読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

小池知事 都議選に「希望の塾」から30人超の候補者擁立 都政のほうは大丈夫? 

f:id:minamiblog:20161030060802j:plain

(東京の万世橋の風景。出所はWIKIメディアコモンズのパブリックドメイン画像)

 元日には、小池都知事が2017年夏の都議選に「希望の塾」から30人以上の候補者を出し、地域政党を立ち上げるというニュースが流れました(朝日新聞は40人規模と報道。都議会の定数は127。現在、自民党が57人、公明党が23人で過半数を占める)。

 「希望の塾」というのは小池氏が「東京大改革の理念に賛同し、政治を学びたい方」のために開いた政治塾です(詳細は後述)。小池氏は、ここから選りすぐりのメンバーを都議選に投入し、自民都連に勝つことを目指しているわけです。

 今回は、2017年のキーパーソンの一人である小池都知事の動向や都政の基礎知識などを整理してみます。

(※本記事は1月2日公開後、情報を何度か加筆しています)

小池チルドレンが都議選で誕生?

 昨年末(12月28日)に、世田谷区の大場康宣都議と、品川区の山内晃都議、小金井区の木村基成都議が会派を離脱して「新風自民党」を立ち上げた時、自民都連の高木啓幹事長は「真っ赤な顔になり、絶句した」とも言われています(ZAKZAKニュース 2017.1.6)。

 この三名はその後、小池氏との連携を模索していますが、産経新聞(「小池百合子知事が30人超擁立へ 「希望の塾」から選定 地域政党も設立へ」2017.1.1)が31日に取材した情報によれば、小池氏は都知事選で「小池氏を支援し、都連から除名された豊島区議が立ち上げた政治団体『都民ファーストの会』を基盤として、小池氏を代表とする新たな地域政党の設立準備も進める」構想を描いていました。同氏の「希望の塾」から「最終的には都議選で30人超の候補者擁立を目指す」意向なのです。

 ここから小池チルドレンが出現する可能性が高いわけです。

小池知事主催の「希望の塾」とは?

 そもそも、この塾について知らない方のために説明を入れておきます。

 4000人以上が応募した小池知事の「希望の塾」は10月30日に開塾。「仮面女子」のメンバーで東大卒アイドルの桜雪さんが入塾したことも報じられました。会塾後、10月30日、11月12日、12月10日、1月14日、2月4日、3月4日の講義日程が進行しています。実際のところ、この塾はどんな塾なのでしょうか。

 まずは、「希望の塾」HPから、この塾の概要を見てみましょう。

【応募者はどんな人を想定?】

⇒「主義主張や党派を超えて、改革を志す政治に関心を持った人々」。募集要項では「東京大改革の理念に賛同し、政治を学びたい方」に応募をよびかけている。自民党以外の党籍があっても、都民以外でも応募は可能。

【何を教えるのか?】

⇒「地方自治制度、財政・税、待機児童、福祉・医療、議会・選挙制度」等。二時間程度の講義が来年3月まで6回ほど予定されている。

【受講料は?】

⇒前六回で男性は5万円、女性は4万円、25歳以下の学生は3万円

※ネット記事等では4500人応募との説も出ており、一部の変な人を除いて応募者のほとんどを受入れるらしいので、男性と女性が半々で計算すると、4000人で1億8000万円になります。2億円近い金額ですね。ちなみに、松下政経塾の経常費は3.4億円なので、小池氏はこの塾の入塾費だけでその半分を稼ぎだしてしまったことになります。講義は6回だけで、高い設備を建設するわけではないので、コストパフォーマンスは恐ろしく高い政治塾になりそうです。

【どこが運営するのか?】

⇒政治団体「都民ファーストの会」事務局が運営。都民ファーストの会というのは、9月に東京都選挙管理委員会に届け出た政治団体。自民党東京都連に背いて小池知事を応援した“7人の侍”の一人である本橋弘隆豊島区議が代表を務めている。会計責任者は音喜多駿都議。

【卒業後、立候補時に小池知事の支援は受けられるのか】

⇒選挙の公認・推薦・支持・支援は行わない。規約には「本塾は、人材育成に主眼を置いた組織であり、特定選挙において「都民ファーストの会」「小池百合子」の公認・推薦・支持・支援を塾生に約する組織ではない」と書かれている。数千人単位でみんな一律に面倒を見れるわけない、ということなのでしょう。

小池政治塾は小池新党の母体になるのか?

