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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ政策の英和対訳④:治安 メキシコ国境の壁建設、不法移民対策など

国際 トランプ政権2017 全記事一覧

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(アメリカーメキシコ国境の風景。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 トランプ大統領は25日、メキシコ国境に壁を建設する大統領令に署名。その後、ツィッターでメキシコへの批判を連発した結果、メキシコ大統領のペニャニエト氏がツィッターでホワイトハウスでの会談を取りやめにすることを明らかにしました。

 メキシコ側では大統領のほか外相や最高裁長官、各政党幹部も米政権を批判し、国民の83%がトランプ氏に好意を持てないと答え、68%が米国製品の購入をやめると答えています(※以下発言も含め、出所は日経朝刊1/29:2面)。

  • 「もし関税をかけたら(米国で売られるメキシコ産の)アボガドからテレビまですべてが高くなる」(ヒデガライ外相)
  • 「我々は主権国家だ。何をすべきか指図されるなど耐えられない」(アギラル最高裁長官)
  • (会談拒否は)「ブラボー。メキシコの威厳を守り、尊敬に値する」(野党国民行動党・フォックス元メキシコ大統領)
  • 「共同戦線」で対抗を主張(ポラニョス下院議長)

 メキシコは国が一丸となって米国と対抗することになりました。

 このたびは、公式の外交過程ではなく、ツィッターで両国大統領が会談を中止するという前代未聞の事態が生じました。

 今日は、物議をかもした「メキシコの壁」を含むトランプ政権の主要政策について考えてみます。

【ヤバい】ツィッターが外交の道具になってしまった・・・

 もともとは市民間のコミュニケーションの道具だったツィッターが、トランプ氏とペニャニエト氏によって、国対国の関係を左右することになりました。

 ここまでくると開いた口がふさがりませんが、トランプ氏は以下のように述べています。

メキシコはアメリカの弱点に長い間、付け入ってきた。巨額の貿易赤字とほとんど助けにならない弱い国境は変えなければならんのだ。今こそ!

”Mexico has taken advantage of the U.S. for long enough. Massive trade deficits & little help on the very weak border must change, NOW!”(1/27)

アメリカはメキシコに600億ドルの貿易赤字がある。NAFTA開始から一方的な取引で膨大な雇用と企業を失った。もしメキシコが壁の費用を払いたくないなら、来る会談を取りやめにしたほうがよい。

”The U.S. has a 60 billion dollar trade deficit with Mexico. It has been a one-sided deal from the beginning of NAFTA with massive numbers..(1/26)

(※前後[↑↓]のツィッターがつながって一文になっている)

of jobs and companies lost. If Mexico is unwilling to pay for the badly needed wall, then it would be better to cancel the upcoming meeting”(1/26)

(出所:Donald J. Trump (@realDonaldTrump) | Twitter

 かくして、トランプ政権では公式の外交過程や記者会見のほか、「ツィッター」という意思表明のツールが用いられることになったわけです。

 シリアや朝鮮半島、尖閣諸島、南シナ海など、大統領は世界各地の危険な案件に関わっていますが、この種の「引火」しやすい問題にトランプ氏のツィッターが予期せぬ影響を与えたりしないかどうか、今後、世界の各国は警戒しなければなりません。

 例えば、もし、トランプ氏が「尖閣諸島は日米同盟の範囲に入らない」と一言ツィートしたら、それだけでにわかに中国軍が活気づいてくるはずです。

(そのうち、ツィッターで宣戦布告するような未来図が展開してしまうのでしょうか・・・)。

「壁」の財源は輸入課税・・・。アメリカの消費者負担ってこと?

 26日には、大統領報道官のスパイサー氏がメキシコ国境の壁の財源は外国製品(米国が貿易赤字を抱えるメキシコなど)への20%の輸入課税でねん出することを明らかにしました。

 ロイター記事では、その関税は結局、消費者負担になるのではないかと危惧しています(「メキシコ国境の壁建設費、ツケは米消費者に」1/27)

 下院案では、法人税率を現行の35%から20%に引き下げる。同時に輸入コストを税控除の対象から外し、輸出で得た収入について所得税を免除する。これにより10年間で税収が1兆ドル増えるとしているが、輸入品への依存度が高い産業は税負担が重くなる可能性がある。

 企業はそのコストを消費者に転嫁するかもしれない。米国は昨年1─11月にメキシコ製品を2700億ドル相当輸入した。最大品目は自動車だが、果物や野菜、ビールも数十億ドル規模で輸入している。全米小売連盟は、国境調整が導入されればメンバー企業は小売り価格を最大15%引き上げざるを得なくなると表明した。

  建設費用に関しては、共和党上院トップのマコネル院内総務は120億~150億ドル(=1.38兆~1.72兆円))かかるとも述べています。

 産経記事(1/27:1面)では250億ドル(=2.8兆円)という巨額の試算も紹介されています。そして「全米で約1100万人とされる不法移民のうち、約半数は観光ビザなどで合法的に入国した後に居残る『不法滞在型』だからだ」という米調査会社ピュー・リサーチ・センターの試算も紹介されていました。

 この「壁」に関しては、巨額の消費者負担が発生する可能性が高いのですが、どの程度、不法移民を止める効果があるのかは、現時点ではまだ未知数です。

(※なお、この壁建設をめぐって、25日には以下の企業の株価が高騰したようです。出所はWSJ日本語版記事「メキシコ国境の壁建設、恩恵受ける企業は?」1/26)

