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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

米空母カールビンソン 南シナ海へ 習近平の出方を伺うトランプ

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(空母カールビンソン。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  南シナ海で米空母カールビンソンが2月18日から南シナ海で活動を始めたことが報じられています。

 正確に言えば、原子力空母と多数の護衛艦、そして補給艦、原潜からなる「空母打撃群」が通常任務の一環として南シナ海の公海に展開しました。

 これは、中国が埋め立てた人工島周辺を通る「航行の自由」作戦とは違いますが、空母の出動には中国に対する無言の牽制という意味合いが含まれています。

 サンディエゴタイムズ紙(2017/2/17)によれば、空母打撃群はハワイとグアム、フィリピン海での訓練を終え、南シナ海に入りました。そして、数週間にわたる訓練で部隊の即応性と効率性が改善されたことを踏まえ、ジェームズ・キビー長官は「我々はこれらの能力を知らしめ、インドとアジア太平洋の同盟国との絆を強化したい」と述べました(”Carl Vinson Strike Group Patrolling South China Sea” BY CHRIS JENNEWEIN 2017/2/17)

 これに対して、中国側は反発し、15日の定例記者会見で耿爽報道官は南シナ海に関する「中国の主権と安全」を損おうとする国家の行為に断固、抗議すると述べています(追記:21日の記者会見でも重ねて抗議の意向を表明)。

 南シナ海をめぐって米中のつばぜり合いが始まりつつありますが、今回は、この動きの背景にある両国の意図について考えてみます。

トランプ政権は「一つの中国」を維持しつつも中国を警戒

 トランプ政権発足後、ティラーソン国務長官は17日にG20外相会議に出席し、そこで中国の王毅外相と会談しました。

 この席でティラーソン国務長官は中国に対して北朝鮮の挑発行動(ミサイル発射実験など)を制止するために働きかけることを要望。「一つの中国」の原則を維持することを確認しました。

 トランプ大統領は大統領選当選の後、台湾の蔡英文総統と電話会談し、「一つの中国」にとらわれない姿勢を示しましたが、2月の日米首脳会談直前に中国の習主席と電話会談を行い、従来の対中外交の路線(「一つの中国」維持)に戻っています。

 ただ、同政権で外交を担うティラーソン国務長官は中国に対しては厳しいスタンスを見せています。同氏は就任前の上院公聴会では南シナ海の人工島建設を批判していました。

 これが「ロシアのクリミア併合に似ている」と批判し、「米国は中国に対し、まずは人工島建設を中止すべきであり、次に人工島へのアクセスは認められないとする明確なシグナルを送る必要がある」と述べていたのです(ニューズウィーク日本語版、トランプ政権の次期国務長官「中国に南シナ海の人工島へのアクセス許さず」2017/1/12)。

 上院公聴会に際して提出した書面でも、軍事・経済の両面で中国の野心に対する警戒の意を表明していました。

「中国が行うシナ海での埋立は国際規範への敬意を欠く紛争地域での不法行為だ。中国の経済と貿易の慣行は国際社会での取り決めに従うとは限らない。それは、我々の知的財産権を奪い、デジタル領域でも攻撃的かつ拡張主義的な動きを伴っている」

"China’s islandbuilding in the South China Sea is an illegal taking of disputed areas without regard for international norms. China’s economic and trade practices have not always followed its commitments to global agreements.It steals our intellectual property, and is aggressive and expansionist in the digital realm”

(ティラーソン氏の外交文書は”Secretary of State Designate Rex Tillerson Senate Confirmation Hearing Opening Statement " 2017/1/11。

  ティラーソン氏は南シナ海での埋立を批判しながらも「一つの中国」を確認し、中国との協調関係を構築する可能性を模索しています。ロイター通信は、トランプ氏が「一つの中国」を認める路線に変わった背景には、ティラーソン氏らが「米中関係や地域の安定のために『1つの中国』政策の維持を表明することが正しい選択だと大統領を説得する」会合を開催したことを報じていました(「中国巡るトランプ氏の立場修正、ティラーソン国務長官が尽力」2017/2/13)。

 南シナ海を狙う中国の野心を警戒しているのはティラーソン氏だけではありません。

 マティス国防長官も訪日時の記者会見でその危険性を指摘しています。

「軍事的な作戦は必要ない」と述べながらも、南シナ海で「中国が信頼を踏みにじった」と批判し、外交的な手段による牽制や埋立地域の近辺を軍艦で通る「航行の自由」作戦の必要性を訴えました。

 日米防衛省の記者会見(2/4)にて「航行の自由はもちろん絶対的に重要であります。商船であろうと、アメリカの海軍の船舶であろうと、ということであります。公海で演習をやります。また通過も行います、公海については適切ですから」と指摘したのです。

 対中外交が本格化するのはこれからなので、トランプ政権はまず通常任務で空母を展開させ、中国の出方を伺っています。しかし、中国が南シナ海を巡って強硬姿勢を崩さなければ、トランプ政権は、今後、「航行の自由」作戦などを発動していくでしょう。

中国が「領海」内の潜水艦に浮上を命じる法改正?

