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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

安倍・トランプの日米首脳会談で米国インフラへの投資はどうなる?

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(サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  安倍首相とトランプ大統領との会談が2月10日に予定されていますが、その話題の一つに、日米経済協力で米国への投資がどの程度、行なわれるのか、という問題があります。

 これに関して、2月初めに日経新聞や朝日新聞等が、安倍首相とトランプ大統領の会談で、公的年金をアメリカのインフラに投資する経済協力のプランが提案されると報じていました。

 しかし、公的年金の運用を司るGPIFはこれを否定。

 7日の衆院予算委員会で民進党の今井雅人氏が前掲記事に基づいて首相に真偽を問うと、首相もこれを否定。

 では、新聞報道は誤報だったのか?

 その真偽は10日の会談で明らかになるはずです。

 しかし、よく考えてみれば、半ば税金に近い形で聴取された年金が国民の信任を経ずに、アメリカのインフラに投資され、それが外交取引の材料となるというのは、かなり奇妙な話です。

 今回は、この怪しげな投資のニュースとトランプ政権の公共投資計画について考えてみます。

2月初めに報じられたGPIFの米インフラ投資計画

 まず、端緒になった日経電子版の記事(「公的年金、米インフラに投資 首脳会談で提案へ  政府、雇用創出へ包括策」2017/2/2)では、日本からアメリカに提案される「日米成長雇用イニシアチブ」(仮称)の骨格が報じられています。

 GPIFは130兆円の資金運用の5%を海外インフラに投資できるとされ、これを用いて米企業等が公共投資の資金調達のために発行した債券を購入します。そして、債券をGPIFが購入し、米国インフラに投資したり、日米両国で第三国のインフラに投資したりするわけです(投資プロジェクトとして、ロボット、人工知能、サイバー防衛が挙げられている)。

 朝日デジタルの記事(「首相『米の雇用70万人創出』 日米首脳会談で提案へ」2017年2月3日)では、その規模が報じられています。

 日米首脳会談に向け、政府が検討する経済協力の原案が2日、明らかになった。トランプ米大統領が重視するインフラへの投資などで4500億ドル(約51兆円)の市場を創出し、70万人の雇用を生み出すとしている。日米間の貿易不均衡を批判するトランプ氏に10日の会談で示して理解を得たい考えだが、日本の公的年金資産の活用をあて込むなど異例の手法だ。

 題名は「日米成長雇用イニシアチブ」。経済協力の5本柱で「両国に成長と雇用をもたらし、絆をさらに強化」するとうたう。米国でのインフラ投資では、約17兆円の投資で65万人の雇用創出を想定。テキサス州やカリフォルニア州の高速鉄道計画への協力、都市鉄道や地下鉄車両の3千両刷新などを盛り込む。

 途方もない規模で、日本の年金資産が米国インフラに投資されることが、まことしやかに報じられましたが、現時点では、これは確定した計画ではありません。日経と朝日が入手したとされる「情報」に基づいた記事です。

GPIFと安倍首相は前掲計画の存在を否定

 GPIFのサイトでは、2月2日に、この計画の存在を否定する髙橋則広理事長のコメントを公にしました。GPIFは「インフラ投資を含め、専ら被保険者の利益のため、年金積立金を長期的な観点から運用しており、今後とも、その方針に変わりはありません」「政府からの指示によりその運用内容を変更することはありません」と公表しています。

 そして、7日に衆院予算委でこの計画について民進党の今井雅人氏に問われた安倍首相も、その存在を否定しました。朝日新聞の誤報を引き合いに出し、強い口調で否定しています。

 産経ニュース(「安倍首相、朝日新聞の“あの”大誤報を引き合いに民進党に反論」2017.2.7)がその応酬を紹介しています。 

 7日午後の衆院予算委員会で、安倍晋三首相が、朝日新聞による東京電力福島第1原発の吉田昌郎所長(当時)の聴取記録「吉田調書」報道を引き合いに、民進党の今井雅人氏の指摘に反論する場面があった。

(略)

 今井氏「火のないところに煙は立たないと言います。これだけの細かいものが出ているんですね。この記事、朝日でも(同趣旨の記事を掲載した)日経でも、十分信用できる新聞社じゃないですか。それが、こういう記事をだしている。いかがですか?」

