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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ政策の英和対訳②雇用の創造 インフラ投資、通商政策、減税、規制緩和など

国際 トランプ政権2017 経済 全記事一覧

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(デトロイト市の風景。トランプ政策で製造業復活は可能なのか?出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 トランプ大統領は23日にTPP離脱に関する大統領令に署名しました。24日付の報道では以下のような発言が出てきています。

  • (TPP離脱が)「米労働者にとって素晴らしいことだ」「すべての人や企業を国外移転させるばかげた貿易協定を停止させる」(ロイター)。
  • (自動車の輸出入を)「協議しないといけない。日本は公正でない」「(米国製の)自動車が売れないようにしている。一方で何十万台も輸出している」(毎日)
  • 「日本は見たこともないような大きな船で、何十万台もの車を米国に運んで売っている。これは公平ではない」(産経)

 90年代の日米自動車摩擦を思い出させるような発言ですが、トランプ氏は雇用を増やす策の一つとして、貿易交渉で米国に有利な条件を引き出すことを挙げているので、今回のテーマとも関係があります。

 危険な雰囲気が漂う発言を踏まえ、前回に引き続き、トランプ政権の主要政策の英和対訳を進めてみます。今回は雇用を生む成長戦略に相当する文書です。

 前半は現状認識、中盤はインフラ投資、減税、規制緩和で、最後はなぜか貿易不均衡の是正で締め括られます。通商政策だけでほかの文書があるのに、こちらの文書にまで入り込んでいるので、トランプ氏の熱の入れ具合が分かります。

 筆者は「中盤で終わっとけばよかったのに・・・」と思ったのですが、あまり先入観を与える前ふりはよくないので、本文の英和対訳に入ります。

トランプ政策の英和対訳②:成長戦略と雇用の創造

Bringing Back Jobs And Growth

雇用と成長を取り戻す

Since the recession of 2008, American workers and businesses have suffered through the slowest economic recovery since World War II.

2008年の不況以来、アメリカの労働者と企業は第二次世界大戦以降、最も遅い景気回復のなかで苦しんでいる。

The U.S. lost nearly 300,000 manufacturing jobs during this period, while the share of Americans in the work force plummeted to lows not seen since the 1970s, the national debt doubled, and middle class got smaller.

アメリカ合衆国はこの期間に30万人近い製造業の雇用を失い、1970年以来、アメリカ人の労働力が急落する状態を共有している。国の借金は倍増し、中流層は減少した。

To get the economy back on track, President Trump has outlined a bold plan to create 25 million new American jobs in the next decade and return to 4 percent annual economic growth.

経済を回復軌道に戻すために、トランプ大統領は実質GDPで4%の経済成長を取り戻し、次の10年に2500万人の新しいアメリカの雇用を生む大胆な計画を描いている。

The plan starts with pro-growth tax reform to help American workers and businesses keep more of their hard-earned dollars.

その計画は、アメリカの労働者と企業がより多くのドル(苦労して得た所得or利益)を得るのを助けるために、成長を後押しする税制改革に始まる。

The President’s plan will lower rates for Americans in every tax bracket, simplify the tax code, and reduce the U.S. corporate tax rate, which is one of the highest in the world.

大統領の計画ではどの税率区分のアメリカ人にとっても税率が下がるだろう。税制は簡素化され、世界で最も高い法人税が下げられる。

Fixing a tax code that is outdated, overly complex, and too onerous will unleash America’s economy, creating millions of new jobs and boosting economic growth.

時代遅れで複雑すぎ、厄介すぎる税制を直すことは、アメリカの経済を解放し、何百万もの新しい雇用を生み、経済成長を活気づける。

As a lifelong job-creator and businessman, the President also knows how important it is to get Washington out of the way of America’s small businesses, entrepreneurs, and workers.

生涯を通じて雇用を生んてきた人間、またはビジネスマンとして、大統領はアメリカの小企業や起業家、労働者のために「ワシントン」という障害物を取り除くことがどれだけ大事かを理解している。

In 2015 alone, federal regulations cost the Amrican economy more than $2 trillion.

2015年だけで、連邦の規制がアメリカ経済に課したコストは2兆ドルを上回った。

That is why the President has proposed a moratorium on new federal regulations and is ordering the heads of federal agencies and departments to identify job-killing regulations that should be repealed.

