トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

マティス国防長官訪日 海兵隊出身の「戦う修道士」の戦略とは

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(ワスプ級強襲揚陸艦。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 ジェームズ・マティス国防長官が2月3~4日に来日。3日に安倍首相と会談し、4日に稲田防衛相と会談する予定になっています。

 中央日報(日本語版)では「マティス米国防長官、初めての訪問国は日本ではなく韓国」と題した記事を2月1日に公開していますが、韓国訪問が先になったのは、日本の国会審議の日程上の理由であり、特に韓国を優先したかったわけではないようです(産経ニュース「マティス米国防長官、訪韓前の来日打診していた 国会配慮で変更、韓国が先に」2017/2/3)。

 各紙の記事を見ると、マティス氏には「マッドドッグ」「狂犬」という言葉が添え物のように張り付いていますが、実際はもっと知的・理性的な人物です。

 上院公聴会では、ウィリアム・コーエン議員が「マッドドッグ(狂犬)というのは不適切なあだ名だ。マティスの勇気を特色づけるために『ブレイブハート』(勇敢な心)であるべきだ」と述べています。

 そのため、当記事では「戦う修道士」(ウォリアー・モンク)というもう一つのあだ名をタイトルに入れました。

 何だかRPGのキャラのようなニックネームですが、これは独身でひたすら戦い続けてきたことに由来します。印象的なあだ名が独り歩き気味の国防大臣はどんな人物で、何を考えているのでしょうか。

国防総省はマティス氏の経歴をどうPRしている?

 共和党のマケイン議員は、上院公聴会で、「わが国民の中でマティス大将の貢献に匹敵する者はいないと信じている」とも述べています。

(原文は”I am confident that no one appreciates our people and values their sacrifices more than General Mattis.”)

 そのマティス氏の経歴を国防総省のHPの記事で見てみましょう。

(出所:Jim Mattis > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Biography View

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ジム・マティスは2017年1月20日に第26期の国防長官に就任した。

Jim Mattis became the 26th Secretary of Defense on January 20, 2017.

ワシントン州のリッチランド出身。マティス氏はアメリカ海兵隊に18歳で入隊。

A native of Richland, Washington, Secretary Mattis enlisted in the U.S. Marine Corps Reserve at the age of 18.

1971年にセントラルワシントン大を卒業後、海兵隊の少尉となった。

After graduating from Central Washington University in 1971, he was commissioned a second lieutenant in the U.S. Marine Corps.

彼は海兵隊で何十年もの戦歴を重ね、ライフル歩兵小隊から海兵遠征軍に至るあらゆる階層を指揮した。

During his more than four decades in uniform, Secretary Mattis commanded Marines at all levels, from an infantry rifle platoon to a Marine Expeditionary Force.

彼は1991年にイラク湾岸戦争で歩兵大隊を指揮し、9.11以降の2001年のアフガン戦争では派遣された旅団を指揮し、2003年のイラク戦争では海兵隊師団を指揮した。この時、先発で攻撃をかける部隊と後続の作戦を支える部隊を率いている。そして、中東での全海兵隊を指揮し、第一海兵遠征軍と中央の海兵隊戦力の指揮を委ねられた。

He led an infantry battalion in Iraq in 1991, an expeditionary brigade in Afghanistan after the 9/11 terror attack in 2001, a Marine Division in the initial attack and subsequent stability operations in Iraq in 2003, and led all U.S. Marine Forces in the Middle East as Commander, I Marine Expeditionary Force and U.S. Marine Forces Central Command.

非戦闘の任務では、マティスは国防副長官のアシスタントとして、また国防総省の事務総長として、海兵隊の人員計画と政策、指揮統制、海兵隊の発展計画などにも貢献している。

During his non-combat assignments, Secretary Mattis served as Senior Military Assistant to the Deputy Secretary of Defense; as Director, Marine Corps Manpower Plans & Policy; as Commanding General, Marine Corps Combat Development Command; and as Executive Secretary to the Secretary of Defense.

マティス氏はアメリカ統合戦力軍やNATO変革連合軍最高司令官、アメリカ中央軍を指揮した。

As a joint force commander, Secretary Mattis commanded U.S. Joint Forces Command, NATO’s Supreme Allied Command for Transformation, and U.S. Central Command.

