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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

東芝のリスクはWH社の減損だけではない?~中国原発、ニュージェン社、LNG、ランディスギア~

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(WH社は中国浙江省で三門原発を建設中。地図出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 昨年以来、巨額の減損計上で大騒ぎが続く東芝は、2月14日(12時)に2016年度の第3四半期決算を発表する予定でした。しかし、その発表は突然に最長で一カ月延長されることになりました。

 東芝は決算発表を先送りした替わりに、以下の5点を発表しています。

  • WH社関連の原発事業での損失は累計7125億円
  • 2016年4~12月期の連結決算は最終損益の赤字が4999億円
  • 16年末時点で債務超過。自己資本はマイナス1912億円。
  • 2017年3月期連結決算の見通しを、1450億円の黒字から3900億円の赤字に下方修正。
  • 志賀会長の引責辞任と綱川社長の月額報酬の減額幅の拡大(6割⇒9割)

 東芝の年間売上高は5兆6687億円、従業員数は187809人(いずれも連結決算)。これだけの規模になると、不正会計がもたらした経営危機は一企業の問題ではありながらも、社会に大きな影響を及ぼします。

 証券取引等監視委員会は2014年3月期までの3年間で東芝の決算粉飾額は400億円規模にのぼるとみていますが、15年の不正会計発覚後も体質改善はなされていませんでした。昨年11月には不正会計が再発。12月にはウェスティングハウス(WH)社が買収したCB&Iストーン&ウェブスター社が進めた原発4基の建設に伴い、後から巨額コストが計上され、何度も見積もりの甘さが露呈し、信用崩壊による株価急落劇が展開してしまいました。

 まれにみる惨状が報じられているわけですが、最近は「このWH社以外にもリスクがあるのではないか?」という疑惑の目が東芝に向けられ、他の案件についての報道も増えてきています。

 そこで、今回は、CB&Iストーン&ウェブスター社の件のほかに東芝が抱えるリスクについて考えてみます。

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東芝に次のリスクが浮上しつつある?

『週刊ダイヤモンド(2017/2/11:P10~11)』を見ると、WH社以外の四つのリスクが紹介されています。

  • 「中国での原発4基の新設プロジェクト」⇒収益性悪化。次に問題が火を噴く可能性あり。
  • 「原発建設計画があったニュージェンの買収」⇒原発新設+電力会社経営の負担。今の東芝には重荷
  • 「液化天然ガスの契約債務」⇒「年220万トンのLNGを19年から20年間引き取る契約」だが売り先が見えない
  • 「スマートメーターメーカーのランディス・ギアの買収」⇒のれん代の減損計上の可能性あり

 すでに見通しの厳しさを伝える記事がいくつかのメディアで公開されているので、まずはこの四点を追ってみます。

ウェスチングハウス社が中国で原発建設

 WH社は中国でも原発建設を手掛けています。

 地域は浙江省三門県三門原子力発電所にAP1000初号機(三門1号機)が導入される予定です。

 AP1000というのは、東芝の新型原発です。

 従来、原発には原子炉内で蒸気を生み出し、それを直接にタービンに送って発電する沸騰水型炉(BWR:福島第一原発もこのタイプ)と、原子炉内で生み出した高温高圧の水を蒸気発生器へ送り、蒸気発生器内の別水路を流れる水を蒸気として送ってタービンを回す加圧水型炉(PWR)がありました。

 AP1000は後者のPWRの改良版にあたり、電気出力115万kW級の最新鋭原子力発電所と銘打たれています。

 東芝HPの説明によれば、以下の2点が「売り」になっているようです。

 AP1000は、安全システムが運転員の操作や電源を必要としない、世界初の設計となっていて、圧縮ガスによる圧力や重力などの力で原子炉容器内に冷却水が注入され、自然循環によって熱を取り除くようになっています。そして、機器・配管・ケーブルが大幅に削減され、建設工期も短くなったうえ、運転・保守性にも優れています。

(出所:東芝HP「原子力事業部 原子力を考える 模型で学ぶ原子力発電」)

 ところが、浙江省でのAP1000の建設は遅延が続いていると報じられています。

 日経ビジネスオンラインの記事(2017/2/10)によれば、浙江省の四原発は2007年に受注契約を結び、2009年~2010年頃にいずれも着工。しかし、どれも当初の稼働予定日から大幅に遅れてしまったようです。当初の運転開始予定は三門1号機が2013年11月、三門2号機が2014年9月、海陽1号機が2014年5月、海陽2号機が2015年3月ですが、どれも未だ稼働していません(「東芝内部資料で判明、中国でも原発建設3年遅れ」小笠原啓)

