トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプ相場第二幕の始まりか? 新政権の減税政策と予算教書はどうなる

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(ホワイトハウス写真。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  ホワイトハウスのスパイサー報道官は記者との質疑の中で、トランプ政権が議会に送る予算教書(2018会計年度(17年10月~18年9月)の公表が3月13日頃になるという見通しを明らかにしました。

 従来、予算教書は2月頃に出されてきましたが、トランプ新政権は発足後のゴタゴタもあってその作成が遅れているようです。

 財政に関して、トランプ大統領は9日に「税に関して驚くべき発表があと2~3週間で出される」と述べていたので、こちらも気になりますが、その発表が何日になるのかはわかりかねるのが現状です。

 予算編成と減税を含んだ税制改革のプランは米国経済と世界経済に大きな影響を与えるので、今回は、この問題について考えてみます。

減税政策に高まる期待 トランプ公約実行で米銀行は活性化?

  発表が近づいたトランプ政権の減税政策を期待してか、ブルームバーグの記事(2017/2/16)でも、このトピックが取り上げられています。

 ウェルスファーゴ、JPモルガン、シティグループ、バンクオブアメリカ、モルガンスタンレー、ゴールドドマンサックスの六大銀行の通期利益が減税で大幅に拡大すると述べています。

 米6大銀行の通期利益は、トランプ大統領の法人税減税が実施されれば、平均で14%増加する可能性がある。
 これら金融機関は通常、税控除が他業界に比べて少なく、減税の恩恵を受けやすい。ブルームバーグの集計データによると、今回の法人税減税により6行合計で年間120億ドル(約1兆3700億円)が減免される計算だ。トランプ大統領は法人税を現行の35%から15%に引き下げると訴えてきた。

 ・・・

 大手銀行は2015年までの3年間で連邦税の実効税率を平均28%課せられており、大企業の平均14%の2倍だ。

 ・・・

「税制改革は難しいが、増税や減税はやりやすい」と、キーフ・ブルイエット・アンド・ウッズの世界調査ディレクター、フレッド・キャノン氏は指摘する。「低い税率は銀行にとって追い風で、影響は他の業界よりも大きい。銀行は産業界や小売業界のような控除を受ける機会が少なく、高い実効税率を課せられているからだ」と述べた。
 ウェルズ・ファーゴでは、税率が15%で現在の控除がなかったとしたら、15年に支払った税金は38億ドル少なくて済んだ計算となる。同銀は収益の大半を35%の税率が課せられる米国内で稼いでいるため、最も大きな恩恵を受け、収益は実際より16%高かったことになる。

 JPモルガン・チェースは30億ドルを減免され、純利益は14%高くなる計算だ。

(出所:「トランプ減税、米6大銀利益を計1.4兆円押し上げも-ウェルズF最大」2/16)

  銀行経営が上向けば、各産業への融資も積極的になるはずなので、この利益押し上げの影響は銀行単体だけにとどまらないのではないでしょうか。

 筆者は日本の新聞記事で、法人税減税が銀行経営にプラスになるという話をあまり見たことがなかったので、このブルームバーグ記事が印象的に感じられました。

 ただ、トランプ政権にはゲーリー・コーン氏やムニューチン氏など、露骨にゴールドマンサックス出身者が閣僚に並んでいるので、出身元企業への優遇だとマスコミは批判を強めてくるのでしょう。

 推測ではありますが、前掲のスパイサー氏とトランプ氏の発言から考えれば、トランプ氏はまずは第一陣で減税政策をぶち上げ、3月半ばに第二弾として、インフラ投資を盛り込んだ予算教書を議会に送ることで、米国のマーケットを活気づけることを狙っているのではないでしょうか。