アメリカ中央軍の指揮において、マティス氏は20万人以上の兵を用いる軍事作戦を指揮している(海兵、空軍兵、国境警備隊、海兵隊、中東の同盟軍の兵士などを含む)

At U.S. Central Command, he directed military operations of more than 200,000 soldiers, sailors, airmen, Coast Guardsmen, Marines and allied forces across the Middle East.

彼は2013年に海兵隊を退役後、スタンフォード大学のフーバー研究所でデイビスファミリーの特別客員研究員として国防と戦略、革新、効果的な軍の使用についての研究を指揮。彼は2016年に共著で『兵と市民』と題した著書を出版。

Following his retirement from the U.S. Marine Corps in 2013, Secretary Mattis served as the Davies Family Distinguished Visiting Fellow at the Hoover Institution at Stanford University, specializing in the study of leadership, national security, strategy, innovation, and the effective use of military force. In 2016, he co-edited the book, Warriors & Citizens: American Views of Our Military. 

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 こうしてみると、まさに歴戦の勇士という経歴です。

 最後に著書が紹介されているのは独り歩きする「狂犬」というあだ名に対して、マティス氏が優れた戦略家であることを訴えたいからなのかもしれません。

マティス氏は上院公聴会で何を発言したのか?

 改めて、上院公聴会でのマティス氏の発言を抄訳で紹介してみます。

(出所:http://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/17-03_01-12-17.pdf、 原文はPDFで146ページもあるので抜粋紹介)

 マティス氏は以下のように述べています。

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「私は第二次世界大戦以来、我が国は最も大きな挑戦を受けており、それはロシア、テロリスト集団、南シナ海での中国の活動に由来する」

”I think it is under the biggest attack since World War II, sir, and that is from Russia, from terrorist groups, and with what China is doing in the South China Sea."

 ティラーソン国務長官よりもロシアへの警戒心が強いマティス国防大臣は「脅威」の冒頭にロシアを挙げ、「私は中国との競争を乗り切る必要があると信じている」とも述べました。

”I believe that we are going to have to manage that competition between us and China.”

 その後、古典への造詣を披露し、中国の台頭についても言及していきます。

「古典の一節では、大国が敵意に向かう道を選ぶのは、いつも恐怖と名誉、利益に由来するとも言われている」

 これはギリシャの歴史家トゥキディディス『戦史』の有名な一節です。

”There is another piece of wisdom from antiquity that says, fear, honor, and interest always seem to be the root causes of why a nation chooses to go to hostilities.”

「我々が台頭する大国に対処する時には、外交においても、同盟においても、経済においても関与し、強い軍隊を維持し、我々の外交官に強い立場を与えなければならない」

"we have got to do is engage diplomatically, engage in terms of alliances, engage economically, and maintain a very strong military so our diplomats are always engaging from a position of strength when we deal with a rising power."

 要するに、米国の国力あってこその対中外交だと述べているわけです。

 そして、南シナ海問題についても中国の主張を一刀両断。

・・・

「中国の指導者は南シナ海を軍事化していないと述べている。あなたは彼らに同意しますか?」(シルビアン上院議員)

"China’s leaders have stated that they are not militarizing the South China Sea.Do you agree with them?"

「同意しない」(マティス氏)

"No, I do not."

・・・

 中国の台頭に対しては、国務省だけでなく、軍や財務省まで動員した総がかりで対応すべきだとも述べました。以下の発言は、シルビアン上院議員がティラーソン国務長官が中国の南シナ海での活動を禁止すべきだと述べたことに関して、マティス氏の見解を問うた時の返答です。

・・・

「国務省、財務省、国防総省が一致団結して政策を推し進めなければならない」

”we are going to have to put together a policy that is put together by the State Department, by Treasury, by DOD.”

「不完全で不一致な政策で対処するのは望ましくないので、我々はこれに関して団結する必要がある」

”We are going to have to integrate this so that we are not dealing with an incomplete or incoherent strategy.”

「結論を述べよう。国際海域は国際海域だ。我々は法に則っていかに対処すべきかを理解しなければならない。その法は、我々が作り、用い、アメリカだけでなく、多くの国々を長年にわたって繁栄に導いてきた法である」

”But the bottom line is, sir, the international waters are international waters, and we have got to figure out how do we deal with holding onto the kind of rules that we have made over many years that led to the prosperity for many nations, not just for ours.”

「商業の自由によって、これは多くの国々を繁栄させてきた要因となっている」

”This has been part of why many nations have got more prosperous because of this freedom of commerce.”

