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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ氏、金融規制緩和の大統領令に署名 ドッド・フランク法はどうなる?

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(マンハッタンの風景。9.11メモリアル時。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ大統領が金融規制を緩和する大統領令に署名しました。

 米国時間で2月3日なので、日本では4日午前4時頃のニュースで報じられています。

 その概要を日経電子版で見てみます(「トランプ氏、金融規制緩和へ大統領令 『改革法』見直し指示」2017/2/4)

 【ワシントン=大塚節雄】トランプ米大統領は3日午後、オバマ政権が米金融規制改革法(ドッド・フランク法)のもとで強化した金融規制を抜本的に見直すよう指示する大統領令に署名した。金融機関の負担を減らし、融資を増やしやすくする方向で規制緩和を検討する。金融危機の再発防止を最優先にしてきた金融行政の転換となる。

 ・・・

 トランプ氏は、金融機関が退職した個人の年金運用に助言する際、利用者保護を徹底する「受託者責任ルール」に関する大統領令にも署名した。導入停止を検討するよう労働長官に指示する内容とみられる。同ルールはドッド・フランク法に盛り込まれ、今年4月から導入予定だった。投資信託を勧めて手数料を得ると条件次第では規制に背く可能性も指摘され、金融業界の反対が強かった。

  この規制緩和は選挙前から注目されており、金融株の値上がりの要因として注目されていたので、関連するニュースを追ってみます。

規制緩和に上機嫌なトランプ大統領

 ホワイトハウスのHPで、金融規制緩和の前の大統領の会話の記事がUPされています。(出所:Remarks by President Trump at Signing of Executive Order on Fiduciary Rule | whitehouse.gov

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金融規制に関する大統領令に署名するにあたってのトランプ大統領の発言 

Remarks by President Trump at Signing of Executive Order on Fiduciary Rule

Oval Office 1:18 P.M. EST

大統領:今日はアメリカの金融制度の規制の中核となる規制の緩和にサインする。これで今までよりもよくなるはずじゃないか。

THE PRESIDENT: Today we're signing core principles for regulating the United States financial system. It doesn’t get much better than that, right?

大統領:その理由を説明してくれ。

THE PRESIDENT: Would you like to --

MS. WAGNER: It's my baby. (Laughter.)

THE PRESIDENT: Why don’t you explain this.

ワグナー女史:我々がやろうとしていることは、中・下流の所得の投資家、退職金を管理している退職者といった、アメリカの民衆のためになる行為です。

MS. WAGNER: What we're doing is we are returning to the American people, low- and middle- income investors, and retirees, their control of their own retirement savings.

これはメインストリートのことですが、私にとっては四年間の労働者への愛の表れでもあります。私は待っていました。これは大きな日です。アメリカ人にとって、非常に大きな瞬間です。

This is about Main Street, and it's been a labor of love for me for over four years as chairman. And I have had -- this is a big day, a big moment for Americans. (Inaudible.)

(以下略)

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 ここでは、意気揚々としたトランプ大統領の発言が紹介されています。

 そのほか、2月3日には大統領が経済人のフォーラムで発言した内容も公開され、そこで金融規制緩和の意図が語られていました。

(出所:Remarks by President Trump in Strategy and Policy Forum

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我々はドッド・フランク法を断ち切ってしまいたい。率直に言えば、私の友人も含めて、あまりにも多くの人々が素晴らしいビジネスをしているのにお金を借りられなくなっているからだ。お金が得られないのは、銀行がお金を貸さないからで、その原因はドッド・フランク法のルールと規制にある。

we expect to be cutting a lot out of Dodd-Frank, because, frankly, I have so many people, friends of mine that have nice businesses that can’t borrow money, they just can’t get any money because the banks just won’t let them borrow because of the rules and regulations in Dodd-Frank. 

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 ドッド・フランク法の厳格な規制のためにお金の流れが悪くなっている、というのがトランプ大統領の基本的な認識です。

金融規制緩和の大統領令を英和対訳してみる

 2月3日に署名された大統領令の内容を全文紹介してみます。

(出所:Presidential Executive Order on Core Principles for Regulating the United States Financial System | whitehouse.gov)。

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アメリカ合衆国の金融制度を規制する中心原理に関する大統領令
Presidential Executive Order on Core Principles for Regulating the United States Financial System

 

アメリカの憲法と法に基づいて、大統領である私には以下の権限が授けられる。大統領令の内容は以下の通りである。

By the power vested in me as President by the Constitution and the laws of the United States of America, it is hereby ordered as follows:

1節:政策
Section 1. Policy.

私の政権において、アメリカの金融制度への規制は、以下の中核となる原理に従うべきだ。

It shall be the policy of my Administration to regulate the United States financial system in a manner consistent with the following principles of regulation, which shall be known as the Core Principles:

アメリカ人の金融における意思決定の独立を助ける。各人が退職後に資産を形成するために、市場における選択に必要な情報が知らされるべきだ。

(a) empower Americans to make independent financial decisions and informed choices in the marketplace, save for retirement, and build individual wealth;

納税者の資金での金融機関の救済を阻止する

(b) prevent taxpayer-funded bailouts;

システミックリスクと「市場の失敗」(モラルハザードと情報の非対称性等によってもたらされる)を分析する、より厳格な規制を通して活発な金融市場での経済成長を促す。

(c) foster economic growth and vibrant financial markets through more rigorous regulatory impact analysis that addresses systemic risk and market failures, such as moral hazard and information asymmetry;

アメリカ企業が米国内と海外の市場で外国企業との競争を可能にする

(d) enable American companies to be competitive with foreign firms in domestic and foreign markets;

金融規制における国際的な交渉や国際的な会合でアメリカの国益を促進する。

(e) advance American interests in international financial regulatory negotiations and meetings;

連邦の金融規制に関わる省庁の公的な説明責任を再確立する。連邦の金融規制の仕組みを理に適ったものにする。

(g) restore public accountability within Federal financial regulatory agencies and rationalize the Federal financial regulatory framework.