大統領は連邦規制の一時猶予を提言し、連邦の機関や省庁の長に雇用を失わせるような規制はないかどうかを調べさせている。それは廃止されるべきだからだ。

With decades of deal-making experience, the President also understands how critical it is to negotiate the best possible trade deals for the United States. 

数十年もの間、交渉に従事した経験から、大統領はアメリカ合衆国のために最もよい条件の貿易協定を結ぶための交渉が死活的に重要であることを理解している。

By renegotiating existing trade deals, and taking a tough stance on future ones, we will ensure that trade agreements bring good-paying jobs to our shores and support American manufacturing, the backbone of our economy.

今ある貿易協定を再交渉し、未来の協定のためにより厳格な姿勢を取ることで、我々は経済の背骨たるアメリカの製造業を支える協定を確保し、もっと高収入の仕事を得ることができるだろう。

The President plans to show America’s trading partners that we mean business by ensuring consequences for countries that engage in illegal or unfair trade practices that hurt American workers.

アメリカの労働者を害する不正で不公平な貿易に携わっている国々にしかるべき結果をもたらす。大統領は、そうすることで我々が本気であることを、アメリカの貿易相手に見せようとしている。

By standing side-by-side with America’s workers and businesses, the President’s policies will unleash economic growth, create 25 million new jobs, and help Make America Great Again.

アメリカの労働者と企業が次々と立ち上がることで、大統領の政策は経済成長を解き放ち、2500万の新しい雇用を生み、アメリカを再び偉大にするのである。

統計で見たアメリカVSトランプが見たアメリカ

 ざっと見ていくと、トランプ氏の目に映っているアメリカ経済の姿と、統計値が描き出すアメリカの姿に差があることが分かります。

 トランプ氏は、第二次世界大戦以来、最も遅い景気回復となり、雇用も悪い状態が続いていると述べていますが、統計値を見る限り、そこまで悪い数字が出ているわけではありません。

 『日経ビジネス(2016/11/21)』(P34~37)では「オバマの8年間」の結果を統計図表を用いて分かりやすく描き出しているので、これを紹介してみます。

  • 米失業率は10%(2009年10月)から5%(2016年9月)に半減
  • 米家計所得は2007年水準(57423ドル)には満たないが56516ドル(15年)まで回復
  • S&P500種株価指数は1000ドル以下(09年)から2000ドル台(16年)まで倍増
  • 自動車の生産台数は1000万台(09年)から1700万台(16年)に増加

 FRB議長のバーナンキが刊行した三度にわたる巨額の金融緩和(QE)やその後を継承したイエレンの手腕もあって、米国経済はベストではないものの、統計上は悪くないパフォーマンスを出していました。

 ただ、実質GDPの成長率は平均2%なので、過去の米国経済の成長率よりも低い数字だとは言えますし、以下のように思わしくない点も目につきます。

  • 景気回復しているはずなのに設備投資が伸びない
  • 自動車・学生ローンが増加
  • 所得の不平等を示すジニ係数が悪化

 経済統計はあくまでも平均値なので、生活の実態の全貌を反映することはできません。平均値と低所得者層の収入の金額に差が出てしまうこともあります(極端に言えば、10人が1億円のうち9000万円を独占し、90人が残りの1000万円を分け合うと平均値は100万円になるので、この数字だけを見ても、90人が11.1万円しか手にできないという現実は分からなくなります)。

 トランプ氏は、統計だけでは見えない経済の現実に注目しているのでしょう。

 オバマ支持者やヒラリー支持者から見れば「それは偏見だ」という判定になるわけですが、トランプ氏は実際に当選できる規模の支持者を集めているので、その主張の中には統計値だけでは見えない現実を反映していた面はあったのでしょう。

 同氏の主張が完全に荒唐無稽な話だったなら、そもそも大統領になれなかったに違いありません。

10年で2500万人の雇用を生む? 何だそれは・・・

 トランプ氏の政策で目立つのは「雇用の創造」というフレーズです。

 ケインズ政策的に政府が財政出動して雇用をつくりまくるとFDR(フランクリン・ルーズベルト)的な民主党政策になってしまうので、同氏ブレーンのピーター・ナヴァロ氏とウィルバー・ロス氏は、税額控除を利用した民間のインフラ投資の活性化を提案しています。1兆ドルのインフラ投資に関して民間企業に1370億ドルの税額控除を与え、その仕事を担ってもらい、その税額控除分をプロジェクトに携わる労働者や企業から得られる税収で回収しようとしているのです。

