トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプ予算 軍事費6兆円増 活気づく防衛系大手 日米同盟にはプラスの効果も

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(米軍LCS。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ大統領が軍事費を6兆円増やすことを表明しました。

 これは 28日の議会演説(上下両院合同本会議)を視野に入れた発言です。

 オバマ政権で削減が続いた軍事費が増額路線となり、公約通り、米軍再建が開始されます。

 オバマケアや海外援助予算などは削減されるので、日本共産党の主張とは真逆の「福祉を削って軍事費を増やす」予算がアメリカで実現することになりそうです。

(国際政治に関して筆者はリアリストなので、共産党や朝日新聞などとは逆張りタイトルになりました)

 今回は、この大規模な政策転換を追ってみます。

米軍事費6兆円増 活気づく軍事系大手

 まず、日経電子版でこのプランの概要を見てみます(「軍事費6兆円増へ トランプ氏『歴史的拡大』巨額インフラ投資にも言及」2017/2/28)

 【ワシントン=川合智之】トランプ米大統領は27日、ホワイトハウスで州知事らと会談し、2018会計年度(17年10月~18年9月)予算案の概要を説明した。軍事費について「歴史的な拡大となる」とした。米メディアによると、軍事費は17年度の約1割にあたる540億ドル(約6兆円)増やす。トランプ氏は「米軍の再建」を掲げていた。「巨額のインフラ投資をする」とも述べた。

 ・・・

 軍事費増額の代わりに外交を担当する国務省、地球温暖化対策を担当する米環境保護局(EPA)などの予算を540億ドル分削るという。

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 治安対策や司法機関の予算も強化する。トランプ氏は「再び戦争に勝ち始めなければならない」としたうえで、今回の予算は「公共安全と国家安全保障の予算になる」と説明した。

 当然ながら、国防予算が増えれば軍需産業は活気づきます。

 トランプの最近の発言(核軍備増強等)を反映してか、現在、防衛系大手の株価は上昇傾向を見せています。

★ボーイング(BA)

132.99(9/6)⇒139.54(11/4)⇒147.69(11/10)⇒155.68(12/30)⇒169.12(1/26)⇒162.4(2/3)⇒183.91(3/1)⇒175.96(3/21)⇒178.4(4/19)⇒186.91(5/9)⇒177.4(5/18)⇒190.03(6/9)

★ロッキードマーティン(LMT)

230(10/21)⇒238(11/8)⇒267(11/14)⇒250(12/30)⇒269.35(2/27)⇒267.76(3/3)⇒276.21(4/26)⇒267.32(5/18)⇒283.65(5/26)⇒277(6/9)

★ノースロップ・グラマン(NOC)

213.95(9/30)⇒251.12(11/14)⇒232.58(12/30)⇒248.62(2/27)⇒242.93(3/3)⇒236.1(4/5)⇒259.22(5/31)⇒259.69(6/9)

★レイセオン(RTN)

132.97(11/4)⇒149.73(11/14)⇒142(12/30)⇒155.03(2/27)⇒153.75(3/3)⇒149.95(4/5)⇒164.01(5/31)⇒160.94(6/9)

★ユナイテッド・テクノロジーズ(UTX) 

109.33(8/18)⇒98.67(10/21)⇒108.86(11/11)⇒109.62(12/30)⇒112.85(2/27)⇒112.34(3/3)⇒112.09(4/13)⇒120.64(6/9)

そもそも米予算はどうなっている・・・

 日経報道は過去の米予算の中身まで教えてくれないので、外務省HPで概要を見てみます。2016年2月9日時点でオバマ大統領が出した2017年の予算教書では、どのようにお金が配分されていたのでしょうか(以下の図表とデータの出所:2017年度予算教書 | 外務省)。

★2017年度予算案(歳入):約3兆4770億ドル

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★2017年度予算案(歳出):約4兆890億ドル

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 歳入から歳入を引くと、「2017年度の財政赤字は 5,030億ドル(対GDP2.6%。昨年度は3.3%)」。

 軍事費の上限を抑制したはずのオバマ政権でも6050億ドルが軍事費に使われています。トランプ政権の6兆円増だと、8%増ぐらいに相当するのでしょうか。

 冷戦期につくられた大陸間弾道ミサイルが老朽化しているので、アメリカはその更新費用を捻出しなければいけなくなっています。その予算は30年間で1兆ドルを要するとも言われているので、ロシアや中国に対峙し続ける上で、やはり、軍事費の増額は不可避だと言えます。