2節:財務長官からの指示

Sec. 2. Directive to the Secretary of the Treasury.

財務長官はFSOC(金融安定監視評議会)の幹部や長と相談し、120日以内に大統領に以下の報告を行わなければならない。この命令の影響が既存の法、条約、規制、指示、報告と記録の必要条件のどの範囲に及ぶのか。また、このたび取られた中核の原理を促進する政府の他の政策は何か。この報告は、この中核原理を支え、促進するためのものである。

The Secretary of the Treasury shall consult with the heads of the member agencies of the Financial Stability Oversight Council and shall report to the President within 120 days of the date of this order (and periodically thereafter) on the extent to which existing laws, treaties, regulations, guidance, reporting and recordkeeping requirements, and other Government policies promote the Core Principles and what actions have been taken, and are currently being taken, to promote and support the Core Principles.

その報告と次回以降の報告は、何がこの中核原理と関連するのかを明確にすべきだ。金融制度に対する連邦の規制、既存の法、条約、規制、指示、報告と記録の必要条件、政府の他の政策に関して。

That report, and all subsequent reports, shall identify any laws, treaties, regulations, guidance, reporting and recordkeeping requirements, and other Government policies that inhibit Federal regulation of the United States financial system in a manner consistent with the Core Principles.

3節:一般的な条文

Sec. 3. General Provisions.

この命令は、以下の行為に損なわれず、影響を受けることもない。

(a) Nothing in this order shall be construed to impair or otherwise affect:

省庁とその長の権限は、法によって授けられる

(i) the authority granted by law to an executive department or agency, or the head thereof; or

(ii) the functions of the Director of the Office of Management and Budget relating to budgetary, administrative, or legislative proposals.

この大統領令は法に則って実施され、予算上の有効性に従う。

(b) This order shall be implemented consistent with applicable law and subject to the availability of appropriations.

この条例は、潜在的にも、手続き的にも、法執行上の強制力においても、いかなる特権や便益を創造しない。アメリカ合衆国の省庁、機関、高官、公務員などに対して、どの党派も平等に扱われるべきだ。

(c) This order is not intended to, and does not, create any right or benefit, substantive or procedural, enforceable at law or in equity by any party against the United States, its departments, agencies, or entities, its officers, employees, or agents, or any other person.

ドナルド・J・トランプ

DONALD J. TRUMP

THE WHITE HOUSE, February 3, 2017.

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そもそもドッド・フランク法とは・・・

 今回の大統領令で見直しの対象になる規制はリーマンショック後(2010年7月)の金融制度改革のための法律で成立しました。立法に携わった議員の名にちなんで、「ドッド・フランク法」とも呼ばれています。

 この規制は、大規模な金融機関の破たんが生む経済危機の再発を防ぐため、金融機関に説明責任を課し、透明性の向上を目指しました。

 破たん後の影響が「大きくてつぶせない」金融機関の監視を強化し、リーマンショック後のような救済措置が繰り返されないために、FRB(連邦準備制度理事会)に消費者金融保護局の設置、金融機関の監視強化、経営者報酬への監視強化、連銀法の修正などが計られました。

 この改革で、総資産500億ドル以上の金融機関は資本と流動性の確保や一年ごとのFRB(連邦準備制度理事会)によるストレステストを受けることが要求されるようになっています。

 そして、その中心となるのが銀行の市場取引を規制する「ボルカー・ルール」です。

 銀行が自社の資産運用のために、自社の資金でリスクを取って金融商品の購入や売却、取得や処分を行うことを禁止します。そのためにアメリカの銀行にデリバティブ取引、商品先物取引、ヘッジファンドへの出資、未公開株ファンドへの出資等を制限。

(ただし、顧客のリスク回避が目的とした場合、ヘッジ取引や、値付け取引、国債、政府機関債、地方債等の取引は規制対象外となる)

 包括的な監査は連邦金融監督者と州規制監督者、大統領が任命する保険の専門家で構成されるFSOC(金融安定監視評議会)が担うことも定められました。

金融規制のコスト削減、市場活性化を狙うトランプ政権

 このドッド・フランク法に関しては、規制が厳しすぎることや監査等に対応するためのコストが高すぎ、経営に負担がかかっているという見方や、政府機関の肥大化、金融機関の貸し出しの低迷等を問題視する見方も根強くありました。

 トランプ政権はこの規制を緩和することで、金融の活性化が図れると考えたわけです。 

 ウォールストリートジャーナル紙のインタビューによれば、米国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長は、この改革で、毎年数千億ドルにわたる銀行の規制コストが軽減され、銀行は消費者のために効率的・効果的な価格設定を行えるようになると述べ、金融安定監視評議会(FSOC)や、銀行以外の大手金融機関への監視のあり方を変えていく方針を示唆しました(WSJ日本語版「トランプ氏、ドッド・フランク法撤回の大統領令に署名へ」2017/2/3)

 これに対して、金融規制改革法を成立させた民主党やリベラルのマスコミからの攻撃が活発化していくとみられています。

 上院ではまだトランプ政権閣僚に関する公聴会が進行中なので、ゴールドマンサックス出身のムニューチン財務長官の承認などで一悶着が起きるのかもしれません。

(※その後、無事、財務長官は承認されました)