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ゼロからやりなおす「政治と経済」

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トランプVSメイ 米英首脳会談はどうなる? そもそも英首相はどんな人?

国際 ヨーロッパ トランプ政権2017 全記事一覧

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(メイ氏が訪問したフィラデルフィアの風景。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  EU離脱後のメイ英首相とトランプ米大統領の間で、1月27日に米英首脳会談が27日に開催されました。

 この会談ではアメリカファーストを掲げたトランプ政権が最初に打ち出す二国間外交の一例が明らかになり、世界から注目を浴びました。

 自由貿易論者のメイ氏と保護貿易論者のトランプ氏とでは立場が違うものの、27日の会談は良好な結果でした。今回は、その経緯と中身を見ていきたいと思います。

(※トランプ政策の英和対訳は次回に掲載します)

米英首脳会談、それぞれの立場の違いと思惑

 日本のネット新聞記事の中には、「国対国の利害関係」の問題と、「メイはトランプの女性侮辱発言をどう考えるのか」という問題が当列に扱われていたり、前者よりも後者に注目しているものがあります。

 しかし、本当に大事な問題は、トランプとメイの間で、伝統的な英米の「特別な関係」が強化されるのかどうか、また、自由貿易論者のメイ氏とアメリカ・ファーストを叫び、高関税をも辞さないトランプ氏との間で、二国間の協定がまとまるかどうか、ということです。

 ただ、今回の英米会談はトランプ氏も前向きなので、メキシコや中国向けの強硬路線とは違ったスタンスになるとみられています。米新政権にとっては世界に向けた初めての外交デビューなので、トランプ大統領は「話せる相手」だとPRしなければいけないからです。

 また、イギリスにとってはアメリカは輸出入の1~2割を占めているので、こちらもアメリカを足がかりにして、インドや中国など、世界に幅広く自由貿易交渉協定をまとめたいと考えています。

 そのため、両国の交渉は前向きなものになることを期待し、ブルームバーグ記事では、このあたりの経緯を論じていました(「トランプ米大統領と27日に会談-外国首脳で一番乗り メイ首相、訪米で米英間の貿易協定の土台作り目指す」1/25)

 27日にトランプ米大統領とホワイトハウスで会談するメイ首相にとって朗報なのは、大統領が両国関係の強化と英国との貿易協定締結に意欲的であることだ。環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明し、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を準備しているトランプ氏は、亀裂が生じた欧州にくさびを打ち、少なくとも1つの貿易関係を強化する取り組みをさらに推進したい意向。

 27日の会談の流れに関しては、時事通信の記事で報じられていました(「米英首脳、27日に会談=「特別な関係」を外交基盤に-FTA交渉で布石も」1/26)。

 メイ首相は26日から訪米し、ペンシルベニア州フィラデルフィアで同日開かれる米共和党の会合で演説する。英メディアによると、メイ首相は「(米英は)手を携えて悪を打ち負かし、世界を切り開いてきた。両国は再び世界を主導する」などと呼び掛ける。トランプ氏も同会合で演説する。

 両首脳は翌27日、ホワイトハウスの大統領執務室で会談。米英間の自由貿易協定(FTA)締結交渉に向けた作業部会設置で合意する可能性がある。このほか、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国防費を増やす重要性も確認する見通し。 
 トランプ氏は大統領就任前、英メディアに対し、英国のEU離脱を「素晴らしいものになる」と称賛。追随する国も出るだろうと語った。

 メイ氏は英国のEU単一市場離脱を選択しましたが、EUやNATOを軽視するトランプとは違い、この二つは共に重要だと考えています。NATOがなければイギリスはロシアの脅威から身を守れませんし、イギリスはEUという市場も完全に手放せません。

 トランプ氏がドイツのメルケル首相の移民政策を「破滅的な過ち」だと批判したり、NATOは時代遅れだと発言したりした結果、アメリカとヨーロッパとの関係が悪化しているので、イギリスはアメリカとEUの間に立ち、両者の仲介役を果たすことを狙っています。

 今回の会談では、通商関係だけでなく、メイ氏がトランプ氏にNATOの重要性を説明し、安全保障面でも、アメリカとヨーロッパの間を取り次ぐことができるかどうかが注目されました。

そもそも、メイ首相ってどんな人?

 国対国の関係と同時に、メイ首相の人物像も見てみます。

 メイ首相の本名はテリーザ・メアリー・メイ(Theresa Mary May)。生まれは1956年(60歳)なので、台湾の蔡英文総統と同じ世代です。

 生地はイギリスの最南部にあるイーストボーン(イングランド南部)で、父はイングランド国教会の司祭でした。

 12歳の時に政治家を志し、公立学校からオックスフォード大学(地理学専攻)へ進学。24歳の頃、夫のフィリップ氏と知り合うのですが、この出会いはのちにパキスタンの女性宰相となるブット氏(2007年に暗殺される)の紹介によるものでした。ブット氏は1953年に生まれているので、年代的にはメイ首相とは近いわけです。

 若いころに父が交通事故で死に、母は病死しているので、メイ氏は夫を心の拠り所にしているともいわれています。

 金融業界でキャリアを形成し、イングランド銀行で働いた後、銀行共同支払決済機構(APACS:Association for Payment Clearing Services)などで活躍しました。

