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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

オロビルダム決壊危機 米国でもインフラ劣化は深刻 トランプ政権はどう動く?

国際 経済 トランプ政権2017 全記事一覧

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(オロビルダム。出所はWIKIパブリックドメイン画像。筆者トリミング)

  日米首脳会談でインフラ投資も話題に出ましたが、その直後に大雨を原因とした水位上昇によるカリフォルニア州のダム決壊の危機が報じられています。

 日米首脳が記者会見で北朝鮮に挑発行為の自制を要求した直後に弾道ミサイルが発射されましたが、大雨の「発射元」はアメリカの大自然なので、どうしようもありません。

 後ほど引用する記事では築50年のオロビルダムには「浸食による損傷や巨大な裂け目もある」と報じられているので、アメリカのインフラも老朽化が進んでいるのかもしれません。

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カリフォルニア州のオロビルダム決壊の危機

 まず、各種の報道で今回の事件の概要をおさえておきます。

 2月13日付の産経ニュースはAP通信等の報道を元に以下の記事を公開しました。

 地元当局は13日までに、下流域の住民少なくとも18万8000人に避難を命じた

 ・・・

 オロビルダムは全米一の高さを誇るダム。同州では深刻な干ばつが続いたが、最近は一転して大雨に見舞われていた。

 APによると、オロビルダム建設から約50年で初めて緊急用の排水路で水が放出されるなど、当局は対応に追われている。ダムの周辺地域では避難を急ぐ住民らで一時パニックとなった。

 ダムの排水路には浸食による損傷や巨大な裂け目も確認されており、当局はヘリコプターを使って岩石を投下し、穴をふさぐことも検討している。12日には水位が下がったが、予断を許さない状態が続いているという。

(「米カリフォルニア州のダム、決壊恐れで18万8000人に避難命令 記録的大雨の影響」2017.2.13)

 サンフランシスコの北東にある「オロビルダム」(オーロビルダムとも表記される)は230mほどの高さを誇る巨大ダムで、カリフォルニア州で二番目に大きい人口湖のオーロビル湖の水を蓄えています。このダムの水はカリフォルニア州の水道システムの基盤でもあるので、これが崩壊すると、同州の水の融通にも影響が出てくるはずです。

 産経記事では建設から約50年と書かれていますが、このダムは1968年に使えるようになったとも言われているので、正確には「50年以上」と言うべきなのかもしれません。このダムに穴が空いて水が流れてしまったので、今回の決壊危機の要因として、老朽化の問題は無視できないでしょう。

 昨日の15時44分頃、CNNは当時の状況を以下のように報じています。

 当局は現地時間午後3時ごろ、ダムの緊急用放水路に穴が空いており、決壊が進んでいることを確認した。

 主に使用していた放水路が損傷したため、最近になって、この緊急用の放水路が利用されていた。現在、穴をふさぐためにヘリコプターを動員して決壊部分に岩などを投下することが計画されている。

当局によれば、緊急用放水路へと流れ落ちる水量を減らすため、メーンの放水路からの放水量を毎秒10万立方フィートに引き上げている。通常、メーンの放水路から放水される水量は毎秒約5万5000立方フィート。

(CNN日本語版「ダムの放水路が決壊の恐れ、住民に避難勧告 米加州」2017.2.13)

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 アメリカでもインフラの老朽化は深刻

 昨年の米大統領選では老朽化したインフラ補修の問題が共和党と民主党の双方から論じられていました。

 ニューズウィーク日本語版では、この問題を取り上げた記事をネット版で公開していました。

 米国で、インフラ投資の重要性を示す象徴的な出来事があった。

(略)

(5月4日の)水道水の鉛汚染で非常事態宣言が出されているフリント市の視察である。オバマ大統領は連邦政府が全力で事態に対処すると約束し、報道陣の前で濾過された水道水が入ったコップに口をつけるパフォーマンスまで行ってみせた。

 フリント市の水道水汚染は、鉛を使った水道管が原因のひとつだ。鉛を使った水道管の使用は30年前から禁止されているが、それよりも前に敷設された多くの水道管が、いまだに全米各地で使われている。水道水の汚染は今回が初めてではなく、2001年には首都ワシントンで大規模な鉛汚染が発覚したことがある。

 水道に限らず、米国ではインフラの劣化が問題視されて久しい。主要道路の3割は状態が良好ではなく、3割以上の橋が設計寿命を超えている。ワシントンでは地下鉄の老朽化が進んでおり、整備のために数か月にわたって運行停止とすることが真剣に議論されている有様だ。

(略)

 インフラの劣化に拍車をかけてきたのは、公共投資の伸び悩みである。連邦政府によるインフラ関連の公共投資は、2002年から2014年の間に2割程度減少している。

(出所:「 あのトランプとクリントンも一致、米国でインフラ投資に追い風」2016年5月20日、安井明彦・みずほ総合研究所欧米調査部長)

  このフリント市訪問でオバマ大統領は歴代共和党の「小さな政府」路線を批判したのですが、8年間も政権を運営していたのですから、民主党政権が無策だったと言われても仕方がありません。これはブーメラン発言の一種にも見えます。

 その後、オバマ氏の批判とはうらはらに、共和党から出てきたトランプ氏は大規模なインフラ投資の構想をぶちあげています。(※ただ、PPP(官民連携)や減税によるインセンティブを用いて、出来る限り民間主体でやってもらうことで、民主党との違いを出している)

 このインフラ危機の深刻さについては、2012年のニューズウィークの記事にも書かれています。「決壊の危険のあるダムが全米1800か所以上」あると警告していたのです。