 マスコミが閣僚の利益背反問題などを騒ぎ立てても、減税とインフラ投資でマーケットが盛り上がれば、政権批判の影響をかき消す効果が期待できるからです。

トランプ氏、既存の予算を「めちゃくちゃだ」と批判

 次に各紙報道で断片的に報じられた、予算会議でのトランプ大統領の発言を紹介してみます。内容としては以下の8点が注目すべきポイントです。

  1. ミック・ムルバニー氏(元下院議員)が予算教書の作成、予算執行等を司る行政管理予算局長に就任
  2. 前政権の時代にできた予算を「めちゃくちゃだ」と批判。
  3. トランプ氏はオバマ時代の予算は無駄が多いとみて、今後、組み換えを目指す
  4. 政府の購入品(航空機や軍の装備等)の価格を再交渉し、予算を節約する
  5. 枯渇している軍への予算上の配慮が必要
  6. 政府運営に経営者や投資家のアイデアを盛り込む(すでに経済系閣僚に経営者・投資家を指名)
  7. 税制改革案の発表前にヘルスケア改革のプランをつくらなければいけない
  8. 3月半ばごろに予算構想(予算教書とみられる)を発表

 今後は、前政権時代につくられていた予算の構想をいかにトランプ政権の政策に沿ってつくりかえるかが、大きな争点になります。そこで大きな争点になるのが、ヘルスケア改革、つまりオバマケアの見直しです。

 また、オバマ政権下での予算制約をやめて、軍事費は増える可能性が高いのですが、F35の価格交渉のように、軍事産業側の言い値では買わないというスタンスも同時に貫かれることになりそうです。

 全体的に見た印象では、結構、無駄の削減や節約を連呼しているので、「案外、トランプ政権の予算案は単純な大盤振る舞いにはならないのではないか」という印象を持ちました。

 以下、ホワイトハウスHPの記事を英和対訳してみました。

(出所:For Immediate ReleaseFebruary 22, 2017 Remarks by President Trump in Budget Meeting)

※トランプ大統領の発言。ルーズベルトルームでの会合 12:39 P.M. EST

(前略)

私は、ミック・ムルバニー氏の行政管理予算局長への就任が上院に承認されたことを祝いたい。私は長く待っていた

I want to congratulate Mick Mulvaney, who’s been confirmed finally -- we waited a long time -- by the Senate.

彼は予算管理を問題なく指揮できる人物だ。

And he’s going to be an absolutely great director.

ミックには完全な信頼を置いているし、彼のことをよく知っている。彼は予算を愛している。

Total confidence in Mick. Known him for a long time. He loves those budgets.

不幸にも我々が引き継いだ予算はめちゃくちゃだ。

Unfortunately, the budget we’re inheriting -- essentially inheriting -- is a mess.

我が国の財政はめちゃくちゃだ。

The finances of our country are a mess.

我々はそれらを片づけなければならない。

But we’re going to clean them up.

我々がしなければいけないことは、すでになされた交渉をやり直すことを含む。いわゆる再交渉だ。航空機や軍の装備など、締結した数多くの契約から自由となり、たくさんのお金を節約すべきだろう。

Things that we’ve been doing, including negotiating deals that have already been negotiated, so you call it re-negotiating -- on airplanes and lots of other things, military items -- we’ll end up either getting many more planes free, or we’re going to save a lot of money.

我々はすでに多くのお金を節約してきた。幾十億ものドルを節約したのだ。

But we’ve already saved a lot; billions and billions of dollars have been saved.

この8年間で倍増した国の借金に対して、我々はとほうもない作業をしなければいけない。

We have enormous work to do as the national debt doubled over the last eight years.

我々の借金(連邦債務のこと)は短期間に倍増した。

Our debt has doubled over a short period of time.

私はアメリカ国民に、我々の予算に国民の優先事項を反映させることを知らせたい。

I want the American people to know that our budget will reflect their priorities.

我々はわが全省庁に、近年のアメリカ人が払った税金を守ることを指示した。

We’ll be directing all of our departments and agencies to protect every last American and every last tax dollar.

これ以上の無駄使いはあってはならない。

No more wasted money.

我々はそのお金をとてもとても慎重に使っていくつもりだ。

We’re going to be spending the money in a very, very careful manner.

納税者に対する倫理は、我々に、政府がより信頼に足り、説明責任を果たすものであることを求めている。

Our moral duty to the taxpayer requires us to make our government leaner and more accountable.

我々は少しのお金で多くのことを成し遂げなければいけない(※予算の有効活用を図るとの趣旨)

We must do a lot more with less.

