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ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

トランプ氏、トヨタを批判 フォードはメキシコ工場移転中止 どうする自動車メーカー

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(メキシコのバハカリフォルニア州。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 トランプ氏がトヨタ自動車に「アメリカで工場をつくれ、そうしなければ国境でたくさん税金をかけるぞ」と発言したことが物議をかもしています。

 この発言に対するトヨタ幹部の困惑ぶりが朝日新聞(「トヨタ幹部困惑「米雇用減らないのに」 トランプ発言 山本知弘、高橋諒子」2017/1/6)等でも報じられました。

(トヨタでは)品質問題から米世論の反発を招き、豊田章男社長が米議会に呼び出された2010年以来の危機に発展しかねないと、警戒感が強まっている。

「メキシコの増産は、米国市場で売る車を増やすため。米国の雇用をマイナスにするわけではないのに」(※トヨタ幹部の発言)

 豊田章男社長が5日にメキシコ工場建設計画の維持を表明した後、トランプ氏はツィッターでこれを批判。トヨタは2015年4月にメキシコに新工場建設計画を発表(10億ドルの投資で約20万台のカローラを生産できる工場をつくる)し、16年11月に起工式を行ったばかりなので、今さら場所替えをするのは難しそうです。

 トヨタの株価は7097円(1/4)⇒7049円(1/5)⇒6930円(1/6)⇒6861円(1/10)へと推移しています。日本メーカーでは、ホンダや日産、マツダにもメキシコでの増産計画があるので、この発言は他社にも影響が及ぶでしょう。

 財界人からは「メキシコはリスクがある」(経済同友会・小林喜光代表幹事)、「いままでと異なった世界になる」(三菱商事・小島順彦相談役)等の困惑の声が挙がっていることも報じられています(日経朝刊1面:2017/1/7)。

 最近、トランプ氏が自動車メーカー向けの発言を繰り返しているので、今回はツィッターでの最近のトランプ発言と企業の動きを紹介してみます。

トランプツィッターの原文は時事通信等の日本語訳よりも過激

 時事ドットコムの記事は「トヨタは米国に工場をつくるか、国境で巨額の税を支払え」と訳し、「脅しとも受け取れる見解」と書いていますが、原文の文脈を踏まえると「脅し」にしか見えません。

”Toyota Motor said will build a new plant in Baja, Mexico, to build Corolla cars for U.S. NO WAY! Build plant in U.S. or pay big border tax”

トヨタ自動車はアメリカ向けのカローラをつくる新工場をバハ(※メキシコ最北州。カリフォルニアに接する)でつくると言った。とんでもない!アメリカで工場をつくれ。さもなければ国境でたくさん税金を払え。

(※トランプ氏発言の出所は、Donald J. Trump (@realDonaldTrump) | Twitter

  学生時代に「命令形+or」は「〇〇せよ。さもなければ・・・」だと習ったことを思い出した方もいらっしゃるかもしれませんが、これはまさにその用法にあたります。

 これは豊田章男社長が5日に記者会見し、工場計画の変更なしと述べた後のトランプ氏の反撃です。

※その後、トヨタ自動車はトランプ政権への対策として、1月9日にアメリカで100億ドルの投資を五年間かけて行う意向を表明。年内にはケンタッキー州の工場でセダン「カムリ」の新型車の生産等を始める計画があることが各紙で報道されている。

トランプ氏、フォード、GMにもツィッターで圧力

 トランプ氏のツィッターには以下、二つの発言が載っています。

フォード、ありがとう。メキシコでの新工場計画をスクラップし、アメリカで700人の雇用をつくってくれて。これはほんの始まりにしかすぎない。もっとたくさんの企業が追随してくるんだ。

Thank you to Ford for scrapping a new plant in Mexico and creating 700 new jobs in the U.S. This is just the beginning - much more to follow(1/4)