 WSJ日本語版の記事(「東芝の苦境を物語る中国原発事業の誤算」2016/12/30)によればこの建設計画は「少なくとも3年の遅れが生じている」そうです。WH社による設計作業の遅れ、中国政府の安全審査と「冷却システムの基幹部品に問題があり、作業が2年余りも遅延した」ことなどにより、3年以上の遅れが生じたと報じられています。

 同記事は「技術的な作業が完了する前に建設作業を開始してしまったこと」を問題視しています。

 原子炉を守る冷却材ポンプの試験を13年初頭に行った時、「ポンプ内の羽根車が破損していたことが判明し」、「原因究明のためポンプ全体の検査を余儀なくされ、最終的には設計自体を見直した」のです。つまり技術的な問題がクリアされる前に、なぜかポンプが設置されたので、やり直しになったわけです。

 建設遅延が続けばコストが膨らみますし、この建設事業を通してAP1000という新型原発の評価が定まるので、WH社として、この遅延は看過しがたい懸案事項だとも言えるでしょう。

 AP1000が無事に中国で建設と運転、安全管理を成功させることができるかというのは、次の時代の原発開発の成否にもつながる大きな問題です。

 しかし、米国のCB&Iストーン&ウェブスター社のリスク管理に失敗したWH社と東芝の執行部は中国の原子力事業のリスクをきちんと管理できるのでしょうか。

 筆者は、「GDPの統計操作など、いい加減な報告が蔓延する某国でのリスク管理は米国以上に難しいのではないか」という懸念を感じずにはおれません。

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英ニュージェン社の買収

 ニュージェン社の買収の件もAP1000の建設が関係しています。

 東芝のニュージェン社買収に関しては、2014年1月24日のロイター社の記事(「東芝、英原発会社ニュージェンに60%出資へ」)で報じられています。

 東芝は仏電力会社GDFスエズGSZ.PAとスペインの電力会社イベルドローラ(IBE.MC)の合弁会社である英原子力発電事業会社ニュージェンの株式60%を1億0200万ポンドで取得することで合意した。関連各社が14日明らかにしたところによると、東芝傘下のウェスチングハウスは英北部ムーアサイドで開発が進められている原発に原子炉「AP1000」を3基供給する。

 2024年に1基目が稼働を開始する予定。

 その後、2016年9月15日には、英南西部ヒンクリー・ポイントでの原発建設計画に英政府がゴーサインを出したことが報じられていました(時事ドットコム「東芝傘下ニュージェンCEO、英ヒンクリー原発承認を歓迎」9/16)

 このAP1000という新型原発が東芝の原子力事業の核心を担っているわけですが、その性能の是非とは別に、原発のコスト高がWH社の経営を脅かしています。

 東日本大震災以前には地球温暖化対策とエネルギー開発を両立させる手段として「原子力ルネサンス」が来たと世界で喧伝されており、これに乗った東芝が、その逆風のあおりを受けているのです。

 ブルームバーグの記事(2017/2/3)では規制強化がもたらす原発コストの増加の現状が紹介されていました。

 元米原子力規制委員会のレイク・バレット氏は「原子力産業は厳格な規制基準、建設の複雑化、業界全体の原発建設経験不足といった課題を抱えており、これが建設費の上昇を引き起こしている」と指摘。「何十億ドルもの資金が小さな社会的リスクを減らすために使われている。複雑化した原子炉の設計がコストの状況を悪化させている」と話した。

 世界原子力協会が今年発表したリポートによると、欧米では原発建設コストが過去20年間で2-3倍に増加。1998年には1キロワット当たり2065ドルだった米国の原発建設コストが2015年には同5828ドルまで拡大。欧州では2280ドルから7202ドルまで増えた。

番狂わせの「原子力ルネサンス」、計画に遅れ相次ぎかさむ建設費用

 この記事では、フランスの原発メーカーのアレバ社による10年近くの建設が遅延し、「フランス電力(EDF)が英南西部で手掛けるヒンクリーポイント原発にはEPR型原子炉2基が建設される予定で、その費用は最大180億ポンド(約2兆5000億円)にかさむ見通し」だとも述べています(※仏フラマンビル原発は「コストは07年1月の建設開始時と比較して3倍に増加している」という)。

 世界各地で安全に対する要求水準が高まり、規制強化によって原発事業のコストが上昇したため、東芝のAP1000の前途には厳しい障害が立ちはだかっています。

 なお、2017年に入り、東芝がニュージェン株を売却しようとしているとも報じられましたが、その後、2月1日には時事ドットコムのHPで「東芝傘下のニュージェン:東芝は英原発建設にコミット」と題した記事が公開されました。この事業はまだ続いていくようです。