 発言は慎重ですが、中国の活動が繁栄の要因である国際海域における商業の自由を脅かしていることを指摘し、これに対して、国務省、財務省、国防総省が連携すべきだと述べています。

 他の箇所の質疑では、アジア太平洋の問題に関して、「太平洋の脅威は私の心の中で重要な優先順位にある」とも述べています。

”the Pacific theater remains a priority in my mind.”

 米軍の展開に関しては、各国から撤退せず、同盟国と連携するとも発言しています

「全てのアメリカの布陣の中で、どの戦いからも撤退しない」

”I have never gone into any fight in an all-American formation.

「私は常に同盟国の側に立って戦う」

I have always fought alongside allies.

「私は同盟国が(脅威の)抑止に貢献し、その行いを是正し、国際秩序を乱す者を正すことにも貢献していると考えている」

”But also, I believe allies contribute greatly to deterrence and modifying the behavior or misbehavior of those who would disrupt the global order.

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 マッドドッグと呼ばれていますが、公聴会の発言は極めて知的な内容です。

 このあだ名がついたのは、戦時にヒートアップした時の発言がクローズアップされてしまったことが原因のようです。

 産経記事(2017/2/2:1面)によれば、公聴会の発言は「事務方が用意した内容を尊重した」(政府関係者)とも見られていますが、16年8月には「われわれは世界に関与し、孤立主義に抵抗しなければならない」とも述べているので、マティス氏は基本的には同盟を尊重する立場です。

 産経記事では、マティス氏がトランプ大統領の意を受けて同盟国に駐留米軍費用の負担増や更なる義務の履行を要求する可能性もあると警戒していましたが、訪韓時の会談に関する報道では、駐留米軍の負担増を要求したという話は出てきていません。

 公聴会の発言や韓国での会談報道を見る限り、日米同盟の尊重を表明し、中国と北朝鮮に予防線を張るという落ちになる可能性が高いと言えそうです。

追記①:安倍・マティス会談で尖閣に安保適用を確認

 各紙報道で3日の会談で尖閣に安保適用が確認されたことが報じられています。

 外務省のHPを見ると、会談の内容と2月2日付で岸田外相が1月21日に送ったマティス国防長官とティラーソン国務長官への祝辞も掲載されていました。

 まず、50分間の安倍・マティス会談の概要を見てみます(出所は外務省HP「マティス米国国防長官による安倍総理大臣表敬」平成29年2月3日)安倍首相とマティス国防長官の発言の概要は以下の通りです。

【安倍首相】

「マティス長官が就任後,最初の訪問国の一つとして日本を選んだことを日米同盟重視の現れとして高く評価する」「トランプ政権との間で,揺るぎない日米同盟を更に確固たるものにしたい」

地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中,日本は防衛力を強化し,自らが果たし得る役割の拡大を図っていく方針である」

【マティス国防長官】

「米国は日本とともにあることを示していく」「北朝鮮など共通の課題に対処するにあたり,日米安全保障条約第5条が重要であることを明確にしたい」

「日米安全保障条約に基づく対日防衛義務及び同盟国への拡大抑止提供を含め,米国の同盟上のコミットメントを再確認する」

「尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり,日米安全保障条約第5条の適用範囲である」「米国は,尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」

  日米同盟強化、北朝鮮問題での協力(拉致問題についてもマティス氏の理解を得た)、日米韓の安全保障協力,東シナ海・南シナ海の情勢での懸念の共有などが行われ、沖縄普天間基地移設に関しては「辺野古移設が唯一の解決策である」ことでも一致しています。

 産経ニュース(2/4)の報道では、マティス氏が「米国は100%、安倍首相、日本国民と肩を並べて歩みを共にすることについて一切誤解の余地がないことを伝えたかった」「(普天間基地移設に関して)2つの案がある。1つが辺野古で、2つが辺野古だ」と述べたことも紹介されています(「日米安保条約の尖閣適用を確認 マティス国防長官、中国念頭に「日本の施政を損なおうとする行動に反対」)

 米軍駐留費の増額要求がなかったのは、今回の訪韓・訪日が同盟国を安心させるための企画だったからなのでしょう。

※岸田大臣がマティス氏、ティラーソン氏に1月21日に送った祝辞では日米同盟の重要性をトランプ政権に訴えかけ、ティラーソン氏には訪日を期待することを伝えています。

★「岸田外務大臣発ジェームズ・N・マティス米国国防長官宛祝辞
「日米同盟の抑止力・対処力を強化するために,日米防衛協力のための指針や平和安全法制に基づき,日本の役割を積極的に果たすとともに,貴国との間で幅広い分野での安保・防衛協力を更に進めていく考えです」