 実際にうまくいくのかどうかはやってみないと分かりませんが、これに関しては、利益率の高い儲かるプロジェクトは前掲の官民パートナーシップでもやってくれるが、利益率の低い地方のインフラの修繕などはやってくれないはずだ、という異論も出ています。国土が広いアメリカでインフラの老朽化が進んでいるため、全土でそれを立直すには官民連携だけでは足りないはずだと批判している人もいるわけです。

 他のアイデアでは、大統領選本格化の前に、クリントン氏は法人税改革でねん出した財源を用いて5年間で公共事業に2750億ドルを投資するプランを出していました。2500億ドルが政府の直接投資となり、250億ドルがインフラ銀行設立のために使われます。この銀行から公共設備を改修する民間企業に融資を行うことを考えていたのです。

 まぎらわしいのですが、トランプ氏から財務長官指名を受けたムニューチン氏はインフラ銀行設立がよいとも述べていました。そのため、政権始動後、この二つの路線のどちらがよいかという議論が再燃する可能性もあります。

「まだ決まってないことだらけなのでは・・・」と言われるトランプ政権メンバーは、必ずしも政策面で足並みが揃っていないのが現状です。

何でまた通商政策? トランプ政権は通貨安制限を望む

 筆者には外国への八つ当たりに見えて仕方がないのですが、トランプ氏は不公正な貿易を正すことが雇用回復につながると繰返し主張しています。

 トランプ大統領は26日、フィラデルフィアの共和党会合で、今後、2国間の通商協議で通貨安誘導のための為替介入への制限条項を設けることを求めると表明しました。

 この発言への日本側の当惑ぶりが「大きな衝撃だった」「金融政策にまで口出ししてくると面倒なことになる」などと日経記事(2017/1/28:3面)で報じられていました。米国側が求める為替ルールと従来の国際基準との矛盾が世界経済に与える影響が懸念されているのです。

 米が独自の為替ルールを設ければ20カ国・地域(G20)や国際通貨基金(IMF)の合意などとも矛盾が生じる。「急速な為替変動は経済に悪影響」という原則に沿ってIMFなどは各国に一定の条件下で為替介入を容認している。2011年の東日本大震災後に急速な円高が進んだ局面では米も含むG7(主要7カ国)が円売り・ドル買いの協調介入をした。

 世界で唯一の基軸通貨国が国際合意と整合性の取れないルールを押しつければ、為替安定策がダブルスタンダードとなり市場が大混乱するばかりか、自国通貨をドルに連動させる「ペッグ」が崩れてドル離れが加速するリスクがある。

 その後、トランプ氏から、日本と中国は長年、通貨安に誘導しているという批判が飛び出しました。

 今の日本ではTPP発効を米国に求めながらも二国間の通商協議となった時の準備を並行していますが、今後、日米協議が始まればアベノミクスでの金融緩和が通貨安を誘導する為替操作策として槍玉にあがるのではないかと恐れられています。

 安倍首相は、日本の金融緩和は中国が行っているような為替操作とは違うとトランプ氏に説明する考えを明らかにしましたが、アベノミクスにとって金融政策は一番の柱でもあるので、この要望が日本経済にどんな影響を与えるのかは予断を許しません。

米国への産業回帰はどこまで可能なのか?

  選挙期間中には、中国でiPhoneをつくっているアップル社に「アメリカでつくれ」と批判した発言が有名になりましたが、この主張を完全に実現した場合、荒唐無稽な結末になってしまいます。

 「MIT technologyreview」というサイトでは、全部アメリカでiPhoneをつくった場合の試算が”The All-American iPhone”という記事で公開されていました。

 そこでは230ドルのiPhone 6s Plusに関して(1)全てアメリカで組立てる、(2)全ての部品をアメリカで製造する、(3)全ての原材料をアメリカで調達する、という3シナリオが想定されているのですが、(1)の場合、30~40ドルの組み立てコスト分だけ値段が上がり、(2)の場合、最大で100ドルほど値段が上がり、(3)はアメリカにない原材料があるから不可能だ、という結論になっています。

