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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ大統領就任 TPPとNAFTA、IS(イスラム国)終わりの日 2月10日安倍訪米は大丈夫?

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(ホワイトハウスの一室、出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  ドナルド・トランプ氏がいよいよ20日(日本では21日)に大統領に就任します。副大統領はマイク・ペンス氏です。

 トランプ大統領は就任演説で以下のようなことを述べています(※当ブログで全文英和対訳を用意しています)。

  • 本当に大事なことは、どの政党が我が国の政府を支配するかではない。大事なのは人々が政府を支配しているかどうかなのだ。
  • 我が国の忘れられた男たち、女たちは、もう二度と忘れられることはない。
  • 我々は他の国々の国境を護ってきたのに、我々の国境を護ることを拒んできた。我々は他の国々を豊かにしてきた。しかし、我が国の富と力、自信が地平線の彼方に消えていった。
  • この日を境にして、わが国は新しいビジョンで治められることになる。まさにこの瞬間からだ。それは、アメリカファースト。アメリカファースト。
  • 全ての決定は、貿易、税金、移民、外交に関しても、アメリカの家族、労働者にとって有利なものでなければいけない。
  • 我々は二つの単純な原則に従う。「アメリカのものを買え。アメリカ人を雇え」
  • 我々は古い同盟を補強し、新しいものにつくりかえる。国際社会を過激なイスラムのテロリズムに対して団結させる。我々は地球の表面からテロを一掃する。
  • 我々はともにアメリカを再び偉大にする

 今回は、この波乱のトランプ大統領誕生直後の展開について考えてみます。

トランプ氏就任前に抗議運動あいつぐ

 CNNによれば、支持率はわずか40%、不支持率は52%。20日にはロバート・デ・ニーロ氏が主宰した抗議集会が開催され、21日には25万人が参加予定の抗議デモが行われることも報じられています。

 トランプ氏に抗議している人たちを見ると、筆者は「そんなにオバマの8年間がよかったのか?」という疑問が湧いてくるのですが、今となっては、同氏が暴言ではなく、適切な政策で自らの正しさを証明するように促すしかないでしょう。

 総得票数が少なかったのは事実ですが、トランプ氏は瑕疵のない手続きを経ているので、この選挙結果を認められないなら、大統領選自体が成り立たなくなってしまうからです。 

深刻化するアメリカの分断 持ち出されたリンカンの聖書・・・

 日本時間で言えば21日の2時頃、ISが暗殺を狙うともいわれる厳戒態勢の中、トランプ氏はオバマ氏と同じくリンカン大統領の聖書に手を置いて宣誓します(トランプ家の聖書も用いられ、ペンス氏はレーガン大統領の聖書を用いるらしい)。

 日本の報道ではカットされがちですが、大統領就任式ではアメリカ独立宣言に出てくる「造物主」に責務を果たすことを宣誓します。アメリカの歴代大統領は宗派対立を避けるために、どの宗教、宗派でも用いる「神」の名を呼び、就任の時に聖書に手を置いて宣誓をしてきました(アメリカ大統領は「キリスト」「父と子と聖霊」等の宗派色丸出しの言葉を公式の場では使わない)。

 トランプ氏とオバマ氏の政治的立場は真逆ですが、同じキリスト教徒であり、同じアメリカ国民でもあります。リンカンの聖書が持ち出され、南北戦争の時代に出た偉大な大統領にあやかって神頼みをしなければいけないほど、アメリカ社会が混乱しているとも言えるのかもしれません。

 就任演説はレーガンやケネディを参考にするとも言われていますが、共和党でリベラルとはそりが合わないトランプ氏がケネディのまねをしてもサマにはならないのではないでしょうか。

 大部分の人はトランプ氏に名論卓絶は期待していないので、余計なことを言わずにスパッと決めてほしいものです。

貿易問題でトランプ爆弾炸裂? 初日に何が起きるのか

 政策面を見ると、トランプ氏に期待が集まっているのは、やはり、減税やインフラ投資などの「実利」です。

 しかし、初日にNAFTA脱退やTPP脱退等の過激政策の実施が予告されているので、同時に恐怖も相半ばしています。

 気になる就任後の動きについては、就任後すぐに大統領権限が発動されることが報じられています(ロイター「トランプ氏、閣僚人事承認待たずに貿易協定で公約実行へ=報道官」2017/1/20)。

