トランプ政権と日本・アジア 2017

米国株や為替に影響する時事問題を中心に政治動向をウォッチ。今さら聞けない常識も再確認。

トランプ政策の英和対訳⑤米軍再建~日本は防衛負担の増加要求に耐えられるのか~

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(横田基地のC130輸送機。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  トランプ政権の発足に合わせたのか、日本では防衛大綱の改定を急ぐことになりました。 防衛計画の大綱というのは、おおむね10年ほどで安保政策の基本的な指針を中長期的に決め、別表では陸海空の主要装備数などが書かれています。これに基づいて5年ごとの装備調達などを決めた中期防衛力整備計画が決められるわけです。

 今日はこうした日本の動きを踏まえて、同時にトランプ政権の防衛政策の基本文書を英和対訳で紹介してみます。

防衛計画の大綱急ぐ日本 2月の日米会談内容が反映される?

 30日の産経新聞では「防衛計画 前倒し改定」というニュースが1面に掲載されています。ネット版で言えば以下の記事です(「防衛大綱前倒し改定へ防衛省内に検討会議を立ち上げ 政府、トランプ米政権にらみ外務・防衛当局者協議も」2017.1.30)

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 6月にも防衛省内で検討会議を立ち上げ、現行大綱の見直しに向けた作業に本格着手する。米国のトランプ政権が同盟国による貢献増を求めていることもにらみ、ミサイル防衛(MD)の整備や南西諸島地域の防衛力強化を図る。

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 31年度以降の中期防は来年末に閣議決定する見通しで、これに合わせて大綱も改定する必要が出てきた。

 大綱を改定する場合、防衛省が28年度から進める高高度防衛ミサイル(THAAD)や地上配備型イージスシステムなど新型MDの調査・研究の結果を反映させる。また、南西諸島地域に配備する護衛艦や航空機を拡充するほか、無人機技術や人工知能(AI)など最新技術を取り入れた装備開発にも資源を重点配分することが想定される。

 大綱改定作業とは別に、政府は外務・防衛当局者の日米協議を行う方針。アジア太平洋地域の戦略環境認識をすり合わせた上で、日米間の役割分担を話し合い、大綱改定作業に反映させていく。

 トランプ大統領は選挙期間中に在日米軍駐留経費の負担増を求めており、マティス国防長官も同盟国に「応分の負担」を求めている。日本政府は他国よりも高い割合で負担していることなどから増額要求は拒否する方針だが、国内総生産(GDP)1%以下で推移している防衛費に関しては増額も視野に検討する構えだ。

「米軍が矛、自衛隊が盾」という時代はいつまで続く?

 記事の中には書かれていませんが、トランプ大統領の考え方が日米関係に反映された場合には、従来の「米軍が矛、自衛隊が盾」という日米同盟の仕組みそのものが変わる可能性があります。

 2015年の8月15日、トランプ氏はアイオワ州の支援集会で「もし日本が攻撃されたら、我々は彼らをすぐに助けに行かなければいけない」のに、「我々が攻撃された時に、日本は我々を助ける必要がない」のは「不公正ではないか」と有権者に問いかけていました。

(元の発言は“If Japan gets attacked, we have to immediately go to their aid,” Trump said, and “if we get attacked, Japan doesn’t have to help us.” “That’s a fair deal?” he said at a gathering in Iowa on Tuesday night.")

 大統領就任後は政策の過激さが緩和されるとの見方もありますが、元々のトランプ氏の考え方からすれば、単にミサイル防衛システムを強化する程度では済まず、日本側にも大幅に「矛」の機能の負担が要求される可能性があるわけです。

 実際、安倍首相は1月26日の補正予算をめぐる質疑応答の中で、敵基地攻撃能力の保有の必要性について前向きな返答をしています。

「政府は従来、他に手段がないと認められるものに限り、憲法が認める自衛の範囲に入り可能であると考えている。一方、わが国は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、保有する計画もない」(産経ニュース:1/26

