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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

【英EU離脱】メイ首相が欧州単一市場撤退を表明 演説後にポンド上昇(1/17)  

国際 経済 全記事一覧 ヨーロッパ

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(イギリス国旗 出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  イギリスのEU(欧州連合)離脱に関して欧州単一市場からの脱退を表明したメイ首相の演説が各紙で報じられています。

 欧州単一市場というのは、EU加盟国の間で全関税を廃止し、規制を一つにした経済圏をつくり、国境を越えて人、モノ、資本やサービスなどを自由に移動させる単一市場をつくる試みのことです(EUと域外での輸出入では共通の関税率を適用。A国で取得した学位や資格、金融機関免許等は他のB国、C国でも利用可能になる)

 ここから脱退したイギリスは、今後、どうなっていくのでしょうか。

「鉄の女」ふたたび? 1月17日のメイ首相の演説骨子

 各紙では、だいたい、以下のようなメイ首相の演説骨子が報じられています。

  • EU単一市場から離脱。EUへの部分的な残留はしない。EUへの拠出金も廃止。
  • 2年間の離脱交渉期限後に段階的な移行措置を設ける
  • EUとは野心的な新しい自由貿易協定(FTA)を締結
  • 欧州からの移動の自由が出入国管理を妨げているので、移民規制が必要
  • EUとの最終合意には上下両院の投票による承認が必要。

 単一市場へのアクセスを残しながら「EU離脱」をする「ソフトブレグジット」と、単一市場から完全撤退をするのが「ハードブレグジット」のどちらを選ぶのかが注目されていましたが、このたび、メイ首相は事実上、後者を選択しました(ソフト、ハード路線のどちらでも移民制限が行われる)。

 ノルウェーやスイスはEU非加盟のまま単一市場へのアクセスを確保していますが、この路線は拒否されたわけです。

 15年にはEUからイギリスへの移民が18万人に達したのを重く見たのか、メイ首相は「移民の数は、記録的な水準に達し教育や住宅、インフラなど公的サービスに負担となり、労働者の賃金を押し下げてきた。ヨーロッパからの移動の自由があるかぎり、出入国管理はできない」(NHKニュースWEB「メイ首相演説 6つの主なポイント」1月18日)と述べています。移民に関して厳格な路線が取られそうですが、一応、「イギリスは寛容で開かれた国で、特に有能な移民は常に受け入れる」という留保はつけているようです。

英EU離脱 12の優先事項とは?

 内容の具体論を日経電子版(「英メイ首相の演説要旨 EU単一市場から離脱表明」2017/1/18)で抜粋で見てみます(・・・は省略の意。傍線筆者

 (1)交渉の確実性確保

 ・・・EU法を英国法に置き換え、離脱前と同様のルールや法律が適用されるようにしていく。EU離脱の最終決定は上下両院の承認のもと行われる・・・

 (2)英国法の独立

 法の支配を取り戻し、EU司法裁判所の英国での裁判権を終わらせる。EU離脱で我々の法律がウエストミンスター、エディンバラ、カーディフ、ベルファストで作られるようになる。司法判断はルクセンブルク(EU司法裁判所)ではなく我が国でなされる。

 (3)地域連携の強化

 強い英国を築くにあたり、国を構成する4地域の貴重な連携を強化しなければならない。・・・自治議会選を控える北アイルランドも同じ理念を共有することを望む。

 (4)往来自由の維持

 EUを離脱しても(EU加盟国の)アイルランドと地続きの境界で接していることを忘れてはならない。移民管理を進めつつ、アイルランドとの往来の自由を維持することは離脱交渉にあたり優先事項となる。

 (5)移民流入の管理

 ・・・就業や勉学の地として有能な人材に開かれ続けることは大切だが、国益に沿った移民管理の下で適切に行われなければならない。EUからの移民数を制限していく。

 (6)市民の権利保障

 英国に現在居住するEU市民と、EUに住んでいる英国民の権利は保障されなければならない。

 (7)労働者の権利の保護

 ・・・EU法を国内法に置き換え、労働者の権利は守る・・・

 (8)欧州市場との自由貿易

 ・・・EU加盟国の首脳は何度も、EUのメンバーであるということは、モノや資本、サービス、人の「4つの(移動の)自由」を受け入れることだと言っている。単一市場に残れば、EUのルールに従わないといけないので、EU司法裁判所の判断に依存する必要がある。それではEUを離脱することにならない