  • メキシコのコンクリート大手セメックス:+4%
  • カリフォルニア州の建設会社チューターペリーニ:+10%
  • ロサンゼルスのコンサルティング会社エイコム:+5%
  • アラバマ州バーミンガムの建設資材会社バルカン・マテリアルズ:+2%

不法移民対策が高じて壁建設へ

 トランプ氏の政策文書を見ると、法と秩序の擁護をうたっており、その一環として不法移民の取締り(強制送還含む)やメキシコの壁建設などの過激政策が提示されています。

 不法移民の素性が問われない「聖域都市」という行き過ぎたリベラル政策の是正などは、”寛容さ”が行き過ぎているので、これは必要な措置でしょう。

 しかし、イスラム教徒が多数派になっている7つの国の市民に対して米国入国を一時停止する大統領令など、大騒動を生む過激政策も並んでいます。

(※1月27日の大統領令ではイラン、イラク、シリア、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンからの渡航者に対して90日間の米国入国の停止措置が取られた。シリア難民は無期限で米国入国を禁止。他国の難民も120日間、受入れがストップになった)

 そのほか、一大プロパガンダが「政策」になったメキシコの壁建設に関しても、その有効性には疑問が残ります。

 ここで、その元になる政策文書を英和対訳で見てみましょう。

ーーーー

Standing Up For Our Law Enforcement Community

我が国の警察当局を守る


One of the fundamental rights of every American is to live in a safe community.

安全な共同体の中で暮らすことはあらゆるアメリカ人の基本的権利の一つである。

A Trump Administration will empower our law enforcement officers to do their jobs and keep our streets free of crime and violence.

トランプ政権は我々の街路から犯罪と暴力を取り除く警察官の権限を強化する。

The Trump Administration will be a law and order administration.

トランプ政権は法と秩序を取り戻す。

President Trump will honor our men and women in uniform and will support their mission of protecting the public.

トランプ大統領は警察官を尊重し、共同体を守る彼らの任務を支援する。

The dangerous anti-police atmosphere in America is wrong.

アメリカの中に漂っている警察への危険な反感は問題だ。

The Trump Administration will end it.

トランプ政権はそれを終わらせる。

The Trump Administration is committed to reducing violent crime.

トランプ政権は暴力的な犯罪を減らすことを公約している。

In 2015, homicides increased by 17% in America’s fifty largest cities.

2015年に殺人犯はアメリカの50の大都市で17%増加した。

That’s the largest increase in 25 years.

それは過去25年間の中で最大の伸び率だ。

In our nation’s capital, killings rose by 50 percent over the past four years 

我々の首都の中で、過去4年間で殺人は50%以上増えた。

There were thousands of shootings in Chicago last year alone.

シカゴだけで何千もの発砲が過去1年の間に行われている。

Our country needs more law enforcement, more community engagement, and more effective policing.

我々の国はより強力な法執行、共同体の関与、効率的な警察を必要としている。

Our job is not to make life more comfortable for the rioter, the looter, or the violent disrupter.

我々の仕事は暴徒や暴力で国をかき乱す者たちにとって快適な生活をつくることではない。

Our job is to make life more comfortable for parents who want their kids to be able to walk the streets safely.

我々の仕事は子供たちが街路を安全に歩けるようになることを望む親たちのためにより快適な生活をつくりあげることだ。

Or the senior citizen waiting for a bus.

バスを待つ高齢者にとっても快適な生活のために。

Or the young child walking home from school.

学校から家に帰る子供たちのために。

Supporting law enforcement means supporting our citizens’ ability to protect themselves.

法執行を支援することは我々の市民が自分自身を守る権利を指示することでもある。

We will uphold Americans’ Second Amendment rights at every level of our judicial system.

我々はアメリカ人の憲法修正第二条の権利を、司法制度のあらゆる段階において支持する。

President Trump is committed to building a border wall to stop illegal immigration, to stop the gangs and the violence, and to stop the drugs from pouring into our communities.

トランプ大統領は不法移民や犯罪者、暴力、麻薬が我が国に入るのをせき止める国境の壁の建設を公約した。

He is dedicated to enforcing our border laws, ending sanctuary cities, and stemming the tide of lawlessness associated with illegal immigration.

彼は我々の国境法を強化し、無法になじんだ不法移民の大群の発生を止め、彼らを保護する「聖域都市」をも終わりにすることに尽力している。

Supporting law enforcement also means deporting illegal aliens with violent criminal records who have remained within our borders.

法の執行を支持することはアメリカの国内に住む犯歴を持った不法な外国人を追放することをも意味している。

It is the first duty of government to keep the innocent safe, and President Donald Trump will fight for the safety of every American, and especially those Americans who have not known safe neighborhoods for a very long time.

政府の第一の義務は無実の者を保護することだ。トランプ大統領は全てのアメリカ人、特に近隣の安全を長い間確認できなかった人々のために戦う。

ーーーー

 過激な政策ではありますが、よく読んでみると、移民増加にともなう治安悪化対策の趣旨自体は、理解不能な話ではありません。

「我々の仕事は子供たちが街路を安全に歩けるようになることを望む親たちのためにより快適な生活をつくりあげることだ」

 ただ、その具体策があまりにも過激なので、今後、いろいろな問題が浮上するでしょう。

 不法移民の中にも、結果的にはアメリカ社会になじむことができた善良な移民が混じっているので、単純に合法・不法だけで割り切れないという見方もあります。

 この政策を巡っては、マスコミや民主党を巻き込んだ米国内の一大バトルが始まるはずです。