 耿爽報道官の抗議のほかにも、中国側には重要な動きがあります。

 人民日報日本語版では、中国海軍の護衛艦三隻が13日から14日にかけてパキスタン海軍が組織する多国間合同演習(「平和-17」)に参加したことを報じています(2017/2/15「多国間合同演習『平和-17』が閉幕」)

 また、レコードチャイナではロシアの国営テレビ・ラジオのメディア(ロシア1)が中国で行われた海洋法の改正を報じたことに注目しています。中国の「領海」内で外国潜水艦に浮上航行を命じ、違反した艦艇を取り締まることができるように法改正が行われたと述べているのです(2017/2/18「中国が法改正、外国の潜水艦に浮上航行を義務付け」)。

 この改正は、米軍艦艇などが南シナ海や東シナ海で活動する際に火種を生む可能性が高いので、今後の懸念材料がまた一つ増えたと考えるべきでしょう。

 その後、21日には、ロイター通信が複数の米政府当局者の見解として、南沙諸島に中国がつくった人工島に「長距離地対空ミサイルを格納できる約20の構造物を建造している」ことを報道。

 23日には米シンクタンクのCSISが最新の衛星写真で前掲施設の存在を確認しています。

今後の焦点は中東政策とアジア政策のバランス

 マティス国防長官は当面、軍事作戦は必要ないと述べていましたが、同長官はIS掃討のための計画を作成し、その具体化を目指しています。

 トランプ大統領は1月28日に「イラクとシリアの『イスラム国』打倒計画」( Plan to Defeat the Islamic State of Iraq and Syria)と題した文書を出し、一か月以内に包括的なIS打倒計画をつくることを国防長官と関連した省長官に指示したからです。

 トランプ政権は最優先事項に掲げたIS打倒を急いでいます。2月28日の大統領による議会演説でも、トランプ氏は「残忍な無法者のネットワークを破壊しなければならない」「卑劣な敵を我々の惑星から一掃するのだ」としてIS殲滅を訴えました。。

 2月15日には、CNNが米地上軍派遣の可能性があるとも報じています。

 国防総省はアメリカがISIS打倒を加速するため、シリア北部に第一回目の地上戦部隊を派遣する可能性を示唆した。

The Defense Department might propose that the US send conventional ground combat forces into northern Syria for the first time to speed up the fight against ISIS, CNN has learned.

「あなたがたは、シリアを陸上で攻撃するために地上戦部隊が派遣される光景を何度か見ることになるかもしれない」と国防総省高官はCNNに語った。

"It's possible that you may see conventional forces hit the ground in Syria for some period of time," one defense official told CNN.

(出所:Pentagon might propose sending ground troops to Syria - CNNPolitics.com

  オバマ政権は米軍人に被害が及ぶのを恐れて陸軍派遣をためらっていましたが、トランプ政権は政策を変更する可能性があるわけです。

 同記事では、現在、5155名の軍人がイラクにいることを指摘しましたが、現在の米軍は直接戦闘に関わるよりも、イラク兵等の現地部隊の訓練や助言を行っています。軍事顧問団的な動きのほうがメインになっているわけです。

 特殊部隊等の米軍人たちを、どの程度、IS殲滅のための戦いに関与させるかが、現在の米軍の大きな課題になっています。

 もしトランプ政権が本格的に陸上戦力の投入に舵を切れば、オバマのアフガン戦争に次ぐ軍事作戦となる可能性が出てきます。戦いの規模にもよりますが、米軍は2012年以来、二正面作戦を放棄しているので(※世界で二か所の戦争を同時に行わないことになっている)、IS打倒作戦が本格化すれば、アジアよりも中東に力が注がれる傾向が出てくるのかもしれません。

 マティス氏が訪日時に、南シナ海での軍事作戦は行う必要がない、と述べたのは、中東方面が忙しくなることを暗示しているようにも思えます。

 そのため、トランプ政権が対中外交に際して、強硬措置を取る場合でも、南シナ海での軍事行動をすぐに始めるとは考えにくく、まずは、外交的交渉や「航行の自由」作戦、高関税の賦課などが優先されるはずです。

追記:カール・ビンソンはその後、朝鮮半島近海に展開

 2月24日にはトランプ大統領がロイター社のインタビューに応じ、「許されるべきではなかったことがたくさん起きた。その一つが、南シナ海での大規模な軍事施設の建造だ」「私は彼ら(中国)を為替操作のグランド・チャンピオンだと考えている」等と中国を批判しました。

 さらには、ティラーソン国務長官の訪韓、訪中に合わせて、米空母カール・ビンソンは3月15日に韓国の釜山港に入っています。米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」(3月13日~24日)と国務長官のアジア訪問を合わせ、北朝鮮や中国を牽制したわけです。

 そして、米中首脳会談後、カールビンソンを中心としていた第一空母打撃群は北朝鮮の挑発に備え、シンガポールからオーストラリアに向かう航路を変更し、北上を開始しました。西太平洋上で米海軍第三艦隊の作戦統制下に置かれたのです。

 日本人の多くは、すぐに同空母が朝鮮半島近海に近づいているものと思ったのですが、4月18日時点で米海軍がインドネシア近海で同艦が航行していることを明かしました。 

 その後、海上自衛隊は朝鮮半島に近づくカールビンソンとの共同訓練を23日から始めることを発表しました。西太平洋で米空母打撃群と合流し、演習を行うのは海自護衛艦「さみだれ」と「あしがら」と見られています。

 25日は北朝鮮軍の創立記念日(建軍節)なので、この頃にカールビンソンの到着は合わされました。

 横須賀には米空母ロナルド・レーガンを中心とする第七艦隊も控えているため、二つの空母打撃群が北朝鮮の暴走を止める力となるのかどうかが注目されているわけです。