トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

米アカデミー賞 ノミネート9作品一覧 受賞俳優は誰になる?

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(LAヒバリーヒルズの風景。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 受賞する作品と俳優に注目が集まる米アカデミー賞は26日の夜(日本時間では27日午前)に始まります。

 1929年の初回から89回目。第一回目は映画関係者の夕食会に開かれた、ささやかな集いだったのですが、今や世界から注目が集まる一大祭典にまで発展しています。

 (WOWOWの独占生中継サイトはこちら

 14分野でノミネートを達成したミュージカル映画「LA LA LAND/ラ・ラ・ランド」の華々しさが目を引きますが、他にも有力候補が多数あるので、どうなるのかはフタを開けてみないとわかりません(ラ・ラ・ランドはロサンゼルスで夢を追って四苦八苦するジャズピアニスト男性と俳優志望の女性との恋物語)。

 17年にはトランプ政権が発足したため、黒人層やヒスパニック、女性の人権尊重を訴える意向を選考に反映させる可能性もあるともみられています。その場合はマイアミの貧しい家庭で育つ黒人少年を描く「ムーンライト」(8部門ノミネート)が有力株になりそうです(※作品賞はムーンライトが受賞した

 そのほか、1950年代のピッツバーグでの黒人家族の生活を描く「フェンシズ」、3名の黒人女性が宇宙開発にいかに貢献したかを描いた「ヒドゥン・フィギュアズ」も黒人層にスポットを当てた作品です。

 ほかには宇宙人とのファーストコンタクトを描く「メッセージ」や沖縄戦での米衛生兵の活躍を描く「ハクソー・リッジ」、泥棒とレンジャーのバトルを描いた「最後の追跡」、25年ぶりの家族の再会を描く「LION/ライオン 25年目のただいま」、兄を失った弟が後見人として直面した複雑な家庭問題を描く「マンチェスター・バイ・ザ・シー」等が有力候補にあがっています。

 パッと見た印象では、人種問題や家庭問題に関わる作品が多いようにも見えます。ロイター記事(「米アカデミー賞、ワシントンとアフレックが主演男優賞巡り接戦」2/23)では、「フェンシズ」のワシントン氏と「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のアフレック氏の一騎打ちとみています(※主演男優賞はアフレックで決まり

冗舌で力強い父親を演じたデンゼル・ワシントン(62)か、それとも無口で内向的な父親役のケイシー・アフレック(41)か──。26日に授賞式が行われる米アカデミー賞で、ともに主演男優賞にノミネートされている2人が接戦を繰り広げている。

 昨日は宇宙戦艦ヤマトを取り上げたので、今日はアメリカ映画に関心を向けてみます。

 まず、候補作品を紹介してみましょう。

LA LA LAND/ラ・ラ・ランド(デイミアン・チャゼル監督)

 LAはロサンゼルスを暗示。スターを夢見ながらもオーディションに落ち続ける女性ミア(エマ・ワトソン)とクリスマスに首になったジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)の恋が描かれています。

(※デイミアン・チャゼルは監督賞、エマ・ワトソンは主演女優賞を受賞ラ・ラ・ランドは撮影賞、美術賞、作曲賞、歌曲賞を受賞。ライアン・ゴズリングは主演男優賞ノミネート)

 冒頭に高速道路の渋滞中にみんなで歌い踊るミュージカルシーンがありますが、これは実際にロス近辺の高速道路を借りて撮っています。そのほか、ロサンゼルスのデートスポットであるグリフィス天文台での恋の告白から天に上る恋の夢を描き出す(実際に映画中に特撮で天に上るシーン有)など、現地LAへのオマージュが満載。

gaga.ne.jp

 日本では2月24日に公開されます。プレビューで見ると、カラフルなドレスを着たエマ・ワトソンの姿が印象的です。

 筆者も物書きの夢を追いながら、いまだ実現していないので、アーティストの夢追いをテーマにした作品には心ひかれるものがあります。

 LA在住の方々の心をわしづかみにする嗜好がこらされていますが、一方では、ジャズは黒人が生んだ音楽なのに主人公は白人。「なんでなの?」という声も出ています。

 昨年は演技部門で白人ばかりが受賞した背景もあるので、その反動で、後述の「ムーンライト」等の黒人主演の映画が選考上で有利になる可能性もささやかれているのです。

 本作品の監督のデイミアン・チャゼルは31歳。ジャズドラマーを目指す若者を描いた「セッション」が代表作。今後の活躍が期待されています(「セッション」は87回目のアカデミー賞で5部門ノミネート、3部門受賞)。