 今後、日本の戦闘攻撃機F2を改修して対地・対艦攻撃機能を強化したり、諸外国並みに巡航ミサイルの保有(米軍からのトマホークミサイル購入等)といった形で自衛隊の機能が変わる可能性があります。

 そして、トランプ大統領は就任演説で「我々は他の国々の国境を護ってきたのに、我々の国境を護ることを拒んできた」(”We’ve defended other nation’s borders while refusing to defend our own”)と述べていますが、これは同盟国の負担を増やし、自国軍の再建に力を注ぎたいという考え方の表れなので、今後は駐留米軍経費の負担や日本の防衛予算の規模などにも見直しがかかるでしょう。

  前掲記事の中では日本政府が「高い割合で負担している」と書かれていますが、これは駐留米軍の負担額のことです。

 駐留米軍の負担額は2016年度の防衛予算で5566億円です。

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(出所:防衛省・自衛隊:在日米軍関係経費(平成28年度予算)

 このうち、周辺対策、施設の借料、設備費、従業員の労務費、光熱水料等で3772億円、沖縄の負担軽減のためのSACO関係経費が28億円、在沖縄海兵隊のグアム移転費、米軍再編経費などで1766億円を占めています。

 半田滋氏(東京新聞論説兼編集委員)は、そのほかの「他省庁分(基地交付金など388億円、27年度予算)、提供普通財産借上試算(1,658億円、27年度試算)を合わせると総額7,612億円」になるとも述べていますアメリカが「駐留費全額負担」を求めてきたら、こう言ってやればいい(半田 滋) | 現代ビジネス | 講談社(1/3))。

 この在日米軍駐留経費に関しては、防衛省は2015年度の日本側負担割合を86.4%と試算し、米国防総省は04年に75%と試算しています(日経電子版1/26)。

 総額を7612億円とみなし、トランプ氏のいう日本側全額負担が実現した場合、追加の費用増額は86.4%の場合で1198億円、75%の場合で1903億円になります。

 また、防衛予算の規模に関しては日本は長らくGDP比1%枠を守ってきたわけですが、ここに増額要求がかかってくる可能性があります。

 アメリカはオバマ前政権の頃からNATO諸国にはGDP2%規模での防衛費負担を求めてきたのですが、日本も1%では足りない、と言われる可能性があるのです。

 こうした要求に関しては、日本側に何も資産が残らない米軍経費負担の増額よりは、防衛予算そのものを増やし、米国からの装備購入という形で応えたほうが合理的なのですが、防衛予算1%枠の破棄に関しては、野党やマスコミからの批判が予想されるので、衆院解散の機を狙う安倍政権には厳しい決断が求められることになりそうです。

トランプ政権の防衛政策の英和対訳

 最後に、今後のトランプ政権の方針を見るために、防衛政策の基本文書を英和対訳で紹介してみます(出所はホワイトハウスHP:Making Our Military Strong Again | whitehouse.gov

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Making Our Military Strong Again

我々の軍隊をもう一度強化する

 

Our men and women in uniform are the greatest fighting force in the world and the guardians of American freedom.

わが軍の男女は世界で最も偉大な戦力であり、アメリカの自由の守護者である。

That’s why the Trump Administration will rebuild our military and do everything it can to make sure our veterans get the care they deserve.

そのため、トランプ政権はわが軍を再建し、退役兵には国への奉仕に見合った措置を保証するためにあらゆる手段を講じる。

Our military needs every asset at its disposal to defend America.

アメリカを守るための措置にはあらゆる資産が必要だ。

We cannot allow other nations to surpass our military capability.

我々は他国がわが軍の能力を上回ることを容認できない。

The Trump Administration will pursue the highest level of military readiness.

トランプ政権は最高水準の軍事即応性(※非常時に即応する能力)を追求する。

President Trump will end the defense sequester and submit a new budget to Congress outlining a plan to rebuild our military.

トランプ政権は防衛予算の歳出削減措置を終わらせ、わが軍の再建計画の概要を示す新予算を議会に提出する。

We will provide our military leaders with the means to plan for our future defense needs.