 首相「『新聞の記事があるから』とかですね、『週刊誌の記事があるから』とかって、政府を追及されても困るんですよ。違うって言ったじゃないですか。そもそも、GPIFに私は指図できません。大新聞ではありますけどね。でも新聞も間違えますよね。間違えてない? 今まで、大きな間違いあるじゃないですか? 吉田所長のね、吉田所長の記事、全然間違ってましたよね? 全然違いますよ」

(略)

 今井氏「このGPIFのやつは検討の俎上にのってたんじゃないかというふうに思われますけども、どうですか」

 首相「それは、だれか素人が書いたんですね。私が言ったように、できないんですから。これ、明確に申し上げておきます。できない。彼ら(GPIF)が独立して判断するということは当然ありますよ。だって世界中にプロジェクトがたくさんあって、米国だけダメってことはありえないじゃないですか」

  GPIFは独立行政法人なので、行政機関のように首相の命令で動かせるわけではありません。従来は経営上の意思決定や運用の権限が理事長に集中していましたが、2014年10月に株式購入の割合が上がってからは、合議制が導入され、政治介入がしにくくなるように改められてもいます。

 安倍首相は、GPIFに米国への投資案件があるとしても、日米会談後に、GPIFが前掲の巨額の米国投資に参加するかどうかは別問題だと答えているわけです。

 なお、首相はこのプランについて「素人が書いた」と述べており、まともに取り合いませんでしたが、読売新聞(2017/2/13:朝刊3面)は、政府は、この「日米成長雇用イニシアチブ」を当初は複数案で準備していたが、「<雇用70万人創出><インフラ投資51兆円>と具体的な数字が並んだが、『日本側から数字を出せば米側の土俵に乗ってしまう』(政府高官)として首脳会談での提示は最終的に見送られた」とも報じています。

 企画案としては存在していたのかもしれません。

トランプ政権のインフラ投資計画はPPPを活用

 トランプ政権はインフラ投資でPPP(官民パートナーシップ)を推進することを公約しています。

 PPPというのは(Public Private Partnership)の略語なので、日本語で言えば「官民連携」という言葉に相当します。

 民間資金やノウハウを公共施設の整備や効率化、サービスの改善等に活かす方法のことです。最近の日本でも空港経営に民間委託が取り入れられていますが(コンセッション方式)、これも広い意味でのPPPの一種です。

 その形態にはPFI方式、指定管理者制度、包括的民間委託の四種類があると言われています。

(出所:平成25年度版 国土経営白書:1 維持管理におけるPPP/PFIの活用

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 トランプ氏は、選挙期間中から、アメリカでも道路や橋、トンネル等の老朽化が深刻化しているので、インフラ補修に1兆ドルを用いることを公約し、投資減税等のインセンティブを用いて、官民パートナーシップを推進することを主張していました。

 この計画への期待が、上院でのイレーン・チャオ運輸長官の発言で高まったことがフィナンシャルタイムズ紙(日経電子版翻訳「米官民インフラ連携が拡大 トランプ氏公約を楽観 」2017/2/7)で報じられています。

 建設大手エイコムの投資子会社のシニア・マネジング・ディレクターを務めるカール・ライチェルト氏は、トランプ氏はPPP市場に「楽観主義の稲妻」をもたらしたと言う。業界は、政権全体に広がるPPPへの「広範な支持」を感じ取っており、課題は米議会と官僚機構からの協力を取り付けることだと指摘する。

 業界の期待は、チャオ米運輸長官の発言で拍車がかかった。長官は指名承認の議会公聴会で、「エクイティ会社や年金基金、寄付基金が(インフラに)投資できる推定数兆の資本を最大限に利用する」ためには、「大胆な新しいビジョン」が必要だと述べた。

  同紙は「民間資金でまかなわれる道路、空港、鉄道、橋などの公共インフラプロジェクトで、米国が初めて英国を抜き、世界トップに躍り出た」として、2016年の英国のPPP(総工費48億5000万ドル)と米国のPPP(総工費101億4000万ドル)の規模を比較していました。

 今後、日本が米国のインフラ投資にどの程度、協力するのかは、2月10日の安倍首相とトランプ大統領との会談での大きな論点の一つになりそうです。