ムーンライト(バリー・ジェンキンス監督)

 こちらはマイアミに育つ内気な黒人少年シャロンがいじめに耐えながら育つ物語です。このたび、作品賞と脚色賞を受賞しました。

 薬物に心を奪われた母親(演技はナオミ・ハリス。助演女優賞ノミネート)は育児放棄をしているので、厳しい貧困家庭の子であるシャロンは近所に住むキューバ出身の黒人フアンに助けてもらいます。

 何で「ムーンライト」なのかというと、フアンがキューバにいた頃、月光の中では黒人の肌は青く光って見えると言われた思い出をシャロンに伝えたことが元になっています(映画では黒い肌に青めの光を入れて美しく描く工夫を凝らしている)。

 子供は大人に教えてもらわないと、なかなか泳げるようになれないので、黒人の低所得者の子供には泳げない人が多いことがアメリカでは社会問題の一つに数えられており、そこが映画の主要場面に入れられているのです。

 シャロンの内面の成長が主たる内容ですが、助けてくれる黒人少年ケビンとの微妙な関係などのLGBTマターも描かれています。製作総指揮はブラッド・ピット。こちらはラ・ラ・ランドとは違い、黒人がずらっと並びます。

 前者とは非常に対照的です。

moonlight-movie.jp

 主人公のシャロンは三つの時代で出てきますが、成人後はトレバンテ・ローズ、10代の頃はアシュトン・サンダース、幼少年期はアレックス・ヒバートが演技。ケビン役はアンドレ・ホランド、フアン役はマハーシャラ・アリ(助演男優賞を受賞)です。監督のバリー・ジェンキンス氏もアカデミーの監督賞にノミネートされています。

メッセージ(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)

『ブレードランナー』の続編を監督するヴィルヌーヴ氏(今回、監督賞ノミネート)の最新作です。米国人作家テッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」(ネビュラ賞を受賞)を映画化。

 このたび、メッセージは音響編集賞を受賞しました。

 突然に宇宙船が出現。謎の知的生命体と人類との交信が始まるわけですが、その言葉の解読に女性言語学者のルイーズが男性の物理学者イアンと共に挑戦。

 ルイーズ・バンクス役にエイミー・アダムス。イアン・ドネリー役にジェレミー・レナー。

www.message-movie.jp

 この映画は、よくある「宇宙人が攻めてくるぞ」という物語ではありません。

 女性言語学者は宇宙人と交流する中で未来を見る特殊能力が身につき、自分の未来の結婚相手や家族の姿を見てしまいます。この女性に焦点を当てた「あなたの人生の物語」が描かれます。

(※映画評論家の町山智浩氏は、宇宙船がおせんべいの「ばかうけ」に似ているとも評している)。

 この異星人が何のために来たのか。それは映画を見てのお楽しみ・・・。

ハクソー・リッジ(メル・ギブソン監督)

 日米で最後の決戦が行われた沖縄を舞台に、衛生兵デズモンドの活躍が描かれます。

 人命尊重の厳格な掟を守るセブンスデー・アドベンチスト教会の信者であるデズモンドは戦闘行為を拒否し、仲間の反発を買いながらも戦闘で傷ついた命を数多く救ったので、戦後に勲章を与えられた実在の人物です。

 鋸の崖(ハクソーリッジ)と呼ばれたのは、日本軍陣営の北にある「前田高地」で、これは米国側の呼び名にあたります。

『ブレイブハート』等で有名なメル・ギブソン監督は反ユダヤ人的な発言や私的なスキャンダルで信用を失い、干されていましたが、今回のハクソーリッジで巻き返しを図り、堂々の6分野でのノミネート入りを果たしました。