 日刊ゲンダイの記事(「政治塾に殺到で2億円荒稼ぎ 「小池新党」旗揚げするのか」2016年10月26日)では、都政担当記者が述べた小池氏の戦略へのコメントが紹介されています。

  • (小池氏は)「小池塾を公式な“小池新党”にはスライドさせず、“バーチャル小池党”として機能させようと考えている」
  • 「塾生には無所属での出馬を促し、小池が選挙で支援し、自前の子飼い議員を増やす。一方で小池都政に賛同する自民党都議の選挙も応援し、盾突く自民党都議のもとには塾生を刺客として送り込んで落選させる」
  • 「来夏に改選を迎える自民党都議にとって、このやり方が一番キツイ。正式に“小池新党”が誕生すれば紛れもない“敵”ですが、小池基準で応援する都議と落選させる都議を色分けされたら、選挙に弱い都議はみな、なびくしかありません」

 小池政治塾で学んだ人の中から、有望株と見られる人材を都知事選に出していくので、近いうちに桜雪さんがどこかの選挙で立候補している光景を国民が見ることになるのかもしれません(※地方議員の被選挙権は25歳以上なので、本年12月で24歳となる桜雪さんは残念ながら来年の都議選には出れません)。

 筆者もたまたま、知人の元区議が前回の選挙で落選後、どうしたのだろうかと調べていたら、その方のHPには、小池氏と一緒に映っている画像が掲載されていました。きっと、過去の選挙で敗れた元議員などの中には、小池旋風にあやかって再起の手掛りをつかもうとされている方もいるのではないでしょうか。

2月5日に千代田区長選でドン内田と決戦

 この記事では都議選の話題が出ていますが、都の日程では17年2月5日に千代田区で区長選(1月29日告示)が開催されます(ここは内田茂都議のおひざ元)。

 石川雅己区長(現職)は前回に内田都議の支持を受けた対抗馬を立てられた経緯もあって、12月の出馬会見では小池知事の支援を受けて戦うとも述べていました。

 内田氏の側では与謝野馨氏(元財務相)のおいで、現在は会社員をしている与謝野信氏を自民都連として推薦しています。13日に与謝野氏は無所属で出馬の意を明らかにしました。

 千代田区では、そのほか新人で元会社員の五十嵐朝青氏が立候補し、3人で区長の座を巡って争うことになりました。この選挙は小池氏と内田氏との代理戦争だとも見られています。

  • 石川 雅己(75)区長 無所属現職(4期目) 
  • 五十嵐朝青(41)元会社員 無所属新人
  • 与謝野 信(41)会社員  無所属新人(自民推薦)

※その後、2月5日の投票日に千代田区の選挙管理委員会のHPで開票結果が公開された。

  • 石川まさみ(無所属):16371票(当選
  • いがらし朝青(無所属):3976票
  • よさのまこと(無所属):4758票(※自民党が推薦)
  • 合計 :25105票

 石川まさみ区長の圧倒的な勝利でした。

 産経記事(2017.2.6)では内田氏が敗北時に「与謝野氏の選挙事務所には姿を見せなかった」と報じています。陣営幹部の談として内田氏が「残念だったな」と述べたことを報じています(【千代田区長選】“代理戦争”敗北の「都議会のドン」姿見せぬも「残念だったな」去就焦点に)

都知事に求められる経営者の資質とは?

 その後、小池氏は公明党との選挙協力を固め、都議選勝利への道を模索しています。

 筆者には、何だか小泉劇場が都政で再現されているような気がして仕方がないのですが、小池都政の中身をどう評価すべきなのでしょうか。

 これに関しては『SAPIO』(2017年2月号、P41~43)で大前研一氏が面白いことを述べていたので、その要旨を紹介してみます。

  • 小池氏は防衛相時代から”悪者”を発見して叩くことで人気を得てきた。
  • しかし、都知事は超巨大組織のトップなので、それだけでは不十分。大企業経営者に匹敵する能力が求められる。
  • 大組織のトップは自ら細かいアイデア(例:企画倒れの横浜アリーナ活用案等)を出すよりも、相手に代替案を出させるべきだ。
  • カルロスゴーン風に「コスト三割削減」を主張し、そうでなければ応分の負担に応じられないとして森氏らに既存の会場の代替案を出させるべきだったのだ。

 これは、悪役叩きの「政治家」の手法では限界が来るので、「経営者」としてどう成果を上げるか考えたほうがよいという提言です。

 確かに、よく考えて見れば、森氏が率いる組織委は自分たちの予算制約をはるかに超える3兆円という見積を出し、それを国や県にふっかけていたわけですから、削減案を出さなければいけないのは、本来は組織委のほうです。大前氏の主張であれば、お金を出す側であり、都民に選挙で選ばれているという小池都知事の最大の強みが活かせるような気もします。

 「小池氏にはもっと組織経営者としての自覚が必要ではないか?」という見方を持っている人はほかにもおり、エコノミスト(2016/11/1:P36)でも、佐々木信夫氏(中央大学教授)も、今のままでは都庁の協力さえおぼつかないことを指摘していました。

「約3万8000人もの官僚組織を動かすには、今のような知事と役人がお互い疑心暗鬼で、相談もしない状況ではいけない」「ブレーンとのみ組み、上から目線で自律改革せよと言っているようでは、なかなか動かない」

 パフォーマンス優先の劇場型政治は、もう限界、潮時なのではないでしょうか。

都議と都庁で責任分担?しかし責任者は誰?