液化天然ガスの巨額購入

 東芝はLNG(液化天然ガス)の販売を巡る巨大なリスクを抱えています。

 ブルームバーグの記事(2017/1/20)では、損失発生の可能性は最大1兆円にのぼるとも報じられています。

(※東芝は)2013年、米テキサス州のフリーポートLNG事業のプラントで天然ガスを液化し、年220万トンのLNGを19年から20年間引き取る「液化加工契約」をプラント運営会社との間で締結。LNGと自社の発電機器と組み合わせて販売することが主な狙いだった。

 東芝広報の槻本裕和氏は、このLNGの販売を促進するためJERAと包括的な協力契約を締結し連携していることを明らかにした。JERAは東京電力ホールディングスの子会社と中部電力が設立した火力発電用燃料調達の合弁会社。

 JERAもフリーポートLNG事業の別のプラントで同様の液化加工契約を保有しており、18年から出荷が始まる。JERA広報担当の澤木敦生氏は、双方にメリットがあればさらなる協力も考えられると述べた。
 東芝の有価証券報告書によると、フリーポートLNG事業などを含む電力・社会インフラ部門の想定最大損失額は16年3月末時点で9714億円。13億円だった15年3月末から700倍超に膨らんだ。この損失額について、東芝の都合で20年間にわたり同事業からLNGを一切引き取れなかった場合に発生するものと説明している。槻本氏は13年に締結した液化加工契約が15年4月に発効し法的拘束力を持つようになったために報告書に想定最大損失額を盛り込んだとし、大半がフリーポート事業関連であると話した。

(「東芝:LNG販売でJERAが支援-最大1兆円の損失リスク回避で」)

 1兆円規模のLNGを20年間、引き取る契約を結んだものの、その販売先のめどがついていません(安値で売って損失を縮小することは可能ですが)。

 前掲記事では13年にLNGの大量購入の契約を結んだと述べていますが、これは非常に悪い時期です。

 当時はLNGの値段が高止まりしており、日本は原発停止によってエネルギー自給ができない状態だったので、価格交渉力が弱体化していました。つまり、高値でLNGを売りつけられていたわけです。

 LNGが15年以降、値下がりを始める前に高値でLNGを買ってしまったので、東芝のLNG事業には暗雲がかかっていると言わざるを得ないでしょう。

 このニュースに関しては、産経BIZでも関連記事が出ています(「東芝、隠れ損失最大1兆円 米国産LNGの価格競争力低下、販売先探し難航」2017.2.18)。シェールガスに由来する米国産LNGの値段が「東南アジアやオーストラリア産の通常LNGの半値以下だった」ので、当時、「東芝は米国産LNGと火力発電設備のセット販売で事業を軌道に乗せる」ことを狙ったのですが、その後、通常のLNG価格が下がりました。そのため「東芝が仕入れる米国産LNGの価格競争力は損なわれてしまい、売り先探しが進まない状況に陥っている」というのです。

 今後、このLNGの隠れ債務問題が浮上してくる可能性もあるわけです。

ランディス・ギア社の買収

 東芝は2011年にスイスのスマートメーターメーカーであるランディス・ギア社を1900億円で買収しました。スマートメーターというのはIT化によって電力をデジタルで計り、メーター内に通信機能を持たせた電力量計のことです。

 ランディス・ギアの「のれん」は1432億円ですが、2月12日の日経電子版では「16年度上期の連結業績は売上高が前の期比9%減の845億円。営業利益は44%減の34億円だった」と報じています(「東芝、スイス電力計大手でも減損 11年に1900億円で買収」2017/2/12 )。

 ランディス・ギアは世界最大手なので、これもまた巨額の買収案件ですが、不首尾に終わった結果が決算日前に報じられています。スマートメーター技術は原発ほどの逆風を受けているわけではありませんが、営業利益が大幅に減少しているので、その前途が危ぶまれています。

東芝の命運を分けた戦略判断

 こうしてみると、今後の東芝の命運は、AP1000の建設・運用・安全管理、LNGの大量購入、大型の買収(WH社とランディスギア社)の成否によって大きく分かれることになりそうです。

 どれも経営陣の戦略判断の問題なので、もはや、個々の従業員が頑張ってもどうにもなりません。

 東芝が完全に失墜した場合、同社の18.7万人の従業員だけでなく、日本の市場そのものにも影響が出るので、同社には何とか持ちこたえてほしいのですが、前掲の四つのリスクを眺めていると、その行き先が思いやられます。

 何とかならないものでしょうか。

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