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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

2017年、英国のEU離脱はどう進む? ~日本には英国との経済連携協定が必要~

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(英金融街のカナリーワーフ。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

  1月8日にはトランプ氏が正式に大統領となることが確定しました。

 昨年に各州から選ばれた538人の大統領選挙人の投票が開票された結果、トランプ氏は304票を獲得。クリントン氏は227票、7票が残り2名の候補者の票となります(※州民の投票に対する造反者が出現している)。

 その前日には台湾の蔡英文総統が中米4カ国を訪問するために経由地であるテキサス州ヒューストンに到着し、現地の台湾の人びとと食事会等を開催しました。

 蔡総統は8日にホンジュラスに出かけ、その後、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバドルを訪問し、13日にサンフランシスコを経て台北に帰りますが、米国に来た際には内密でトランプ政権関係者と会うのではないかという臆測が流れています。

 トランプ氏は11日に初記者会見を行った後、20日に正式就任しますが、これに合わせて各国がそれぞれのアプローチを計画しているわけです。

 安倍首相は27日に訪米、そして、このたび、イギリスのメイ首相も早期訪米(早ければ2月)を計ることが報じられました(日経「英首相、トランプ氏と初会談へ 2月にも訪米」2017/1/8、小滝麻理子)。

「英国のメイ首相は今春までに米ワシントンを訪問し、トランプ次期米大統領と初会談する。メイ首相は8日、英スカイニューズ・テレビに出演し『英国と米国は価値観を共有する重要で特別な関係だ』と強調した」 

「英メディアは、メイ氏の訪米は早ければ2月になると指摘している」

「トランプ氏は8日、ツイッターに『メイ氏と春に会うことをとても楽しみにしている。英国は米国の長年の同盟国であり、特別だ』と投稿した」

 メイ首相はEU離脱計画の詳細を数週間以内に明らかにするとも述べていますが、訪米時には当然、この案件を巡っても議論が交わされるのでしょう。 

 今日は、このややこしいイギリスのEU離脱(Brexit:ブリクジット)の問題について考えてみます。

イギリスのEU離脱の流れ

 時系列でこの手続きの過程を追ってみます。

  • 16年11月:高等法院がEU離脱通告には議会採決が必要だと判断(政府は上訴)
  • 17年1月:最高裁がEU離脱への議会承認の要・不要を最終判断
  • 17年3月:議会承認が要らなければ3月末までに政府がEUに離脱通知。

 一つの注目ポイントが1月の最高裁判断です。ここで議会承認が必要になれば採決のために日程が遅れる可能性が出てきます。与党が多数なので可決は確実と見られていますが、もし否決されれば、国民と議会の判断が食い違ってしまうため、政治的大混乱が発生するでしょう。

 高等法院の判決が踏襲されるかどうかが見所なのですが、BBCニュースジャパンの記事(「ブレグジットどうなる 『議会承認必要』判決の意味は」2016年11月4日)は、これは議会の立法行為の必要性を示すものだと解説しています。

 判決文の第13項は、ブレグジットの要件を満たすには単なる議会採決では不十分だと書いている。
 英国のEU加盟資格は内閣権限によるものではなく、議会が欧州共同体(EC)加盟を認めた1972年の「欧州共同体法」が根拠となっているため、この法的根拠を撤廃するには議会立法が必要だと言う。
 ブレグジット担当のデイビッド・デイビス担当相は「裁判所は、何ができて何ができるかを具体的に説明している。議会の立法行為が必要だと理解している」と述べた。

 万一、最高裁が「議会採決」には上下院の採決だけでなく、地方議会の採決も必要だと判断すれば、地方によってEU離脱の是非の判断が分かれてしまい、政治的な混乱が発生しかねません。スコットランド議会は地方議会の承認手続きを要求しているのですが、これが無視された場合、「英国からの独立の有無を問う2回目の住民投票に踏み切る可能性」があることも指摘されています(『エコノミスト2017/1/3-10合併号、P80、菅野泰夫氏)。

イギリスがEU離脱した場合、日本は何をすべきなのか

 この難しい問題に関して、産経ニュースは1月9日付で元英国大使へのロングインタビュー(9000字以上)を掲載しています。

韓国車は無税で欧州に輸出可。英国で造った日本車は割高に」と題して、林景一・前駐英大使の見解が述べられているのです。

 その内容を抜粋で二か所ほど紹介してみます。

押し寄せる移民:あなたはコミュニティの20%が移民でOKできる?

「EUに加盟すると4つの自由つまり人、モノ、カネ、サービスがEU域内で自由に移動できる」

(その結果)「賃金の低い国と、かたや英国とかドイツといった賃金が高い水準の国との間で人の移動圧力が途端に生じる」「この落差が大きいほど、どっと流れ込む。その結果として激流、奔流のように、東欧諸国から英国に労働者として人が入っていく」

「5万人ぐらいのコミュニティに1万人の移民が入ってくると、コミュニティにとっては大混乱になる。低賃金で働く人たちが来るということで、全体の労働コストが安くなり、英国経済にとっては非常にプラスかもしれない。しかし、マクロ経済はいいが、個人の財布を見たら不満が出てきた」

  5万人のうち1万人が移民というのは、それなりに恐怖感があります。

 筆者の田舎は20万人の市ですが、もし、そのうち4万人が移民だったら、コミュニティの質がまったく変わってしまうので、戦々恐々とする毎日を過ごさなければいけなくなります。日本人よりも欧州人のほうが移民慣れしているとはいえ、20%も移民が入ってきたら、雇用の奪い合いや治安悪化等の問題が発生するのは当然でしょう。