(※トランプ氏は2010年にオバマ政権がロシアと合意した「新戦略兵器削減条約(新START)」を見直す方針。「一方的な取引だ」と批判している)

 トランプ氏は米海軍艦艇を276隻から350隻に増やすことを訴えてもいるので、こちらにも巨額の費用がかかります。

 軍事費の上限抑制が終わるという意味では、本年に出されるトランプ大統領の予算教書が一つの歴史の境目になるのかもしれません。

軍事費増の背景は何? トランプ発言を追ってみる

 フォックスニュースの記事でトランプ氏の発言を見てみます(以下、日本語訳は筆者挿入)。

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 トランプ大統領は「次期計画での歴史的な540億ドルの防衛予算増額と他の予算の削減」の実現を模索している。

 ・・・

「この予算は公共の安全と国家安全保障のための予算になる」とトランプ氏は述べた。

 彼は、そのプランに「枯渇した軍を再建するための歴史的な防衛費の拡大」が含まれることを明かした。

 大統領は、戦争を抑止するだけでなく、起きてしまった戦争に勝つためにも、軍に対してよりよい準備をしたいと繰り返した。

「我々は勝つか、まったく戦わないかのどちらかしかない」とトランプは述べた。

 トランプの2018年予算への要望は両院合同会議で行われる演説の一日前(月曜日)に省庁に送られる。

 ・・・

 トランプが選挙期間から公約していたように、国防総省の予算は大規模な増額になる。

 しかし、防衛に関わらない他省庁の予算や海外援助の計画は削減される。その削減には国務省予算も含まれる。

 ・・・

 はっきりしないのは、この軍事費の増額は「強制削減」(※オバマ政権の頃は軍事費が一定額、強制的に削減されていた)の要件と一致するかどうかだ。今までは、議会とオバマ政権によって全面的な予算削減が必須のものとされていたのだ。

 同時に、議会の防衛タカ派はトランプの軍拡要望に関して、2018年の6030億ドルで足りるのかどうかを問うていた。

「6030億ドルでは海軍を再建できない」と関係者は述べ、防衛費の増額が不十分であるとの懸念を表明している。

 トランプは彼の予算計画を三月半ばに表明する。

 大統領は金曜日の保守活動家の会合で軍事費の増額を見積もる。その予算は「アメリカの歴史で最大の建設の一つ」と公約されたものだ。

 「わが軍のすべてを実質的に更新する。攻撃面と防衛面、あらゆる領域に関して、今までよりも大規模にし、よりよく、より強いものにしたい」と彼は述べた。

 (出典:Trump seeking $54B increase in defense spending, cuts elsewhere Published February 27, 2017 FoxNews.com)

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 軍事費の増額は「強制削減」(※オバマ政権の頃は軍事費が一定額、強制的に削減されていた)の要件と一致するかどうかが不明だと書かれていますが、その結論は明白です。

 トランプ氏は”sequestration”はやめると何度も述べています。

 今後、共和党議院と連携してやめさせるはずです。共和党内でも軍再建を支持する議員は多いので、これは不可能ではないでしょう。 

 日本から見れば途方もない金額ですが、質問した議員は、従来の6000億程度の予算では足りないと懸念しています。

 なぜそういう考え方が出てくるのかというと、軍予算はかなりの割合が維持費で消えてしまうからです。

 そこには、大規模にしないと、トランプがいう軍の更新、つまり海軍艦艇の新規建造や空軍の強化等は難しいのです。

米軍事費の内訳はどうなっている?

 オバマ政権が2016年に議会への提出した時の国防予算(国外作戦を除いた金額)構想の内訳が、日本航空宇宙工学会のレターで公開されているので、それを見てみましょう。

  • 人件費:1352億ドル
  • 作戦行動費:2059億ドル
  • 装備品調達費:1026億ドル
  • 研究開発費:714億ドル
  • 建設費:61億ドル
  • 家族住宅:13億ドル
  • 回転資金:14億ドル
  • 総計:5239億ドル(国外作戦を除く)

 人件費は、まさに軍の維持費そのものです。作戦行動日は毎年消化される活動費であり、装備品にもメンテナンス費がかかります。

 前掲資料では、もろもろのお金を足した2017年度の主要装備品の調達費総額(研究開発費を含む)は1839億ドルとされていました。調達に回せる金額は3割以下であるわけです。

 現実の軍事予算の世界では、信長の野望みたいに、お金を投下したら兵と装備がプッと出てきません。装備があっても訓練しないと使い物にならなかったり、メンテナンス費用がかかったりと、ややこしい問題の連続なのです。