 結局、「海外からつくって輸出してくるのはけしからん。アメリカでつくれ」という主張を原理主義的に実現した場合、値段が高くなりすぎるので、アメリカ企業の国際競争力が失われますし、アメリカの消費者が高い品物を買わされることになります。良い品物がどんどん高値の花になり、貧しい人たちが買えなくなってくるわけです。

 iPhoneを完全にアメリカでつくりあげたら非効率な経済が実現し、雇用の回復にはつながらないはずです。そもそも、iPhoneが売れなければ従業員を養えなくなります。

 自動車を例に考えても同じような理屈は成り立ちます。

 メキシコから自動車が入ってくればアメリカの貿易赤字が拡大しますが、消費者は何から何までアメリカでつくった自動車よりも安い品物を買うことができます。

 これは消費者の便益が実現されたのか、それとも、メキシコで盛んになった自動車産業にアメリカのGDPと雇用が失われたのか。物の見方次第で結論は逆になります。

 確かに、輸出補助金をつける、不当な高関税を輸入品に強いる、為替操作を行うなどの手段が国際貿易で使われることはあるので、対抗措置が必要になることはあります。

 しかし、自由貿易を完全否定した時、その反作用はアメリカにも帰ってきます。

 これを完全否定はできないので、トランプ政権は、どこかでバランスの落としどころを探ることになるのかもしれません。

期待できるのはやはり、減税と規制緩和、インフラ投資か?

 こうして見ると、10年間で2500万人の雇用創造というのも、かなり漠然とした数字が並んでいるような気がしてしかたがありません。

 筆者は、知人が証券会社のアナリストに「経済効果の試算ってどうやるんですか?」と訊いた時の返答を教えてもらったことがあります。筆者知人によれば、アナリストの方は「新聞等で目にする『〇〇政策の効果はXX億円』という数字はざっくりと鉛筆をなめて書いているのが現状だ」と言っていたようなのです。

 恐らく、トランプ政権の「2500万人の雇用」云々の議論も似たような話に違いないと思います。

 書いている間にトランプ政権の不明瞭な政策への批判が増えてきましたが、その中には法人税減税や規制緩和など、成長のために大事な政策もあります。

 ロイター記事(「トランプ米大統領、製造業大手首脳と会談 規制緩和・減税を確約」1/24)によれば、トランプ氏はフォードやダウ・ケミカル、デル、テスラ、LMT等の製造業大手首脳都の会談で以下の方針を出しています。

 トランプ大統領は会談で、法人税率を現行の35%から15─20%の水準に引き下げる意向を表明。だが企業トップは規制緩和の方がより重要との認識を示しているとした上で、企業関連の国内規制について「75%かおそらくそれ以上の削減が可能」との認識を表明した。

 また「マーク(フォードのフィールズCEO)が大型工場建設する、またはデルが何か巨大で特別なことを行うといった場合には、早期に承認が得られるようになる」とし、米国内で州間の生産拠点移転をめぐり州知事と交渉することは大いに歓迎すると述べた。

 一方で、米製造業の国内回帰を掲げるトランプ大統領は、「米国へと入ってくる製品には多額の国境税を課す」と言明。「米労働者を解雇し、よそに工場を建設し、米国に製品を輸入しようと考えても、こうしたことは起こらない」と述べた。

  確かに、トランプ政権の文書が指摘しているように「自由の国」アメリカなのに法人税が世界でいちばん高いというのは、不思議な話です。

 また、トランプ氏が昨年11月にビデオで公表した、「一つの規制をつくる時は、その前に二つの規制をなくせ」という話がアメリカで現実化すれば、「そんなやり方があったのか」と気が付いて、各国でも規制緩和が進むかもしれません(※規制緩和の大統領令に関しては当ブログの2/1記事で英和対訳を試みています)

 インフラ投資も、具体的な選択肢が何であれ、老朽化対策はやっておくにこしたことはありません。

 恐ろしい国境税も含めていろいろな政策が並んでいますが、トランプ政権が「iPhoneをアメリカでつくらせる」というようなパフォーマンスではなく、実利のあるまともな政策に力を入れることに期待したいものです。