「トランプ次期米大統領の報道官、スパイサー氏は19日、トランプ氏が公約に掲げる環太平洋連携協定(TPP)からの離脱と北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しについて、米議会による閣僚人事の承認を待たずに実行に移す方針だと述べた」

「同氏は昨年11月、TPPが『米国にとって大惨事となる可能性がある』とし、就任初日にTPPからの離脱を通告すると表明していた」

「スパイサー報道官は記者団に対し、貿易協定に関する公約実行について、トランプ氏が大統領令を通じて実施すると述べたとし、間もなく行われるとの考えを示した」

 トランプ大統領は就任後にTPP脱退を表明。NAFTAは再交渉することを宣言しました。

 スパイサー報道官が4つか5つの分野で大統領令が出された通り、就任後には貿易や不法移民対策などの方針が次々と打ち出されています。

 上院の公聴会では、ウィルバー・ロス氏(商務長官指名)やムニューチン氏(財務長官指名)のいずれもNAFTAやTPPに否定的な発言を繰り返し、中国との貿易不均衡を批判していました。

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「大統領の一存」で条約破棄というのは可能なのか?

 しかし、この大統領権限というのも難物です。

 大統領は上院の承認(出席議員の三分の二の賛成)を得て条約を締結できますが、その条約を破棄するのに、上院の承認が必要なのかどうかは決まっていないと言われています。これに関して『ニューズウィーク』(2016/11/22)の日本語版記事(P24)に興味深い解説が出ていました。

「79年、アメリカが中国と国交を正常化する上で、当時のジミー・カーターは台湾との米華相互防衛条約を破棄した。これに当時の共和党重鎮、バリー・ゴールドウォーター上院議員が反発。議会を通さずに条約を破棄したことは越権行為だとして、カーターを提訴。結局、ゴールドウォーターが提訴する前に議会手続きを踏まなかったことから、最高裁は司法ではなく政治が解決すべき問題と見なし、これを棄却した。この際、最高裁はカーターの行動が違憲だったかについては判断を下していない。つまり、大統領が議会の承認を受けずに条約を破棄する力があるかは、司法上確定していないのだ」

 トランプ氏はNAFTA脱退、TPP脱退を訴えていますが、これがスパイサー報道官のいう通り、大統領令だけで可能なのかどうかには未知数の部分が残ります。反対する議員たちが79年のゴールドウォーター議員のようなアクションを取り、トランプ氏と激突する可能性もあるように思えてなりません(TPPは議会が承認していませんでしたが、NAFTAは議会が承認しているので、後者の破棄にほうが難しい可能性がある)。

安倍首相は撃沈覚悟でTPP承認? 2月10日訪問に漂う暗雲

 いっぽう、安倍首相はトランプ就任前を狙って、わざと20日にTPP承認を閣議決定しています。

 フィリピン、オーストラリア、インドネシア、ベトナムの四カ国歴訪の際にもTPP加盟国とは共に発効のために尽力することを合意していましたが、さらに一歩を勧め、TPP承認を取りまとめのニュージーランドに通知しています。

 トランプ氏のほうは20日の就任日にTPPから脱退し、日米自由貿易協定(FTA)などの2国間交渉を進めているので、安倍首相の行動があてつけに見えた可能性もあります。

 安倍首相はトランプ氏の翻意に期待していますが、それは厳しいでしょう。

 トランプ氏が大統領選で勝つ上で重要な役割を果たした中西部にはペンシルベニア州やオハイオ州、ウィスコンシン州がありますが、このあたりは昔に自動車や鉄鋼などの製造業が盛んでした。しかし、1994年のNAFTA発効後、自由貿易の発展の中でついていけず、近年はかつて製造業にたずさわった白人労働者たちの不満がたまっており、これを受け入れることでトランプ氏は躍進することになりました。

 トランプ氏が大統領就任後にTPPやNAFTAを支持した場合、このコアな支持層を失うことになります。支持率40%の中でこの人たちを裏切るわけにはいかないはずです。

 わざわざ当てつけのようにTPPを閣議決定し、翻意を求めて2月10日に訪米しても、これに関しては成果は見込めないのではないでしょうか。

(※その後、訪米した安倍首相は、TPPについて強調することはありませんでした)