 フォードのメキシコ新工場計画ストップについての発言です。 

 時事通信社はこの顛末を「フォードは2016年4月、メキシコ中部サンルイスポトシ州に16億ドル(約1900億円)を投じ、新工場を建設すると発表。18年の稼働を見込んでいた。しかし、一転して計画を取りやめるとともに、今後4年間で7億ドルを米ミシガン州の工場に投じ、新型の電気自動車(EV)などを生産する」と報じています(「メキシコ工場計画を撤回=トランプ氏批判で一転-米フォード」1/4) 

 朝日デジタルの記事では(2016/4/6)ではメキシコで新工場を建てた場合、2020年までに2800人の雇用が見込まれると書かれているように、現実問題としては、メキシコとアメリカの人件費の差は無視しがたいものがあります。

 しかし、ビル・フォード会長は政治的な配慮から米ケンタッキー工場の生産はメキシコに移転しないことを決め、それが1月に正式決定されたわけです(※トランプ氏は11月17日のツィッターで、フォード会長の連絡を受けたことをツィートし、感謝の意を表していた)。

 この掛け合いが起きた時期のフォード社の株価を見てみますと、ちょうどビル会長の報告以降、株価が上昇し、先日のメキシコ計画変更後にも上昇しました。

11.76ドル(11/18)⇒13.17(12/9)⇒12.13(12/31)⇒13.17(1/4)⇒12.63(1/13)

  トランプ氏は大統領選で共和党候補者争いをしている時から、このフォードの計画を恥さらしだと批判していたので、当初の「宿願」が実行に移されたことになります。

 そして、1月3日のトランプ氏ツィッターではGM社に対しても、トヨタ向けの発言とよく似た内容が掲載されていました。

GM社は新型シボレークルーズのメキシカンモデルを国境で税金を払わずにアメリカの自動車販売店に送っている。アメリカでつくれ。さもなければたくさんの税金をかけるぞ!

General Motors is sending Mexican made model of Chevy Cruze to U.S. car dealers-tax free across border. Make in U.S.A.or pay big border tax!

  内容的にはトヨタ向けの発言と同じです。

 NHKニュースWEBの翻訳では「アメリカで生産するか高い関税を支払うべきだ」とされていますが、これは命令形の強い表現がぼかされています。「〇〇すべきだ」だと、「!」つきの強い意志が伝わらないからです。

 1月4日のNHK記事(「トランプ次期大統領 GMを批判 メキシコで小型車製造と」)ではGMの反論も紹介されていました。

「シボレー・クルーズのうち、アメリカで販売されているセダンのモデルはすべて国内でつくっている。メキシコで製造しているのは世界の市場に向けたハッチバックのモデルで、アメリカでの販売は少ない」

 GM社はその後、メキシコ工場の計画を止めず、アメリカへの生産移転を行わないことを明かしましたが、こうした論理が今後、トランプ氏に通じるかどうかが試されることになるわけです。

 ※GM社の株価は、37.09ドル(1/4)⇒36.01ドル(1/9)へと微減しました。

 トランプ氏にとって、ツィッターによる不規則発言が企業を攻撃したり、外国にゆさぶりをかける「武器」になっているわけですが、よもやツィッター創業者もこんな使われ方をすることは予想できなかったことでしょう。

トランプ記者会見では日本も貿易不均衡是正の対象に

 トランプタワーで11日に行われた記者会見では、日本も貿易不均衡是正の槍玉に挙げられています(産経ニュース「対米通商戦争に現実味 トランプ氏の日本名指しの「貿易不均衡是正」発言で」2017.1.12)

 米国への輸入品に対する高関税に加え、企業の税負担を輸出は軽く、輸入は重くして生産拠点の国内回帰を促す案も浮上。いずれも世界貿易機関(WTO)協定違反で相手国に訴えられ、泥沼の紛争になる恐れがある。

 トランプ氏は米国に巨額の貿易赤字をもたらす“敵国”として日本、中国、メキシコを列挙。35%の高関税など懲罰的な措置で企業に圧力を与え、生産拠点や雇用を米国内に取り戻すのが主な戦術とみられる。

