would be needed on an annual basis to significantly improve conditions and performance.

学校:評価D

アメリカの公立校の約半分はベビーブーマーの世代を教育するためにつくられた。その彼らは今や引退しつつある。

Almost half of America’s public school buildings were built to educate the baby boomers – a generation that is now retiring from the workforce.

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学校づくりのための国の予算は減少し、2012年には100億ドルになった。それは不況期以前の水準の半分だ。学校の機能に関してコミュニティは重大な懸念を抱えている。

National spending on school construction has diminished to approximately $10 billion in 2012, about half the level spent prior to the recession, while the condition of school facilities continues to be a significant concern for communities.

専門家は近代化と施設維持のために我が国の学校には少なくとも2700億ドル以上の費用が必要だと見積もっている。

Experts now estimate the investment needed to modernize and maintain our nation’s school facilities is at least $270 billion or more. 

エネルギー:評価D+

アメリカは老朽化した電線とパイプラインのシステムに頼っている。そのなかには1880年代につくられたものも含まれている。

America relies on an aging electrical grid and pipeline distribution systems, some of which originated in the 1880s.

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しかし、電気需要の水準は高いままだ。エネルギーの利用形態は電気、天然ガス、石油などだが、それらは2020年以降も人口増加のために巨額になるだろう。

While demand for electricity has remained level, the availability of energy in the form of electricity, natural gas, and oil will become a greater challenge after 2020 as the population increases.

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米国だけではインフラ投資計画を完成不能?

 こうして見ると、途方もない規模のインフラ投資が必要なようにも思えてきます。

 規模が大きいので、日本や中国に参入の機会ありという見方が出てくるわけです。そもそもインフラ投資の中には米国企業に技術がない分野もあるため、トランプ政権のインフラ投資は、内容次第では、諸外国の大手インフラ企業にとってのビジネスチャンスにもなりうるわけです。

 エキサイトニュース(2017/2/10)で、この問題に関する米専門家の声が紹介されていました。

 米国土木学会(ASCE)の予測では、インフラ建設やリニューアルに必要な投資額は2020年までに3兆6000億ドル(約409兆円)に上る見通しだ。記事によると、亜洲時報はこの問題に関する米専門家のコメントを取り上げており、交通輸送コンサルタントのKevin Coates氏は「現在の米国に高速鉄道と関連インフラを建設できる企業は存在しない」と指摘。一部のアナリストからは「米国企業の作業効率はトランプ大統領の建設計画に追い付けない。先進的な建設経験を持つ企業のほとんどが日本、ドイツ、中国だ」などとして、これら3カ国の企業との協力を模索すべきとの声が出ているという。(by Yamaguchi)

(出所:トランプ大統領のインフラ投資計画、米専門家「日本や中国企業との協力必要」 - エキサイトニュース

  前掲のASCEの投資必要額を全部足すと2020年までで3.6兆ドルもの規模になります。

 この数字を仮に18年~20年までの3年間で割ると、1年あたり1.2兆ドル。トランプ氏がぶちあげた1兆ドルのインフの規模よりも2割も多い金額になります。

 2016年2月9日にオバマ大統領が出した2017年の予算教書での「歳出」を見ると、その規模は4兆890億ドル。非国防関係費の総額が5630億ドルなので、オバマ氏が注力した社会保障予算を削っても、1兆ドル以上のインフラ投資を行うのはかなり難しそうです。

(以下のデータと図表の出所は、2017年度予算教書 | 外務省

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 ASCEの言う巨額のインフラ投資の必要額は何割か薄めざるをえざるをえないわけです。このあたりがトランプ政権の腕の見せ所になるのでしょう。

 トランプ政権はインフラ投資だけでなく、減税も訴えているので、財源問題が出てくることは避けられないでしょう。筆者は同政権のインフラ投資には期待していますが、それが成功するまでには、まだまだ多くの障害が立ちはだかっているようにも思えます。