 今後も、複雑な障壁を乗り越えながら、トランプ政権は米軍再建に力を注いでいくはずですが、他の分野の予算削減などがどの程度、進められるのかが気になるところです。

 イデオロギーで見ている人は「福祉を削って軍にお金を回すのは許せない」と言うのでしょうが、日本の防衛は「自衛隊が盾」「米軍が矛」という構造になっているのが現状なので、トランプ軍拡は、日本にとっては悪い話ではないでしょう。

(※産経ニュース〔3/2〕によれば、安倍首相も3月2日の参院予算委員会で、〔米軍事費の〕「増額を通じ日米同盟が強化されることは、日米両国だけでなくアジア太平洋地域の平和と繁栄にプラスになる」と述べている)

 パワーポリティクスの国際政治は「どこかが弱まればどこかが得をする」というゼロサムゲームになりがちなので、「米軍が弱体化すれば中国軍や北朝鮮軍が喜ぶ」という構図になっています。得意分野に特化して全体の富の総量を増やせる(プラスサムが生まれる)自由貿易のようには行かないわけです。

 トランプ政権の軍事費増額は中国の軍拡や北朝鮮の核開発への対抗策でもあるので、日米同盟にとってはプラスの効果があります。

 日本からニュースを見るうえで、ここを見落としてはいけないでしょう。

追記:ボーイング社とトランプ政権の関係は良好?

 防衛大手とトランプ政権との関係を見るうえでの参考として、ボーイング社を見てみます。

 ボーイング社はトランプ氏当選後、株価が急上昇した企業の一つです。

 昨年12月にはトランプ氏が「ロッキード・マーティンのF35はとほうもない費用だ。この費用超過のため、私はボーイングに、競合機のF18スーパーホーネットの見積価格を出すことを求めた」(22日)とツィートしたことが注目されました。

 その後、新政権が発足し、軍事予算の1割増という方針が出され、その期待から防衛部門を掲げるボーイング社の株価も上がり続けました。

 

 しかし、意外にも、4月18日のニュースでは、同社がエンジニア数百名の追加削減を行うことが報じられています。産経BIZによれば、ボーイング社は17年に入ってからすでに1500人の機械工と305人のエンジニア等が希望退職に応じており、この上に追加で人員削減が6月23日に行われる予定です。その理由には「航空機の売上げ減少」が挙げられ、同社が「ここ1年以上、新規採用を抑制し」、「全社従業員数は2016年3月末と比べて7.6%減の14万6962人になった」ことが指摘されています。

(出所:ボーイング、エンジニア数百人追加削減 航空機売り上げ減少 - SankeiBiz(サンケイビズ)

「株価が上がりまくっているのに、なんで人員削減なんだろう」という疑問を感じたので、今回はボーイング社についてざっと調べてみました。

ボーイング社の売上と一株当たり利益を見ると・・・

 ボーイングの年次報告書(2016年)を見ると、確かに16年の売上高は減っています。

 817億ドル(12年)⇒866億ドル(13年)⇒908億ドル(14年)⇒961億ドル(15年)⇒946億ドル(16年)

 一株当たり利益(Core Earnings Per Share)も15年以降は下がっていました。

 5.88ドル(12年)⇒7.07(13年)⇒ 8.6ドル(14年)⇒ 7.72ドル(15年)⇒ 7.24ドル(16年)

  前掲記事には「世界的に高まる環境保全気運を背景に、同社は受注が減少しているジャンボ機「747」や双発ジェット機「777」の生産比率を下げる見通しを示している」とも書かれていますが、同社では意外と堅実に切り詰めが行われているようです。

 一株当たり利益は下がっていますが、営業キャッシュフローは増え続けているので、安全運転の経営を目指しているとも言えそうです。

 75億ドル(12年)⇒82億ドル(13年)⇒89億ドル(14年)⇒ 94億ドル(15年)⇒ 105億ドル(16年)

 最近はトランプラリーの熱も冷めてきたので、株価が上がりすぎて買いにくくなったボーイング株もどこかで株価が下がり、次の買い目がやってくるかもしれません。

 トランプ氏当選後、わずか半年の間で130ドル台から180ドル台にまで株価が大きく伸びたので、ここには相当、期待値が盛り込まれています。

 トランプ政権も「期待」の段階から「現実」との対決を迫られる段階に移行しているので、3月のオバマケア撤回断念のように、今後はうまくいかないケースも増えてくるでしょう。