 こうした現実の問題に対して、インテリたちは、全体ではGDPが増えるとか、経済が活性化するとか、貿易上のメリットは大きいとか、生活感のない上から目線の話しかできなかったので、最終的には昨年の国民投票で敗北してしまったわけです。

 例えば、昨年7月には、こんな問答が日経朝刊(2016/7/28:27面)で紹介されていました。

 ロンドン大教授が専門家として中立的知見を提供すべく出席した北イングランドの集会で、移民やEUは英国国内総生産(GDP)全体にとってプラスとの見解を紹介したところ、聴衆の1人はこうヤジを飛ばした。『それはお前のGDPだ。俺らのではない』」(遠藤乾・北海道大教授記事)

 遠藤乾氏はこの「経済教室」の記事で、EU離脱派の主張は1)民族自決、2)EUへの反感、3)グローバル化で置去りにされた人々の反発の三つに大別され、1)が保守党、2)が英国独立党、3)が労働党の支持者にアピールしたと指摘しています。

 そして、グローバル化で潤うのは途上国・新興国の労働者(グローバルな所得分布の中央値付近の人びと)と先進国の上位所得者1%であり、先進国の労働者(OECD加盟各国の平均所得以下の人びと)は沈んでいくというブランコ・ミラノヴィッチ氏(フランスの経済学者)の説(「不平等について」)を紹介しました。

 この3)の層のパワーがEU離脱の大きな原動力になったわけですが、これはトランプ氏が支持基盤とした人々の層とも重なります。

 このグローバル化で忘れられ、取り残された人々の反撃が、2017年のオランダ、フランス、ドイツの選挙等で、どのように展開するのかが注目されているわけです。

 イタリアではすでにレンツィ政権の崩壊という形で実現しましたが、今後も似たようなパターンが繰り返されないかどうかが気になるところです。

日本に必要な対策:英国との経済連携協定の締結

 林前駐英大使へのインタビューでは、日本が英国に10兆円規模の投資をし、英国人を中心に14万人を雇用してきたことや、日本にとって英国はEU市場の入り口だったという事実を踏まえ、「関税」の問題が論じられています。 

「日本で生産した自動車をEUに輸出するとき10%の関税がかかる。EU離脱後は、英国で生産された日本車をEUに輸出するときも10%の関税がかかってしまうことになるかもしれない」

(無関税だったので)「日産やトヨタ、ホンダといった日本の自動車メーカーが英国に工場を建ててきた。この3社だけで英国の自動車の半分以上を生産しているが、そういう巨大な利害をもった英国内の日本の自動車工場が10%の関税のハンディを背負ってしまう」

「実は韓国とEUの間では経済連携協定があり、韓国車は無税で欧州に輸出できる」

 最後の一文がこのインタビューの見所になっていますが、イギリスがEUから脱退した後に、日本がどのような経済連携協定を結ぶかが、非常に大事な問題になると指摘されています。ライバルの韓国との競争で不利になるというのは、見過ごせない話です。

 ただ、前掲記事で出てきた日産に関しては、16年10月27日に、英政府から支援を得られる約束を得たとして、ミドルサイズのSUVである「キャシュカイ:QASHQAI=日本名はデュアリス:DUALIS)と次期型の「エクストレイル」をイギリスのサンダーランド工場で生産することを決めています。

 これは、製造業は現物を扱うので、そう易々と移転はできないということなのかもしれません。

英EU離脱後、日本企業はどう動く? 

 日テレニュースWEBの記事(「EU離脱交渉で英経済・企業はどうなる?」1/3)では、金融機関の動向などが報じられています。

 金融街「シティ」の市場関係者が懸念するのが「シングルパスポート」という制度の維持だ。EUには金融機関が、加盟国の1国で免許を取得すればEU全域で事業を展開できる制度がある。多くの金融機関はこの「シングルパスポート」を利用してイギリスで免許を取得し、ロンドンに拠点を置いて他の加盟国でも業務も行ってきた。

 しかし、EUから離脱してこの制度を維持できなくなった場合、EU域内で引き続き事業を行うためには新たにそれぞれの国で免許を取り直す必要があり、金融機関そして市場にも混乱を来す可能性があるのだ。

  この記事では、アメリカ保険大手のAIGのCEOがヨーロッパの本社機能をイギリスからEU加盟国に移す可能性を示唆したことや、三菱東京UFJ銀行が統括本部をロンドンに残しつつも、ヨーロッパ大陸の拠点をアムステルダムの現地法人管轄にする方針を出したことが紹介されています。

 EU離脱が決まる前の2016年5月時点で、ロンドンには外国銀行が約250行ほど拠点を置いていました。イギリスでのGDPの中では金融業が占める割合が大きいので、金融機関の移転問題も無視できません。ニューズウィーク日本語版(「EU離脱でイギリスの銀行の影響力凋落、政府も耳貸さず」2016/10/26)ではその影響の試算が紹介されています。

金融業界は英国内総生産(GDP)の約1割を占め、年間600億ないし670億ポンドの税金を納めている。業界団体「ザシティUK」の委託で行われた調査によると、ハードブレグジットになった場合、業界の収入は最大380億ポンド減り、英国は7万5000人の雇用を失いかねない。

 経済への負のインパクトを見込みながらも、政治的にEU離脱が決まったわけですが、なかなか大変な作業が続きそうです。

 イギリスはアメリカと「特別な関係」にあるだけでなく、大英帝国のよしみでカナダ、オーストラリア、ニュージーランド等と連携関係を持っているので、このあたりのコネクションを活かしていくのかもしれません。

 各国との二国間の経済連携協定の議論も始まるはずなので、その中に有利な形で日本が入り込むことを期待したいものです。