 このたび、ハクソーリッジは編集賞と音響編集賞を受賞しています。

hacksawridge.jp

 デズモンド役のアンドリュー・ガーフィールドも主演男優賞にノミネートされています。

 この作品の意図自体は人道的ですが、ギブソン監督の戦闘シーンは非常に激しいので、視聴者の側にも一定の「耐性」が必要かもしれません。

ヒドゥン・フィギュアズ(セオドア・メルフィ監督)

 宇宙開発に際してNASAのマーキュリー計画に貢献した3人の黒人女性の活躍が描かれています。

 ソ連に人工衛星打ち上げで先を越されたアメリカでは、巻き返しのために1959年~63年に有人宇宙飛行計画が立ち上がります。

 キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)はメアリー(ジャネール・モネイ)、ドロシー(オクタビア・スペンサー。助演女優賞ノミネート)とともに1961年にバージニア州にあるラングレー研究所で衛星計画の計算に携わっていました。物語では、実験用宇宙カプセルにおける耐熱壁の欠陥の改善などへの三名の貢献が描かれますが、黒人向けのトイレがない等、ひどい境遇の中で勤務しています。ケネディ政権の頃には公民権運動が盛り上がったのは、この時代でもまだ激しい差別が行われていたからです。

www.foxmovies.com

 ざっくり言えば、黒人版の「理系女子」の活躍映画と見てよいのではないでしょうか。 

フェンシズ(デンゼル・ワシントン監督)

 1950年代のピッツバーグが舞台。黒人劇作家オーガスト・ウィルソンの同名作品が原作(ピュリッツァー賞とトニー賞を受賞)。黒人家庭のホームドラマですが、人種差別のために野球でプロになれなかった父とフットボール選手を目指す息子との「世代の違い」に焦点が当てられています。

 デンゼル・ワシントンは監督と同時に、挫折を抱え、苦悩しながら清掃員として働く父の姿を熱演。アカデミー賞では俳優面のほうが評価され、主演男優賞にノミネート。妻役のビオラ・デイビスは主演女優賞を受賞しました。物語では浮気を原因とした夫婦バトルも起きますが、夫婦仲良く受賞できるかどうかが注目されます。

www.fencesmovie.com

 オフィシャルサイトは何ともいえない渋い仕上がりになっています。

マンチェスター・バイ・ザ・シー(ケネス・ロナーガン監督)

 主人公はボストンで便利屋をしているリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック。主演男優賞を受賞)。
 けんかっ早く、友達がいない彼は突如、兄の訃報を聞かされ、実家に帰りました。
 兄は16歳の息子ジョーを残して死んでしまったので、リーが後見人になります。突然やってきた後見人の重荷。果たしてリーは傷ついた家族を再生させることができるのかーー。
 こうした家庭のドラマが描かれます(マンチェスター・バイ・シーは脚本賞を受賞しました)。

 俳優のノミネートが多いことにも要注目です。ケイシー・アフレックだけでなく、ミシェル・ウィリアムズ (助演女優賞)やルーカス・ヘッジズ(助演男優賞) にノミネートされています(ロナーガン監督も監督賞にノミネート)。

LION/ライオン 25年目のただいま(ガース・デイヴィス監督)

 5歳で迷子になって以来、両親を知らずに育ったインド人男性がグーグルアースを用いて感動の再会を果たす実話の映画化です。主人公のあだ名である「ライオン」が題名になっています。

  2016年10月にイギリスで公開された後、 英国アカデミー賞で助演男優賞と脚色賞を受賞しています。

 今回の米アカデミー賞でもデーヴ・パテールが助演男優賞、ニコール・キッドマンが助演女優賞にノミネートされました。

gaga.ne.jp

 「グーグルアースにこんな使い方があったとは・・・」と驚かされますが、これからの社会では、ITの進化で探偵に頼む必要もなくなるのかもしれません。

最後の追跡(デビッド・マッケンジー監督)

 不況下のテキサスの田舎でタナーとトビー(兄弟)が差し押さえから両親が遺した牧場を守るために銀行強盗を開始。これを追うのは老いたレンジャー。

 銀行強盗の兄弟二名と老いたレンジャーとのバトルを描いた作品です。

 ネットフリックスでのサイト配信が行われています。ネットからノミネートという快挙を成し遂げました。レンジャー役のジェフ・ブリッジスも助演男優賞にノミネートされています。

www.netflix.com

俳優単独でのノミネートと長編アニメは?