 アメリカの貿易赤字は7456億ドル(2015年)で、その約半分が対中国の赤字です。対日赤字は700億ドルほどですが、日本の規模も無視できないので記者会見では名指し批判されました。USTR代表のライトハイザー氏は保護貿易志向の人物なので、今後、日本企業も対策を計らなければいけないでしょう。

トランプ氏、大手空調メーカー(キャリア社)の海外移転計画を中止

 これに関連する動きとして、トランプ氏が選挙公約に応えた12月のアクションも併記しておきます(産経ニュース「トランプ流に批判噴出 工場移転計画中止 「脅迫まがい」の声も」12.18)。

「問題視されるのは米大手空調メーカー、キヤリアが11月30日に発表したインディアナ州の工場をメキシコに移転する計画の中止だ。トランプ氏は選挙戦中から、移転計画は「雇用をメキシコに流出させる」と批判。当選後にはキヤリア首脳と直談判し、同工場の継続が決まった。トランプ氏は「1100人の雇用を守ることができた」と成果のアピールにも余念がない」

「トランプ氏はかねてから生産拠点を海外に移した企業の製品には高関税を課すと主張。今月4日には税率は35%になるとし、企業に「高くつく失敗」をしないよう警告した。ジェットエンジンなどを手がけるキヤリアの親会社が米政府から約60億ドルの契約を受注していることが、キヤリアの判断に影響したとの観測も出ている」

 アメリカの高い人件費等を考えると海外でやったほうが合理的な作業も多く、経済的合理性に沿った選択を政治権力で止めると市場が歪む危険性が高いのですが、トランプ氏はこのあたりは意に介していないようです。

トランプ氏、名差し批判した企業の株を保有中・・・

 しかし、不思議なことに、大統領選期間中にはトランプ氏は名指し批判した企業の株を持っているという報道(後述のフォーブス記事)も出ていました。

 気になる話ではあるので、まずはトランプ氏に名指し批判された企業の例を見てみます。

①アマゾン〔AMZN〕

 トランプ氏の女性侮辱発言を動画でUPしたワシントンポスト社のオーナーでもあるジェフ・ベゾス氏率いるアマゾン社は、名指し批判された企業の筆頭です。

 筆者はアマゾンのヘビーユーザーなので、アマゾンの今後が気になるのですが、ブルームバーグのサイトには「トランプ氏、ワシントン・ポスト紙の取材許可取り消し-アマゾン批判」(2016/6/14)という記事が出ています

ドナルド・トランプ氏は、米紙ワシントン・ポストに対して発行した取材許可証を無効とし、アマゾン・ドット・コムの政治的野心のために前線に立っている同紙を選挙戦取材から締め出すと明らかにした。
トランプ氏陣営は「ワシントン・ポスト紙には誠実さがなく、トランプ氏について事実ではないことを書き立てている」との文書を発表した。

 今後、何らかの政治的圧力がかかる可能性もありますが、アマゾンの事業そのものは発展中なので、これは判断材料の一つと見るべきでしょう。株の売り買いは同社の実績と事業構想を見て決めたほうがよさそうです。

②アップル〔AAPL〕

 筆者はアップル社のアイフォン6を使っているので、書いていて微妙な気分になります。どうも、トランプ氏が嫌いな企業の商品を選好しているようです。

 トランプ氏は米国内の雇用拡大を訴えているので、海外生産をする企業を敵視していますが、AFP通信の下記記事(「トランプ氏、アップル製品ボイコットを呼びかけ」2016年2月20日)は「セキュリティー情報を政府に出せ」という批判です。ユーザーの一人として、それは勘弁していただきたいと思わざるをえないのですが・・・。

トランプ氏(69)は(※2月)19日、米アップルが、連邦地裁から命じられた、銃乱射事件の容疑者が使用していたスマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」のロック解除への協力を拒否したことを受け、アップルが政府側の要求に従うまで、同社の製品をボイコットするよう呼びかけた。