我々は不適切な支払いやお金の乱用を止めなければならない。よりよい価格を再交渉し、納税者のお金を節約するすべを探らなければいけないのだ。

And we must stop the improper payments and the abuses, negotiate better prices, and look for every last dollar of savings.

我々はすでに不必要な政府職員の雇用をやめさせた。我々はアメリカの納税者のために必要な作業を続けることを公約している。

We’ve already imposed hiring freezes on nonessential government workers, and part of our commitment is to continue to do that for the American taxpayer.

我々は賢明にお金を管理する術を知っている人材を閣僚に任命した。

We have appointed a Cabinet that knows how to manage dollars wisely.

私は長い間、皆さんを知っている。彼らはとほうもない勝利者だ。スティーブン(財務長官)とゲーリー(国家経済会議委員長)、そして他のゲーリー(のような勝利者)がここにいる。

I’ve known many of the folks for a long time. They’ve been tremendous winners -- whether it’s Steve or Gary or another Steve, right here.

こうした理由で私は彼らに国の予算を管理し、納税者のお金を賢明に用いるように指示した。

 

And that’s why I will direct them to manage the country’s dollars and your dollars very wisely.

私は納税者のお金をこれ以上、無駄遣いさせない。

We won’t let your money be wasted anymore.

我々は政府をスムーズに、効率的に経営し、一生懸命に働いている納税者を代表するものにしたい。納税者はそうした政府を長らく見ることができなかったからだ。

We’re going to run government smoothly, efficiently, and on behalf of the very hardworking taxpayers -- something that the taxpayers haven’t seen in a long time.

私は誰に対しても説明責任を負う。そしれ、このグループ(閣僚のこと)に何の疑いも抱いていない。彼らは素晴らしい仕事をしてくれるだろう。

I will be holding everybody accountable for that, and I have no doubt that this group -- in particular, this group will do a fantastic job.

私はスティーブン・ムニューチン財務長官の就任を祝いたい。

I want to congratulate Steve Mnuchin as our new Secretary of the Treasury.

彼は傑出している。

He’s going to be outstanding.

彼は途方もない記録を打ち立てた人物だ。

Tremendous track record -- he has a tremendous track record.

私は彼に絶大な信頼を置いている。

I have great confidence in him.

我々はこの予算を公正に取り扱い続けなければいけない。そのためだけに私は四週間、ここにいる。今、起きていることへの責任はあまりにも大きすぎて、私に負いきれないほどだ。

So we’re going to continue on, and we’re going to take this budget, which is -- in all fairness, I’ve only been here for four weeks, so I can’t take too much of the blame for what’s happened.

それは完全に制御不能だが、過去の数年間、途方もない行為がなされたが、我々はそれに対して、なすべきことをしていく。

But it is absolutely out of control, and we’re going to do things that are going to be tremendous over the years.

我々には国軍への配慮が必要だ。

We have to take care of our military.

我々には選択肢がない。国軍への配慮が必要なのだ。

We have no choice, we have to take care of our military.

手当が必要だ。軍は枯渇している。そして、他にも配慮を要する案件がある。

It needs work; it’s very depleted. And we have to take care of a lot of other things.

医療(ヘルスケア)は素晴らしい方向に向かっている。

Healthcare is moving along nicely.

それは実行の最終段階に至っている。

It’s being put into final forms.

あなたがたが知っているように、我々は税についての作業を仕上げているところだ。しかし、ヘルスケアの作業が終わるまではそれを提出できない。法的にも他の条件においても。

As you know, before we do the tax -- which is actually very well finalized -- but we can’t submit it until the healthcare, statutorily or otherwise.

それで、我々はヘルスケアに取り組んでいる。

So we’re doing the healthcare.

繰り返すが、それはうまくいっている。

Again, moving along very well.

3月の間、3月の半ばもしくはそれ以前に、我々は国民が沸くような案(原文は「何か」=somethingだが意訳)を提出する。

Sometime during the month of March, maybe mid- to early March we will be submitting something that I think people will be very impressed by.