 ・・・金融サービスや自動車といった特定の産業ではこれまでの共通ルールを取り入れるかもしれない。可能な限り単一市場への自由なアクセスを求める・・・

 (9)EU域外国との新たな貿易協定

 ・・・EUも重要だが、英国は域外の急速に成長している輸出市場とも取引が必要だ・・・中国や湾岸諸国はすでに英国との貿易協定に関心を示している。オーストラリア、インド、ニュージーランドとの協議も始めた。トランプ次期米大統領は英国は米国との貿易の「列の最後」ではなく、前線にいると言っている

 (10)科学や技術革新にとっての最適地

 ・・・科学・学術分野でもEUと協力できる協定を歓迎する。

 (11)対テロ・犯罪でのEUとの連携

 引き続き犯罪やテロに対して、外交などでEUと協力したい・・・司法や情報共有といった分野でEUと具体的な協定を結びたい。

 (12)円滑で秩序だったEU離脱

 ・・・条約で定められた2年間の離脱交渉期間の間に新たな英EU関係の形を定めた上で、国境や輸出入の管理など実際の新制度への移行は段階的に行いたい・・・

  いろいろと盛りだくさんですが、筆者が気になったのは「法の支配」という言葉です。イギリスが伝統的に慣習法を積み重ねて築いてきた自国の法とEU法とが矛盾する局面が続いてきたが、それを終わりにしたいと言っているわけです。

 単一市場離脱の論拠にEUの司法判断に従いたくないことが挙げられていますが、イギリスの法の支配の伝統は、イギリスの裁判判例によってつくられてきたので、このあたりも司法を尊重する法の支配の伝統と符号しています(イギリスでは「国王といえども神と法の下にあるのだとされ、司法判断が尊重されてきました)。

 具体論もEU法を英国法に置き換えていくという内容が多いのが目につきます。

 経済面ではEU離脱にともなってGDPにマイナスが発生する局面も出てきそうではありますが、長いイギリスの歴史から見ると、結局、イギリスはイギリスでつくられた法で治めていく、という元の国体に帰ること自体は、不可避だったのかもしれません。

 そして、EU離脱を選んだメイ首相はトランプ政権率いるアメリカとの貿易重視を打ち出しているので、意外な形で、英米の「特別な関係」という昔ながらの構図が戻ってくるのかもしれません。

ポンド高ドル安、1/17に東証19000円割れ

 演説後に英ポンドがドルに対し上昇し、世界金融危機以来の最大規模になったことがブルームバーグ記事1/17で報じられていました(「英ポンド、メイ首相の演説後に上昇-2008年以来の大幅高」。

 バンク・オブ・アメリカ(BofA)メリルリンチのストラテジスト、アサナシオス・バンバキディス氏は電子メールで、「メイ首相が離脱の最終案を両院の採決にかけるというのはポンドを支える要因だ」とコメントした。「議会の承認を得るためには良い合意でなければならない」と指摘した。

 ・・・ロンドン時間午後4時11分現在、ポンドは2.7%高の1.2372ドル。一時は6日以来の高値の1.2397ドルに達した。16日には一時1.1986ドルまで下げていた。

 昨日深夜以降のポンドとドルの為替を見ると、1ポンド=1.215米ドル前後(17日の22時頃)から、1.24米ドル前後(18日の7~8時頃)になっています。

 17日には日経平均株価は終値で一カ月半ぶりに19000円割れし、本記事執筆時点(1/18:8時頃)では1ドル=112.7円をつけています。

 本年はイギリスのEU離脱手続きと、欧州での国政選挙(こちらもEU離脱騒ぎ)が進行するため、政治要因の株価と為替の変動が続く1年になるのかもしれません。

追記:1月24日、最高裁がEU離脱に議会承認が必要と判断

 1月24日にイギリス最高裁でEU離脱に議会承認が要るのかどうかの判断が出されました。この件の詳細がAFP通信の記事(英最高裁「EU離脱、交渉開始には議会承認が必要」 政府に打撃 1/24)で報じられています

(英最高裁長官は)「議会制定法による承認がない限り、政府はEU基本条約(リスボン条約)第50条を発動することはできないという判断に至った」と述べた。その一方で最高裁は、英政府がEU離脱交渉を開始する前にスコットランド、北アイルランド、ウェールズの各議会と協議を行う法的義務はないと判断した。同長官は「英閣僚らには法律上、権限委譲議会(3地方の議会)の意見を求める義務はない」と述べた」

 議会承認が必要ならば上下院での採決となります。採決は与党多数のため、可決と見られていますが、EUへの離脱通告までのプロセスが増えました。

 地方議会の承認不要という判決で大混乱の要因の一つが除かれたことは、市場にとってはよいニュースといえそうです。