 この問題に関しては賛否両論が分かれており、日経記事(2016/6/19朝刊9面)でも賛否両論が紹介されています。

 米国家安全保障局(NSA)法律顧問のスチュアート・ベーカー氏はスマホが進化し、FBIがその暗号の壁を破れないところにテロの死角が発生したと主張しているのですが、電子フロンティア財団のシンディ・コーン氏はその実例の数の少なさを強調しています。

(この件で)「FBIが示してきた数は数件単位だ。一方、米国では年間400万人以上が盗難や紛失で電話をなくしている。もしセキュリティーの水準を下げれば、多くの人々のクレジットカード情報やパスポート情報など個人情報が危険にさらされる」

 この記事で、コーン氏はセキュリティー水準の維持に関してはNSA内部でも同意見のスタッフが多いことや、スマホの位置情報等からFBIはむしろ捜査がしやすくなっていることにも言及しました。

 トランプ政権はテロ対策に熱心なので、アップルに対して「テロ容疑者」のスマホロック解除を要求してくる可能性があるわけです。

③モンデレズ・インターナショナル〔MDLZ〕

 同じ論理で、前掲の朝日記事では、トランプ氏が「『工場を米国外に移した会社の『オレオ』は食べない』などと話し、支持者の喝采を受けている」と報じています。

(オレオクッキーの製造元はモンデレズ・インターナショナル。大手の食品・飲料メーカーでスナック、飲料、チーズ・クッキー等のお菓子、調理済食品等を取り扱う) 

 しかし、フォーブスのサイトには「アップルなど大企業を『敵視』のトランプ、実は多額を投資」2016/5/21)という笑えない記事がUPされています。

 クリントン氏も化石燃料の使用抑制を訴えながら、エネルギー系の大手企業から献金をもらっていましたが、トランプ氏も似たようなことをしています(以下、記事の引用)。

  • 「トランプが5月18日に公開した104ページにわたる保有資産に関する報告書によると、アップルへの投資は特に多額に上る。複数回の投資で株式を取得するなどしており、保有額は推計110万~225万ドル(約1億2,100万~2億4,760万円)」。
  • 「フォードが25億ドル(約2,750億円)を投じてメキシコに生産拠点を設けるとしたことを批判。しかし、同社の社債は今も保有しており、その価値は50万~100万ドル(約5,500万~1億1千万円)に上る」
  • (「オレオクッキー」の)「メーカーの親会社であるモンデリーズ・インターナショナルがシカゴ工場を閉鎖し、約600人を解雇する計画であることを非難。その後、モンデリーズへの投資を引き上げたが、報告書によれば、その前に5,000~1万5,000ドルの利益を確保していた」
  • (アマゾン社の)「納税に関して先ごろ、「とがめられることなく好き勝手にしている」と酷評した。だが、保有している同社株は5万~10万ドル相当に上る」

 トランプ氏本人が株を持ち続けている間は、過激なアクションにもいくばくかは歯止めが働くのかもしれません。

 そのほか、インフラ系でキャタピラー社に比する日本企業としてコマツが言及されているので、これにも注意が必要でしょう(以下、産経ニュース「トランプ氏の“日本たたき” 80年代の日米摩擦を彷彿 「旧時代をしのばせる」」2016/3/10)

 トランプ氏はフロリダ州での勝利宣言で「日本からは数百万台の自動車が来るのに、米国はほとんど売っていない。(建機大手)コマツのトラクターにキャタピラーが痛めつけられているのも為替操作のせいだ」と日本をやり玉に挙げた。

 トヨタ以外にもトランプ氏がツィッターで槍玉にあげる企業は出てくる可能性が高いので、思わぬ不意打ちを受けないように、投資をしている人は、定期的に同氏のツィッターをチェックしたほうがよいのかもしれません。

 今後、マスコミがトランプ氏が前掲企業の株を売ったことを報道した時にはもっと激しいアクションが出てくる危険性があると言えるのではないでしょうか。