★「岸田外務大臣発レックス・ティラソン米国国務長官宛祝辞

「日米両国は,現在,自由,民主主義,基本的人権,法の支配という普遍的価値の絆を共有する強固な同盟国です。世界経済の原動力であるアジア太平洋地域の安定には,米国のコミットメントが必要不可欠です。ティラソン国務長官が出席された上院公聴会において議論がなされたとおり,地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中,地域の平和と繁栄の礎である日米同盟の重要性は増しています」

追記②マティス国防長官と稲田防衛相の会談の中身とは?

 安倍・マティス会談と内容が共通する箇所も多いので、新しく出てきた発言を中心に紹介してみます。防衛省HPにも紹介記事は出ていましたが、味気ない要約調の記述だったので、産経ニュースの詳報から気になる発言を拾ってみましょう。

(出所:産経ニュース「マティス氏が駐留費負担を絶賛『日本は他国のモデルだ!』 日米共同会見詳報」2/4) 

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【マティス国防長官】

「2015年の防衛ガイドラインおよび日本の平和安全法制が土台になり、今後より多くのことを一緒にできるようになる」「軍同士の相互運用も増え、必要であれば日本の平時から有事に至るまでの能力も強化される」

「日本は域内の安全および同盟に特筆に値する貢献をなさっておられます。アメリカは日本の貢献に深く感謝しております。ただ間違えないでください。日本のリーダーとの会見で、双方ともいろいろ課題が噴出する現在でありますので、今の状態に決して慢心してはいけない」

⇒日米同盟は維持・強化の方針が確認されたが、2月10日では、トランプ政権発足に伴って噴出した課題が議論される模様。

【稲田防衛相】

「普天間については辺野古への移設が唯一の解決策であるという立場を今回改めてマティス長官との間でも確認をし、政府として移設に工事を着実に進めていく」

⇒日米合意が再確認された。翁長知事は沖縄県民に失礼だと批判しているが、日本国憲法上、外交は内閣の仕事であり、知事の意向で決めるべきものとはされていない。翁長氏は護憲を標榜するが、日本国憲法72条、73条についてどう考えているのだろうか?

【マティス国防大臣】

「コスト負担ということでは、日本は本当にモデルだと思っている」「日本と米国で経費の負担分担が行われているのは、他の国にとってモデルになる」

⇒マティス氏は日米経費負担の実態を正しく理解している模様。トランプ大統領にきちんと伝えてほしいものだ。

「われわれは南シナ海において見てきたわけです。中国が信頼を踏みにじったわけです。この地域において。そして拒否権のようなもの、経済、安全保障上、外交上のものにおいて近隣諸国に対して発動しようとしている」

「それ(※国際秩序)が破られた場合には仲裁(裁判)にかける」「軍事的な手段を使うとか、領土を占領するといったようなことはやらない」「何しろ外交的な努力に訴える」「適切にオープンなコミュニケーションラインを維持していく」「現段階において別に軍事的な作戦は必要ない」「それに累次したものも全然必要ない」「そんなのは解決にならない。外交官に任せたい。それから航行の自由はもちろん絶対に重要であります。商船であろうと、アメリカの海軍の艦艇であろうと」「公海上では適切に演習もやります。また通過も行います」

⇒マティス氏でも南シナ海で軍事作戦を展開したいとは考えていない。ただ、この発言から見れば「航行の自由」を保持するために、南シナ海の島々の近辺に米軍艦艇を通過させることは繰り返される模様。南シナ海関連の発言が穏健的なのに、「イランは中東最大のテロ支援国家」等、中東の話題になると語気が厳しくなるのは、現在、IS打倒を含めた中東の作戦に意識が傾いているためではないのか。

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 マティス国防大臣の訪日を踏まえ、2月10日の日米首脳会談がどうなるのか、しっかりとウォッチングしていきたいものです。

追記③:安倍・トランプ会談でも尖閣に安保適用を確認

 その後、2月10日の日米首脳会談ではトランプ氏が日米同盟強化に大きく踏み込みました。

 尖閣諸島に日米安全保障条約第五条が適用されることや、沖縄の普天間飛行場が辺野古に移設されることなど、マティス訪米時に固まった路線がトランプ大統領によって追認されました。

 日本側としては、ほっと一息つける状況になりました。