 その後、二回の落選の後、1997年に保守党の下院議員に初当選しました。2002年に保守党の幹事長となり、2003年には枢密顧問官となりました。

 野党時代にはシャドーキャビネット(影の内閣)の「閣僚」を務め、2010年に保守党が政権復帰すると、内務大臣となります。このころは、増え続ける移民関連の行政を取り仕切り、出入国管理の厳格化などを行いました。

 このころ、違法移民に向けて「帰国せよ。さもなくば逮捕だ」という宣伝文句をつけた車両を全国に走らせたなどの逸話が残っています。

 厳格なキャラのようにも見られがちですが、ヒョウ柄の靴をはいたりするおしゃれ好きな一面もあります。

 メイ氏は自分の感情を露わにせず、政治家同士のなれあいをしないことから、メディアからは氷の女王とも呼ばれましたが、2016年6月23日のEU離脱国民投票で党首になるチャンスが巡ってきます。同氏はこの時、消極的ながらも残留派の側につき、離脱決定後のキャメロン首相辞任を経て、保守党党首選に立候補します。

 この党首選は5人が立候補し、候補者の辞退続出となった結果、7月12日にメイが唯一の候補者となり、党首就任後に首相となったわけです。

 メイ氏はEUに対しては消極的ながらも残留派でしたが、今は国民投票の結果を受けて離脱のための過程を進めています。

「暴言王」VS「氷の女王」の会談

 米英首脳会談は、激情的なトランプ氏と「氷の女王」メイ氏との対話となりました(メイ氏は、厳格ながらも、話し合いを重視する調整型の手法を取ることが多いとも言われています)。

 日程的には、メイ首相が26日訪米⇒26日にペンシルベニア州フィラデルフィアの米共和党会合で演説⇒27日にホワイトハウス大統領執務室で会談という流れとなりました。

 27日にはメイ首相が行ったフィラデルフィアでの演説の内容が報じられました(時事ドットコム「新時代の「特別な関係」を=訪米の英首相が演説」1/27)

「(米英両国間の)『特別な関係』を新しい時代のために更新する機会と責任がある」

 ・・・メイ氏は、価値観を共有する米英が協力して自由や人権などを世界で拡大してきたと自賛。「世界が変化の時代を迎える中、われわれは再び協力して(世界を)主導することができる」と強調。米英両国にはその責任があると訴えた。 

 このフィラデルフィアの会合でトランプ氏は今後は二国間で貿易交渉を行い、協定を結ぶ際には通貨安誘導を制限する為替条項を盛り込む意向を明らかにしました。

 アメリカの自動車産業は各国の通貨安誘導の対策が不十分だとしてTPPを批判してきましたが、トランプ氏はこの主張を受け入れ、二国間の貿易協定に盛り込みたいと考えています。しかし、これを呑むと安倍政権は経済政策の核心である金融政策の自由性が損なわれるので、日米交渉には厳しい局面もやってきそうです。

 その後、28日にはメイ首相とトランプ大統領の発言がBBCにて報じられています(”Theresa May visit: UK and US 'committed' to Nato”1/28)。

トランプ米大統領とメイ英首相はホワイトハウスでの会談後、NATOへの両国への関与を再確認した。

US President Donald Trump and British Prime Minister Theresa May have reaffirmed their commitment to the Nato alliance after White House talks.

メイ首相は、トランプ大統領は大西洋両岸の同盟を時代遅れだとした発言にかかわらず、「100%、NATOを指示している」と述べた。

Mrs May confirmed Mr Trump was "100% behind Nato" despite the president's recent comments calling the transatlantic alliance obsolete.

双方の指導者は貿易協定を結ぶ交渉を行うと述べた。

Both leaders said they would work to establish trade negotiation agreements.

メイ氏はトランプ氏がイギリス女王からのイギリスへの年内公式訪問の招待を受け容れた。

Mrs May also said Mr Trump had accepted an invitation from the Queen for a state visit later this year.

首相はイギリスとアメリカの貿易協定は双方の国益のために結ばれるとも付け加えた。

The prime minister added that a trade agreement between the UK and US was "in the national interest in both our countries".

イギリスはEUから離脱するまでは貿易協定の交渉を始められないかもしれないが、トランプ氏は早期の協定締結を望むと述べた。

Although the UK cannot begin to negotiate trade deals until it leaves the EU, Mr Trump has said he wants a "quick" deal after that.

 米英の「特別な関係」が再確認され、米英の両国がNATOに協力することが明らかにされています。

 日本の各紙報道では、そのほか、IS強化のための米英両国の協力強化やトランプ氏の発言などが報じられています。トランプ氏はイギリスのEU離脱を称賛したうえで、対露制裁解除は時期尚早であることや、欧州諸国にGDP2%の防衛費計上を要求すること等を主張しました。

 今回の米英首脳会談で明らかになった米国のスタンスのうち、今後の日米首脳会談にも影響が出そうなものは、米国と貿易する国々への為替操作制限の要求やGDP比で見た防衛費の増額要求、IS殲滅戦への協力などです。

 この米英の関係強化が世界の安定につながるようであってほしいものです。