我々はわが軍の指導者に軍の未来の需要を満たす手段を提供する。

We will also develop a state-of-the-art missile defense system to protect against missile-based attacks from states like Iran and North Korea.

我々は北朝鮮やイランのような国々のミサイル攻撃から基地を守るためにミサイル防衛システムを最先端のレベルに進化させる。

Cyberwarfare is an emerging battlefield, and we must take every measure to safeguard our national security secrets and systems.

サイバー領域は急成長する戦争の領域だ。我々は我が国の防衛秘密とシステムを守るためのセーフガードを築くためにあらゆる措置を講じなければならない。

We will make it a priority to develop defensive and offensive cyber capabilities at our U.S. Cyber Command, and recruit the best and brightest Americans to serve in this crucial area.

我々はサイバー能力で防衛と攻撃の機能を進化させることに高い優先順位を置く。アメリカでもっとも賢く、優れたアメリカ人を、このサイバー部隊という死活的に重要な領域で雇うつもりだ。

Let us never forget that our military is comprised of heroic people.

わが軍は英雄的な人々から成ることを国民が忘れないようにしなければいけない。

We must also ensure that we have the best medical care, education and support for our military service members and their families – both when they serve, and when they return to civilian life.

我々はわが軍のメンバーとその家族のために、彼らが民間人の生活に戻る際に最良の医療と教育を保障しなければならない。

We will get our veterans the care they need wherever and whenever they need it.

我々はいつでも、どこでも、退役兵が必要とする措置を講じたい。

There should be no more long drives.

もはや(ケアを求めて)長いドライブをしなくてもよい。

No more wait lists or scheduling backlogs.

もはやスケジュールのリストを並べなくてもよい。

No more excessive red tape.

これ以上の官僚的な対応はいらない。

Just the care and support our veterans have earned through sacrifice and service to our country.

我が国への奉仕と犠牲を経た退役兵には適切なケアと支援が提供される。

The Trump Administration will transform the Department of Veterans Affairs to meet the needs of 21st century service members and of our female veterans.

トランプ政権は退役軍人省を、女性退役兵を含んだ21世紀のメンバーに対応できる組織に変革する。

Our reforms will begin with firing the corrupt and incompetent VA executives who let our veterans down, modernizing the bureaucracy, and empowering the doctors and nurses to ensure our veterans receive the best care available in a timely manner.

退役兵を幻滅させてきた、腐敗し、無能な退役軍人省の幹部の解雇から改革を始め、官僚制を改革し、医師と看護婦を支援し、時宜にかなった方法でサービスを受けられる省庁にするのだ。

Under the Trump Administration, America will meet its commitments to our veterans.

トランプ政権下で、アメリカは退役軍人の要望を叶えることを約束する。

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 これがアメリカ軍再建のための改革の方針ですが、その主たる内容は、予算の増額、海外基地の防衛、サイバー軍の強化、退役軍人省の改革などです。

 読んでいると、自衛隊があまり尊重されない日本とは違い、アメリカでは軍人に敬意を払う文化があることを感じます。この文書では、トランプ大統領が、そうした保守的な国民に向けたメッセージを退役軍人へのサポートという形で具体化しています。

 後段の記述には、政治的にも影響力を持つ退役軍人たちの不満に答え、支持層を広げようとするトランプ政権の意向が伺えます。

 特に大事なのは、アメリカは他国軍がわが軍の能力を上回ることを容認できない、という箇所です。中国軍やロシア軍も軍拡を続けていますが、アメリカはこれに対抗してさらに高度な軍事力を得るためにあらゆる措置を講じていくことになるわけです。

 個別に言及されたサイバー分野は近年、NOC(ノースロップ・グラマン)、レイセオン社などの軍事大手もテコ入れを続け、各国の大企業にまで防衛システムを売り出し始めています。

 日本もミサイル防衛システムの顧客に入っているわけですが、北朝鮮の核開発の進展などに伴って、この種の装備やシステムの拡充が日米で議論されていく可能性が高まっています。