 そのほか、俳優単独のノミネートとして、主演女優賞では以下の四名の名があがっています。

  • イザベル・ユペール:ELLE
  • ルース・ネッガ:ラビング 愛という名前のふたり
  • ナタリー・ポートマン:ジャッキーファーストレディ 最後の使命
  • メリル・ストリープ:マダム・フローレンス! 夢見るふたり

 主演男優賞ではヴィゴ・モーテンセン(「はじまりへの旅」)、助演男優賞はマイケル・シャノン(「ノクターナル・アニマルズ」)が単独でノミネートされています。

 長編アニメでは、以下の5作品がノミネートされました。

  • クボ・アンド・ザ・ツー・ストリングス
  • モアナと伝説の海
  • ズッキーニと呼ばれて
  • レッドタートル ある島の物語
  • ズートピア(長編アニメ映画賞を受賞)

なぜか政治的な動きが話題になる今回の米アカデミー賞 

 昨年以来、米国の俳優や監督からもトランプ氏への批判が相次いでいるので、今回のアカデミー賞でも何か政治的な発言が飛び出すのではないかと各紙で報じられています。

 直近ではイスラム系の七か国の入国一時禁止の大統領令署名を契機に、外国語映画賞にノミネートされたイランのアスガー・ファルハディ監督(作品は「セールスマン」)が授賞式を欠席。

(※監督欠席中でも『セールスマン』は外国語映画賞を受賞することになった)

 2月24日にはジョディ・フォスター氏がマイケル・J・フォックス氏とともにヒバリーヒルズで反トランプの集会を開催し、前掲の大統領令を批判しています。

 1月には、トランプ大統領をメリル・ストリープ氏が批判したことに、俳優兼監督のロバート・デ・ニーロが称賛の手紙を送ったことも報じらました。

 アカデミー賞の日本語中継はWOWOWプライムで独占生中継される予定ですが、そこで司会を務める高島彩氏へのインタビューでも、この話題が取り上げられていました。

「守りに入らずに問題を提起するのがハリウッドならではかな」「授賞式はもとより、入国さえできない方もいらっしゃるようですし、そのことについてどんなスピーチが聞けるのかな」「アメリカがすごいのは"主張する文化"が根ざしていること。日本ではあんなふうに国のトップを公に批判できないけど、アメリカであれば言う人は言うし、ちゃんとメッセージを届けようという意志もある」「トランプさんの耳にどう入って、彼がどうツイートするのかも含め、期待しています」

(出所:「高島彩、WOWOWアカデミー賞授賞式の案内役「トランプ政権下のスピーチに期待」 | マイナビニュース 2/25)

  そのほか、アカデミー賞の後のパーティをアンチトランプ集会にしてくれという嘆願キャンペーンが行われたり、アカデミー賞前のパーティが移民支援のパーティに切り替えられたりしているようです。

アメリカの俳優のほうが政治的に自由なのか?

 こうしてみると、日本の芸能界とはずいぶんと違いがあることがわかります。

 これに関しては、厚切りジェイソンさんも、日本の芸能人が自由に政治発言できないことに疑問を呈していました。

「アメリカのお笑いはトランプを題にしている人が多いんですけど、日本はあまり政治ネタはしないし、パロディもあんまりしない」

「日本では自分が誰を支持してるか言わないんですよ、メディアのなかで。なのに外国人だから、外国の政治家の話をさせるのは卑怯だと思う」

(ニフティニュース"日本スゴい"問題で炎上の厚切りジェイソンが政治発言しない日本の芸能人を批判! 「どうでもいいと思ってる」2017年2月23日

 これは芸能人個人の問題というよりも、芸能プロダクションの方針の問題なのかもしれません。

 政権批判をした後の圧力などをプロダクション側が恐れ、政治発言をさせない方針をしけば、芸能人はそのあたりの話題を避けて通るようになるわけです。

 芸能人の政治発言を視聴者があまり期待していないという面もあるような気がしますが、このあたりは日米のメディアの違いとして、しっかりと理解しておきたいところです。