「大雨が降ったとき、特に雪が積もっている上に温かい雨が降ったときに、ダムの水があふれ出す恐れがある」「 ASCE(※アメリカ土木学会)によれば、決壊して人口密集地域に被害を及ぼすリスクが高いダムは、全米で1800カ所以上ある」

(デービッド・ケイ・ジョンストン「日本より怖いアメリカのインフラ危機」2012/12/10)

 その元をたどると、インフラ投資の低迷に行きつきます。

 現在アメリカでインフラ整備に投じられている資金は、GDPの2・4%程度にとどまっている。

(略)

 ヨーロッパでは、この数字が5%に達している。おかげで、ドイツで道路が穴だらけということはまずないし、フランスで市庁舎が雨漏りすることも少ない。国土の多くが海面より低いオランダでも、防潮堤や水門が整備されているので、国民は安心して暮らせる。

 アメリカがインフラ整備を怠り続ければ、ダメージは自然災害による打撃にとどまらない。アメリカはグローバル経済で後れを取りかねないと、ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長は指摘する。「連邦政府が直ちに行動しなければ、未来の世代の雇用と人命、そして機会が失われ、アメリカは途方もなく大きな代償を払わされるだろう」

 こうした警告は、アメリカ土木学会(ASCE)も以前から発している。同学会によれば、アメリカのインフラの充実度は5段階評価で下から2番目。今あるインフラを維持するだけでも、投資を現状より年間4400億ドルも増やさなければならないという。国民1人当たりにして月額100ドル以上の金額だ。

 大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングは最近発表した報告書で、アメリカに公衆衛生上の惨事が差し迫っている可能性を指摘している。

 この報告書によれば、下水処理施設が老朽化しつつあるのに、連邦政府や州政府、地方自治体は新しい施設を造るための予算を拠出していない。その結果、アメリカではいまだに、国の人口が現在より1億人少なかった時代に建設された下水処理施設を使い続けている。

 「1800カ所のダムが危険だ」と書かれていましたが、13日のオロビルダム決壊危機は、その一端を教えてくれたのかもしれません。

 日本でも民主党政権が「コンクリートからヒトへ」という標語を掲げていましたが、コンクリートには人を守る機能があるので、公共投資削減をいたずらに叫ぶと、人命を危機にさらしかねません。

 公共投資が利権や票稼ぎのために利用されることはよくありますが、本来、適切な公共投資と「人を大事にする」ことは矛盾しないはずです。

「小さな政府」でも「公共投資」は必要

 公共投資の必要性は、アダム・スミスの『国富論』以来、ずっと経済学で言われ続けてきた話でもあります。『国富論』では、政府の義務として「国防」と「治安」、「公共投資」が挙げられていました。

 その中で、政府には「他国の暴力と侵略から自国を守る義務」と「厳正な司法制度を確立する義務」の次に「ある種の公共施設を建設し、公共機関を設立して維持する義務」があると訴えられているのです。

「この義務の対象になるのは、個人または少数の個人が建設・設立し維持しても、その経費を回収できないので利益をあげることはできないが、社会全体にとっては、その経費を回収してあまりあるほど有益なものである」(山岡洋一訳『国富論』下巻日本経済新聞社刊  P277~278)

 これは、現代の経済学でいえば「公共財」という考え方に相当します。

 結局、小さな政府を目指しても、公共投資をやらないわけにはいきません。どんな国でも、政府でなければ為し難い大規模の長期的な公共投資があるので、それを支えることは国民経済の基盤を守る政府の義務だと言えます。

 オバマ氏は共和党の「小さな政府」路線と公共投資の減退を結び付けて批判しましたが、結局、8年間の民主党政権でも、インフラ補修の問題は未解決でした。

 そのため、この問題は、16年の大統領選の争点の一つになったわけです。

トランプ政権はどう動くのか?

 地震、洪水、ハリケーン等の天災は国民にとっては大きな不幸ですが、政権にとっては支持率獲得や延命のチャンスになることもよくあります。

 日本で言えば、菅政権が東日本大震災に便乗して延命を図りましたし、オバマ大統領にも、2012年のハリケーン到来時に陣頭指揮を取って立ち向かう姿勢を見せたことが同年の大統領選で追い風になった面があるようです。

 ショーマンシップ的な性格の強いトランプ氏が、この支持率獲得のチャンスに何もしないことは考えにくいので、14日以降、同氏はインフラ投資に関連したプランの打ち出しを急ぐのではないでしょうか。

 ジェリー・ブラウン知事によれば、トランプ政権はオロビルダム周辺の再建のための支援要請を承認しました。そして、連邦緊急事態管理庁(FEMA)と共に、この非常事態に対処することを明らかにしています。

 スパイサー報道官は14日、記者の質問に対して、「トランプ大統領はカリフォルニアのオロビルダムの状況を注視している」(The President has been keeping a close eye on the Oroville Dam situation in California.)と答え、今後、インフラ対策を重視していくことを強調しました。

この状況は、なぜ大規模なインフラパッケージが議会で議論される必要があるのかを示す実例だ。

The situation is a textbook example of why we need to pursue a major infrastructure package in Congress.

ダム、橋、道路、港が打ち捨てられ、荒廃している。

Dams, bridges, roads, and all ports around the county have fallen into disrepair.

次の災害を防ぐために、我々はと我が国のぼろぼろなインフラを補修するための大統領のビジョンを実現したい。

In order to prevent the next disaster, we will pursue the President’s vision for an overhaul of our nation’s crumbling infrastructure.

(出所:Press Briefing by Press Secretary Sean Spicer, 2/14/2017, #12 | whitehouse.gov

  今後、インフラ投資が大規模に進められていくことになりそうです。

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