(以下略)

トランプ氏と共和党主流派の経済政策:共通点と相違点

 アメリカの予算を考えるうえで重要なのは、その編成が議会でなされるということです。

 日本だと「各省概算要求⇒財務省が総括・各省と折衝⇒内閣で閣議決定⇒議会で審議」という流れになりますが、アメリカでは大統領が叩き台になる予算教書を送り、大統領の所属政党(今なら共和党)が議会でその意向を組んで予算編成を主導していきます。

 予算編成の中心が議会にあるという意味では、アメリカの財政は日本よりも「民主的」です。

 そのため、議会の有力者の見解も無視できません。

 これに関しては、プレジデントが全米税制改革協議会会長のグローバー・ノーキスト氏へのへのインタビューを行い、「米政界のドン独占インタビュー『トランプ政権の柱は減税と規制緩和』(2017.2.13)と題した記事を公開しています。

──全米税制改革協議会(Americans for Tax Reform)とは、保守派の実質的な司令塔として強い指導力を持ち、大統領選挙戦でトランプを支持してきた米国最大級の政治団体である。同協議会の会長であるグローバー・ノーキスト氏は、共和党の意思決定に強力な影響力を行使するドンだ。

 ノーキスト氏は水圧破砕法によるシェールガス採掘規制やドット・フランク法の改革などに言及し、前政権下の規制と課税、オバマケアの重荷がなくなっていくことを強調。今の株価上昇の背景を、以下のように説明しました。

株価が上昇しているもっとも重要な要因は、アメリカ経済に課せられる予定だったさらなる増税や規制がなければ「何が起きないか」を市場が知っていたからだ。

  要するに、政府が余計なことをしなければ経済はもっとよくなるのだ、と言っているわけです。

  トランプの閣僚人事を評価し、共和党主流派の政策とトランプ氏の政策は減税政策と規制緩和で一致しており、貿易政策では違いがあると指摘しています。トランプ氏は法人税を35%から15%に下げると公約し、共和党下院案は20%引き下げを提案したことを踏まえながら、今後の規制緩和に期待できることを力説しました。

トランプは液化天然ガス・鉱物資源・新たなパイプライン建設等の許可プロセスの加速化を呼びかけている。これは、連邦政府が所有している土地における石油生産総量が減少しているのに対し、州政府が保有する土地や私有地では、新技術のおかげで地中深くにある石油や天然ガスを抽出することが可能になり、生産量が急激に増加しているからだ。仮にトランプが連邦政府の所有地におけるさらなる天然ガス事業の発展を許可した場合、アメリカのエネルギー生産は急激に増加するだろう。

・・・

トランプは、オバマケアによって増加・範囲拡大した連邦政府によるビジネスへの干渉、特にヘルスケア分野での政府干渉をなくしていくと述べている。ヘルスケアエコノミーにおける連邦政府の干渉の急激な減少により、アメリカ食品医薬品局における認可手続きなどのスピードアップが実行される。

また、オバマ政権は銀行業に多大かつまったく役に立たない規制を設けることで、長く不要なダメージを与えてきた。クリス・ドッド上院議員とバーニー・フランク下院議員によるドッド・フランク法が可決される前の段階に立ち戻ることで、資本が自由に動きやすい環境を再構築することになるだろう。

  トランプ氏の保護貿易路線と共和党の自由貿易路線は違いますが、同氏はこれに関しては楽観的です。

法人税と所得税が引き下げられることは、アメリカ経済を成長させるもっとも大きな助けになるだろう。経済政策が実行されていくプロセスのなかで、トランプも関税などの保護主義的な政策は目的達成のためにそれほど重要ではないと気が付くはずだ

  日本人の筆者はそこまで楽観的になれないのですが、保護貿易で問題がいろいろ起きても、マクロで見たら、減税と規制緩和のインパクトが上回るはずだ、という見方は成り立つと思います。

 恐らく、それが今の株価上昇の背景にある考え方だと思うのですが、税制改革と予算教書が発表されれば、そプラス面の規模の大きさも見えてくるはずです。

 その意味で、3月の予算教書発表は、アメリカ経済の未来図を占う大事なイベントだと言えます。