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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ政策の英和対訳①貿易:TPP脱退/NAFTA再交渉は自動車メーカーへの強烈パンチ

国際 トランプ政権2017 全記事一覧 経済

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(自動車メーカーの工場があるサンルイスポトシ市の風景。出所はWIKIメディアコモンズのパブリックドメイン画像)

  各紙でトランプ政権の主要政策について報じられていますが、主要紙を見ても、ホワイトハウスのHPに掲示されている英文の完全な翻訳は見当たりません。

 就任演説とは違い、抜粋か要旨で出されているだけなので、このたび、英和対訳で全文を紹介してみようと思い立ちました。

 ホワイトハウスに出ている英文の主要政策文書は、上から順に、エネルギー政策、外交政策、雇用回復と経済成長、軍事力復活、治安、貿易政策と並んでいるのですが、注目度の高い貿易から紹介してみます。

 以下、英和対訳で全文を並べてみます(出典は”Trade Deals Working For All Americans | whitehouse.gov”)。

ホワイトハウスHPに掲示されたトランプ政権の貿易政策

Trade Deals Working For All Americans

全てのアメリカ人のための貿易協定


For too long, Americans have been forced to accept trade deals that put the interests of insiders and the Washington elite over the hard-working men and women of this country.

あまりにも長い間、アメリカ人が認めることを強いられてきた貿易協定は、ワシントンのエリートとその関係者の利益のために、勤勉に働くこの国の男女をないがしろにするものだった。

As a result, blue-collar towns and cities have watched their factories close and good-paying jobs move overseas, while Americans face a mounting trade deficit and a devastated manufacturing base.

その結果、労働者(ブルーカラー)の町や市では、工場が閉ざされ、報酬のよい仕事は海外に行ってしまった。アメリカは巨額の貿易赤字に直面し、製造業の拠点は壊滅した。

With a lifetime of negotiating experience, the President understands how critical it is to put American workers and businesses first when it comes to trade.

長年の間、交渉に従事した経験から、大統領はアメリカの労働者と企業にとって貿易がどれほど重要かを理解している。

With tough and fair agreements, international trade can be used to grow our economy, return millions of jobs to America’s shores, and revitalize our nation’s suffering communities.

厳格で公正な協定があってこそ、国際貿易は我々の経済成長のために活かされ、アメリカの沿岸に何百万もの雇用を戻し、我が国の疲弊した自治体を再活性化することができる。

This strategy starts by withdrawing from the Trans-Pacific Partnership and making certain that any new trade deals are in the interests of American workers.

この戦略は、TPP(環太平洋経済連携協定)脱退といくつかの新しい貿易協定がアメリカの労働者の利益にかなうことを確認することで開始される。

President Trump is committed to renegotiating NAFTA.

トランプ大統領はNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を行う。

If our partners refuse a renegotiation that gives American workers a fair deal, then the President will give notice of the United States’ intent to withdraw from NAFTA.

もし我々の相手国がアメリカの労働者に公正な取引を与えるための再交渉を拒むのならば、大統領はアメリカのNAFTA脱退を(関係国に)通知するだろう。

In addition to rejecting and reworking failed trade deals, the United States will crack down on those nations that violate trade agreements and harm American workers in the process.

失敗した貿易協定を拒み、それを機能させるだけでなく、アメリカ合衆国は貿易協定に違反し、アメリカの労働者を害する国々に制裁を与える。

The President will direct the Commerce Secretary to identify all trade violations and to use every tool at the federal government’s disposal to end these abuses.

大統領は商務長官に全ての貿易協定違反の調査と、合衆国政府のあらゆる処置を用いて、それらの違反を終わらせることを指示する。

To carry out his strategy, the President is appointing the toughest and smartest to his trade team, ensuring that Americans have the best negotiators possible.

こうした戦略を実行するために、すでに大統領は最も強く、最も賢い貿易担当者のチームを指名している。アメリカ人は最も有力な交渉者を手にするのだ。

For too long, trade deals have been negotiated by, and for, members of the Washington establishment.

あまりにも長い間、ワシントンの支配者集団が自分たちのために貿易交渉を行ってきた。

President Trump will ensure that on his watch, trade policies will be implemented by and for the people, and will put America first.

トランプ大統領は貿易政策を彼自身で監視し、民衆のために実施する。そして、アメリカを第一にした政策を行う。

By fighting for fair but tough trade deals, we can bring jobs back to America’s shores, increase wages, and support U.S. manufacturing.

公正かつ厳正な貿易協定のために戦うことで、我々は雇用をアメリカの沿岸に戻し、給料を増やし、製造業を維持することができる。

トランプ貿易政策が直撃したのは日本とメキシコ

 これは、就任演説の「アメリカでものをつくれ。アメリカのものを買え」というメッセージの具体化ではありますが、全体的に、アンチエスタブリッシュメントの色合いが強い文書です。

 製造業労働者の怒りに応えるための政策文書なので、過去の政策担当者をきつい言葉で批判しています。

 安倍首相はTPPの意義をトランプ政権に説得したいと述べていますが、筆者には無駄な試みのように思えてなりません。

 TPPに関してはトランプだけでなく、ヒラリーでさえ反対していたので、昨年時点で共和党と民主党がともに反対で一致していました。TPPの良し悪しとは別にアメリカは民意に基づいて大統領が選ばれるので、これは如何ともしがたいものがあります。