 ボーイング社に関しては、とうてい、今が買い時とは思えないのですが、適度に株価が下がった時に、もう一回、買いのタイミングが来るかもしれません。

ボーイング社幹部が米国防総省ナンバーツーに

 最近のニュースを見ると、3月にトランプ大統領がボーイング社幹部を国防総省のナンバーツーに起用する方針を発表したことが報じられています。

 ブルームバーグ(2017/3/17)は「シャナハン氏は軍事、宇宙、民間航空機などの部門で30年の経験」と題した記事を公開し、「既に緊密な同社と新政権の関係がさらに強まる」と述べていました。

ボーイングのシニアバイスプレジデント、パトリック・シャナハン氏(54)が国防副長官に指名されたと、ホワイトハウスが16日の声明で発表した。上院に承認されれば、政権の方針の下、2年にわたってボーイング関連案件への関与を控えることが義務付けられる。

 エンジニア出身のシャナハン氏に関しては「デニス・ムーレンバーグ最高経営責任者(CEO)の直属の部下」で「軍事、宇宙、民間航空機などの中核部門」において30年の経験を積んだ人材として紹介されています。 

ボーイング社とトランプ政権の相性は良好?

 2月17日には、トランプ大統領はボーイング社787ドリームエアライナーのお披露目式典で演説しているので、同社との関係は良好のようです。

 サウスカロライナ州の北チャールストンにある工場での式典にトランプ大統領と南カリフォルニア知事(ヘンリー・マクマスター氏)が呼ばれ、製造ライン等を視察後、3000人の聴衆(ボーイング社社員)に向け、製造業従事者に向けたメッセージを送りました。 

 ボーイング社HPには、式典でのボーイングCEOのデニース・ミュレンバーグ氏の発言が掲載されています。

(以下、筆者訳)

ーーー

「ここボーイングのサウスカロライナで起きているのはアメリカの成功物語だ」

「わずか数年で、わが社のチームは緑の土地を近代的な航空機工場に変えた。この工場は世界中に787エアラインを送り、アメリカに数千の雇用を支えている」

("Boeing Debuts 787-10 Dreamliner Airplane scheduled to fly in the coming weeks, deliver to customers in 2018":MediaRoom - News Releases/Statements

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 ボーイングの航空機販売部門のCEOであるケビン・マクアリスター氏はサウスカロライナと世界中にいるボーイング社のメンバーがつくったこの機体は世界で最も効率的だとも宣伝しています。

 この式典では、トランプ大統領が「アメリカファースト」を訴えかけています。

 ワシントンポストは2月17日の記事で以下の発言を紹介しました(以下、筆者訳)。

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「我々は今日、ここにアメリカのエンジニアリングと製造業を祝福するために立っている」

「我々は雇用が生まれたことも祝いたい。そうだ、雇用だ!」

「雇用は、私が今、ここに立っている主な理由の一つだ。私は決してあなたがたを失望させない。私を信じてくれ」ともつけ加えた。

(略)
あなたがたは雇用にまつわる出来事を見ている。あなたがたはこの国に工場が戻る光景を見ている。
(略)

あなたがたの大統領として、アメリカ人の魂の力を解き放ち、偉大なる国民が働くためにアメリカに帰ってくるために、私はなしうるすべてのことを行うつもりだ。
これが我々のマントラだ。「アメリカ製品を買え。アメリカ人を雇え」 

(出所:”At Boeing, Trump returns to an economic message after a week of controversy”By Abby Phillip and Max Ehrenfreund February 17

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 動画で見ると演説の間には何度も喝采が起きています(次節のヴォイスオブアメリカ記事には埋め込まれた動画を参照)。

 列席したボーイング社のメンバーは同氏のメッセージを肯定的に受け止めているようです。

 ボーイング社とトランプ氏の間ではエアフォースワンの価格交渉等も行われましたが、空母艦載機F18をはじめとした大口の発注を期待してか、同社はトランプ氏に肯定的なスタンスを取っています。

 ヴォイスオブアメリカの記事によれば、トランプ氏は「ボーイングの従業員に向けた発言の中で、大統領は従業員を解雇し、海外に移転した企業には『重罰を課す』と述べましたが、同時に、アメリカ空軍がボーイングが製造するF18に対して「大きな発注をかける」ともPRしています。

(出所:”Trump Touts 'America First', US Jobs During Boeing Factory Visit”  2017/2/17)

 飴と鞭の使い分けですが、ボーイング社は全体的には自社にプラスになると考えているのかもしれません。

 安倍首相訪米時の朝食会にボーイング社CEOが列席していたのは、トランプ氏の製造業振興や空軍再建などの政策を追い風にしたいという狙いがあったのでしょう。影響力が大きいボーイング社の動きには、今後も注視したいと思います。