 ここで『エコノミスト』(2016.11.1)の東京都特集の記事を参考にして、そもそも東京都庁がどれぐらい大きな組織なのかを振返ってみます。

 都庁の職員数は167000人。大阪府でも82900人程度しか職員はいないので、この規模は全国随一です。企業で同じぐらいの規模の職員数を誇るのは富士通(156000人)や日産自動車(152000人)です。都庁職員数の内訳をみると、教育庁(63900人:これは学校職員)、警視庁(46400人)、東京消防庁(18300人)、地方公営企業(12900人:水道やバスなど)が多く、知事部局(総務、財務、主税、制作企画など16局)の人員は25100人程度です(P24)。

 これらは「執行機関」ですが、これとは別に「議決機関」である都議会があり、重要な業務に関しては都議会の承認が必要になります。そして、都の各局では縦割り行政が行われがちなので、局間の情報共有や連携は不十分で、知事にも情報を明かさないケースが多いとも言われています(P25)。

「知事の知らないうちに、都の各局職員と都議会自民党との間で実質的な議案の内容が詰められている。だから本来、提案した知事が議会で説明すべきだが、それができない。実質的に議案を決めた都議会自民党は、もともと議案を説明する立場にない」「誰も説明責任を果たせない」(P38)

 これだけの巨大組織なのに責任の所在がはっきりせず、業務経験が豊富な都議の側が結束して抵抗すれば、都知事でも何も仕事ができなくなります。こうした構造の中で、都議をまとめる人物がいれば、その人物が大きな影響力を発揮できるわけです。

 古い時代の自民党政権では、首相よりも国会を束ねる議員のボス(金丸信氏など)のほうが権力を持ち、議員の側が官僚とやりとりして政策の中身を決め、首相がお飾りになっていましたが、東京都政には、これと似た構造があると見られています。

 前掲の記事の中では匿名座談会の中で、都議が「権力の真空状態」と評していましたが、これはとある評論家が日本の国政を批判した言葉でもありました。

 GDP93兆円を誇る東京都の経済力はインドネシアやスイス、オランダに勝っているのですが、その経営の舵取りは情けない状況が続いているようにも見えます。

情報公開を旗印にした小池都知事 都政は今、曲がり角?

 こうしたややこしい組織の長となった小池都知事は、都民ファーストと情報公開を訴え、オリンピックのコスト削減等を進めてきました。7月に就任して以来、主たる仕事は築地市場の豊洲市場への移転延期、五輪計画の検証などです。

  • 8/31:豊洲市場への移転延期
  • 9/10:豊洲地下で「盛り土なし」が判明
  • 9/29:五輪予算3億超の試算発表。この頃に五輪会場見直し案が出される
  • 10/18:オリンピック委員会のバッハ会長と会談
  • 11/17:豊洲移転の時期を17年冬以降と表明
  • 11月~12月にかけて見直し案の四会場が当初予定案に決定(コストは削減)
  • オリンピック予算案の見積もりは1.6~1.8兆円規模

 17年1月には安倍首相と小池知事が10日に官邸で会談し、五輪の費用分担問題等の協議が行われます。経費分担に関しては1月中に組織委の森会長、小池知事、丸川五輪担当相による3者会合も開催される予定です。

 小池知事のおかげで明らかになった情報も多いのですが、現在、都政は曲がり角を迎えています。その最たるものは豊洲移転で、延期している間に1日500万円とも700万円ともいわれるコストがかかっているのです。

 この豊洲移転に関して、取りやめようが規模を縮小しようが、すでに今までに投下したお金の回収はできません。そのため、これからかかるコストとそこから得られる利益を比べ、利益が多ければ事業を続ければよいわけです。

 移転中止で月2億円かかるわけですから、半年延期すれば12億円もお金がかかります。これだけのお金をかけ、コストを増やすことが合理的かどうかを考えなければいけない時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

 環境問題が云々と言いますが、元をたどれば築地の環境がよくないから移転する話になりました。環境面でマシなのは豊洲のほうです。

 完璧を期して延々とコストをかけると、都知事のいう「ワイズ・スペンディング」(賢いお金の使い方)と矛盾してしまいます。

17年夏まで都議選対策が重くのしかかる 都の仕事は大丈夫?

 本当は築地は昨年11月に移転し、17年1月に五輪対策の再開発プランを進めたほうが合理的だったはずですが、豊洲移転延期でこれが不可能になっています。

 しかし、「希望の塾」から17年夏の都議選に30名超の候補者が出ることになったので、小池知事は夏までは選挙に力を注ぐことになりそうです。

 前掲SAPIO記事では、大前研一氏が築地跡地の再開発の重要性も指摘していました。

「築地市場の跡地と勝どき、晴海を合わせた東京都心最後のフロンティアを一体的に再開発し、世界中からヒト、企業、モノ、カネ、情報が集まる24時間都市づくりをしてもらいたい。世界中から構想を募集してみんなで東京に繁栄を呼び込む、ということに集中してほしい」(P43)

 小池知事はコスト削減に熱心ですが、仕事が延期されると、こうした利益を生むチャンスが失われることがあります。コストだけでなく、機会損失の発生にも配慮し、バランスのとれた判断をしていただきたいものです。