 そして、NAFTA再交渉はメキシコがいちばん被害をこうむりそうですが、日本企業も数多くメキシコに進出しているので、大きなダメージを受けます。

 すでにフォードがメキシコでの工場建設を中止していますが、トランプ政権発足に伴い、長らく北米の貿易の基盤だったNAFTAが揺さぶられる時の衝撃は、各国のメーカーに甚大な衝撃を与えることになりそうです。

メキシコから米国への自動車輸出の現状

 トランプ政権が行うNAFTAの再交渉は自動車産業を直撃します。アメリカは世界最大の自動車輸入国だからです。

アメリカは563万台の自動車を輸入

 『日経ビジネス(2016/11/21)』(P10~11)によれば、アメリカは2015年に563万台の自動車を輸入しており、メキシコからは195万台、日本からは159万台、欧州からは109万台、韓国からは93万台が輸出されています。

 563万台というのは、日本で1年間に生産される自動車の台数(556万台)とほぼ同じぐらいの規模です。2015 年のアメリカの自動車生産台数は1189万台ですが、その半分ぐらいの台数が輸入されているわけです。

メキシコから275万台の自動車が米国に輸出される

 JETROが作成した資料(「2015年 主要国の自動車生産・販売動向」)では、メキシコの自動車生産台数と輸出台数について「2015 年の自動車(大型バス・トラックを除く)生産台数は339万9076台、輸出台数は275万8896台と、いずれも過去最高だった」と述べています。

 メキシコからの輸出台数の8割はアメリカとカナダ向けであり、各社のデータを見ると、マツダを除いた7社が7割~9割程度の比率になっています。

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(出所はJETRO「2015年 主要国の自動車生産・販売動向」。割合は筆者計算)

 アメリカ+カナダで228万台なので、前掲の日経ビジネス記事のデータから推測すればこのうち33万台ぐらいがカナダ向け輸出、195万台がアメリカへの輸出と思われます。

※各社別のメキシコでの生産台数は以下の通り(出所は前掲のJETRO資料)

  • ゼネラル・モータース(GM):69万0446台
  • 日産自動車:82万2948台
  • フォルクスワーゲン(VW):45万7517台
  • フォード:43万3752台
  • フィアット・クライスラー:50万3589台
  • トヨタ自動車:10万4810台
  • ホンダ:20万3657台
  • マツダ:18万2357台

メキシコでの自動車増産計画はどうなる

 そして、各社はメキシコでの増産計画を立てていましたが、これもトランプ政権の貿易政策の影響を受けます。

 『ダイヤモンド(2017/1/28)』(P8)では、各国の自動車メーカーのメキシコでの増産計画(アメリカでは減産)の台数が書かれています。

  • 米国メーカー:メキシコ+86.2万台/アメリカ-27.1万台
  • 日本メーカー:メキシコ+63.9万台/アメリカ-14.7万台
  • 韓国メーカー:メキシコ+30万台/アメリカ-10.3万台
  • ドイツメーカー:メキシコ+59.7万台/アメリカ-24.2万台

 そして、メキシコでの新工場建設計画として、トヨタのセラヤ工場(20万台規模)、ダイムラーのアクアスカリエンテス(15万台規模)、アウディのサンホセチアパス工場(15万台)、BMWのサンルイスポトシ工場(15万台)、起亜のモンテレイ工場(30万台)等を図示しています(P9)。サンルイスポトシにはフォードも35万台規模の工場建設予定でしたが、トランプ発言で撤回されました。

 いずれも大規模な計画ですが、メキシコでの自動車生産には部品・素材メーカーの進出を伴うので、前掲の大手企業だけがトランプ政権の貿易政策の影響を受けるわけではありません。

 高級車の領域では、トヨタの「プリウス」や「レクサス」のほとんどが日本からの輸入品であり、米国での生産が難しい(プリウスは電池のサプライチェーン、レクサスは技術上の理由)といった問題もあります(『日経ビジネス(2017/1/23:P24)。

 NAFTAは北米の自由貿易協定ですが、メキシコ等の周辺諸国を通じてアメリカへの輸出を行う企業は数多いので、トランプ政権のNAFTA再交渉は、日本や欧州、韓国等にも大きな影響を与えます。

NAFTA再交渉によってメキシコでの自動車生産が大幅減産?

 『ダイヤモンド(2017/1/28)』(P10)では、メキシコから米国への輸出車に35%の関税がかかれば、「15年実績で340万台だったメキシコ生産台数が19年には250万台に激減する」という東海調査センターの試算が紹介されています。

 生産計画の予算総額を自動車の価格で割れば台数が出ますが、単純計算で見ると、340万台の自動車の平均価格が関税の影響で35%上昇したら、つくれる自動車の台数は251.8万台になります。専門家でなければ複雑な自動車生産の現状は分かりませんが、値段上昇で生産台数が減ることと、値段上昇に伴って購入者が減ることを踏まえれば、前掲の試算は十分にありえるストーリーに見えます。

 米国のTPP脱退のほうがNAFTA再交渉よりも目立つ報道がなされていますが、メキシコの自動車生産・輸出の現状を見ると、このNAFTA再交渉のインパクトがTPP脱退以上のものだということが分かってきます。

 TPPはまだ発効していない貿易協定でしたが、NAFTAはすでに発効し、長らく貿易の基盤になっていた協定だからです。

 今後、トランプ政権のNAFTA再交渉の動きは世界経済にも大きなインパクトを与えていくはずなので、ウォッチングを続けていきたいものです。